武流島艦隊日誌   作:茶瓶

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戦闘回です。正直に言うと、あまり納得のいくの出来ではありません…。なんだかなぁ…。


第2話

 気を抜けば呑み込まれてしまいそうなほど深く青い海。その奥に控える果てしなく遠い水平線。終わりが見えないそれらは恐ろしささえ感じさせる。

 

 そして、辺り一面に漂う焼けた鉄の匂い。

 

 そう、ここは紛れもなく戦場なのだ。たとえ姿が見えなくとも、敵は確かにそこにいる。此度(こたび)の第一艦隊旗艦たる『長門』は気を引き締め直し、後続の艦に向けて活を入れる。

 

「よく聞けお前たち!我々がこの海域に至るまで、こちらの損害は皆無だ!これも我らの先に仲間たちが(みち)を拓いてくれたからに他ならない!!」

 

 びりびりと体の芯に響く怒号。しかし、それに萎縮する者は一人としていない。むしろ、沸々と闘志を沸き上がらせた。

 

「決して皆の努力を無駄にするな!勝利こそが!唯一の!!手向けなのである!!!」

 

 艦隊の闘志は最高潮に達した。しかし、あからさまに顔には出さない。自らが放つ気配にてそれを伝える。熱に浮かされては目指す動きが出来なくなる。それを皆理解しきっていた。彼女たちは武流島鎮守府が誇る第一艦隊(最強の六隻)なのだから。

 

 第一艦隊唯一の空母『翔鶴』が静かに弓を構える。この距離は空母のみが攻撃できる。長門も静かに頷き、許可を下した。

 

「いきます!」

 

 勢いよく矢が放たれた。そして、ばしゅん、と一瞬火に包まれたかと思うと、けたましいエンジン音を放ちながら戦闘機に姿を変え、彼方の敵を目指し飛んでいった。

 

 矢が放たれたと同時に、四隻が行動を開始する。戦闘機たちの後を追いながら、『雪風』を先頭に敵艦隊目掛けて直進していった。

 

「!!」

 

 観測機により、ヲ級(空母)が相手の行動開始を察知する。すぐさま横に控えるヌ級(軽空母)に発艦を指示を送る。淀みなく迎撃の準備が為され、対抗せんと戦闘機が放たれた。

 

 しかし、同時に不可解さも感じていた。何故四隻もこちらに向かっているのか、と。

 

 迷いなく雪風たちは距離を詰める。かすかに水平線の先に敵の影を確認できる距離まで来ていた。無論、敵からも見えている。しかし、これこそが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そんじゃあ、そろそろいくよ~」

 

 間の抜けた声で『北上』が合図する。それを受けて、雪風が最高速で敵陣へ駆けていく。間を空けて長門と『神通』も続く。それを見届けて、北上は動き始めた。

 

 体の前で腕を軽く交差させる。そして、ばっ、と開いた瞬間、一瞬前まで何も無かった北上の背後の虚空に、数え切れないほどの魚雷が浮かんでいた。

 

 そして、敵の方向を指差し、一言。

 

「ばいば~い」

 

 深海棲艦たちは空母二隻を護衛するため、輪形陣を組んでいた。その最前に立つのは最も堅牢なル級(戦艦)である。その(まなこ)に不可解なものが写った。敵艦の先頭がこちらに猛然と突進してくるのだ。戦艦ならまだしも、あの小さな影はおそらく巡洋艦か駆逐艦。口元が歪む。愚かで哀れな鼠を引き潰してやろうと砲に弾を籠める。

 

 しかし、目に入ったその鼠の表情はひどく冷たいものだった。むしろ、はるかに強大であるはずのこちらを憐れむかのように。

 

 『見て』しまったが故に、動揺してしまった。

 

(ナッ、何ヲ私ハアンナ矮小ナモノ二怖ジケテイルノダッ)

 

 自らに活を入れ、照準を合わせる。しかし、次に目に入ったものには狼狽(うろ)たえるほかなかった。

 

 水平線の先に広がる黒い壁。漂ってくる鉄の匂い。火薬の匂いも混じっている。信じがたいが、間違いない。あの壁は全て()()なのだ。

 

 それらが一斉に放たれた。壁は徐々に散らばり、雨と化す。自分たちを滅ぼさんと降り注いでくる。回避(かわ)せない。回避(かわ)しようがない。誰が雨を回避(かわ)せようか。己に出来ることは、後方の艦に防御に徹しろと指示するだけだった。

 

 青を掻き分け、天を赤に染め、この世のものとは思えないほどの轟音が水平線に鳴り響く。むしろ、周囲一切を無音にしてしまうほどの爆音。もちろん、無事で済むはずがなかった。護るべきはずの空母は両隻ともひどく損壊し、左右の巡洋艦は沈んだ。しかし、自分はまだ戦える。無尽の黒煙に包まれながら敵を迎え撃つ準備をする。あの小さな艦なら問題なく撃退できる。

 

 ーーしかし、何故突っ込んできたのか。自らも被害を受けてもおかしくないほどの爆撃だったというのに。

 

 その時、完全にル級の思考は停止した。敗けを悟ったからか。否、気づいてしまったからだ。

 

(マダ奴ラノ空母ノ爆撃ガ残ッテイル…!)

 

 気づくと同時に、またも爆音が轟いた。焼ける。焼けていく。護るべきものも。自らも。

 

「守勢に入ったときに、貴様らは敗けたのだよ」

 

 ダメ押しと言わんばかりに、長門がル級の顔面に自慢の豪拳を叩き込む。さらに、二つの影が両空母に襲いかかった。

 

「介錯致します。焼け苦しみながら往くのは辛いでしょう」

 

「…愚鈍だな、貴様ら」

 

 一矢も報えず沈みゆく己を呪いながら、ル級は仲間の最期を見届けた。見覚えのある小さな影がヲ級の首を絞め折り、他方、陽光に煌めく白刃がヌ級の頭部を両断する。そして、後方を守護していた最後の一隻も容易く沈められた。辺り一面に広がる赤い地獄とは裏腹に、あっさりと戦いは終わりを迎えた。

 

 四隻の襲撃成功より少し前。二隻がはるか後ろに残されていた。翔鶴と『吹雪』である。二隻は朗らかに言葉を交わしあった。

 

「よろしくお願いいたしますね、吹雪さん」

 

「はい!任せて下さい翔鶴さん!」

 

 その言葉を試すように、彼方の空から敵の戦闘機が飛来する。迎撃のため、翔鶴は一矢のみ放つ。後は何もしなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「私が皆を護るんだから!」

 

 天から機銃が、魚雷が、爆弾が放たれる。吹雪はひどく落ち着いた様子でそれに向き合い、砲と魚雷を放つ。爆弾は中空にて虚しく爆ぜ、魚雷も無念、と言わんばかりに道半ばで迎え撃たれた。残すは機銃弾のみである。吹雪が右手をかざすと、その手に大きめの(なた)が握られていた。水面を蹴り、翔鶴の目前にて体を激しくひねる。鉈の重さとそれによって生まれる遠心力により、鉈は際限無く加速し、斬撃の壁が作られた。一振りで何発もの銃弾を弾き返していく。この壁を抜くには、機銃ではあまりにも頼りなかった。

 

 結果、吹雪は多少弾を掠めたものの、翔鶴は全くの無傷であった。それどころか、悠々と長門に電信すら送る始末だった。

 

「…ふむ、そうか。それは何よりだ」

 

 北上たちは長門の発言から戦闘が無事に終わったことを理解し、幾度となく聞いた()()()()を待った。

 

「現海域での戦闘を終了を確認!これより帰投を開始する!各自、最後まで警戒は怠るなよ!」

 

 当然、と目配せをする。我らは第一艦隊なのだから。

 




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