ケロロ軍曹 ~金木犀の君と~ 作:ありさ
21世紀、地球は未知の地球外生命体の脅威にさらされていた。侵略者どもは空に海に人々の生活する場所に容赦なく襲い掛かってきた。それから1年あまりが過ぎ、戦いは落ち着き、地球はわずかな平和なときを迎えた…
天井裏に潜み動く影。ザクのコスプレをした俺たちだ。
暗視レンズで、目標の部屋の上から様子を確認する。どうやら冬樹は寝ているようである。
「吾輩が行く。」
「了解。クックッ~」「気をつけて」
隊長自ら忍び込んでいった。
かっこ悪くも床に落ちて物音を立てたが、熟睡しているらしく起きないようだ。
「ゲロゲロ。この、ケロボールさえあれば…」
鍵すらついていない引き出しの中を開けて球体を取り出す。どうやら目的のものを確保できたようである。
***
「な、なによこれーー!」
朝から夏美の絶叫が響く。
「ね、ねーちゃん、どうしたの?」
叫び声を聞いて起きた少年は自分の部屋から慌てて飛び出すと、階段でこけてしまう。
『日向冬樹、中学1年生。三度の食事よりオカルトが大好き。成績は極めて平均的。運動は大の苦手』
「こんな格好で紹介しないでよー」
ナレーターに文句を言いながらも冬樹は姉の元へとたどりつく。
『日向夏美。運動も勉学も極めて優秀な中学2年生。スリーサイズは…』
「はい、そこまで!」
ナレーターの説明を無理やり中断させる。
「どうしたの?」
「冬樹、冷蔵庫が大変なことになってるのよ。」
冷蔵庫を開けると、猛吹雪が出る。
水道場から奇妙な音、誰もいないのに鳴るインターホンの音、トイレットペーパーが出される音、数々の音が家に鳴り響く。
「これは俗に言う、ポルターガイスト現象!」
まだ寝足りないのか目をこすりながらパジャマのまま、髪を下ろした少女が部屋から出てくる。
『アリサ=サザンクロス。1歳または数百歳の、元 闇の住人。日向家に居候する者たちの1人。』
「朝からうるさいぞ。」
「アリサちゃんおはよう。ところでこれって…?」
「ようかーいのせい、じゃないですよ。」
まだ覚醒しきっていないアリサの代わりに父親のネブラが某メロディーのように答える。目が生えているヘアバンドこそ彼の擬態である。
「こんな、嫌がらせをするのはあいつに決まってるでしょ…こらボケガエル出てきなさい!」
怒鳴り声が家に響くと、鳴っていた音がしーんと静まる。
嘲笑いながら、天井裏から降りてくるザクのコスプレは廊下に立つ。しかし夏美に服は引き剥がされる。
「ボケガエルやっぱりあんたのせいなのね!」
「ボケガエル?だれそれ?……吾輩はガマ星雲第58番惑星 宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊隊長 ケロロ軍曹であります!」
夏美の拘束から逃れたケロロは敬礼とともに述べる。
「何をいまさら?」
「これまで日向家に溶け込み、立派な働き者として振る舞っていたのは全てお芝居。愚かなペコポン人どもを油断するための演技だったのであります。」
「それにしてはずいぶん楽しそうだったけど…」
俺もそう思います。家事当番じゃない日でも手伝ってくれるし。’趣味の時間のために’サボるときもあるけれど。
「クルル曹長、例の物を!」
ケロロが受け取ったケロボールを見て夏美と冬樹は驚愕する。隊長だけが持つことを許される万能アイテムとかなんとか。スイッチだらけで使い方が難しそうだ。
「それ、借りるだけじゃなかったのか? しかも了承されたって言ってたし。」
「うっ、借りたのでありますよー、長期間。」
「ソウナンダー」
「そうそう! ほら、この力で宇宙各地から宇宙生物を呼び寄せたのでありますよ。諦めて降参するがいい!!」
さらにケロボールの力で夏美と冬樹を拘束した。宙吊りにされた2人はまるで操り人形のようにされる。
「軍曹もうやめてよ!僕たち友達じゃないかーー!」
トとモとダとチが、ケロロのハートに文字通り突き刺さる。思い返すのは1年の思い出。感傷に浸っていたケロロは……耐性ができていたらしい。
「冬樹殿それ前とおんなじパターンすよ。」
これはケロロたちの大勝利か……と思いきや、地球最強が近づいているようだ。
「熱源接近。おっとー、日向秋の反応だ。」
「ゲッロー!? ママ殿。まさかこんな時間に帰ってこようとは。」
しかし彼にはケロボールがあるわけで、触手を転送させ、攻撃に向かわせる。しかし本能だけですべて掴まれた。さらにママさんはそれらが苦手だったみたいで、ケロロとついでに博士に叩きつける。
「ああ、ケロロ殿ごちそうさまでした。」
「それに朝ごはんの時間だろう。私もお腹が空いた。」
どうやら転送した宇宙生物たち捕食されたようだ。ケロボールさえ取り上げられ完敗したわけで、朝ごはん作りを課せられた。
居候の先輩だけあって手際もいい上に、美味しい朝食だった。しばらくの間、俺たちの家事も肩代わりしてくれそうだな。
「あ、西澤さんからだ。」
「席を外そうか?」「お義姉ちゃんか。」「桃華ちゃんから?このこのー」
冬樹の携帯に着信が入ると、みんなで冷やかす。しかし鈍感な彼は桃華のことを友達の1人だと思っているわけで、動じない。そこで作戦を実行に移すのだ。
「え、西澤さん、何があったの?」
急に携帯が切れたことで動揺……はあまりしていないが、深刻な顔だ。
「お兄ちゃん、お義姉ちゃんがピンチだ。いくぞ。」
「え? って、ちょっとーー」
リビングの窓を開け、アリサは冬樹を飛んで無理やり連れて行った。作戦を察しているママさんは一部始終をほんわかして見ている。俺も追って向かうことにした。
冬樹たちが訪れたのは地下。
豪邸の下に1日で建設された廃墟っぽい特設ステージの奥にある要塞に囚われの身の桃華がいた。ペコポンのお金持ちはやることが違うな。
「西澤さんがたいへんなことに!」
「冬樹君たすけてー。じゃないとすごく大変なことになってしまいますー。」
台本と違ってイレギュラーなケロロがケロロロボに乗ってやって来た。しかしそのまま続けるようだ。
「たすけてー冬樹君。でないと取り返しのつかないくらい大変なことにー。」
この台本書いたのは一体誰だ。
良かった、冬樹にはこの茶番が通じたようだ。
「わかったよ。待ってて西澤さん。」
このまま行けば、吊り橋効果で2人の距離は一気に……見落としがあったみたいです。冬樹の運動能力ではただのジオラマな要塞を攻略できなかった。それでも彼は立ち上がるが、無理っぽい。
西澤さん家の人たちの仕掛けで、階段ができた。
「やらせはせんぞ!」
ケロロロボで立ちはだかったイレギュラーは、俺が尾で所定位置にリスポーンさせておく。それでも、冬樹は要塞の傾斜を攻略できない。
しぶといイレギュラーはバズーカを発射するが、誤射する。アリサが守ったようで何より。
「冬樹君、はやくー」
「大変ったら大変だぞー。」
「くっ、やらせはせん、やらせはせんぞー」
タママインパクトォ! 部下の口から出された光線でイレギュラーはまたリスポーンされた。
「ダメだ…もう走れないや…」
「諦めないでください。」「諦めんなよお前!!」「あともうちょっとのところなんだから。」
「う、うん。」
台本通りに応援したあと冬樹がなんとか立ち上がると、同時にイレギュラーはまだ立ち上がる。
「まだ、終わらないであります……それはそれとして、タママなんとかって聞こえたんだけど…?」
「アハハ……ももっち、ごめんさない。さっきのタママインパクトは軍曹さんへの援護射撃だったです。でも、ちょっとお口が滑べっちゃった。てへっ」
「そうかそうか!」
作戦の立案者は愛する男性を選んだようだ。
まどろっこしい作戦にイライラしていた裏桃華は我慢の限界のようで、自ら拘束を解く。
ケロロとタママを標的として追いかけて行った。
「え、西澤さん……」
「あー、もう滅茶苦茶だよ。」
「次はどうすればいい?何を言えばいい?」
台本を片手に聞いてくるアリサに『帰ろう』って言って撤収、帰宅することとする。