ドSの銀髪美少女が姉になった 作:睡眠欲求者
3月12日。世間ではスイーツの日らしいが俺にとっては違う。
今日は有栖の誕生日だ。有栖はイベントごとが大好きというわけではないのだが、誕生日を忘れると拗ねるし怒るし杖で叩いてくる。坂柳家に引き取られた最初の年は誕生日という存在を忘れかけて有栖に八つ当たりをされた。
俺のような愚行はみんなは侵さなかったようでクラスメイト達はきちんと有栖の誕生日パーティを企画していた。10人程度の小規模なものだったが、2時間ほどいつもよりは騒いで、最後には有栖の派閥の人間が誕生日プレゼントを渡して解散した。
誕生日プレゼントを部屋に忘れたために後で部屋に行って渡しに行くと有栖に言うと、「私がルツの部屋に行きましょう」と言って部屋まで付いてきた。まあ、やることはないし部屋に上げて話に付き合ってもらおうと考え、ココアを入れて有栖に出す。有栖も有栖で暇だったのか、すんなりと受け入れベットに座っていた俺の隣へぽすっと寝転んだ。
お互いの距離はかなり近く、「んっあ〜…」とか甘い声を上げながら身体を伸ばす、有栖の隙だらけの姿を見ながら姉弟で良かったと思いつつも少し残念に思う。3年間一緒に暮らしていなかったら即座に堕ちてしまっていたかもしれないと思った。
「まさかとは思いますが姉である私に興奮してしまいましたか?」
「色気が足りな、痛ッ!?」
ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべる有栖。鼻で笑う俺。杖で足をつつかれる俺。解せない。
「それにしても16歳か………平均身長は157.6らしいな」
有栖の身長は150cmから変化がない。かなり小柄な方だ。
「また杖で叩かれたいのでしょうか?ついに被虐体質に目覚めてしまいましたか?」
「ごめん、別に意図したわけでは————杖を構えるな!?スイングするつもりか!」
「それも悪くないでしょう。弟をしつけるのは姉の役目ですから」
「いや、あれだって!気にすることはないって。誰も有栖の身長のことをどうこう言ってるやつはいなし、有栖は小柄なことで魅力を加速させてるから————グッ!?痛い………」
流石に誕生日に出す話題ではなかったので素直に殴られておく。スイングじゃなくてよかった。断じて目覚めたわけではない。ご機嫌取りというわけではないが、今渡してしまおう。
「これ、誕生日プレゼント」
「ありがとうございます。開けても?」
「もちろん構わない」
有栖がラッピングされた袋を開ける。渡したのはリボンと髪飾りだった。去年はネックレスをあげた気がするので、来年はイヤリングか帽子だろうか。
「今年はリボンと髪飾りですか」
「ああ、汎用性が高いかと思って。あと、お姉ちゃんは基本何でも似合うから選びやすい」
有栖は満足げな笑みを浮かべる。どうやら合格点らしい。
渡したリボンは黒を基調とした割とシンプルなもの。髪飾りはゼラニウムの花を模したデザインだ。有栖は雰囲気が大人っぽいから、こういったものの方がしっくりとくる。髪飾りの方はちょっと子供っぽいかもしれないが、有栖には似合うから問題ない。
「74点でしょうか」
「辛口だな」
声色は優しいので満足してくれているのだろうとわかる。自然と笑みがこぼれる。
そこからたわいのない話を1時間くらい楽しんだ。
「3月ももう中半か」
もうすぐ新学期。高校二年生となる。地盤も固まってきたし本格的に動き出せる日も遠くはないだろう。そして最終的には有栖に完璧に勝つのが卒業するまでの目標だ。有栖以外はそれまでの力試しか利用するためのカードだ。だが、強敵はゴロゴロといる。この間の様子では1年生の中には白部屋からの刺客が混じってくる。俺の後輩ともいえるわけだ。少しだけ楽しみだ。
「ルツ」
「ん?」
ちょっと考え事をしていると有栖がこちらの顔を覗き込んでくる。
突如体がふわりと浮遊したような感覚を覚える。気がつくと俺は、有栖に押し倒されるような形でベットに背中を着けていた。熱に浮かされたような表情の有栖と目が合い、息が詰まる。彼女の柔らかな身体の生々しい感触が制服越しに伝わってくる。脳を痺れさせ、蕩けさせるほどに甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐってくる。有栖の潤んだ瞳の奥から覗く魔性は、俺の理性をジャムのようにドロドロに溶かしにかかる。
「私と談笑しているときに他の人間のことを考えるのは気分の良いものではありませんよ?」
この状態の有栖と長い間対面するのは本当にマズい。俺の本能がそう警鐘を鳴らし、体勢を変えようと試みる。
「息が荒いですね………心拍が上がってきています」
「あ、有栖」
「違いますよ、お姉ちゃんです」
さらに有栖が目を見つめたまま身を寄せてきた。甘い吐息と魔性を孕んだ瞳が俺を掴んで離さない。
「私の声に集中しなさい?雑音など聞き流せばよいのです、いいですか?」
目を閉じると耳から聞こえる甘い声が余計に響く。少し目を開けると、有栖は左耳に顔を近付けてる。有栖が微笑んで見てきた。
「少し早いですがルツにも誕生日プレゼントをあげなくてはなりませんね?」
「あ………」
「もし拒まないなら、全部、何度も、何度も、嫌な思い出が忘れるくらいに全部壊してあげますよ?」
体が硬直する。そして有栖は俺の耳元に口を寄せ、一言。
「………今何を期待しましたか?」
思い切り脱力してしまった。虚脱感に身を任せて床にへたり込む俺を見て実に愉しげに笑う有栖。気付けば、俺から離れて立ち上がった有栖はすっかりいつも通りの様子に戻っていた。有栖が、愉快気な足取りでこの部屋の出口へと向かって行く。
「見送りは結構ですよ。その様子では立ち上がれないでしょう?」
そんなことはなかったが有栖の近くに行く勇気が出なかった。3月12日。来年の俺は有栖に勝てるビジョンが浮かんでいるのだろうか?
そんなことを思いながら意識を手放した。