淡-Awai- あっちが変   作:おこそとのほもよろを

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流れ七本場:淡、ブラックホールに吸い込まれかける

 妖精のような姿をしたカンブリア星人兵士が、空を飛び、淡達の宇宙船にレーザー銃で攻撃してきた。

 サンムーンは、宇宙船のレーザー砲で、容赦なく向かってくるカンブリア星人達を攻撃した。

 ただ、レーザー砲を受けたカンブリア星人は、怪我をするだけにとどまらず、何故か爆発した。

「生命体のはずなのに、なんで?」

 すると、この淡の疑問にサンムーンが答えてくれた。

「カンブリア星は、度重なる宇宙侵攻で多くの戦士を失い、それを補充するために自分達を象ったアンドロイドの大量生産を行っています。」

「じゃあ、今、戦っているのは…。」

「全部アンドロイドです。白の星の諜報部員からの報告ですと、カンブリア星人は、もはや何百人も居ないようです。それと、エディアカラの居城を落さなくてはならないのにも理由があります。エディアカラの居城は、宇宙船になっていて、万が一、この星に住めなくなっても宇宙に逃げ延びることが出来るからなんです。」

 サンムーンが、カバーで覆われているスイッチを押した。

 すると、宇宙船最前部からパラボナアンテナのようなものが二つ出てきた。

「一気にケリをつけます。アワイ砲、発射準備。王子、エネルギー供給を。」

「OK!」

 アワイ砲…。これは、淡にとって初めて聞く言葉だ。

「アワイ砲?」

「我々の最新兵器です。大星さんの名前を付けさせてもらいました。」

 自分の名前が付けられた兵器。相手が兵器なので、少々複雑な心境だが、淡は、それがどのようなものなのか、正直興味が湧いてきた。

 一方、タムタム王子は、珍しく気の入った顔をしながらルームランナー型発電機の上を猛スピードで走り始めた。

 サンムーンがスイッチを切り換えた。

 アワイ砲のエネルギーメーターが徐々に上がって行った。

 エディアカラの居城から、レーザー砲が撃ち放たれてきた。アワイ砲を撃つために、今は宇宙船のバリヤーを解除している。当然、宇宙船は敵の攻撃の直撃を受けた。

 宇宙船が激しく揺れた。

「エネルギー充填1200%…。」

 なんか、桁が違う気がするが…。

 サンムーンが、照準を居城に合わせた。

「発射!」

 二つのパラボナアンテナ状のものから強烈な光が八の字状に放たれた。

 それぞれの光は、白色光だったが、二つの光が融合した部分は、まるで高濃度のNOガスのように不気味な褐色を帯びていた。

 この褐色光を浴びるとエディアカラの居城は小さく縮んで行き、さらに周囲の物も巻き込んで目に見えないほどに小さく押し潰されていった。

 そして、それはカンブリア星全体まで巻き込んで行き、ミニサイズのブラックホールへと、その姿を変えてゆく…。

 限界を超えて対象物を強制的に小さく押しつぶす。それがアワイ砲だ。なので、本来、サイズ的にブラックホールにならないはずのものもブラックホールと化してしまう…。

 なお、どんな原理で発された光線なのかは不問にしていただきたい。

 絶対安全圏にダブルリーチ、そして槓裏4と言う淡の凶悪な麻雀スタイルが、サンムーンの中で、この最終殲滅兵器のイメージと一致していたらしい。それで、アワイ砲と名付けられた。

 今、カンブリア星は、淡達の目の前でブラックホールへと変化しつつある。急いで、ここから離れなければならない。

「小惑星群まで瞬間移動を…。」

 そうサンムーンが言った時、突然、システムが全てダウンした。今まで充電されていた分で、辛うじて非常灯が点いているだけだ。

 これでは、淡の部屋と繋ぐドアも使えない。あれを使うにも、実は、相当なエネルギーを必要とするのだ。

 よって、そのドアを使って非難することも出来ない。

「どうして?」

 このままでは、目の前で形成されつつあるブラックホールに吸い込まれてしまう。

「ねえ、もしかして、これがプルプルの言っていた五つの単語に関係あるんじゃ…。」

 この淡の言葉を聞いて、

「そういうことか!」

 サンムーンが何かひらめいた。

「どういうこと?」

「恐らく、エディアカラとの通信の際にウイルスを仕込まれたんです。それに感染した。しかも、三種のコンピューターウイルスを複合させた厄介な代物でしょう。多分ですが、それぞれが別の惑星…カンブリア星、タイシン星、アルカリ星で作り出されたものです。」

 プルプルも、ここまで明確には分からなかったのだろう。

 予言は、大抵が謎めいているし、なんとでも取れるようなものが多い。後付で、

『あれはこうだったんだ!』

 と思うことが多い。地球でも、そんな傾向がある。

 サンムーンの言葉を聞いて、淡の心の中に暗雲が立ち込めてきた。やっぱり、もう、ここで死んでしまうのかもしれないと…。

「ねえ、それで、そのウイルスがどんなものかは分かってるの?」

「一応、それぞれ単独のウイルスに関する情報でしたら、白の星、緑の星、赤の星それぞれの諜報部員達が、各惑星に渡って収集しております。問題は、今、私の考えている通りの対処法で良いのかどうか…。」

「ちょっと、不安になるようなこと言わないでよ。」

「済みません。プルプルは、こうなる可能性を考えて、私の個人PCを持たせたのでしょう。ならば、自分を信じてワクチンを作るしかありません…。」

 サンムーンの額にある三日月の形が徐々に変化して行き、満月のようなまん丸へと形を変えた。そして、左右それぞれの毛先に付いている球が、まるでハンニャの球のように煌々と輝き出し、全身から近寄り難い激しいオーラが立ちこめた。

「では、王子。」

「分かってる。そのPC用に発電するんでしょ。」

「そうです。恐らくプルプルは、このPC用の電力供給のことを想定して王子の力で発電する装置を組み込ませたのでしょう。宇宙船のシステムとは完全に独立していますので。では、王子。御願いします。」

 サンムーンがPCのコンセントをルームランナー型発電機に挿すと、タムタム王子がゆっくりと、その上を走り出した。

 PCを立ち上げると、恐ろしい勢いでサンムーンがコンピューターにカタカタと打ち込みを始めた。そして、ものの三十分ほどでほっと溜息をついた。

「一応、出来ました。あとは、これを宇宙船のコンピューターに入れればウイルスは駆除できるはずです。」

 この超スピードに、淡は呆気に取られていた。本当に、こんな短時間でできることなのだろうか?

 サンムーンは、DVDのようなディスクをPCから取り出すと、船内コンピューターにそのディスクをセットした。

「読み込み開始!」

 彼がEnterキーを押した。

 すると、モニターに何やら訳の分からない文字が延々と記され、まるでコンピューターが暴走したように文字が上から下に激しくスクロールし始めた。

 そして、三十分もすると文字の動きが止まり、一点でカーソルが点滅を始めた。

「駆除できたようです。あとは、このコンピューターの設定をゼロからやり直せば終了です。大星さん。ハンニャの席の下に扉がついているでしょう。」

「えっ…。あっ…、本当だ。何時の間にこんな扉をつけたのよ!」

「ここに、コンピューターの設定を書いた資料が入っているのですが、取り出して頂けますか?」

「良いけど…。」

 淡が四つん這いになり、ハンニャの席の下に作られた扉を開いた。すると、その中には電話帳のような分厚い資料集が二十冊にも及んで並べてあった。

「あったけど、どれを使うのよ。」

「全部です。初期設定から全て再構築します。この宇宙船は、私の部下が造ったものですが、私自身は全てを把握しているわけではありません。それで、資料を全て一読しないと作業に入れないのです。」

「ちょっと、読むって、これだけの量よ!」

「分かってます。でも、多分、自動再構築もできなくなっているはずです。ですから、全て手入力での再構築になります。では、一番左のものから順に出してください。それを今から読んで行きます。」

「でも、読みきる前にブラックホールの中に吸い込まれちゃうわよ!」

「大丈夫です。私を信じて下さい。」

 とは言え、いくらなんでも電話帳クラスの厚さの資料二十冊を読むとしたら丸一日では済まないはずである。これが可能とは到底思えない。

 それに、さっきのコンピューターウイルス駆除ソフトも、そんなに簡単にできるとも通常の感性からは、とても思えない。

 もしかしたら、デタラメなことをやっているだけなのではないだろうか?

 本当にサンムーンを信じて大丈夫なのだろうか?

 そんな疑念が湧いてくる。

 しかし、今は信じるしか方法はない。淡は、五冊ほどの資料を取り出すと、サンムーンの前にドスンと置いた。

「ちょっと懐疑的過ぎるけどね…。でも他に道は無いし、少しは信じてあげるしか無いようね。じゃあ、どうぞ。」

「では…。」

 サンムーンが、資料の一冊を手に取り、まるでパラパラマンガでも見るかのように、物凄い勢いでページを流して行った。少なくとも、淡には彼が資料を読んでいるようには思えない。

「ちょっと、何ふざけてるのよ!」

 しかし、サンムーンは集中していて淡の声が届いていなかった。

 いいかげんなことをやられている上に無視されているみたいで、彼女としてみれば、少々ムカつくところであった。

 すると、タムタム王子が発電機の上でゆっくり走りながら、珍しく淡に話しかけてきた。そう言えば、タムタム王子と話をするのは、これが初めてな気がする。

「大丈夫ですよ。安心して下さい。まず、サンムーンの額のマークが三日月状から満月のように変わったでしょ。」

「ええ。」

「以前、ハンニャからも聞いていると思いますが、あのマークの太さがサンムーンのIQ発揮状態を示すメーターなんです。普段は、IQを地球基準で500くらいにセーブしているのですが、今はフルに発揮しています。そのIQ値は、2億…。」

「…。」

「それと、右の毛先の球が輝いた時、超スピードで速読を行いますし、左の毛先の球が輝いた時、瞬間映像記憶力を発揮します。ですから、この資料の中身を全てあのスピードで暗記しているはずです。」

「嘘でしょ?」

「本当です。信じられないかもしれませんが…。」

「信じられないわよ。」

 そうこうしているうちに、サンムーンは、二冊目、三冊目も読み終えて四冊目に突入していた。

「でも、信じる以外に道は無いのよね、今は…。」

 淡は、更にハンニャの席の下から五冊、十冊と資料を取り出してサンムーンの前に積み重ねた。

 サンムーンは、次々と資料を読んで行った。パラパラマンガを見るようにページを流すだけなのだから、とんでもない勢いである。そして、ものの十分もしないうちに二十冊全ての資料に彼は目を通してしまった。

 彼は静かに眼を閉じた。頭の中で、資料の内容を反芻しているのだ。

 そして、急に目を見開いたかと思うと、宇宙船のコンピュータースイッチを全て落とした。五分ほどして、彼が資料に記された順(暗記した内容)に従ってスイッチを入れると、モニターに点滅するカーソルが映し出された。すると、彼は物凄い勢いで次々と数式を打ち込んで行った。

 その数式の文字は、まるでくさび型文字か何かのような形で淡には何のことか全然意味が分からなかった。恐らく、それ以前に余りのスピードに、見ている方がついて行けない状態でもあっただろう。

 あれから更に十分くらい過ぎたであろうか、サンムーンがEnterキーを強く叩くとモニターに映し出された文字がスクロールした。そして十数秒後、左上で数秒間カーソルが点滅したかと思うと、今まで完全に動きが停止していたコンピューターがいつものように起動し始めた。完全にシステムが復活したのだ。

 突然、サンムーンがその場に座り込んで肩で息をし始めた。

 今までうっすらと輝いていた彼の毛先の球は、何時の間にか宇宙船の外で大きく口を開けているブラックホールのように漆黒な球体へと変化していた。そして、今まで満月のようだった額のマークも、新月のように黒く変わっていた。

 この状態でのIQは…。多分、悪い意味でヤバイ気がする。

「これで、なんとかなった。王子、充電を。」

「僕の力で?」

「はい。原子力発電では、定常するまでに時間がかかります。ですから、ここは王子の力で御願いします。」

「分かった。任せといて!」

 タムタム王子が、爽やかな顔で、再びルームランナー型発電機の上で物凄い勢いで走り始めた。

 エネルギーメーターが一気に振り切れた。これを横目にサンムーンが息を切らしながら言った。

「ウルウル。私は当分動けません。ハンニャも動けない今、ウルウルに操縦を御願いします。一光年くらい離れたところで安全そうな場所に御願いします。」

「良いけど…、サンムーンは大丈夫?」

「少し休めば大丈夫です。とにかく、急ぎましょう。」

「ええ、分かってるわ。じゃあ、行くわよ!」

 ウルウルが瞬間移動先の座標を設定すると、操縦席に飛び乗った。そして、力強く瞬間移動のスイッチを押した。

 そして、ものの数秒もしないうちに、淡達は、カンブリア惑星系の外に出ていた。

「今日は、結構時間がかかりましたね。淡さんは、明日は…。」

「学校は休みだから、気にしないで。」

「しかし、家の人が心配するでしょう。もう、空間を繋ぐ扉は使えるはずですので、今日は家にお帰りください。ここで、私とサンムーンが回復するまで待つのに付き合ってもらいますと、何時帰れるか分かりませんから。」

「分かった。じゃあ、無事に緑の星に戻ったら連絡してね。」

「はい。じゃあ、ウルウル、設定してあげてください。」

 ウルウルが、ドアの脇に付いている電卓のようなスイッチを押した。まるで、パスワードを入れているように見えるが、これで移動先の設定をしているらしい。

 設定を終え、淡が操縦室のドアを開けた。

「じゃあ、また後で。」

 淡が操縦室を出て行った。

 そこは、いつものとおり、淡の部屋に繋がっていた。

 今回、ブラックホールに吸い込まれそうになったのは、自分達の攻撃が跳ね返ってきたようなものだ。

 ただ、アワイ砲を使った後に、こうなったことが、なんだか淡の麻雀に対しても攻撃を跳ね返す人物が出てくる予兆のように思えてならなかった。

 淡の麻雀には、絶対安全圏にダブルリーチ槓裏4と強烈な武器がある。

 今のところ敵わない相手は照くらいだ。照の場合は、攻撃を跳ね返すと言うよりも、さらに強い攻撃力で押さえつけられていると言った感じだ。

 淡の能力を無力化する穏乃とか、嶺上牌を狙い打てる咲とかが、恐らく、淡の懸念に相当するだろう。今から1年先の話である。

 

 翌朝、ハンニャから無事帰還した旨のテレパシーを淡は受けた。それと、今日中には一度、緑の星に着て欲しいとも言われていた。

 本来なら、昨日のうちにハンニャ達には高校のことを相談したかった。しかし、ブラックホール事件があり、それどころではなかった。

 それに、今日は白糸台高校に顔を出したい。昨日、急遽休んだのだから、やはり行くべきだろう。

 それでハンニャには、夕方に行く旨をテレパシーで伝えた。厳密には、淡はテレパシーを使えないが、淡が念じれば、それをハンニャがキャッチできる。

 白糸台高校麻雀部は、部員が非常に多い。殆どは、照と菫のファンらしい。

 今日は、照以外が相手の時は、ダブルリーチ無しで、どれだけの戦いが出来るかを試してみた。それでも、殆ど全員に淡は圧勝した。

 ただ、栞だけは6対4の僅差で勝つくらいで、圧勝と言うわけには行かなかった。

 夏休みいっぱいは、栞は部活に参加するとのことなので、新学期が始まるまでにダブルリーチ無しでも栞に余裕で勝てるようにしたい。淡はそう思っていた。

 とは言え、どう努力したら良いのかは分からなかったが…。

 そして夕方、淡はハンニャに向けて、

「(今から行けるよ!)」

 と念じた。

「では、駅前のデパートで、一階のトイレのドアを開けてください。そことこっちの空間を繋ぎます。」

 ハンニャからの指示だ。きちんとキャッチしている証拠だ。

 淡は、言われたとおりにデパートに入った。そして、トイレのドアを開けると、そこは緑の星ではなく、白の星に繋がっていた。

 そこは、超高層ビルの一室だった。

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