それから半年が過ぎた。
この日、清澄高校では、
「やったじぇい。私もノドちゃんも合格だじぇい!」
と喜ぶ二人組みや、
「京ちゃん。合格おめでとう。」
「咲もな。」
と会話する男女がいた。
この男女のうち、女性のほうは、今は麻雀をやめているが、後に淡と頂上決戦を繰り広げることになるライバルになる。いや、点棒の支配者、化物2号と言うべきか。
一方、阿知賀女子学院では、
「合格楽勝!」
とほざいている偏差値70超の子がいたりした。
その隣には、
「これで、二人で和の前に立てるね!」
と意気込んでいる子がいた。この子も、後に淡と戦うことになるライバルになる。淡のもっとも苦手な相手…深山幽谷の化身として…。
そして、今日は白糸台高校の合格発表の日でもあった。
「(結果をきちんと受け入れなきゃ、先に進めないもんね。)」
淡は、意を決して一人で合格発表を見にきた。
周りには、受かったっぽい子もいれば、落ちたっぽい子もいる。当然の話だが…。
順に番号を見て行く。
受験番号は8028。語呂合わせで『ハンニャ』と覚えていた。
「(8017、8021、8024…。)」
番号が飛び飛びだ。それはそうだ。落ちている人もいるのだから。そして、
「(8025、8027、8028!)」
淡は自分の番号を見つけた。
何回も見直す。
「(合格者番号だよね。不合格者番号じゃないよね。)」
そんな番号は提示しない。しかし、淡は、念のため掲示板に「合格者番号」と書かれているのを確認した。
淡の表情が和らいだ。嬉しくて涙が出そうだ。
「(ハンニャ。ありがとう!)」
淡は、即行で麻雀部に顔を出すことにした。
淡がドアをノックした。
そこは、白糸台高校麻雀部の監督、貝瀬麗香の居室。淡がドアを開くと、中には麗香と部長の弘世菫の姿があった。
二人で、部のことについて打ち合わせをしていたようだ。
「合格の報告に来ました。4月からは、正式な部員としてよろしく御願いします。」
「おめでとう。期待してるわよ。」
「それで監督。実は、入部の前に話しておかなくてはならないことがありまして…。」
「何かしら?」
「私の能力に関係することです。」
淡は、一応、麗香、菫、照の三人には能力のことを話しておくべきとハンニャに言われていた。
「絶対安全圏にダブルリーチ、槓裏4。非常に頼もしい力だと思うけど。」
「実は、この能力は、ある人(?)から頂いたものなんですけど…。」
「えっ? 能力ってもらえるの?」
「まあ、たまたま、その機会に恵まれたって言うか…。」
「紹介して欲しいくらいだわ。」
麗香の目は本気だった。能力がもらえるなら、当然自分も欲しい。できれば天和が自在に出せる能力だと嬉しい。
「まあ、代わりに相手方の要求を満たす必要がありますけど…。」
「タダじゃないってことね。」
「はい。それで、その交換条件に、週一回くらいですが、その人の仕事を手伝うことになっています。」
「週一くらいなら別に問題ないんじゃないの?」
「でも、その話が何時来るか分からないんです。平日の時もあります。ですので、どうしても部活に出られない日ができてしまいます。」
「それは困るわね。でも、まずは詳しいことを教えてくれないかしら。」
「はい…。正直なところ、突飛過ぎて信じてもらえないかもしれませんが…。」
淡は、一昨年の夏に宇宙に飛ばされたこと、そこで宇宙戦争を体験したこと、そして、ハンニャに能力を授けられた代わりに彼らの仕事を手伝うことを話した。
正直、麗香と菫の視線が痛い。
こんな話、誰が信じてくれるのだろうかと淡だって思っている。それでも、今は理解してもらわなければならない。
淡の表情は、至って真面目であった。それを菫は感じ取った。
「ちょっと監督。紙とペンをいいですか?」
「ええ、どうぞ。」
菫がメモ用紙に何やら絵を描いた。それは、まるで子供の落書きの様でもあったが…。
その絵を見て淡は驚いた。
それは、巨大な卵に顔を描いて、指サックのような手を生やし、半球のような足を卵の下につけた感じの絵だった。
少しイビツな絵だが、ハンニャの特徴を捉えていた。
この驚き方を見て、菫は淡が嘘をついていないことを確信した。
「ど…どうして? ねえ、スミレ。どうしてハンニャのことを知ってるの?」
「ハンニャと言うのか。」
「そうだけど。」
「こいつに能力をもらった。違うか?」
「そうだけど…。でも、どうしてハンニャのことを知ってるの?」
「照が照魔鏡で見たそうだ。」
「照魔鏡?」
「ああ。照は、見ただけで相手の本質を知る能力を備えている。」
「そう…なんだ…。」
それはそれで便利だな。淡はそう思った。
「初めて淡に会った時、照が淡を引き止めたけど、あの時、淡の背後に、このぬいぐるみみたいな姿をしたものが見えたそうだ。一瞬引いたらしいが…。」
「(ですよね~。)」
「それと、この者からとてつもない強力なエネルギーが放たれていることも…。勿論、淡の能力もな。」
「じゃあ、信じてもらえるの?」
「普通は信じられないが、信じるしかなさそうだな。」
「あと、絶対に他言しないで。テルには話すけど。」
「他言できるはずないだろう。誰が信じるか、こんなこと。」
「でも、信じてくれるんでしょ?」
「照がハンニャとやらを鏡で見ているからな。それにしても、宇宙に行くのか。私も一度でいいから行ってみたいな。」
「じゃあ、今度ハンニャに聞いてみる。」
「頼む。しかし、宇宙戦争に巻き込まれるのが代償とするなら、能力をもらえるとしても私はパスするかもな。」
この菫の言葉に、
「そうね。私もパスだわ。」
麗香も同意した。いくら麻雀が強くなっても、そう度々、命の危険に晒されるのなら遠慮したいところだ。
「では、家に戻って母に合格を報告しますので、今日はこれで失礼します。」
淡は、麗香と菫に一礼すると、監督室を出て行った。
4月になった。
今日は入学式。
入学式を終え、淡が教室に入ると、名前の順に席が割り振られていた。淡の席は廊下側一番端だ。
教室には女子しかいない。
男子部と女子部に分かれているのだろうか?
詳細はともかく、とにかく淡の周りには男子がいない環境だった。
左隣には、痩身美女が座っていた。淡より全体的に細いし脚が長い。それでいて、胸は以前の淡よりも大きい。
腕や脚も細いが、病的とか弱々しさとか、そんな雰囲気は微塵にも感じられない。むしろ、引き締まっていて丈夫かつ健康的に見える。
まるで幼児化した高校生探偵を幼馴染に持つ空手少女のようだ。
しかも、正直、淡よりも目鼻立ちが整っている。加えて小顔だ。
「(負けた…かも…。ちょっとクヤシイ!)」
『…かも…』ではなく、完全に負けている。
自称美人の淡も、ちょっとジェラシーを感じた。
そして、そのさらに隣にも綺麗な女性が座っていた。隣の痩身美女ほどではないが、淡から見て間違いなく美人と思えるほどだ。
この三人で、白糸台高校美女三人組を名乗ってやろうか。
ふと、そんな冗談を淡は考えた。口には出さなかったが…。
隣の痩身美女が淡に話しかけてきた。
「私、チャンピオンのいるここの麻雀部に入りたくて、広島から来たのよ。」
「広島から?」
「ええ。佐々野みかんって言います。よろしく。」
「私は、大星淡。一応、麻雀部に入る予定。よろしく。」
みかんは、鹿老渡高校三年生で部長の佐々野いちごの妹。淡が、このことを知るのは少し先になるが…。
みかんの隣の綺麗な子が、淡達の話に加わってきた。
「二人とも麻雀部希望なんだ。私と同じジャン。私は、多治比麻里香。私もチャンピオンの高校に入りたいって思って入学したんだ。よろしく。」
麻里香は、松庵女学院二年の多治比真祐子の妹。淡がこのことを知るのは、西東京大会決勝戦の時になる。
どうやら、みかんも麻里香も悪い人間ではなさそうだ。
HRが終わり、淡、みかん、麻里香の三人は麻雀部に顔を出した。
「テルー! スミレ! 今日から正式な部員としてよろしくおねがいしまーす!」
この淡の第一声に対して、
「おお、大星。来たか。」
これが菫の反応。
「淡。あとでパンケーキよろしく。」
これが照の反応。
既に互いに顔見知りの遣り取りに見える。しかも、相手は白糸台高校麻雀部部長と絶対的エースだ。
「「(えっ? 大星さんって何者?)」」
これには、みかんも麻里香も驚かされた。
入部初日に、いきなり新入部員同士の対局が行われることになった。
この入学式の日に、そうそうに麻雀部に顔を出した新一年生は十数人。この対局で、彼女達新入部員のランク付けがされる。
しかし、一番の目的は、照が各対局を見ながら誰がどのような特性を持ち、どのチームに所属するのが適しているのかを判断することだった。
一先ず、淡達は学食で、急いで昼食を済ませた。
早食いの人達の中は、
『カレーは飲み物!』
と言う輩もいるが、淡にも何となく分かる気がした。たしかに、熱くさえなければ詰め込みやすい。
部室に戻ると淡達は、菫から、
「全力でやるように。大星。お前も例外ではない。」
と言われた。つまり、能力をフルに発揮しろと言うことだ。
早速、対局開始だ。
ルールは25000点持ち30000点返しでオカは無し。
赤牌4枚入りでダブル役満は無し。
大明槓からの嶺上開花は責任払い。
基本的にインターハイ西東京予選個人戦と基本的に同じルールだ。
淡は、初っ端からクラスメートである佐々野いちご妹のみかんと多治比真祐子妹の麻里香を相手にすることになった。
二人とも、普通の高校なら新一年生の中では美貌だけではなく麻雀の腕もトップレベルだろう。エース級の器だ。
もう一人の面子は、多分、本話限りの登場人物になるであろう只野絵美。淡達の隣のクラスの生徒だ。
半荘一回勝負。
場決めがされ、起家が淡、南家が麻里香、西家がみかん、北家が絵美になった。
東一局、淡の親。
サイの目は5。最後の角が割りと浅い位置にあるパターン。
「(絶対安全圏プラスダブリー発動!)」
淡の能力によって、淡以外は全員五~六向聴。
この最悪な状態の中、
「リーチ!」
淡がダブルリーチをかけてきた。
唖然とするみかん、麻里香、絵美の三人。
しかし、三人ともツモは悪くない。きちんと手が進んでゆくし、最後の角が来る少し手前で聴牌した。すると、
「カン!」
淡が暗槓した。リーチ者の暗槓は余り嬉しくない。
嶺上牌はツモ切り。
そして、最後の角を超えた直後に、
「(満貫聴牌だもん。仕方ないよね。)」
絵美がツモ切りした牌で、
「ロン。」
淡が和了った。
何故か逆回転で牌を倒した。
ハンニャからは深い意味は無いと言われているが、みかんや麻里香から見れば、これに何か意味があるように感じられた。
淡の手はダブルリーチのみ。これを見て絵美はホッと胸をなでおろした。
しかし、裏ドラをめくった直後、絵美の表情が固まった。
「ダブリー槓裏4。18000。」
まさかの親ハネ振り込みだ。これで、絵美の点棒が一気に7000点まで減った。
そして、東一局一本場、淡の連荘。
サイの目は7で、最後の角の後が最も長いパターンだ。
ここでも、
「リーチ!」
淡がダブルリーチをかけてきた。
前局と同様に、みかん、麻里香、絵美の三人は五~六向聴。しかし、配牌とツモが割りと巧く噛み合って手は進んで行く。
それが結果的に、後半になって危険牌を勝負させる罠になっているのだが…。
8順目で三人とも聴牌した。
次巡、最後の角の直前で、
「カン!」
前局同様に淡が暗槓した。
全てが前局と似通い過ぎている。
みかんと麻里香は、淡のダブルリーチが偶然ではなく能力によって意図的に繰り出されている可能性を考えた。二人とも麻雀強豪校に通う姉から、能力麻雀のことを聞かされていたためだ。
もし、そうだとすると、当然、前局と同じ槓裏4の可能性も視野に入れておかなければならない。つまり、親ハネ。
みかんと麻里香は、聴牌を崩して完全な安牌を切って様子を見た。
一方、絵美は能力麻雀など知らなかった。普通、そんなものは考えない。
彼女は、角を超えた直後、聴牌維持のためにツモ切りした。自分の手もタンピンドラ2と勝負したい手だ。
しかし、この牌を淡は見逃さなかった。
「ロン。18000。」
またもや逆回転。しかも、裏ドラを見ずに点数申告した。
手牌はダブルリーチのみ。しかし、裏ドラをめくると、前局と同様に槓裏4だった。
これで絵美のトビで終了した。
同時に、
「「(確定ね。)」」
みかんと麻里香は、淡が絶対安全圏、ダブルリーチ、槓裏4の恐るべき能力を持つ者であることを確信した。
そして、同時に二人は、チャンピオン宮永照の卒業後も大星淡と言う絶対的な柱となる人物がいてくれる心強さを感じていた。
普通、こんなチートな力を持つ者が負けるとは思えない。
全中王者の原村和だって、淡には到底敵わないだろう。
この時点では、淡をも打ち破る化物が全国に二人もいるなどとは、さすがにみかんも麻里香も、この時点では想像すらできなかった。
ただ、逆回転に関してだけは、二人とも能力発動条件の一部と誤認識した。
「淡ちゃん、すごい!」
これが、みかんの純粋な感想。
「次期エース間違い無しだね!」
これが麻里香の対局後の第一声だった。
一方の絵美には、この段階では、淡が単にツイていた程度にしか思えなかった。
『みかんと麻里香の反応こそおかしい。淡を過大評価し過ぎている。』
としか思えなかった。
まあ、それが普通の反応だろう。
その後、面子を入れ替えて新入部員同士の対局が進められた。
当然、毎回、絶対安全圏プラスダブルリーチ槓裏4を繰り出した淡が、トータルでダントツトップ。
もはや、これは偶然ではなく必然。
さすがに、絵美もそう考えざるを得なくなった。
そして、その攻撃力から、淡が攻撃特化のチーム虎姫に入ることに誰も異論を唱えることはなかった。
部活の最後に、
「部内の対局のことは、絶対に他言しないように!」
と菫が全員に命じた。
白糸台高校は、夏春夏の団体戦三連覇を目指している。だからこそ、能力のことが大会前にバレては意味がない。
特に淡の能力は三連覇に向けて貴重な戦力だ。
だからこその戒厳令でもあった。
翌日、麻雀部には、さらに多くの新入生が押し寄せた。団体戦夏春二連覇の看板はダテではない。
それに、高校生一万人の頂点宮永照やクールな弘世菫への単なる憧れから、ろくに麻雀を知らずに麻雀部への入部を希望する者も多かった。
今日も淡は、新入生と対局をさせられた。淡からすれば、みんな激弱で、今日の対局には正直面白さが感じられなかった。
昨日とは違い、今日はダブルリーチを封印した。それでも淡に敵う新入生は一人もいなかった。
絶対安全圏のみでの戦いなら、みかんと麻里香だけは善戦してくれる。最終的に勝つのは淡だが…。
これが、西東京大会で一回戦負けする弱小校なら、別に激弱でも構わない。しかし、全国優勝を目指す白糸台高校で麻雀部に入部するなら、せめて、みかんや麻里香くらいの実力はあって欲しい。
淡は、そう思うようになっていた。
そのせいか、淡は、入部二日目にして既に、みかんと麻里香以外の一年生とは距離を置くようになった。
翌日、HRでの担任の第一声は、
「今日は、新入生の校内一斉テストを行います。」
だった。
範囲は中学三年生までの全て。つまり、入試と同じだ。
いざテスト問題を見ると、
「(あれ?)」
今まで受けてきたテストよりも難しい。入試を終えて、勉強をサボっていた部分はあるが、半分も解けない。
「(うわぁ。撃沈…。)」
淡が机に突っ伏した。
「淡ちゃん、どうだった?」
みかんが話しかけてきた。
「半分もできなかった。最悪。」
「私も…。なんか、とても難しかったよね。」
周りの反応も大半は似たようなものだった。
しかし、中には済ました顔で平然としている輩もいた。このクソ難しいテストが、きちんと解けているとでも言うのか?
この日の部活で淡は荒れた。
今日と明日は、一年生と二年生の対局になる。
絶対安全圏は常に発動。ダブルリーチは親の時だけに限定。それでいて、淡は全局全員トバしの偉業を達成した。
入部から一週間後、チーム分けが発表された。
淡は、照、菫、尭深、誠子とともにチーム虎姫に選ばれた。攻撃特化型のチームだ。
みかんと麻里香は、一先ず攻守のバランスが取れたチームのメンバーとなったが…、照と菫の引退後には、二人ともチーム虎姫に入ることになる。