ダンゲロス/IF   作:餅男

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第八話 変わる流れ、変わらぬ悪意

 悪臭満ちる番長小屋。その臭いに新鮮な血の匂いが混じる。

 

「ド正義……!」

 

 白金翔一郎は絶句した。

 ド正義達也の能力「超高潔速攻裁判」は、ド正義が相手を“視る”ことで初めて発動する。つまり、彼にとって視力を奪われるという事は能力を完全に失うに等しい。

 だからこそ翔一郎は彼の覚悟の証として目を潰す事を求めた。ド正義の虚仮を剥がすために、絶対に呑めない条件を提示したつもりだった。

 しかし──彼はやってのけた。

 

「ぐっ……あっ、ぐあぁっ!」

 

 痛みに耐えかねたか、咥えていたハンカチが零れ落ち苦悶の叫びが響く。

 

「ど……どうだ、白金……まだ、足りないか……!?」

 

 ド正義が鮮血に染まった顔を上げて言った。手で目元を押さえているが、どくどくとそこから血が溢れ、床に染みを作っている。

 

「まだ足りないか、白金翔一郎!」

「な……!?」

「……白金、おどれの負けじゃ」

 

 気圧される翔一郎の背後で邪賢王が言った。むくりとその巨体を起こし、よろよろと壁を探すド正義の手を取る。

 丸太めいた指の感触に、ド正義も相手が誰だか分かったようだ。

 

「じゃ、邪賢王……か?」

「そうじゃ、ド正義。おどれの覚悟、確かに見させて貰ったわい」

 

 そのまま邪賢王は頭を深々と下げた。

 

「ハルマゲドンで敵味方が手を組むなど聞いた事が無いが……ワシら番長グループの命、おどれに預ける。こちらから生徒会に攻め込む事は絶対にせん。この邪賢王ヒロシマ、男の誓いじゃ」

「……感謝する」

 

 苦しみつつも、ド正義は口元に無理に笑みを作った。邪賢王の手を離し、手探りにドアの位置を探る。

 

「ド正義よ、無理をするな」

「だ、大丈夫だ、外に迎えが来る……それに、早くこの『見えない』という感覚にも慣れないといけないからな」

「………」

 

 明らかな強がりである。しかし、こういう時のド正義が下手に手を貸せば更に拒絶しようとする事を邪賢王は知っている。

 

「……扉はおどれの右肩の後ろ辺りじゃ」

「そうか……な、ならば……僕は、これで失礼する。詳しい話は、また……連絡する……ぐ、ぐうっ!」

 

 ポタポタと赤く染まるド正義の指の隙間から血の雫が零れる。

 それでもド正義は膝をつく事無く扉に辿り着き、震える手で押し開けると番長小屋を後にした。彼の足取りを追うように血痕が残る。

 扉が完全に閉じると、顔を青くしていたあげはが大きく肩の力を抜いた。横の駒沢が慌てて様子を伺う。

 

「だ、大丈夫?」

「………」

 

 こくこくと頷く。広範囲無理心中能力という危険極まりない能力を有する少女であるが、血や怪我に拒否反応を示すのは常人と同じなのだ。

 

「ド正義……まさか、あそこまでやるとは……」

 

 未だに信じ難いのか、翔一郎は扉の方に視線を向けつつ呟く。その姿に対し、邪賢王は言った。

 

「ド正義はああいう奴じゃ。いつも『自分以外がどうすれば幸せになるか、安心できるか』を考え、自分がどう思われようとか、どう危険な目に遭わずに済むかとか、そういう事を全く考えん」

 

 そしてその結果──かつて「超高潔速攻裁判」で魔人中学生十数人を殺害したド正義は孤立したのだ。

 邪賢王の脳裏にその頃の様子が思い返される。自分が守ったはずの一般生徒たちから恐怖と忌避の目で見られるド正義の姿が。

 今現在の生徒会が進めている「学園総死刑化計画」にしても、「自分以外にこの計画を完遂できないから」という理由で生徒会の会長席で指示を出しているが、本来は常に最前線で皆を守る男なのだ。

 その彼が自身の眼と引き換えに番長グループに協力を求めてきたという事は、ド正義にとって何よりも優先して戦うべき相手がいるという事である。邪賢王にはそれが分かった。

 口説院の事もあり生徒会への敵意を隠さなかった翔一郎にも、彼の覚悟は伝わったのだろう。僅かばかりの罪悪感を顔に浮かべつつも翔一郎は言った。

 

「番長グループ側から生徒会へ仕掛けないよう、俺からも皆には言っておく。ただ……予定していた『保険』については準備を進めておこう。万一の可能性もあるし、準備そのものにリスクは無い」

「例の『災玉』対策か。ええじゃろう」

 

 それでもまだ完全には警戒を解くには至らないようだ。邪賢王は仕方ないと思いつつ頷いた。

 

「……嬉しそうね、邪賢王さん?」

「ん? そう見えるかのう?」

 

 鏡子が邪賢王を見上げつつ言った。番長としての威厳を保つために強面を維持している邪賢王は顔に力を込めつつ答えた。

 

「ええ。凄く嬉しそう」

 

 手元の鏡を弄りつつ、鏡子は微笑んで言った。

 

 

 

「ド正義さん!」

 

 番長小屋の正面にハーレーを停車させ、ド正義が出てくるのを待っていたバルは顔面を血に染めた彼の姿を見て思わず駆け寄った。

 

「だ、大丈夫だ、歩ける……!」

 

 白ランの襟は既に赤黒くなっており、ド正義の高潔さを示すかのような白地に幾つもの赤い染みが出来ている。

 ド正義はバルに対しても強く言おうとしたが、流石に堪えてきたのだろう。既に足元がおぼつかない状態だ。ふらつくド正義の体をバルは慌てて支え、ハーレーへと誘導した。

 

「無茶しすぎですぜ、ド正義さん……!」

「なに、眼だけで済んだのなら、安い、ものだ……」

 

 そのままバルはド正義をハーレーの後ろに乗せ、自身はシートに身を置くとハンドルを握った。随行していたもう一人の生徒会メンバーに後ろからド正義を支えるように指示を出し、大きく揺れないよう慎重にスタートさせる。

 表向きは番長グループ幹部であるバルがここまでド正義を気にかければ、本来ならば周囲は違和感を覚える筈である。

 

「バルさん、そいつ送っていくんスか? 気をつけて下さい!」

 

 しかし周囲の舎弟はそんな感じの反応で、特に彼の行動に疑問を覚えたりはしなかった。“裏切帝”の効果である。

 やがてハーレーは走り出した。背後の番長小屋が、次第に小さくなってゆく。

 1㎞ほど離れ、周囲が森に包まれたところでド正義は苦しげに言った。

 

「そろそろ、頼む……()()()()()()()

「……生きた心地がしませんでしたよ、色々な意味で」

 

 ハーレーに摑まりつつ彼の身体を後ろから支えていたファーティマ・アズライールがそう言うと共に、彼女が小脇に抱えていた生徒会の帳簿が微かに光った。

 するとどうであろう、切り裂かれ潰れかけていた眼球が映像の逆回しのように元に戻り、顔面に横一文字に作られていた深い傷が消失し、血の跡こそ残っているがド正義の顔の怪我は完全に回復してしまった。

 

 これこそ彼女、アズライールの能力『損害保険の法則』である。

 彼女を中心とした半径50m以内の事前に設定した『保険契約者』が死傷した場合、彼女の管理下にある金銭を消費する事でその負傷や死を無かった事にする能力である(消費される金額は怪我や損害の度合いによって変動する。例として、対象が大爆発に巻き込まれて五体四散した挙句に炎上した場合の回復に必要な費用は約一千万強)。

 主に破壊系の能力に覚醒する事の多い魔人の中で回復能力所有者は少数派だが、その中でもアズライールの能力は相当に高い。例えば彼女が一国の財務大臣になった場合、ほぼ無尽蔵に死者蘇生が可能になる訳だ。

 

「こんな使い方はこれっきりにして下さい、ド正義さん。負傷から余り時間を置くと“保険”の適用外になって、回復できるものも回復できなくなります」

「……ああ、気をつけるとしよう」

 

 完全回復したド正義はそう答えると、彼女が差し出したティッシュで顔を拭いてから胸ポケットに入れたままだった眼鏡をかけ直した。

 

「全く……まだ帰ってこれたから良かったですが、中で殺されていたらどうするつもりだったんですかい?」

「予測していた中で、それが一番まずいパターンだった。その時はおそらくは僕の死体はゴミ山に棄てられただろうから、そこで復活させて貰って這う這うの体で逃げるしかなかったろう。勿論、交渉を諦めるつもりは無かったがな」

 

 ため息をつきつつ尋ねるバルに、ド正義は落ち着いた口調で答えた。

 

「とはいえ、しばらくの間は顔に包帯を巻いて身内にも僕が負傷したと思わせるつもりだ。君たちもそれについては口裏を合わせてくれ。実際に一度は斬っているんだから、まあ、真っ赤な嘘という訳でもあるまい」

「ド正義さん、前から思っていたんですが……アンタの冗談は冗談に聞こえませんなぁ」

「それについては私もバルさんと同意見です」

 

 酷く心配させた意趣返しだろう。バルとアズライールは呼吸の合った指摘を返した。

 

「……いずれにせよ、これで番長グループとの協力関係は作れた。忙しくなるぞ」

 

 夜の闇に包まれたグラウンドが見えてくる。ド正義はそう言うと、眼鏡の奥の瞳を光らせた。

 

 

 

 ダンゲロス/IF  第八話 変わる流れ、変わらぬ悪意

 

 

 

「ド正義、その怪我は!?」

「会長、大丈夫なんですか!?」

「番長グループにやられたか!?」

 

 翌朝、顔の上半分を包帯でぐるぐる巻きにして杖をつきつつ入室してきたド正義の姿は、エースら生徒会役員を大きく驚かせる事になった。

 

「なに、これは僕たちにとって必要な対価だ。医者によると、暫くは不自由するが問題なく治るものらしい……それよりも、番長グループとの協力が取れた。改めて彼等との連携を含めた今後の作戦を考えてゆこうと思う」

「……信用できるのか? あの番長グループだぞ」

「僕たち生徒会は規律を重んじるが、番長グループはそれ以上に意地や面子を大切にする。邪賢王は舎弟たちの前で僕に協力の約束をした。それを自分たちから破れば、邪賢王の番長としての面目は無くなる」

 

 声の響きだけで範馬が半信半疑なのが分かる。当然と言えば当然だが、まだ番長グループへの疑いを拭いきれないようだ。

 彼等も決して悪意から疑っている訳ではない。ド正義や生徒会のメンバーの事を大事に思うが故の警戒心である。それをド正義は理解しつつも、今後の作戦を進める上で注意せねばならないと思った。

 

「さあ、朝の連絡会を行おう。歪み崎くん、悪いがこんな状態なので書類を口述して貰えないだろうか?」

「は、はい! 分かりました!」

「では始めるとしよう、まずハルマゲドン用の食料の備蓄についてだが……」

 

 

 斯くして、生徒会VS番長グループの決戦の場となる筈であったハルマゲドンはその形を変えつつあった。ド正義は自らを陥れようとする、未だ正体を見せぬ“敵”の姿を見据え、番長グループはそれに足並みを揃えると誓った。

 

 

 

 ──その大掛かりな舞台装置の陰で小さな悪意の歯車を回す者が居た事にド正義や邪賢王が気付くのは、ハルマゲドン開始直前のことである。

 

 

 

 9月3日夕方、とあるマンションの書斎。

 

「……さ、『三人』でいいのか?」

 

【長谷部】と書かれた表札のドアの向こう、痩せぎすで神経質そうな細目の男が電話機の向こうの相手に確認するように問いかけていた。

 

『はい! 魔人警察や魔人小隊が相手ではありませんね?』

「あ、ああ。二つの魔人学生グループの抗争だ。外部からの介入は無い」

『何だぁ、それでしたら大丈夫です! 魔人学生60人程度なら、“転校生”三人でお釣りが来ます!』

 

 電話機の向こうの担当者はやけに明るいテンションで話を進めてくる。

 「魔人学生60人を殺してほしい」という大量殺人の依頼を、まるで近所の草むしりをする程度の軽さで扱っている事にこの細目の男、希望崎学園数学教師の長谷部敏樹は恐怖心と共に不快感を覚えた。これは電話の向こうの相手が魔人である事と無関係ではない。魔人と話をするというのは、長谷部にとって毒虫とコミュニケーションを取ろうとしているのと同レベルなのだ。

 

「大丈夫なんだろうな? 学生と言っても、全員が魔人で60人かそれ以上なんだが……」

『ご安心ください! お客様は実際運がいい、ちょうど三人でのチームワークに定評のある“転校生”が手すきで……あれ?』

 

 ふと、担当者の声の勢いが弱まった。

 

「お、おい、どうした?」

『少々お待ち下さいませ……あー、“ムー”君が一人で依頼消化中? 何で? ……ああ、はいはい、そういう事。あの子、確かにまだそんなに“集まって”ないもんねぇ、ははは。戻りは? まだ連絡来てない? そっかそっか、そんじゃあしょうがないや』

 

 どうやら他の誰かに事情を聞いているようだが、本来なら保留でもかけて言うべきところまで丸聞こえである。本当に大丈夫なのかと不安に思いつつも長谷部は受話器を下ろせなかった。この電話一本を繋げるためにどれほどの手間と時間と労力を費やしたか、思い出すだけで気が滅入る程だ。それを思えば今は待つしかない。

 担当者はこちらが全部聞いていた事に気付いていないのか、再び素の喋りから営業トークへと戻った。

 

『大変失礼いたしました。ちょっとチームプレイが得意な三人がひとり欠けていまして……9月20日頃までお待ち頂ければ万全の態勢でそちらにお送りできますが……』

「それでは困る。こっちでハルマゲドンが開催されて、その両勢力が激突するのは来週だ」

『なるほど、なるほど……少々お待ち下さいませ。そういう事でしたら……おっと』

 

 ペラペラと紙をめくる音。担当者は何かを見つけたように声をあげた。

 

『お客様、やはり貴方は運がいい! ちょうどベテランの“転校生”の手が空きました。これなら二人でも大丈夫なくらいですよ!』

「三人で頼む!」

 

 ここまでのグダグダな対応を聞かされて、三人を二人に減らされてたまるか! 長谷部は内心で悪態をつきつつ強く言った。

 

『承知致しました! えー、それでは依頼内容のご確認をさせて頂きます。依頼内容は「ハルマゲドン期間中、希望崎学園内に滞在している“転校生”を除く全魔人の抹殺」。適用範囲は地上200mで地下は対象外。お間違いないでしょうか?』

「……ああ、それでいい。地下には同僚の魔人体育教師も居るからな」

 

 ハルマゲドンに参加している魔人学生(クズ)どもはさておき、開催中に地下シェルターに避難している教員まで殺害対象にしてしまっては流石にまずい。長谷部は幼い頃からの魔人差別主義者であったが、その程度の判断力は残っていた。

 

『ありがとうございます! こちらからお送りする“転校生”は三名。契約書をその場で彼らからお受け取りいただき、内容確認の上でご署名を頂いて初めて依頼の遂行開始となりますのでご了承ください。万一お客様が契約を結ばれる前に死亡された場合は契約不可能と判断し、“転校生”はそのまま帰ってしまいますので、えー、この点もご了承お願い致します』

「分かった……他には?」

『はい、これが一番大切な点でございますが……』

 

 本当に重要な点なのだろう、担当者はここまでの声からトーンを落として神妙そうに言った。

 

『“報酬”の扱いについてでございます。“報酬”は依頼を完遂するまで可能な限り無傷かつ健康な状態を保つようにしてください。“報酬”が大きく負傷してしまったり、最悪死亡してしまった場合は例え中途半端な状況であっても“転校生”は帰ってしまいます。恐れ入りますが、アフターケアもお客様に丸投げとなってしまいますので、くれぐれもご注意ください』

「それでいて、転校生の手の届く位置に置いておけと言うのだろう?」

『はい、こればかりはシステム上、どうしようもない箇所でして』

「分かった。安全な場所を用意しておく」

『ありがとうございます! それでは、最後に“報酬”の確認をさせていただきます。えーと、“天音(あまね)沙希(さき)”……で、お間違いないでしょうか?』

「……ああ、それでいい」

 

 昨年のミス・ダンゲロスに選ばれた少女で、魔人でない一般生徒。

 死んでほしくて堪らない魔人でもなければ個人的な怨みがある訳でもない少女を生贄にする事に罪悪感を覚えないと言えば嘘になるが、それだけで自分の願望を諦めようと思える程には長谷部は聖人ではなかった。

 

 “転校生”。

 複雑な手順を踏む事で召喚できると言われる、伝説的存在。従来の魔人とは次元の異なる強さを有し、“報酬”次第で近所の除草作業から国家転覆まで請け負う謎の超人集団。

 “報酬”とは、生きた人間。性別や年齢は様々だが、“転校生”が依頼を終えた時、その世界からひとりの人間が消える。

 

 長谷部がこの依頼に踏み切った理由は単純で、陳腐で、幼稚だ。魔人が憎くて堪らない。魔人に死んで欲しくて堪らない。魔人だらけの希望崎学園が我慢できない。このハルマゲドンに参加する60名ほどの魔人が全滅すれば学内の魔人は3割以下となり、随分と自分にとって心地よい学園になるはずだ。曲りなりにも一時は大学の助教授までなった頭脳の持ち主とは思えない、愚かな妄想である。

 だが、その幼稚さの持ち主が“転校生”と契約するまでに至るだけの知能と行動力を持っていた場合、それは妄想でなく現実となる。

 

『それでは、これで失礼致します。ご利用ありがとうございました!』

「……ああ、よろしく頼む」

 

 歪んだ笑みを浮かべつつ、長谷部は電話を切った。

 

 

 

「……くしゅん!」

「だ、大丈夫、沙希?」

 

 放課後の美術室、デッサンモデルとなっていた天音紗希は急にくしゃみをした。カンバスに筆を走らせていた中性的な雰囲気を漂わせる少年が心配そうに声をかける。

 

「うん、男女(おとめ)君。大丈夫、ちょっと鼻がくすぐったくなっただけだから」

「それならいいんだけど……先輩、ちょっとエアコン効きすぎじゃないですか?」

「んー、適温の筈だがなぁ……?」

 

 男女と呼ばれた少年は、やけに高い鼻が特徴的な三年生に声をかけた。首を捻りつつ「先輩」──希望崎学園美術部長・ヴァーミリオン海我(かいが)はエアコンの温度表示を見る。

 一方、少女はくしゃみをした事が変に広がりを持ちそうになっているのが恥ずかしいのか、手を振りつつ言った。

 

「本当に大丈夫。もう治まったから……」

「それならいいけど……疲れたなら、もう今日は止めた方が」

「ううん、ハルマゲドンが始まったら、今度はいつ学校に来れるか分からないし。それに……」

 

 そこまで言うと、何故か沙希は少し顔を赤らめた。少年は小首を傾げる。

 

「沙希?」

「えっと……男女君が描いてくれた私を、早く見たいから」

「………!」

 

 彼女の赤面が移ったのか、少年の顔も一気に赤くなる。

 

「ん? やっぱエアコン弱いか?」

 

 二人の顔が赤くなっているのに気付き、ヴァーミリオンは言った。

 

 

 この少年の名は、両性院(りょうせいいん)男女(おとめ)

 美術部に所属する二年生にして──隠れ魔人である。

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