まぁ、序章はキチガイ要素少なめですからね。ほら、チュートリアルは真剣にやるでしょう? 逆に言えばチュートリアル以降は理性の枷が外れます。
「46人のマスター候補者は凍結保存、カルデアはレフ教授も失い8割の機能が動いていない状態、そして生き残ってるスタッフは二十人未満。いやー、言葉にしてまとめてみると悲惨な状態だな。これ詰んでね?」
〔こんな状況で君は本当に呑気だね……〕
「同じ場所どころか同じ時間軸にすらいないんだから、焦ったところで何もできないだろ? ただでさえ帰れるのかどうかさえも怪しいのに、他人の心配までする余裕はないぞ」
責任がどうのこうの騒いでいる所長を無視して、俺は画面の奥にいるロマニと会話していた。責任も何も帰ったら責任追及してくる奴等が存在してるかも怪しいのに、ここまで今は亡き(不確定)レフ教授に助けを求めるくらい取り乱すとは、彼女は想像以上にポンコツなのかもしれない。マシュのマスターには敵わんがな。
当方での目標が『特異点Fの調査』に定まったところで、俺は頭をかきながら「それはそれとして……」と話を切りだす。
マシュは花子と文明的なコミュニケーションを図っている最中なので、聞かれることはないだろう。
「この一連の大事故は誰が原因なんだろうね」
〔……
「『何か人類滅びそうなんで調査しようぜ』って段階での、大事故なんだぞ。人為的なものしか俺は感じないんだが? 俺は魔術に関しちゃド素人だから、不思議パワーを持つ未知の生命体が不思議パワーで何かしたんなら打つ手がないだろうが、完全にカルデアが崩壊してないことを鑑みるに、俺達と同等か想像の範囲内の高度な知性を持つ何かが仕掛けてきたって考えるのが妥当だろ?」
犯人の詰めの甘さ。
現在進行形で俺達に攻撃してこない現状。
カルデア修復への追撃がない。
以上のことから、俺は人為的な犯行であると適当に推測する。ぶっちゃけ合っても合ってなくても俺は困らないから、俺が考える限りの範囲内で考察を述べた。もしかして身内の犯行だったりして。
真剣に考え始めたロマンに「まぁ、本当はどうか分からんけどねー」と言葉を付け加える。
「んな悲観的な話は置いといて……俺はどうやったらサーヴァントって奴を召喚できるんだ? なんか戦力不足だから一応マスター候補者の俺も駆り出されることになったんだけど」
「それは私が説明するわ」
「あ、所長。
「その物凄く理不尽な病名つけるの止めてくれない? ……ほら、これを使いなさい」
不機嫌そうな所長から手渡しされたのは、角ばった金平糖のような虹色の石三個。大きさは普通の中華料理屋で出されそうなゴマ団子くらいの大きさで、手で転がしてみると石同士がぶつかり合ってカランと心地よい音が鳴る。
良く言えば神秘的な石に、悪く言えば日本人の一部の心を狂わせそうな石に、俺はこれをどうすればいいのか所長に問いかける。
いつの間にか花子とマシュも集まって来たようだ。
「その石──聖晶石を媒介として、カルデアの英霊召喚システムを用いて、貴方のサーヴァントを召喚するの。その際に詠唱が必要なんだけど……」
英霊なるものを召喚する詠唱を忘れてしまった所長に代わり、ロマンが新しいウィンドウを出して詠唱の一節を画面に出してくれる。
想定していた以上に長く、ある程度流し読みした俺は、率直な感想を魔術の造詣に詳しい二人に叩きつけるのだった。
「恥ずかしくない? この詠唱」
「あ、貴方、敢えて私たちも言ってなかったことを……」
少なくとも人様の前で口ずさめるような文章ではなかったことに、英霊を呼び出せる事実に若干ワクワクしていた俺は萎えて、眉間を揉みながら所長が溜息をつく。
この詠唱が生まれたのが数百年前だということで納得せざるを得なかったが、俺のテンションが下がってしまうのも理解してほしい。できればこの詠唱を昼休みの学校のグラウンドで大きな声で詠唱できるような猛者と代わって欲しいものだ。少なくとも花子ならできる。
さっさとやれと足を蹴り始めた所長に流されるが如く、観念した俺は石を片手に例の詠唱を紡ぐ。
もう二度としないことを心に誓いながら。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、
王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!
刹那──吹き荒れる暴風。
それが自然現象で起こったものではないことは場にいる全員(除・花子)が理解し、腕で顔を覆いながら風が鎮まるのを待つ。特に発生源の間近にいた俺は、本能的にそれが俺の内に眠る
〔これはエクストラクラス……っ! アヴェンジャー!? マイケル君、そこを離れるんだっ〕
ロマンが何やら大切そうなことを呟いていたが、急に暴風が何事もなかったかのように収まった今、俺の耳には聞こえてなかった。そして召喚の起点となった盾の前には、
その姿に俺は目を見開いた。
黒を基調とした軽甲冑にマント。真新しい衣装であるはずなのに、マントの端々がボロボロになっており、まるで
長い白い髪が靡く姿は見惚れるほどに美しいが、それ以上に印象に残るのは金色の瞳。まるで人類全てを憎んでいるかのようなドス黒い感情を、隠そうともせずに目前にいる
彼女が一歩歩くと軽甲冑の鎖が擦れる音が響く。
手に持った大きい旗を地面へと突き刺す。それによって生じる鈍い音。
「サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました。……どうしました。その顔は。さ、契約書です」
アヴェンジャー。復讐者、か。
我が友人ダニエル曰く、『美人というのは声までもが美しい。何故なら美人の美しい骨格が美声を奏でるからである』と。外見だけは美少女な花子と所長、言わずもがな可愛いマシュの例からするに彼の言葉は正しかったのだろうが、英霊である彼女は違うベクトルの美しさを醸し出す。
ここまでの美女と言うのは中々お目にかかれない。俺は無意識に息を飲んだ。
〔えっと、失礼かもしれないけど、君の真名は何だい?〕
本来なら俺が言うべき台詞をロマンが言う。
画面越しだから彼女の威圧に当てられることがなかったのだろう。
「真名……そう、真名……」
一瞬だけ美しい顔が歪む。
だが本当に一瞬だった。彼女は卑屈そうに口を歪めながら、俺達を卑下するように名乗る。
「ジャンヌ・ダルク……の『贋作』かしらね。あの女の
自分はジャンヌ・ダルクの偽者である。
堕ちた魔女であり、忌むべきフランスへの復讐者だ。
どうだ。こんな
見ていて痛々しいまでに卑屈な彼女の歪んだ笑みに、俺は大きく息を吐いて所長へと顔を向ける。肝心の所長はジャンヌ・ダルクの偽者を名乗る英霊が求める答え……つまり『使えないハズレ』を見るような表情で彼女を眺めていた。
「所長」
「……何かしら?」
「何かジャンヌ・ダルクのパチモん召喚したんだけど、これどこに訴えたら石返ってくるん? 消費者庁?」
「ぶっ殺すわよクソマスター」
【前回よりはマトモな自己紹介】
マイケル……今作の主人公。勿論偽名で、純日本人。友人のダニエルの口車に乗って、カルデアをマックの面接会場と勘違いして、今回の事件に巻き込まれる。雪山上った先が会場とか馬鹿でもありえないと気づくだろうが、そこはキチガイなので仕方がない。アヴェンジャーなジャンヌ・オルタを召喚したマスターとなったので、コイツを使ってサクっと人理修復をするよ。