ソシャゲ異世界配信系女主人公ちゃんはヒロインをお迎えしたい   作:薄いの

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中編

 八方塞がり。

 まさにそうとしか言えないのが今の村の惨状でした。

 

 村外からの流通が止まってから間もなく一週間になります。

 その理由は単純です。

 村の流通を担う拓かれた林道に樹木の魔物、トレントが大量発生したのです。

 

 当然そんなこと、滅多にあることではありません。

 なぜなら、こまめに魔物を間引きしていればこれほどまでに異常発生することはそうそうないはずだからです。

 

 小さな村です。

 行商とて、わざわざ魔物の異常発生地帯にまで赴いて商いをすることもありません。

 村にも、塩などの必需品のストックは多少はあるけれど、いずれそれも尽きてしまうでしょう。

 

「――いきますっ!"マナバレット”!」

 

 魔力の球体を真っすぐに飛ばす"マナバレット”。

 それは、私たち魔法使いならば最初に覚えるであろう、魔法のひとつ。

 

 それは、寸分違わず私の目前に佇み、軋むような音を鳴らすトレントの幹に突き刺さりました。

 みしみし、とどこか不快な感情を呼び起こさせる音色を鳴らすソレ。

 

 ――本来ならばもっと強烈な魔法を打ち込みたい。 

 

 私とて未熟ではありますが見習いの前書きの取れた魔法使い。

 当然、それに見合った魔法を習得しています。

 だけれど、未だ習得出来ていない炎の属性の魔法で有利の取れないのが今の私。

 

 魔力を節約しなければ、逃走のための一手すら打てずに目の前の怪物に殺されてしまうでしょう。

 命あっての物種。

 回復と補助の魔法に強い適正を持つ私にはその意識が強い。

 生き意地が汚い、勇気を持てない、毅然としているようで誰より恐怖心を抱いている。

 

 瞬間、腹部に強い衝撃。

 揺れる視界。

 為すすべがあるはずもなく、跳ね飛ばされる私の身体。

 どこをどう転がったのか。馬車の通行に使われていた道の端に私は転がっていました。

 

 視線を戻せば、先ほどまで私が戦っていたトレントとは別にもう一体のトレントが。

 きっと私を跳ね飛ばしたのももう一体のトレントなのでしょう。

 

 辛うじて手放さずに済んだ樫の杖を地面に突き立て、よろけながら立ち上がりました。

 体の奥底から鈍い痛みが滲んでくるみたいでした。

 

 ――村のみんな、ごめんなさい。私は今日も敗北しました。

 

 諦観――そして、目の前の恐怖から逃れられる醜い安堵の心。

 

 私は死なない。

 樫の杖を強く握りしめる。

 

 陰鬱な感情とは別に身体の奥底から魔力が吹きあがってくる。

 それは魔法力の高くない人でも目視できるほどのものだ。

 ――戦意高揚。あるいは魔力励起。戦いの中で、私たちは一時の強化を得る。

 

 これは神が与えたもうた奇跡の力だ。なんて、私は言うつもりもありませんけど。

 だって、こんな醜い感情から放たれる魔法が奇跡のはずがないから。 

 

 私の持つ固有能力、"二重詠唱(デュアルキャスト)”。

 通常の三倍近くの魔力と引き換えに一度の詠唱で魔法の冷却時間なしで二連続で同じ魔法を発動する力。

 

 私はこの力で物理攻撃を受け止めてくれる"プロテクション”の魔法を二重で掛けて、無様に魔物へ背中を向けて逃げればいい。トレントは物理攻撃しか攻撃手段を持たないのだから。

 なんて簡単で、お手軽なんでしょう。

 

 きっと今日もまた、私は村に逃げ帰って神妙な顔で、みんなに頭を下げるのでしょう。

 『おまえはよくやってくれた』『こんなにぼろぼろになるまで戦わせてしまってすまない』なんて言葉を貰いながら。

 

 思わず乾いた笑いが漏れました。  

 樫の杖を掲げる。杖を中心に魔力が渦巻く。

 

 ――今、まさに杖を振り下ろさんとばかりに構えた、その時だった。

 

 枝葉を蠢かせ、こちらを狙っていた二体のトレントを、銀色の風が通り抜けていった。

 ずるり。と胴体の上と下でトレントがズレて、滑り落ちていく。

 

 ――両断。

 そこに在ったのはもはやトレントであったものの残骸。

 

 そして、その亡骸の背後から現れたのは白銀の輝きをその鎧に、そして髪に宿したような美しい女の子でした。

 青空をそのまま切り取ったような青い瞳と木漏れ日を浴びてきらめく銀の髪。

 

 そして、彼女の周囲をふわふわと漂う水晶玉のようなもの。

 その水晶玉はなにか虚空になにやら板のようなものを映し出していました。

 

 魔法使いの私でも見たことのない魔法でした。

 いえ、魔法道具か遺跡やダンジョンから時折発掘されるアーティファクトや、神具と呼ばれる類のものなのかもしれません。

 

 

 

◇ グロウ・ツリーラインとかいうソシャゲの女主人公(リィンちゃん)になった私の冒険譚 part98 ◇

 

563,名無しの支援者

満を持してリィンちゃん登場

 

564,名無しの支援者

命を脅かしていたトレントを斬殺して颯爽と現れる貞操を脅かすクソレズ

 

565,名無しの支援者

 

566,名無しの支援者

なんでや!カッコよかったやろ!

……いや、トレントのほうがマシかもしれんけど

 

567,名無しの支援者

フィーちゃんピンチになるまで草むらでワクテカ待機してたリィンちゃんにカッコよかった要素ある?

 

568,名無しの支援者

しかもこのクソレズときたらフィーちゃんの必殺技発動しそうになった瞬間慌てて飛び出して瞬殺しやがった

 

569,名無しの支援者

器の小さい主人公

 

570,名無しの支援者

精神的なところがどう見ても主人公というより山賊の下っ端

 

571,名無しの支援者

フィーちゃんの必殺技シーン俺見たかったのにどうしてくれんだこの無能 

 

572,名無しの支援者

俺も生でデュアルキャストみたかった

 

573,リィン・アドライナ(15Lv) :カル地方.-ラダ村林道-

私悪くなくなくなくない??

だって倒されちゃうじゃん!私、こいつらが倒された後どんな顔してのこのこ出てけばいいの?

というかフィーちゃんの最初の絆クエストのトレント討伐ってこんな危なーい!

俺が来たからにはもう安全だっ(きらっ☆)みたいな感じだったじゃんっ!うる覚えだけど

 

574,名無しの支援者

というかトレント弱すぎない?

共闘するクエストっぽいのに一撃かよ

 

575,名無しの支援者

ほんま無能

 

576,名無しの支援者

>>574

こいつ全身課金装備で事前に課金アイテムで使い切りの戦闘一回ステ+15%アップ果実食ってる

 

577,名無しの支援者

しかも本来はここ適正レベル7だぞ

 

578,名無しの支援者

用意周到すぎwwwww

 

579,名無しの支援者

根本的にこの女って勇者属性じゃないだろwww

 

580,名無しの支援者

というかチャット出しっぱなしだけど大丈夫なのこれ?

 

581,名無しの支援者

フィーちゃんこっちガン見してる

 

582,名無しの支援者

リアルのフィーミリアちゃんが僕を見てるぞ!フィーミリアちゃんが僕を見てるぞ!マジモンのフィーミリアちゃんが僕を見てるぞ!!

 

583,名無しの支援者

フィーミリア!フィーミリア!フィーミリア!うわああああああ!

 

583,名無しの支援者

ルイズコピペやめろ!

 

584,リィン・アドライナ(15Lv) :カル地方.-ラダ村林道-

ここに大正義リィンちゃんもいるぞっ☆

 

585,名無しの支援者

あっ、うん

 

586,名無しの支援者

せやね

 

587,名無しの支援者

 

588,名無しの支援者

ぺっ

 

589,名無しの支援者

 

590,名無しの支援者

すっごい塩対応で笑う

 

591,名無しの支援者

ここに塩鉱山をつくろう

 

592,名無しの支援者

中世ファンタジーだと塩は貴重品だからやっぱりリィンちゃんは英雄やな

 

593,名無しの支援者

さすリィン

 

 ◇

 

 今までに見たことのない文字列でした。どこか遠い異国の文字なのでしょうか。

 魔法使いという育ちもあって、それなりの知識を蓄えてはいるのですが、それでも見覚えのない文字列です。

 

 ふと、気づく。

 銀の髪の女の子がじっと私を見つめていました。

 

 深い深い蒼穹の瞳。

 そして、体つきは先ほどの絶技を繰り出したとは思えないほど華奢で、村の女の子と、そう変わるものではありませんでした。

 歳で言えばもしかすると私より五つぐらいは離れているのかもしれません。

 

 ……一体どれほどの因果を重ねれば、この年頃でこれほどの剣士としての高みへ至れるのか。

 もはや想像も出来ませんでした。

 

 ◇

 

620,名無しの支援者

リィンの目が獲物を狙う肉食獣のソレ

 

621,名無しの支援者

逃げろ!フィー!こいつは畜生で、しかもクソレズだ!

 

622,名無しの支援者

(アカン)

 

623,名無しの支援者

俺のフィーちゃんがピンチ

 

 ◇

 

「……"あなた”これが読めるの?」

 

 不思議な文字が流れていく投影された板を物珍し気に見ていた私に彼女はそう声を掛けてきた。

 

「う、ううん。違う。珍しいものだなって思ったの」

 

 私がそう答えると彼女はどこか安堵したような、だけれどもどこか失望を秘めているような、複雑な表情を浮かべた。

 

「どこかの国の言葉なのかな?」

 

 たぶんこの質問はしてはいけなかったのでしょう。

 

 女の子はじぃっと私の瞳をじっと、覗き込んでいた。――高い高い空の色。深い深い海の色。

 空に果てはなく、海の底には暗闇しかない。

 

「……私は、もう帰れないの」

「えっ?」

「……いいの。この文字を読める人はもうこの世界にはいないって……本当は分かってたの」

 

 ◇

 

628,名無しの支援者

この女wwwwwwww

 

629,名無しの支援者

なんなんだこいつwww

 

630,名無しの支援者

滅ぼされた国の唯一の生き残りの女の子ムーヴ

 

631,名無しの支援者

嘘を吐くことに躊躇いがない

 

632,名無しの支援者

壮大なバックボーン背負ってそう

 

633,名無しの支援者

というか日本語はこの世界で読めないって知ってたん?

 

634,名無しの支援者

日本滅ぼさないで

 

635,リィン・アドライナ(15Lv) :カル地方.-ラダ村林道-

>>633

会話は通じるけど文字がこっちの創作言語っぽくて読めない書けない

ゲーム内の鍛冶屋とかも看板がその謎言語だったから現在の私文盲なう

 

636,名無しの支援者

あの創作言語って五十音の置き換えらしいから後で拾って置いといてやるよ

 

637,名無しの支援者

まるで主人公みたいな設定背負った小物

 

638,名無しの支援者

モノホンの主人公やぞ

 

639,名無しの支援者

いまいちヌケない方のリィンちゃん

 

 ◇

 

 ……私はきっと彼女を甘く見ていたのでしょう。

 まだ親元に居るような年頃の女の子が剣一本、一太刀で魔物を斬り殺す。その壮絶さを。

 

 旅は――世界は、危険に満ち溢れている。

 場所も場所だ。ここは田舎もいいところ、道中で獣を、時に狼藉者の類も斬り捨ててきたのかもしれない。

 

 私は弱く、彼女は笑ってしまうくらい強い。それこそ怪物のように。

 ――だけど。

 

「……危ないところを助けてくれてありがとう。私の名前はフィーミリア。よければ、あなたの名前を聞かせてもらっていいですか?」

 

 少しだけ驚嘆するように瞳を瞬かせる女の子に向けて掌を差し出して、私は精一杯笑った。

 

「……わたしは、……リィン。リィン・アドライナ」

 

 おずおずと、どこか緊張した面持ちで握られる掌。

 一瞬で二体のトレントを斬り捨てとは思えない柔らかく、熱を持った掌。普通の女の子と変わりない。

 

「はい! よろしくお願いしますね。リィンちゃん!」

「……あの、……うん」

 

 言葉を詰まらせながら、なんとか、といった様子で言葉を吐き出すリィンちゃん。

 

 ◇

 

652,リィン・アドライナ(15Lv) :カル地方.-ラダ村林道-

あぁ、しゅき……あったかおてて……

おまえら今日の日付覚えとけよ

私とお嫁さんとの出会い記念日だからな

 

653,名無しの支援者

おまえはもうこっち書き込むな

 

654,名無しの支援者

絵面だけは美しい

 

655,名無しの支援者

書きこまなければ若干尊く見えないこともなかったかもしれない

 

656,名無しの支援者

フィーちゃんはやくこいつを崖から投げ落としてくれ

 

657,名無しの支援者

こいつ外面で純情ぶってるけど中身コールタールより黒いって気づいてくれフィーちゃん

 

658,名無しの支援者

言いたい放題で草

 

 ◇

 

 じっと彼女を見つめていると、恥ずかしそうに頬を赤らめて視線を逸らされた。

 あまり、人慣れしていないのか、それとも人に慣れるような生き方が出来なかったのか。

 

 木々の隙間を縫ってひとつ、大きな風が吹いて、スカートの端が揺れる。

 私のなかのなにかが大きく変わっていく予感がしました。


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