淡-Awai- あっちが変   作:おこそとのほもよろを

16 / 23
咲-Saki-17巻94ページの2コマ目を参考にしました。


流れ十六本場:淡、点棒の支配者を特定する

 西東京団体戦で優勝し、インターハイ出場を決めた翌日、淡は毎度の如くハンニャに呼び出されて白の星の第一皇女アワイを演じた。

 今回の行き先は、さんかく座銀河だった。

 あそこは、風の星…つまり娯楽・遊園施設惑星を建設しようとしている空間だ。それでハンニャ達は、さんかく座銀河内での情勢には最近特に目を光らせるようになった。

 まあ、いつものようにハンニャ達の星の科学力で相手をねじ伏せて終わったが…。

 その帰りに一旦、淡は白の星に寄ってプルプルに謝罪した。せっかくダブルリーチ槓裏4をインターハイ準決勝戦まで隠しておくようにとアドバイスされたのに、それを忘れてしまっていのだから…。

 別にプルプルは気にしていない様子だったが…。もっとも、麻里香とのやり取りのことも知っていただろうし。

 ただ、ここで淡は、プルプルから深山幽谷の化身について新たな情報を教えられた。

「実は、深山幽谷の化身は、小学生男子みたいなところがあるようです。」

「小学生男子?」

「はい。たとえば『一回やる?』と聞けば『百回やる』と答えるし、『一局打つ?』と聞けば『百局打つ』とか言うみたいにです。」

「なにそれ? 面白い!」

 淡は、それが妙にツボにはまったようだ。

 それ以降、淡は深山幽谷の化身に倣い、

『高校百年生!』

 を連呼するようになった。

 

 数日後、西東京個人戦が行われた。人口の多い西東京地区では、長野県とは違い全国出場枠は十二名。

 大方の予想通り、優勝は照、準優勝は淡だった。

 三位は多治比真祐子、菫は四位だった。

 みかんと麻里香は、十一位と十二位で、何とか全国出場枠に入れた。

 

 その翌日、寮で淡は、菫に呼び出された。

 この日の淡は、エネルギー満タンで胸がメロン並みに大きかった。ショートスパンで鉄板とメロンを行き来する。

 新月から満月へと変化する月の満ち欠けの期間よりも短い間に、よくこれだけ大きさが変わるものだ。

 しかし、その変化を誰も突っ込まない。

「まあ、そういう体質だからね。」

 で済まされているのが、なんとも不思議なところだ。

 また、この時、淡は髪をまとめてポニーテールにしていた。西東京大会決勝とは、まるで別人に見える。

「大星。ちょっとイイか?」

「はーい。」

 人目を避けるように、二人は菫の部屋に入った。ここなら、大声を出さない限り誰にも聞かれる心配はない。

「で、菫。例の『深山幽谷の化身』と『プラマイゼロにするヤツ』のことだよね。」

「そうだ。まず、『プラマイゼロにするヤツ』だが、とんでもないことが分かった。」

 菫は、可能な限り収集できた各都道府県大会の対戦結果や牌譜の中から咲のデータを取り出して淡に見せた。

「こいつ…宮永咲の個人戦成績を見てくれ。」

「ええと、この三位でギリギリ代表滑り込みの人?」

「ああ。」

「たしか、清澄の大将だった人だよね。」

 淡は、

『こいつは、あくまでも嶺上牌を使うヤツだし…、三位でギリギリだし、そんなにマークするほどのものかな?』

 と思っていた。しかし、咲のスコアを見て菫の言いたいことが分かった。

『こいつヤバイ!』

 本能的に淡の全身が硬直した。

「プラマイゼロ? それも連発?」

「そうだ。弱いヤツと当たる前半戦でプラマイゼロを連発して遊んでやがる。」

 牌譜を見ると、全試合で最後に咲が和了っている。間違いなく点数調整だ。

「なにこれ? それでいて後半戦まで勝ち残った強い人を相手に連続トップ? 弱いヤツ相手じゃ本気で勝ちに行く気にすらなれないってこと?」

「それは分からんが。」

「ちょっと性格悪くない?」

「お前に言われたくはないだろうな。」

「なんでそうなるのよ。」

「お前も本気でやっていない時が多いからな。」

「だって、私は高校百年生だから。」

「それを聞いて、尭深が『淡ちゃんって115歳?』って笑いながら言ってたぞ!」

 高校に100年通ったら、たしかにそうなる。

 それに飛び級で100年生はない。

 淡は反論しようと思ったが、何を言っても菫に論破されてしまいそうだ。分が悪い戦いを避けて、淡は話を戻すことにした。

「で、このサキーだけど。」

「他に何か気付いたか?」

「もしかして、四位とは千点差じゃない?」

「そう。それは、私も気になった。」

「これって自分の卓の外にまで点数調整の力が働くって言うこと?」

「かもしれない…。それと、今思えば団体戦の時もギリギリ数え役満責任払いでまくれるように点数を調整していたとも取れる。」

「何その化物…。それじゃ…まるで、やりたい放題…。」

「そう言うことになるな。多分、こいつで間違いない。こいつが点棒の支配者だ。『プラマイゼロにするヤツ』と『嶺上牌を使うヤツ』は同一人物。照を超える化物は、この宮永咲のことだ。」

「テルーの妹…。」

「多分、それも間違いないだろう。あの照が、ずっと意識していた相手。それが、二年待ってようやく現れた。しかも、団体戦で当たるのは淡、お前だ。」

「うそでしょう…。」

 普通なら、こんな選手が相手になると知ったらビビるだろう。しかし、淡は、

「でも、楽しみが増えた感じだよ!」

 むしろ強敵と渡り合えることに喜びを感じていた。ある意味、淡らしい。

 一先ず、菫も淡も、咲のことについては他言しないことに決めた。

 下手に騒いでも周りを不安にさせるだろうとの判断だ。

「あと、もう一人のほうだが。」

「深山幽谷の化身?」

「ああ。そっちは、済まないが分からなかった。」

「小学生男子みたいなヤツって話だけど?」

「それは初めて聞くが…。」

「言わなかったからね。」

「まあ、知っていたところで特定できるとは思えんが…。」

「でも、一年生で活躍している人って限られてくるでしょ?」

「そうなんだが…。南北海道有珠山高校の真屋由暉子。」

 菫が淡に由暉子の画像とデータを見せた。

「背丈は小学生みたいだけど胸が男子じゃないね。」

「お前みたいに中身が小学生男子みたいな場合もあるけどな。」

「…。」

「まあ、真屋は改造制服とか着て楽しんでいるみたいだから、どちらかと言うと男子っぽくないな。」

「そうなんだ。」

「それから埼玉越谷女子の水村史織。」

「これは、小学生男子と言うよりも、色んな男子と遊んでそう。」

 とんでもない発言だが、菫は、これをスルーした。

「臨海女子の一年は、ともに日本人じゃないから除外。すると、次は長野清澄。片岡優希に原村和。」

「片岡優希は小学生男子っぽいけど…。」

「たしかにそうだが、深山幽谷って感じじゃないな。自称東風の神らしいし、まあ、小学生男子っぽいところはあるようだが…。」

「可能性はあるかもね。対する原村は、小学生男子の要素はゼロだね。」

「フリフリだしな。それと、宮永咲は点棒の支配者だろうから、ここでは除外だな。次は奈良阿知賀女子。新子憧に高鴨穏乃。」

「新子は援交とかしてそう。小学生男子じゃなくて男子で遊んでそう。」

「高鴨は礼儀正しい感じで小学生男子って要素が今のところしないな。」

 菫は、『小学生男子』との形容に、今一つ礼儀を欠いているイメージを持っていた。そのため、穏乃の立ち振る舞いから深山幽谷の化身の対象から勝手に外していた。

 まさか、この穏乃こそが淡の天敵、深山幽谷の化身であるとは、この時、菫も淡も想像もつかなかった。

「ええと、次は?」

「北大阪千里山女子の二条泉だな。これは、ある意味小学生男子なんだが…。」

「インターミドルに出てたよね。大したことない!」

 淡には、和に劣る泉が深山幽谷の化身とは到底思えなかった。

「あとは、兵庫劔谷の森垣友香に安福莉子。」

「どっちも雰囲気が小学生男子じゃない!」

「あとは、鹿児島永水女子の滝見春。」

「巫女じゃん。全然イメージ違う!」

 結局、菫も淡も深山幽谷の化身が誰なのか、見当もつかなかった。

 

 

 週末になった。

「出動です。」

 淡の脳内にハンニャの声が響き渡った。いつものテレパシーだ。

「まだ眠いのに…。」

 しかし、約束は約束だ。

 急いで身支度をすると、淡は寮の部屋のドアを開けた。すると、そこは宇宙船の内部に繋がっていた。

 ドアを通り抜けると、淡の服装が、いつものドレスに変わった。どのような原理なのかは不明だが…。

「またもやタイシン星の宇宙艦隊です。しかも、白の星に向かっています。」

「もしかして、こっちのことがバレたの?」

「そのようです。」

 ハンニャがモニター画面を切り替えると、タイシン星の戦艦が沢山映し出された。

 しかも、先頭を行く宇宙戦艦の甲板の上には、ハンニャ達の仲間…イタタが十字架に貼り付けられ、しかも三本の槍で身体を串刺しにされていた。

 三段重ねのコブに似た角を頭の上に二本生やし、縫い傷のようなホクロが身体に多数ある痛々しい姿をしたヤツだ。

 今回は、本当に痛々しい。

 イタタは全然動かない。さすがに三本の槍で身体を串刺しにされたら、普通は生きていないだろう。

 それに、宇宙服を着ているわけでもない。生身のまま宇宙空間に出されている。

「イタタは優秀な諜報部員ですので、タイシン星に侵入して情報を探ってもらっていたのですが、イタタのテレパシー通信をタイシン星の者達にキャッチされ、居場所がバレて捕獲されたようです。」

「イタタ、死んじゃった…。」

「それは大丈夫です。」

「大丈夫じゃないわよ、あれ。どう見ても死んじゃってるよ。」

「はい、今は死んでいます。しかし、三日もすれば元気に戻ってきます。」

「…はぁ?」

 死人が三日後に元気に戻ると言われても、それは幽霊ではないのか?

 だとしたら、この世に未練があって化けて出るの間違いではないのか?

 淡には、ハンニャの言葉が意味不明だった。

「イタタは、我々の神が定めた寿命の日が来るまで、たとえどんなことが起ころうと、決して死に耐えることは有りません。」

「死んでるじゃない。」

「今は死んでいます。しかし、死に耐えてはいません。生き返ります。それが彼に与えられた不死身の能力ですから。たとえ住んでいる星が爆発してもです。」

「ウソでしょ?」

 さすがに惑星が爆発したら生きてはいられない。それだけの破壊力に耐えられる体など存在し得ないはずである。

「嘘ではありません。彼は寿命の日…確か百年後の2月29日だったと記憶しておりますが、その日が来るまで決して死に果てることはないのです。」

「じゃあ、太陽に突っ込んでも?」

「だから、どんなことがあっても生き返るのです。その優れた生命力を評価して、彼には様々な惑星の文明文化の情報を探る特殊諜報部員として活躍してもらっていたのです。」

「でも、宇宙空間に生身のままでいたら窒息しちゃうんじゃ。」

「窒息もしません。なので、宇宙空間に放り出されても問題ありません。」

「じゃあ…、ええと…。そのイタタって人だけど、くどいようだけど、全身複雑骨折の上に頭蓋骨陥没、内臓破裂に出血多量でも大丈夫なの?」

「それでも彼は死にません。もしかしたら、宇宙が崩壊しても…。」

「…。」

 これには淡も返答しようが無かった。宇宙が崩壊したら生きる場所すらない。

 しかし、それでも生きられる可能性があるというのだ。常識の枠を余りにもはみ出し過ぎている。

「例えば…、カンブリア星との戦いで苦しめられたコンピューターウイルスは、三種のウイルスの混合型でしたが、その三つのうちの一つの情報をアルカリ星で取ってきたのが彼です。その星で運悪く、彼は、クマに似た巨大捕食生物に食い殺されました。」

「食い殺されたってことは、死んじゃったんじゃないの?」

「いいえ、彼は殺されても死にません。排泄物の中から見事に再生しましたから。だから、あそこにいるでしょう。それくらい並外れた生命力なのです。」

「…。」

 やはり、ハンニャ達には常識が通用しないようである。食い殺されても生き返るなんて完全に反則技である。

 ただ、排泄物から生き返るなんて…。

 そんな人生は送りたくないと、淡は思った。

 

 淡達を乗せた宇宙船が瞬間移動して、イタタを甲板の上に乗せた宇宙戦艦の前に姿を現した。

 宇宙船には、第一皇女と化したアワイ、ハンニャ、サンムーン、ウルウル、タムタム王子と、いつものメンバーが乗り込んでいた。

 ウルウルが通信チャンネルを開き、強制的にタイシン星宇宙戦艦の通信回路と繋いだ。

 タイシン星宇宙戦艦操縦室のモニターに淡の姿が映し出された。

「私は、白の星の第一皇女アワイ。」

 すると、

「嘘は止めていただきたい。甲板に串刺しにされた者から既に我々は思考を読み取り、全てを知っている。」

 タイシン星の司令官コバロスが、そう言いながら淡達の宇宙船操縦室の巨大モニターに姿を現した。

 コバロスの言葉に偽りのないことを、ハンニャは超能力で感じ取った。

「どうやら本当のようですね。なら正直に話しましょう。私が、この宇宙船の司令官ハンニャ。」

「やはりそうか。以前、その宇宙船に送り込んだロボットから送られてきた映像を見てそう感じていたがな。アワイは単なる飾り。お前達が白の星の真の住民だな。」

「そうです。」

「俺は、見た目で判断はしない。むしろ、お前たち白の星の住人に敬服している。しかし、ここでは敵同士。ならば、先ずは、一番厄介なお前から始末するとしよう。」

 コバロスが手元のボタンを押すと、イタタを張り付けにしている宇宙戦艦から先端がドリルになったミサイルが一発撃ち放たれた。

 そのミサイルは、物凄い勢いで、一直線に淡達の宇宙船操縦室に向かって突き進んで行った。

 サンムーンが慌ててバリヤーのボタンを押したが、どう言うわけかバリヤーが作動しなかった。勿論、充電不足と言うことは無い。

「くそっ、どう言うことだ…。」

「向こうはミニ大脳の超能力を使っています。超能力者の細胞から作り出した大量のミニ大脳に超能力を一斉放出させて、こっちのバリヤーの回路を動かなくしています。」

「まさか、そんなことが…。それでは、やむを得ませんね。ハンニャ、頼みます。」

「はい…。ハンニャー!」

 ハンニャの毛先の球が煌々と輝き、凄まじい超能力エネルギーがミサイルに向けて放たれた。ミサイルの軌道を変えるつもりなのだ。

 しかし、ハンニャの強烈な超能力を受けても、そのミサイルは軌道をずらすことなく、そのまま操縦室目掛けて突っ込んできた。

「サンムーン。これは、超能力を跳ね返す特殊なシールドが施されています。」

 これも、超能力者が出てくるSFでは、良くある話だ。こういったものが無いと、超能力者が無敵になってしまうためだろう。

 そのミサイルは、そのまま淡達の宇宙船の操縦室天井に突き刺さり、先端のドリルで穴を開け始めた。

 十数秒後、操縦室内に天井からドリルの歯が顔を出した。そして、ドリルの歯がまるでパラボナアンテナのように開いた。

「なにこれ?」

 淡がそう言ったのも束の間、パラボナアンテナのようなものの中央部から巨大なマジックハンドのようなものが、もの凄い勢いでハンニャに向かって伸びてきた。

 そして、ハンニャを捕まえると、そのマジックハンドは、すぐさまミサイル内部に収納された。

 パラボナアンテナのように開いたドリルの歯の部分を切り離し、ミサイルがタイシン星宇宙艦隊に向かって戻って行った。

 いや、ミサイルの片割れと言ったほうが良いか?

 中にはハンニャが収容されている。連れ去られた。

「そのミサイルの残された部分は、爆弾になっている。もう、逃げられまい!」

 コバロスは、そう言うと通信を切った。

「時限装置が組み込まれているのでしょう。急いで操縦室から逃げなければ!」

 サンムーンが、慌てて操縦室後方のドアを開いた。淡がいつも通ってくるドアだ。

 ドアを開けた先は、緑の星の地下都市に繋がっていた。まさか、こんな逃げ道があるとはコバロスも想定していなかっただろう。

 淡達は、サンムーンに連れられて一先ず緑の星に避難した。

 それから数秒後、宇宙船は大爆発を起こした。間一髪のところだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告