416は純粋な子で、優しい子で、脆い子で…………思い浮かぶのは「硝子の百合」。綺麗なものの代表で、ちょうど百合の花言葉は「純粋」。
キモオタに戻ってすまなかった。
では本編。
20xx/D/F てんき:クモリ
最近9が決め台詞とか決めよー、と言い出したからあたしは「ただしその頃にはあんたは蜂の巣になっているだろうがな」にした。秒間レート33発だからね、事実だよね。
そんな事はどうでもよくて、今日は面倒事が降ってきたんだ。どうやら416まで駄目になったらしい、コイツラチョロすぎる…………ああ、つい本音が。
一々報告要らないんだけど、416は過眠症のポケポケ人形に何を求めてるのさ。自覚はないらしくて、事あるごとに聞いてくる。起こさないでくれ、死ぬほど眠気に襲われてるんだ。
以下、わかりにくいだろうからうろ覚えで抜粋。
「最近、アイツと喋ってるともやもやっとするのよね」
「はあ」
「こう、何ていうの? もっと喋りたいというか、でも現状が何処と無く満足できてないと言うか…………何なのかしらねこれ」
「知らないよ~、じゃあもっと喋ればいいじゃん」
「話題がないと会話に詰まっちゃうのよ!?」
この後滅茶苦茶配給を口に突っ込まれた。真っ当なことしか言ってないのに…………大体、416が会話が続かないから会話しないなんて乙女チック全開なことを言う時点で。
驚くことに彼は一ミリも気づいてない。いつもどおり45に食事を手伝ってもらってるよ、女絡みで殺されるね。保証する。
さてさて、疑似人格ってあくまで疑似だってヘリアンは言ったね。あのとき苦い顔をしてたから言っておこうかな、大ニュース。
彼は人形に他より大きい変化を与えてるのは間違いない。45が他人相手にデレデレしたり、416が恋愛感情で空回りし始めたり。
あたしは深く考える気はないけど、これは「人間らしい行動」と言っていいよ。以前よりぐっと人間らしい、ヘリアン的にはいいニュースなんじゃない?
という訳で彼の話ももちろんするけど、416にも焦点を当てていこう。「ジレンマ」にぶつかる人形なんて、疑似人格のデータ収集としても役に立つかもね。45については怖いから触れないでおくよ…………。
416は心ここにあらず、という感じになっている。意味もなくぐるぐると歩き回ったり、話を聞いてなかったり。彼に対する物理接触が極端に減った、要するに「恥ずかしがってる」。思い出すだけで笑うんだけど何これ。
45はよく分かってないから、奇妙な416が心配みたい。
ただ彼が痴漢紛いの事をするから暴力は収まってない。ただ殺意はなくなったよ、前は何なら殺す覚悟を感じてたんだよね。
416には仕事以外がダメダメなのは知っての通り。だから銃の話で必死に繋げてるみたいなんだけど、あんまりにも必死だから助け舟は出しておいた。会話って人数が増えるだけで弾むものでしょ?
玉砕は見えてるけど、暴走する前にチャンスは撒いて損はなかろう。という訳で彼にも、もうちょっと構ってあげるようには言ってみた。焼け石に水レベルだけど。
しかし416は遊びがない人種(いや人形だけど)だから、何だか会話自体が下手なんだよね。彼は面白がってよく喋ってるみたいだけど、アレじゃ玩具か妹扱いが精々。とはいえあたしも何仕込めば良いんだかさっぱりだから困ったよ。
――――――妙案は一つだけあった。「狙撃についてマンツーマン」だ、というかこれしか分からない。だって416って全然攻めないから、まず彼は人となりをわかってないと思うし。
幸運は一気に降ってくるのかな、彼はUMP姉妹の猛攻を食い止めるために「骨を切らせて肉を断つ作戦」を提案してきた。あたしと416で横を埋めてしまえば介護は無理、それだけなんだけど物理的距離感は異性の意識の第一歩だ。ゴリ押ししたね、眠いから雑な押し方したけど。
416はこの期に及んで45の心配だってさ。自分を鏡で見てくると良いと思うな、驚くほど口元釣り上がってたよ。
しかし、416って本当シャイだったんだよ。もじもじもじもじと見てるだけで眠くなる。というか寝ちゃってた、彼が起こしてくれるうちに起きればよかった。またガミガミと煩いなあ416は。
意図せず彼の前に身を乗り出していたらしく、顔が近すぎたから見事ゆでダコノックアウト。待てよ、あたしが仲介すれば可能性が微粒子レベルで存在する…………?
もうちょっと彼と喋ってみようか、チャンネリングの役なんてあんまりしたこと無いんだけどなあ。
ようやく45を卒業して彼は字を書いていた。肩で書く姿は笑いどころだけど、本人は一生懸命なのでちょっと微笑ましく見える。結構子供っぽいから、見た目よりこう? 可愛らしいというか? もうやめようかこの話。
横で45が寝るのは相変わらずみたい、思うに彼は鈍感である以上に距離感が何でもかんでも近すぎるんだ。だから相手が意図的に距離を詰めても異常に見えない――――――何で冷静に推察してんだろ。
416は誘うチャンスを逃したと黄昏れてた。その惚けてるのか悩んでいるのかわからない感じは睡眠マイスターとして非常に羨ましい。夢心地ってやつなんだろう。
最近報告が長いの、これはちょっとヘリアンには悪いと思う。でも実りが多いという意味で前向きに喜んでもらえたら。
20xx/E/G てんき:オオユキ
やばい、なぜか416と同じ時間に起きれてしまった。疲れているのかもしれない、寝ようとしたら416に引きずって持っていかれた。「これは不健康だ! 二度寝しなければならないんだ!」と抗議したけど「至って健康的で私は嬉しいわ、という訳で起きろ寝坊助」とあっさりぶった切られた。ヘリアン、これは昔あったっていう労働基準法を大幅に逸脱する越権行為だとあたしは抗議したい!
416は実に真面目な性格で、朝から射撃練習とかをちゃんとしているわけだ。あたしとは大違いだ、だから計画通りの作戦であたしの出る幕って少ない。ちゃんとやってくれるし昼寝も出来る。
まあ今日は大雪だからあんまり多くのことはしてない。こういう所、彼はちゃんと評価するタイプなんだろうけど如何せん起きてないもんねー。困った困った。
また45に起こされてる。そろそろ何とかしないと、そのうち外堀から水攻めみたいにじわじわ来ると思うなー。
足は治ったみたいで、45が戯言みたいに「治ったんだ…………へえ…………治っちゃったか…………」ってずっと言ってるから怖気だってた。寝るに寝れないよ!? しかも本人は呟いてる自覚ないらしいし!?
416がまたぼうっとしてるので彼が大胆な痴漢行為に打って出ていた。ある意味距離感は近いんだけどさあ………………惜しいなあ、決定的にずれてる。
またやってしまった、みたいな顔してるけど416から手加減は見られなくないかい? どうして反射でそこまでやっちゃうかな、ある意味彼への信頼の裏返し? だとすると随分暴力的な信頼だ。
骨を斬ってうんたらかんたら作戦は今日も元気に決行してた。「チャンスだよ416」、とアイコンタクトは送ったのに結局またダメだった。食事の手伝いは出来るのに「射撃見せて」が言えないってどうなんだい。まああたし関係ないけどさ?
呆れて途中で寝た、引き回されそうだった。彼は止めてくれるから良い人だ、本当に。普通引き回そうとしないから。
途中から416の事情をぼんやりと察したのか、45は彼と距離を置こうとしていた。それはそれで416の願う所でもなかったんだけど、彼と9は何とか引き戻していた。まあ彼は単純に善良だからね。
45もようやっと一歩引いた視点に戻ってきたのか、416の心配する空気が強くなってる。本当は優しいもんね。
お昼に鳥鍋が開催された。何故か45があたしまで9の作る鳥鍋の試食に付き合わせてきたんだけど、アッチで彼と416が喋ってたので察した。あ、ふーん。的な。
ついつい目移りしてたら45が「あんまり邪魔しない方が良いんじゃない?」とウインクしてた。いや待って、45のせいで動きにくかったんだからね。何をあたしが足引っ張ってたみたいな!
でも416は機嫌悪げに帰ってきた、彼から顔を逸らした後でちょっと落ち込み気味だったからまた失敗らしい。まあ仕方ない、果報は寝て待てとの極東の名言も証明するように、出来ないことを攻めるより気長に待つ方が色々と都合がいい。
ちなみに鳥鍋は美味しかったよ。9はセンスがある、45は知識があった。彼がぽろぽろ涙を流しだしたのはちょっとビックリしたけど、やっぱりあの時の腕の不自然な痕は「そういう事」なんだろうね。
――――触れないよ、勿論。本人が喋れば返すだけ、それはこの小隊全員の暗黙の了解だ。彼は何というか、態度も色々と不自然だから複雑な事情があるのは何となく皆分かってるし。
言葉じゃ誰も救えないよ。ましてや人形の仮初めの言葉なんかじゃ。それはあたし達人形が最初に得る教訓だから。
45は彼が居ないときに「心を許せる人とか、出来なかったのかな」とコッチに振ってきた。辞めてよ、あたしそういう話向いてないんだから。
拠り所みたいなのが無いのが想像がつかないみたいだ。
416は今日も今日とて黄昏る。
「…………ねえ、答えなくて良いから話を聞いて」
「はいはい、分かりましたよ。お好きにどうぞ」
横は見ない。見たら416は怒るか、もしくは弱っているのか。どっちにしろ見たくない光景になるのは明白。
雪はかなり勢いを弱めて、どれもこれもがマイペースにゆるりゆるりと降り積もっていく。木々から突然落ちる積雪だけが、心音のように静寂を打ち鳴らし続ける。
長く待った。別にどうこう言う気はない、そういう日もある。ちゃんと言葉に出来たのはそう思ったちょっと後。
「――――――言うだけ言って悪いんだけど、整理つかないからやっぱり辞めていいかしら」
声は震えてる。まるで迷子みたいだなあとは思ったけど口にしない、傷口に塩を塗るほど趣味は悪くないから。
見えない月を見ようと目を凝らしたけど駄目だった、その代わりに喋ることだけは思いついたりして。肝心な時は手早く動く口が本当に助かる。
「別に良いけどさ、今は取り敢えず吐き出したいとかない?」
「無いわよ。少なくともあんたに言う気がない」
「そうかい、それは大層嫌われたようで」
声は続く程弱くなった。声の調子とか、音量とか、そういう物理的なものではなかった気がする。こう、有りもしない「心」から弱くなっているように聞こえた。多分思い込み。
雪は積もるのに、それが目に見えて変化を起こしたりしない。彼女達は何を思ってこんな死にゆくだけの命運を受け入れ地に降るのやら、あたしにはさっぱりである。
逃げて寝ておけばいいのにね。寝てる内に終わればそれは最高だ。
結局予想通りというか、また喋りだす。
「私はあんまり特定の人間に興味を持ったことがないわ。評価は大多数から求めるし、存在価値は個人からの供給じゃ物足りない。だから個人に肩入れした経験って少ない」
「うん」
「他人のために頑張ろうとか思ったことも無いわ」
「うん」
「でも私は、「アイツに」見て欲しい気がしてるのよ」
「うん」
「すぐに変な所触ってくるし」
「そうだね」
「喋り方も品があるかと言えばないし」
「その通り」
「とても、私が肩入れするタイプとは思わないでしょ?」
「確かに」
「完璧になりたいのは自分の為よ。だけど今は、見られるから完璧で居たい」
「ふーん」
「私は完璧で居たいけど、アイツが居ると完璧になれないのよ」
「何で?」
「アイツと喋ると、いえ。見てると、近くに存在すると、思い出すと、視界に移っただけで乱れるから。じゃあ完璧にはなれないわ、彼に見てもらうべき私は存在し得ない」
「難しい事を言う」
「私はどうすれば良いのかしらね? 大体、これって何なのよ?」
「眠たいから、今から凄く無責任なことを言うよ。416は戯言と切り捨ててもいいし、何かの一助にしてもいい。あたしは無責任に、あたしが見た事実を言っておくだけ」
「416は、彼のことが「好き」なんだろうさ」
動揺の様子はなかった。
必要なのは事実というナイフじゃなくて、ナイフを刺してくれる相手。どうせそんな事だろうと思った。
「後さ。416は完璧に見られたいって言うけど、個人的には完璧じゃない416の方が綺麗だと思う」
「何? 私はソッチの趣味なんて無いわ」
声は弾んでいた。こっちもちょっと笑えた。
寝てるばかりのこの頭もちょっとばかしは役に立つ。
雪は消えた。月ももうすぐ見えてくる。
「まあ頑張りなよ。ともかく今日は寝た方が良いんじゃない?」
「………………そうね。今日はちょっと眠いわ」
雲が切れて、小さく月明かりが差し込んだ。
――さて。何時か怒られるんだろうか。
こういう感情は知りたくなかっただとか、結末は分かっていたのかだとか、そういうぶつけるしかないぶつけようのない理不尽な鬱憤は此方に向くんだろうか。睡眠は取れないかもしれない。
でもこの方が、416にとっては良いことだろう。ちょっとだけ起きてるのも嫌いじゃない、24時間寝てしまっては二度寝の楽しみがないのだから。
G11がこの日彼にキレ気味に寝袋を所望した理由は各自で補完してください。例えば友人を振り回す男に理不尽に怒ってしまったでも良いし、友人について考えると目が冴えて仕方なくて機嫌が悪かったでも良いでしょう。貴方に任せます。
私が好むのは許容する文章です。この話の結末は、大抵の貴方の予想を呑み込めるような得心のいく話にしたいです。
はい真面目終わり~~~~~~~~~。
416が事務報告っぽい下書きを殴り書くという案もあったけど、時系列こわれたのでパス。416はこっそり書いてます、あんまり見られたくないだけ。
恋愛クソザコナメクジだからビギナーズラックと察しのいい友人で生きてる感じ。416は恋愛感情を理解も出来ないし、扱いかねて苦しむイメージ。
ちょっとG11と416の関係性は変わってるのになったけど、俺はこういう支え合えてる関係は好きです。
そう言えば「イライラしてるからボルトアクションをガッシャンガッシャンしてる」って言ったら休んだほうが良いみたいなお話をいただきました。
息をするように執筆するので無理です。心配ありがとうね。気持ちだけ、執筆は病なんだよ。
匿名外した。
phes2氏の作品をパクったのは二回目。この前はお許しもらったし、怒ってない――――――たぶん。すいません。
まあ苦情クレーム果たし状ラブレターファンレターボルトアクション語り等々、メールなりで送ってください。俺はそういうの好きです。
ランキング10位以内を達成できるのでは、そんな淡い野望に踊らされつつ更新するのでよしなに。