とりあえずサクっと人理修復   作:十六夜やと

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 ようやく引っ越しが完了しました。
 まだ就活終わってないんですけどね_(:3」∠)_

 次回は冬木のオカンが登場します。
 可哀そうに。


宝具使用講座~基本すっ飛ばして実践編~

「……もう座に帰っていいか?」

 

「何を急に」

 

「急にじゃねぇだろ!? さっき思いっきり武器にされたんだが!?」

 

 クーフーリンことフユキのキャスターは化物でも見るような感じで、ボーっと何考えてんのか分かんない仏頂面で俺の後ろをトコトコついて来る花子を指差した。

 俺達は今回の特異点の黒幕とも呼べる『セイバー』のサーヴァントを討伐するため、キャスター先導の下に大聖杯のある場所へと向かっている。燃えている冬木市を歩いていたカルデア御一行+αだったのだが、キャスターは頑なに花子へと近づこうとしない。分からんでもない。

 

 あの後アサシンとランサーを仲良く(当社比)討伐し、(表面上の)同盟を締結させたキャスターは冬木市で起きている惨状を語った。

 前に所長が語った通りに『聖杯戦争』という魔術師同士のお祭りが開催されたまでは情報通りだった。しかし、街は燃えて人がいなくなるという異常事態、急に強化されたセイバーのサーヴァント、黒い()()に汚染されたキャスター以外のサーヴァント達。イレギュラーばかりが起こる中、汚染されたサーヴァントは何かを探しているらしい。

 キャスターは早くこのトチ狂った聖杯戦争を終わらせたい。でも、他6騎を相手にするには荷が重すぎる。

 そんなわけでキャスターは俺達に同盟を持ちかけてきたわけだ。

 

「しっかしクーフーリンねぇ。まさかケルトのビッグネームと早々にお知り合いになれるなんて光栄の極みだな。後で握手してもらっていい?」

 

「お、おう……小僧は魔術師なんだよな? 普通の魔術師なら俺達みたいな本体の写し身(サーヴァント)なんて道具みたいなもんだろうに、随分と変わった奴なんだな」

 

「魔術師って自覚はないけどね。歴史上の英雄と出会えるなんて中々にない経験だろ? いくら『座』とかいう場所に登録されてる奴のコピーだろうが、俺は個人的に敬意を払うべきだって考えてる」

 

 あと男女比率が極端な我等がカルデアチームに、男のサーヴァントが加入してくれるのは実に素晴らしい。よくつるんでる悪友共の男とチンパンジーの比率が4:1だったため、あえて言葉に出してないが非常に肩身が狭いのだ。女子と接したことのない童貞のチキン力をナメるなよ。

 要するにクーフーリンは神。マジ神の子。

 

 んな反応をしていると、横から俺の方を引っ張ってくる英霊ジャンヌ・オルタ。

 ジト目で明らかに不機嫌そうだ。彼女が機嫌がいいところを見たことはないが。

 

「……じゃあ、私は」

 

「ジャンヌ・ダルクのパチもん」

 

「消し炭をお望みの様ね」

 

「え、じゃあ『ジャンヌ・ダルク』として認識してほしいの?」

 

 痛いところをつかれたのか押し黙る元聖女様。

 あの聖女様と一緒にすんなと本人が口にしていたため、俺は自分のサーヴァントをフランスの救世主とは見ていない。

 そもそも本物に出会ったことないから、彼女を偽者と見るには少々難しいところではあるが。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「先輩、敵性勢力の排除完了しました」

 

「おう、お疲れさん。マシュは頼りになるなぁ」

 

「上に同じ」

 

 やっぱマシュってすげぇよ!

 非戦闘員の俺と、マシュをタンクとして敵をフルボッコにしてきた花子はマシュを称賛するが、当の彼女は表情に陰りを見せていた。どうもアサシンとランサー戦の時以降からこれだから、宝具云々かんぬんで思うことがあるのだろうか?

 最初は俺の思い違いかと考えもしたが、キャスターが様子を見ては嘆息したり、アヴェンジャーがチラチラ確認したりと、思い違い疑惑は確信へと変わる。

 

 ……どうして主従関係ではない俺が心配しているのだろうかと、マスターたる花子が相変わらずボケーっと何も考えてなさそうな仏頂面をしている姿を横目に考えなくもない。

 しかし、俺のことを先輩と慕ってくれる健気で天然な後輩が困っているのだ。久しぶりにキチガイじゃない人間と接したのが後押しするかのように、主従関係がなくとも何とか力になりたいと俺は思うようになる。

 

「……おい、カルデアのマスター」

 

「ん? どしたのキャスター」

 

 冬木のキャスターは俺を手招きし、そっと耳打ちする。

 その内容を吟味して俺はあまり乗り気じゃなかったが、あの様子からすると荒療治も致し方なしと判断する。

 

 俺は財布のポケットから日本円を出すと花子に握らせる。

 

「喉乾いたから近くのコンビニで何か買ってきてくれ」

 

「え? こ、こんびに? というか買うも何もこんな廃墟じゃ──」

 

「俺はコーラでいいや。マシュは無難にお茶かな? オルタはおしるこ。所長は……醤油でいいんじゃね?」

 

「ちびっ子、俺は酒だ。酒なら何でもいい」

 

 余計なことを言いそうになった所長の発言を遮って、荒廃した冬木市にあるはずもないコンビニへのおつかいを頼む。正直買って来るものは何でもいい。

 普通の良識ある人間だったら信じなさそうな注文だが、チンパンジーを引き合いに出すのすらチンパンジーに失礼なレベルで知能の低いマシュのマスターは、自信満々に頷いてコンビニを求め走り出す。どこから来るんだろう、あの自信。

 

 魔物を蹴散らしながら姿の見えなくなった花子を確認したキャスターは、「よし、んじゃ始めっか」とマシュ(と彼から見て後ろにいる所長)に杖を構える。

 俺は邪魔にならないようにオルタを連れてキャスターの背後へと回る。

 

「俺は今から殺す気で盾の嬢ちゃんと騒がしい嬢ちゃんにルーンをぶっ放す。勿論生半可な防御じゃ受け止められねぇ攻撃だ。いいか、宝具ってのは英霊に自然と備わってるもんだ。つまりはまぁ……宝具なんて気合で何とかなるってわけだ」

 

「な──!?」

 

「ちょっと、え、はぁ!? 待って待って待って、そんなの聞いてな

 

 最近みんなの所長の扱いが雑になっている気がすると、いきなり四大元素全てのルーンをバ火力でマシュにぶつけるキャスターを見て思った。

 キャスターの提案した『土壇場なら宝具発揮できるんじゃね?作戦』だが、その是非を英霊じゃない魔術使いモドキな俺は知らなかった。宝具なくても何とかしそうな花子には退場してもらった。

 しかし、キャスターの作戦を信じてマシュを任せたのだが、時間経てどもどうも上手くいっている様子がない。

 むしろマシュが物理的にマジで潰れそうである。所長は精神的にマジで潰れそうである。もしかして効果ないんじゃ?

 

 仕方ないので仮契約を結んでいるキャスターに見える位置で令呪をこれ見よがしに振る。

 最後の手段だ。俺のキャスターへの魔力供給が追い付かない。

 

 

 

「キャスターさんや。もしこれでマシュが宝具使えなかったら、聖杯回収するまで『みさくら語』で話してもらうからな?

 

 

 

 一瞬何だそれはとキャスター他全員が怪訝な顔をしたが、聖杯は英霊に現代の知識をサポートする機能が備わっている。つまりはそういうことである。

 クーフーリンは意味を理解した刹那で顔が真っ青となり、ジャンヌ・オルタは逆に顔を真っ赤にする。ぶっちゃけ令呪を使った場合の未来は誰も幸せにならないが、俺も泣いて馬謖を斬ることにしよう。間違って自分ごと斬りそうだが。

 

「早く宝具を使ってくれ盾の嬢ちゃあああああああああああああああああああああんっっ!! そうしないと俺が死ぬううううううううう!! コイツ目が冗談言ってねぇんだよおおおおおおおおおお!?」

 

「は、はい! ──はあああああああああああ!!」

 

 これ本当に気合で何とかなんの?

 そう思った矢先に──()()は現れた。

 

 爆発的な魔力を開放させたマシュは地面に盾を刺す。

 すると背後に白銀の要塞を顕現させた。いや、あれは城なのか? どちらにせよ純真無垢な少女が発動させるに相応しい、どんな攻撃をも跳ね返せると確信させるような素晴らしい建物だ。

 美しき白の女王は社会的危機に立たされたキャスターの攻撃を難なく防ぎ、攻撃の終わりと同時に城は跡形もなく消失した。

 

「よく頑張ったな、マシュ!」

 

「嬢ちゃ……いや、マシュ。本当にありがとう……!」

 

「ふんっ、やるじゃない」

 

「ましゅうううう! じぬがどおぼっだああああああ!」

 

「──ただいま。言われたもの買ってきた」

 

「「「「ゑ?」」」」

 

 こうしてマシュは宝具を手に入れることが出来たのだった。

 

 

 

 




【前回よりはマトモな自己紹介】

ジャンヌ・オルタ……ジャンヌ・ダルクのIF設定を持つ復讐者。本来ならば召喚されるはずのない英霊の偽者だが、不幸なことにキチガイな主人公に召喚された。卑屈で自虐的で毒舌だが、なんかチョロインとか呼ばれてる。今作では復讐に燃える彼女が回を重ねるごとに残念美少女になっていくのも見どころの一つとなる。

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