淡-Awai- あっちが変   作:おこそとのほもよろを

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流れ十本場:淡、宇宙の墓参りをしてから白糸台高校に入学する

 しばらくして淡が目を覚ました。いつの聞を失っていたらしい。

 ハンニャもサンムーンもウルウルも目を閉じたまま動かない。まだ気を失っているみたいだ。

 妙にダルい。

 体内からエネルギーが吸い取られているみたいだ。

 ただ、タムタム王子だけは起きていた。強靭な身体ゆえ、通常誰もが気を失うような負荷がかかってもビクともしない。体力オバケだ。

 彼は、一人で例のルームランナー型発電機の上で元気良く走っていた。

 窓の外は、妙に明るい。宇宙空間のようだが、このようなところは淡も初めて来る。

 良く見ると、見知らぬ宇宙船や戦闘機、戦艦、巨大ロボットなどが、淡達の宇宙船の近くを浮遊していた。少なくとも操縦されている感じではない。ただ、そこに浮かんで漂っているだけだ。

 タムタム王子が、淡が目覚めたのに気づいた。

「淡さんは、大丈夫ですか?」

「大丈夫。でも、ここって?」

「僕も初めて見ます。サンムーンかハンニャが起きたら聞こうと思いますが、多分、噂に聞く宇宙の墓場ではないでしょうか?」

「宇宙の墓場?」

 昔のSFアニメで出てくるネタの中にある奴だ。

「一応、発電してみましたが、システムが動きません。照明もすぐに消えます。良く分かりませんが、エネルギーが漏れているような感覚です。」

 それって、とんでもなくヤバイんじゃ…。

 もしかして、ここから出る術がないってこと?

 これから高校に入学しようってところなのに、合格祝いに宇宙の墓参り?

 しかも、そのまま墓場入り?

 楽観的な淡も、珍しく顔が青ざめてきた。

 

 その頃、白糸台高校では、春季大会に向けてチーム虎姫の調整を行っていた。目指すは当然、夏春連覇。そして、宮永照の個人戦連覇。

 メンバーは、エースの照、部長の弘世菫、一年生の渋谷尭深と亦野誠子、そして、尭深や誠子よりも若干劣る一年生選手が一名いた。

 春季大会が終わると同時にチームは解散し、新一年生を加えて再編成する。

 ただ、照も菫も、4月になって新たにチーム虎姫に加わるであろう淡が、まさに今、この瞬間に大変なことになっているとは夢にも思わなかった。

 

 それからしばらくして、ハンニャが目を覚ました。

「ここは?」

 ハンニャが超能力で周りの様子を探った。しかし、超能力の切れが今一つな気がする。普段と比べてパワーが足りない。

 ただ、超能力で感じ取った限り、ハンニャにとっても未知の空間だった。いったい、ここが何処なのか分からない様子だ。

 ただ、数十万キロメートル離れたところに、真っ黒な円形の何かが幾つか見える。まるで新月を連想させる。どうやら、それが、この空間の出入り口のようだ。ハンニャは、それを超能力で、うっすらと感じ取った。

 ならば、その外には、普通の(?)宇宙空間が広がっているはずだろう。

「サンムーンを起こしましょう。」

 ハンニャの毛先の球が、うっすらと輝いた。すると、急に驚いたようにサンムーンが飛び起きた。

「変な夢を見させないでください。」

 どんな夢だったのだろう?

 淡は、ちょっと興味があった。しかし、今は黙っておこう。この空間から出るほうが優先順位としては上だ。

「急いで起きてもらいたかったもので…。それで、今私達のいる空間なんですが…。私の超能力でも良く分かりません。現在位置が探れないのです。」

 サンムーンが、辛そうな表情で窓の外を見回した。彼も淡と同じで身体がダルいのだ。ここで体力が溢れているのはタムタム王子だけだ。

 たしかに、サンムーンにとっても、ここは始めて見る空間だった。

 白の星のものとは違う宇宙船や戦闘機、戦艦、巨大ロボットなど、宇宙進出に使われた乗り物が多数浮遊している。

「…。」

 まるで、この空間に不法投棄されたみたいだ。

 絶句…。まさしく言葉が出ない。

 ハンニャが、

「あそことか、あっちとかに幾つか出口はあるようですが…。」

 そう言いながら、真っ黒に見える円形の何か…恐らく出口と思われるところを何箇所か指差した。

 その方向に目を向けたが、サンムーンも肉眼で見ただけでは良く分からなかった。

 そこで、彼は望遠鏡で覗いてみた。すると、たしかに、ハンニャの言うように、その外に宇宙空間が広がっているように見える。

「王子。済みませんが、発電を…。」

「既にやったけど、どこかからエネルギーが漏れているみたいな感じなんだよ。全然、エネルギーが溜まらない。」

「そうですか…。じゃあ、確定ですね。エネルギーが吸い取られる空間だから、迷い込んだもの全てが動けなくなり、出られなくなる。機械も、生物もです。多分、噂に聞く宇宙の墓場でしょう。」

 サンムーンの考えが、タムタム王子の考えと一致した。

 タムタム王子が、ルームランナー型発電機の上を走って見せた。すると、たしかにエネルギーメーターは多少の上昇を見せるが、上がり切らない。九割方が、どこかに漏れているような感じを受けた。

 エネルギーが使えないとなると、ここからどうやって脱出すれば良いのだろう?

 これで終わりなの?

 助からないの?

 待ちに待った麻雀部員としての高校デビューが!

 そんな言葉が淡の頭の中を駆け巡る。そして最後に浮かんできた言葉、

『これで神隠し確定…』

 とうとう、淡の目に涙が溢れてきた。

「もう帰れないの?」

 この淡の問いにサンムーンが答えた。

「王子次第です。エネルギーは、発電する傍から失われてゆきますが、一応メーターは上がります。ならば、脱出するまで莫大なエネルギーを作り続ければ、その殆どが漏れてしまっても、この空間から外に出ることは可能です。では王子。」

「なに?」

「王子も、この空間に体力が吸い取られていると思いますが、今、何時間くらいなら連続で走れますか?」

「普段なら丸三日くらいだけど、疲れているから丸一日くらいかな?」

 おいおい、いつもは不眠不休で三日も走れるのかよ?

 この爽やかな表情で疲れているのかよ?

 淡は、一瞬そう思ったが黙っていた。こいつらを地球の常識の枠に当てはめてはいけないことは重々承知だ。

「分かりました。でも、丸一日も電力供給する必要はないと思います。済みませんが、全力で発電を御願いできますか?」

「全力で走ってイイの?」

「はい。」

「ヤッター!」

 タムタム王子は、嬉しそうな顔でルームランナー型発電機の上に飛び乗ると、もの凄い勢いで走り出した。

 これで疲れているとは…。

 余程体力を持て余していたらしい。

 エネルギーメーターが上がっていった。走るスピードは、カンブリア星でアワイ砲を撃った時よりも早い気がする。しかし、メーターは、半分程度までしか上がらない。

 以前は、もっと抑えた走り方でメーターが振り切れていた。それだけ、エネルギーをロスしていると言うことだ。

「エンジン点火。このまま、前方右、二時の方向に見える出口に向かいます。」

 サンムーンがスイッチを入れた。

 宇宙船は、いつもに比べると遅いスピードで、出口と思われる黒い空間に向けて動き出した。

 

 一方、タイシン星では、司令官の一人コバロスが、超高速カメラでロボットに撮影させた淡達の宇宙船内部の映像を見ていた。

 謎の生物(ハンニャ)が中央の一段高い席に、その両隣にアワイと謎の生物(タムタム王子)が配置されている。

「この映像から判断すると、白の星第一皇女アワイは、司令官の隣に座っていると考えられる。問題は、この司令官と思われる奴とロボットを破壊した奴。人間ではない。別種の生物だ。」

 コバロスが、画像のコマ数を数え出した。何コマでタムタム王子が席からロボットまで到達しているかを確認し、スピードを算出するためだ。

「多分、移動と破壊まで合わせて0.01秒にも満たない。とんでもないスピードだな、これは。暗殺者か?」

 まさか、王子が暗殺者呼ばわりされるとは…。

 もし、淡が指令席に、ハンニャとタムタム王子がその両隣に座っていれば、傍目には、ハンニャとタムタム王子は淡を守るために造られた人工生物との見方もできる。

 しかし、ハンニャが司令官だとすると話は変わってくる。ハンニャは、人工生物ではなく別種の知的生命体との考え方が生まれてくる。

 こんな知的生物は見たこともないが…。

 それにもし、ハンニャが人工生物かつ司令官だったとしても、それよりも高位にあろう第一皇女のアワイは、ハンニャの後ろで、より大きな座席に座るはずだろう。普通の感性ならば…。

 もっとも、ハンニャの脇にタムタム王子が座っている時点で、ハンニャ達の感性は普通とは違うのだが…。

 少なくとも、白の星のことを調査する必要があることだけは間違いない。

 もしかしたら、白の星でヤバイのは、アワイではなく他のわけの分からない生物かもしれない。コバロスは、直感的にそう思っていた。

 丁度この時だった。

 淡達の宇宙船に送り込んだロボットに仕込んだミニ大脳からのテレパシー波をタイシン星ではキャッチした。

 その位置が確認され、部下からコバロスに報告が入った。

「アワイの宇宙船が、かみのけ座銀河団に出た模様です。」

「かみのけ座?」

「まだ、詳細は分かりませんが…。」

 また、とんでもなく遠いところにいるらしい。

 そこがアワイの本拠地なのか?

 しかし、すぐにミニ大脳からのテレパシーが途絶えた。

 

 一方、淡を乗せた宇宙船操縦室では、ハンニャが超能力でロボットを破壊したところだった。ミニ大脳は、ロボットと共に潰された。

 宇宙の墓場では、エネルギーが流出する。

 テレパシーもエネルギー波の一つとして宇宙の墓場に吸収され、今まではコバロス達のところにも届かなかったし、ハンニャがキャッチすることもできなかったのだろう。ハンニャの超能力が弱まっていたのと同じだ

 しかし、宇宙の墓場を出て普通にエネルギーが使えるようになると、当然、ハンニャがミニ大脳のテレパシー波をキャッチできる。それで、コバロス達への通信を閉ざすためにハンニャがロボットごとミニ大脳を潰したのだ。

 一方、タムタム王子は、ケロッとした顔でハンニャの隣の席に座っていた。既に宇宙船内では原子力エネルギーの供給システムが発動し、タムタム式発電に頼る必要が無くなったのだ。

 ウルウルが現在位置を確認した。

「かみのけ座超銀河団の中の…、ええと、ここは、かみのけ座銀河団のようです。」

 かみのけ座超銀河団は、かみのけ座銀河団としし座銀河団より構成される。

 恐らく、宇宙の墓場が歪んだ空間になっており、大マゼラン星雲とかみのけ座銀河団の両方に繋がっていたのだろう。

 大マゼラン星雲とかみのけ座銀河団は、途方もなく離れた位置関係にあるが…。

 ただ、幸か不幸か、これでアワイが暮らすとされる白の星は、かみのけ座銀河団に位置するものとタイシン星には勘違いされたようだ。

 現在位置は、銀河系や大マゼラン星雲からは、三億光年も離れたところだ。タイシン星は、白の星探索をするにしても、かみのけ座銀河団に目を向けるかも知れない。

 もしそうなら、白の星、緑の星、赤の星の位置をタイシン星に早急に特定される可能性は低いだろう。

 ハンニャが、ようやくホッとした表情を見せた。

「では、一旦、赤の星に戻ります。その後、宇宙嵐が起きた付近の惑星に無人探査機を送り、タイシン星の戦艦が残っていないか確認しましょう。」

 淡を乗せた宇宙船は、そのまま一気に赤の星まで瞬間移動した。

 赤の星に到着してすぐに、淡は操縦室の便利なドアを使って自分の部屋に戻された。

 そして、淡は、そのままベッドに倒れこんだ。

「ベッドの上って幸せ。」

 無事帰還できた。

 自分の部屋でくつろげる。

 淡は、この平穏な時間が、ただ嬉しかった。

 

 4月になった。

 今日は入学式。

 高校に入学できて嬉しい。一昨年の夏の時点では、白糸台高校への入学なんて、とても考えられなかった。

 入学式は退屈で、正直寝入ってしまうそうだったけど…。

 教室に入った。

 一先ず、名前の順に席が割り振られている。淡の席は廊下側一番端だ。

 教室には女子しかいない。

 男子部と女子部に分かれているのだろうか?

 詳細はともかく、とにかく淡の周りには男子がいない環境だった。

 左隣には、痩身美女が座っていた。淡より全体的に細いし脚が長い。それでいて、胸は以前の淡よりも大きい。

 腕や脚も細いが、病的とか弱々しさとか、そんな雰囲気は微塵にも感じられない。むしろ、引き締まっていて丈夫かつ健康的に見える。

 まるで幼児化した高校生探偵を幼馴染に持つ空手少女のようだ。

 しかも、正直、淡よりも目鼻立ちが整っている。加えて小顔だ。

「(負けた…かも…。ちょっとクヤシイ!)」

『…かも…』ではなく、完全に負けている。

 自称美人の淡も、ちょっとジェラシーを感じた。

 そして、そのさらに隣にも綺麗な女性が座っていた。隣の痩身美女ほどではないが、淡から見て間違いなく美人と思えるほどだ。

 この三人で、白糸台高校美女三人組を名乗ってやろうか。

 ふと、そんな冗談を淡は考えた。口には出さなかったが…。

 隣の痩身美女が淡に話しかけてきた。

「私、チャンピオンのいるここの麻雀部に入りたくて、広島から来たのよ。」

「広島から?」

「ええ。佐々野みかんって言います。よろしく。」

「私は、大星淡。一応、麻雀部に入る予定。よろしく。」

 みかんは、鹿老渡高校三年生で部長の佐々野いちごの妹。淡が、このことを知るのは少し先になるが…。

 みかんの隣の綺麗な子が、淡達の話に加わってきた。

「二人とも麻雀部希望なんだ。私と同じジャン。私は、多治比麻里香。私もチャンピオンの高校に入りたいって思って入学したんだ。よろしく。」

 麻里香は、松庵女学院二年の多治比真祐子の妹。淡がこのことを知るのは、西東京大会決勝戦の時になる。

 どうやら、みかんも麻里香も悪い人間ではなさそうだ。

 

 担任が教室に入ってきた。

 HRは、自己紹介や委員・係り決め、連絡事項だけだった。入学初日は、大凡こんなもんだろう。

 ちなみに、学級委員は、名前の順で一番の生徒と最後の生徒の二名が担任より指名された。生徒同士が殆どのクラスメートの顔を知らないのだから、誰を推薦して良いかなど分からないし、学級委員に立候補する奴も滅多にいない。止むを得ない措置だろう。

 ちなみに淡は保健委員になった。

 

 HRが終わり、淡、みかん、麻里香の三人は麻雀部に顔を出した。

「テルー! スミレ! 今日から正式な部員としてよろしくおねがいしまーす!」

 この淡の第一声に対して、

「おお、大星。来たか。」

 これが菫の反応。

「淡。あとでパンケーキよろしく。」

 これが照の反応。

 既に互いに顔見知りの遣り取りに見える。しかも、相手は白糸台高校麻雀部部長と絶対的エースだ。

「「(えっ? 大星さんって何者?)」」

 これには、みかんも麻里香も驚かされた。

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