『宇宙…』
それは、どこまでも続く果てしない空間。そして、宇宙の旅に憧れの念を抱く人も多くいることだろう。
「光あれ!」
全ては、この神の言葉から始まった。
今から百三十七億年もの昔、極小の点からビッグバン宇宙が誕生した。そして、この火の玉は、そのまま膨張を続けて行き、今のような宇宙へと進化していった。
淡は、宇宙で働く教育とか訓練とかを特別受けたわけではなかった。
しかし、そんな淡が、何故か地球から宇宙に飛び出し、宇宙の平和のために働くことになった。絶対安全圏とダブルリーチの能力、それと、大きさ可変の胸を与えられた引き換え条件として…。
淡は、トモティ軍との戦いの後も、ハンニャ達に毎月、二~三度は呼び出されて、白いドレスに身を包み、白の星の第一皇女と称して、宇宙の荒くれ者達に戦いをやめるよう促した。
しかし、淡の言葉に耳を傾ける者は殆ど居なかった。大抵の場合、ハンニャ達の宇宙船で相手を撃破する展開となった。トモティの時と同じだ。
それでも、淡の言葉に耳を傾け、戦いをやめるケースが少しでもあれば良い。それがハンニャ達の考えのようだ。
はじめての宇宙戦争経験から1年が経った。
今、淡は中学3年生。
そう言えば、一昨日、淡はニーナと麻雀を打った。ニーナには、去年、能力を得て一週間くらいしたところで能力を披露した。
ニーナからは、
『淡ちゃん羨ましい。ダブルリーチの槓裏4って、何も考えなくて済むじゃん!』
と、言われた。
もっとも、その後も麻雀を打つ度に、淡はニーナに毎回同じことを言われるのだが…。
今日もカンブリア星の軍隊と戦った。司令官の名前は忘れたが、やはりトモティと同じで妖精のような姿をしていた。
ただ、カンブリア星との遭遇確率が高い気がする。四回に一回はカンブリア星の軍隊と戦っている。
今日は、もう戦いを終え、これから緑の星へと帰還するところだった。
「それにしても、もう淡さんと出会ってから1年が経つのですね。今日もお疲れ様でした。いつものように、このドアを淡さんの部屋に繋げてあります。」
「ありがとう。じゃあ、私は家に戻るね。」
淡がハンニャに言われたドアを開けると、その向こうは、たしかに淡の部屋になっていた。空間と空間を繋ぐ便利なドアだ。
「バイバーイ。」
そして、淡はドアを通り抜けると、ハンニャ達に手を振りながらドアを閉めた。
「結構疲れた。」
淡は、そのままベッドに倒れこんだ。
気が付くと、もう朝になっていた。今日は月曜日。試験休みが終わり、今日からテストが返される。
「えっ? もうこんな時間? マズイじゃん、私。」
淡は、ベッドから飛び起きると、急いでシャワーを浴びた。昨日、あのまま寝てしまったので、汗でベトベトだ。
その後、超特急で朝食をとり(詰め込み)、身支度をして家を飛び出した。
「いってきまーす!」
今日戻ってくるテストは英語と数学と理科。
数学と理科は、今では拒否反応は一切ない。むしろ、1年前のあの日以来、どちらも得意課目に変わっていた。
英語も、まあ、普通以上の点数は取れている。多分問題ないだろう。
返却されたテストの点数は、いずれも想定範囲内だった。悪くない。
でも、そろそろ受ける高校を決めないといけない。
どこにしようか?
一先ず、偏差値が合いそうで通い易い範囲の学校を適当に選ぼう。なら、急いで家に帰って、ネット検索でもしよう。
淡は、そんなことを考えていた。
その日、淡は、駅に向かう途中で人だかりが出来ているのを見つけた。その中央には、二人の女性がいた。
一人は、ミディアムのヘアスタイルで、側頭部の髪がハネていた。一見、明るい雰囲気をまとっているように見えるが、何となく営業スマイルのように見える。
もう一人は、長身でストレートロングヘア。クールな雰囲気だった。
多くの人達が、営業スマイルっぽく見える女性…営業子ちゃんにサインをねだったり握手を求めたりしていた。
淡が、その横を通り過ぎようとしたその時だった。
「ちょっと、そこの長い髪の子。待って。」
営業子ちゃんが淡に話かけてきた。
「私ですか?」
「そう。ちょっとスミマセン。通してください。」
そして、人だかりを抜け出してきた。
「私になんの用でしょう?」
「麻雀の力を見たい。ちょっと、私達の高校まで付き合ってくれないかな。」
営業子ちゃんも、もう一人のクールな雰囲気の女性…クール子ちゃんも、そんなアホそうな感じには見えない。
淡は、
「(まあ、どんな高校か覗いてみようか。)」
そんな軽い感じで、
「いいですよ。」
と答えた。
「私は宮永照。それと、この連れの女性が弘世菫。二人とも、白糸台高校麻雀部に所属している。高校2年生。」
「(営業子ちゃんが宮永照に、クール子ちゃんが弘世菫ね。)」
この時、淡は、照も菫も、麻雀の力量は自分よりも当然格下だろうと勝手に高をくくっていた。その片方が、この夏にインターハイチャンピオンになる女子高生で、自分が敵わない化物一号であるとも知らずに…。
「私は大星淡と言います。南日ヶ窪中学の3年生です。でも、スカウトですか~?」
そう言いながら、淡は不敵の笑みを浮かべていた。しかし、
「まあ、スカウトと言えば、そうなるかな。結構強いと思うし。」
照にこう言われて、淡は、内心少々ムカついた。
「(結構強いではなくて、かなり強いの間違いなんだけどね。)」
こうなったら、本気を出して思い切り負かしてやる。
淡はそう思っていた。
白糸台高校は、さっきの場所から結構近いところにあった。家から通い易い範囲だ。
淡は、そこの麻雀部の部室に通された。
「じゃあ、大星さん。卓について。」
「はい。」
「それと、入るのは、私と菫と…、あと、スミマセン。宇野沢先輩。入っていただけますか?」
宇野沢栞は、照の一年先輩で、鳴きの麻雀を得意とする。
「イイけど、その子は?」
「有望そうな中学生です。」
「照魔鏡で見たのね。じゃあ、お手並み拝見と行こうかしら。」
この会話を聞きながら、当然、淡は、
「(有望なのは間違いないけど、お手並み拝見するのは、むしろこっちだって。高校生相手だって負けないんだから。)」
と思っていた。
あれだけの能力を持っていたら、誰だってそうなるだろう。
場決めがされた。
起家は淡、南家は菫、西家は栞、北家は照になった。
東一局、淡の親。
毎度の如く、配牌は淡が二向聴、他家が軒並み五~六向聴だった。
淡は、鳴いてさっさと手を進めようと思っていた。しかし、肝心の上家である照が、甘い牌を切らない。
他の二人も、欲しい字牌を切ってくれない。これでは、絶対安全圏が終わるまでに和了れない。
そうこうしているうちに6巡目に入った。
「(どう言うこと?)」
そして、淡が切った{北}を、
「ポン。」
照が鳴いた。そして、打{8}。
これを待ってましたとばかりに淡が鳴いた。
「チー!」
そして、捨てた{1}で、
「ロン。1000点。」
照に和了られた。
普段なら、照は東一局を捨てて様子を見る。しかし、既に照は、淡が通り過ぎた時に、照魔鏡で淡のことを見ていた。
菫のことも栞のことも、今更照魔鏡で見る必要はない。よって、今回は、東一局を捨てる必要がなかった。
東二局、菫の親。
ここでも、淡は絶対安全圏を発動した。
配牌は、今回も淡が二向聴、他家が軒並み五~六向聴。しかし、今回も淡は、5巡目までに手を進めさせてもらえなかった。
6巡目のツモで、淡は一向聴。そして、次の絶好のツモで聴牌した。
しかし、ここで捨てた{三}で、
「ロン。2600。」
またもや、照に振り込んだ。
東三局、栞の親。
当然、淡は絶対安全圏を発動。
配牌は、淡が一向聴、他家が軒並み五~六向聴。
しかし、この局も、
「ロン。3900。」
淡が照に振り込んだ。三連続だ。
そして、東四局、照の親番。
淡は、今回も絶対安全圏を発動し、照は五向聴だったが、最短の5巡目ツモで手を仕上げている。そして、6巡目、
「ツモ。3900オール。」
出和了りで7700点の手だった。これをツモ和了りし、3900オールになったのだ。
淡は、いよいよ本気を出すことにした。
「(もう、やっちゃっても、イイよね。)」
東四局一本場、照の連荘。サイの目は6。
ここで、とうとう淡は、
「リーチ!」
ダブルリーチをかけた。サイの目が7の時の次に、最後の角の後のツモ牌が多い。
淡は、角の直前で、
「カン!」
暗槓した。そして、次巡のツモ番で、
「ツモ。ダブリーツモ、カン裏4。3100、6100。」
これには、菫も栞も驚きの表情を隠せないでいた。しかし、照だけは平然とした顔をしていた。まるで、最初から分かっていたような、そんな雰囲気を淡は感じ取った。
「(なんだか、舐められている感じがする。)」
淡は、徹底的にダブルリーチ槓裏4で攻めることにした。
南入した。
南一局は淡の親番。
当然、淡は、
「(絶対安全圏発動プラス…。)」
能力を最大放出した。
淡は配牌聴牌。他家が五~六向聴。
「リーチ!」
この状態から、淡がダブルリーチをかけた。
しかし、照は表情を変えずに手を進め、6巡目で、
「ツモ。500、1000。」
軽く淡の親を流した。
南二局、菫の親。
ここでも淡は、
「(絶対安全圏発動プラス…。)」
本気で行った。
当然、淡は配牌聴牌で、他家が五~六向聴。絶対的なアドバンテージのはず。
「リーチ!」
もう決めたことだ。淡は、三連続のダブルリーチ。菫も栞も、これが偶然ではなく能力であることを受け入れた。
もうすぐ角が来る。暗槓する場所だ。
しかし、暗槓する前の巡で、
「ツモ。1000、2000。」
照がツモ和了りした。
南三局、栞の親。
勿論、淡は、
「リーチ!」
絶対安全圏プラスダブルリーチで攻めた。しかし、この局も、
「ツモ。2000、3900。」
暗槓する前に照にツモ和了りされた。
この段階での点数と順位は、
暫定1位:照 55000
暫定2位:淡 18900
暫定3位:菫 13500
暫定4位:栞 12600
照の圧倒的リード。
そして、オーラス。照の親。
淡は、ここで五度目のダブルリーチをかけた。
この局のサイの目は9。暗槓する位置が、非常に深い場所になっている。
結局、この局では、暗槓する前に淡が捨てた牌で、
「ロン。12000。」
照が和了った。
これで点数と順位は、
1位:照 68000
2位:菫 13500
3位:栞 12600
4位:淡 5900
照の圧勝で終わる…はずだった。
しかし、
「一本場!」
照が和了りやめではなく、連荘を宣言した。
「(うそでしょう? もしかして、私の攻撃力じゃ、この点差をひっくり返せないって分かっていての連荘?)」
もし、淡が役満を照から直取りすれば逆転できる。しかし、淡には絶対安全圏とダブルリーチ槓裏4しかない。能力で役満を和了れない。
それでも淡は、この局、ダブルリーチをかけずに、四暗刻狙いで手を回した。しかし、6巡目で、
「ツモ。6100オール。」
照がツモ和了りした。これで、淡のトビ終了。
淡は、この敗北が納得できなかった。当然、
「もう一回御願いします。」
二半荘目を要求した。
しかし、淡に照を倒すことはできなかった。そして、気が付くと、淡は既に六半荘を打ち終えていた。あの凶悪な能力を持っているのに一回も勝てず…。
ショックではあったが、同時に目標が出来た。
「ええと、テルー…でイイんだよね。」
「えっ、あっ、うん。」
「私、この高校を受ける!」
「ありがとう。貴女が入ってくれると、私達も嬉しい。」
「そう言われても、全然、私じゃ勝てなかったし…。」
すると、栞が、
「宮永さんは、特別よ。去年のインターハイは、宮永さんのお陰で団体戦優勝。今年も団体戦の優勝候補になっているし、宮永さん自身は、個人戦の優勝候補ナンバーワンよ。」
と淡に説明した。つまり、とんでもない化物だと言うことを…。
「そうなんだ…。でも、いつか絶対、テルーに勝ってみせる! 私に勝つ人なんて、そう滅多にはいないし、だったら、その人を目標にするのもイイと思ったから…。」
「でも、一応、うちの高校、偏差値63あるけど、大丈夫?」
「多分…。」
ギリギリだ。
今度、ハンニャ達に会った時に、一応合格できるように相談…と言うかお願いしよう。どうしても白糸台高校に入りたいって…。