好きな人と好きになってくれた人。
祭りと蛍。
花火と流星。
貴方は夏に何を見たいですか?

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夏が終わってから夏の短編を書くという……
最後まで読んでいただけると嬉しいですm(_ _)m


夏の終わり

「ずっと好きです!付き合って下さい!」

 

中二の夏休み、地元の夏祭りで俺は好きな女の子にそう告白した。

『ずっと前から好きでした』と言うつもりだったが、焦って『ずっと好きです』と言ってしまった。まるで返事がイエスであることを前提で言っているような告白の仕方に、自身の間抜けさと相手に思い上がっていそうに思われそうだと思って、元より臨海突破していた羞恥心が限界突破した。

 

アッシュグレーのショートヘアーで、綺麗な青の瞳をしている彼女は俺の告白を聞きながら、右手に持っている綿菓子を口に付けたまま、ポカンとしていた。

 

告白する前は花火を見ていた、祭りのフィナーレ。たくさんの流星が降り注ぐように空を火花が彩っていた。

最後の花火が終わったら言おうと思っていた、先程今までで一番大きな花火が上がった、あれで最後だろうと思い自身を奮い立たせ告白した。

いい終わった直後花火が上がった、どうやらまだ終わりではなかったみたいでしくじったことを理解した。

今のところ告白が何一つとして上手くいってなくて、不安な心と自虐していく精神が馬鹿みたいに膨れ上がる。

告白した直後に上がった花火はすぐ散った、まるで数秒後の俺を表していそうで、俺も散るんだろうなぁと自身を無理やり達観させて、せめてもの無様を晒さないようにする。

 

時間が止まったように感じる。

胸の鼓動がうるさい、それで時間は進んでいることを認識し、時間が止まっていると感じたのは錯覚だと理解した。

しかしやはり体感的には時間が止まっている。

彼女の左手に持つ袋に入っている金魚がゆらゆら動く。

顔を見れないから、その金魚を見て必死に目を逸らした、なんと情けない告白だろうと自嘲して精神を安定させようと試みる。

後悔の二文字が頭を過ぎ去る、でも自身の元からの性質か、後悔はしたくないと思った。だから顔を上げた。

 

彼女は先程と同じように金魚と綿菓子を持っていた。

しかし顔は下を向けている。

それをみた瞬間、羞恥でいっぱいだった心は絶望と後悔で埋め尽くされた。

後悔したくないなんて思ってた先程の自分をなんとも思わなくなるくらい後悔した。

走り出したい、逃げ出したい。

あわよくば死にたい。

そう思った。

でも、それでも僅かに期待したい気持ちが足を地面に縫い付けた、どこまで愚かなんだろうか。今すぐ、冗談だけどね。の9文字を発声すればまだ救われるというのに、一体何をまだ期待しているというのだろうか。愚かな自分に呆れが肥大して溢れる。

 

でも愚かだからこその怖いもの知らずなのか、その9文字を飲み込み彼女の動作を見る、幸い彼女は下を向いていて顔を見なくていい。

だから彼女の行動を見ていられる。

3秒くらいして彼女は左手に持っていた水と金魚が入った袋を右手に持った。彼女の右手には綿菓子と金魚の袋が持たれて、彼女の左手は空になった。

彼女はその左手を俺に差し出した。

 

「私も、ずっと好き」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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淡くて印象的な夏の思い出だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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高二の夏。熱い日差しがアスファルトを射し、陽炎を生み出す。

陽炎の中を進んで自宅に帰る、両親は共働きで家にはいない。

二階の自室まで駆け上がる、畳の自室に寝転がりクーラーと扇風機をつけて涼む。

ここ最近は猛暑でアホみたいに熱い。自宅に帰るだけで汗をかく。

 

「あつい……」

 

脳裏に浮かんだ思いを吐き出しながら寝転ぶ。

ボサボサに伸びた髪に三白眼、前髪が目元まで伸びていて、いかにも人生を楽しんでないようなツラが自室の鏡に映る。

 

高二の夏、外でわいわいきゃいきゃいしている奴らがいる中俺は寂しく自室の天井を眺めていた。

 

 

インキャやヨウキャ。

 

 

高校生になったとたん、その、人間を二つに分ける別れが生まれた。

 

あいつマジでインキャだから。

インキャ嫌い。

 

陽キャと言われるクラスの内の人間が

陰キャにそう罵倒するのが少なくない生活。

俺は自分のことを客観的に見て自分自身をインキャだとは思ってなかった。周りもそうだったと思う。

ならば何もしなければ自身に実害はなかった筈だ、何も失うことなく平凡で退廃的で、そこそこの幸福と共に高校生活を過ごして高校生活を終了していた。今でもそう思う。

それでも、嫌だった。

ヨウキャがインキャを虐めるその姿がどうにも自身には醜悪に見えて、いつしか自身はヨウキャと呼ばれる奴らとそれを見て何もしない自身を嫌っていた。

 

父親が警察官なこともあり、昔から溢れていた正義感が我慢を超え一度自身を突き動かした。

 

『インキャインキャ言うのやめろよ、そう言うの好きじゃねえし、そう言ってるお前らヨウキャの方がよっぽど陰湿に見えるぞ』

 

抑えられずそう言ってしまった。

無駄な正義感だと思う、おかげで嫌われるわ友達はいないわでろくな生活を送れなくなった。

だが、それを言って友達が少なくなり嫌われても、その時はまだ後悔はしていなかった。

 

でも今は後悔している。

 

携帯の電源を付ける、連絡先を開くとお気に入り登録している一人の名前が浮かんだ。

 

渡辺 曜。

 

冒頭で俺が告白した女の子。

水泳部と最近始めたスクールアイドル部を掛け持ちし、世界でも数人しか出来ないような飛び込みの大技が得意な完璧少女。

俺の彼女になってくれた人。

 

彼女とのトークルームを開く。俺が二週間前に送った『またな!』の後には返信がない。

それだけで全部察せれると思う。

 

天井を見上げる。戻りたいと思って、天井に手を伸ばす。タイムループをただひたすら願う。

『またな!』そう送った日に彼女と俺は遊んだ、健全な高校生らしいデートを満喫した。

終わった後に楽しかった旨の内容と最後にまた会いたいとの気持ちを込めてまたな!と送った。

 

冒頭から俺たちは、初めはまあ楽しく過ごしていた。

お互い恥ずかしがりだった為学校ではろくに話はできず一緒に帰ろうと誘うことやデートの誘いも一切できなかったが、それでも学校ですれ違う際に顔を見合わせて照れて笑うくらいには楽しかった。

その時は、周りの友人達には彼女のことをそこまで意識してない風を装い格好付けていたが、内心は彼女のことしか考えていなかったと言っても過言ではない。

そこまでかっこよく自身の感情はコントロール出来なかった。

何をしてでも彼女の気を引いて居たかった。

中学の時の部活のバスケの試合ですら彼女のことを考えてバスケについては脳死したままプレイして顧問に怒られすらした。

それぐらい彼女のことが好きだった。

 

否、今も好きなんだと思う。

 

閑話休題。

 

彼女とは今上手くいってない、否。元より上手くいってなかったのがさらに悪くなった。

彼女と話そうとすると緊張して声は出ないわ何も考えられないわ。

デートではミスばっかして良いとこ見せられないわ。

そう言ったことが積み重なっていったが優しい彼女は事あるごとにそれらを笑い飛ばしてくれた。

それでいつも救われてた。

 

そして話を戻そう。

 

インキャヨウキャについての俺が要らない正義感に突き動かされた行動の結果は話す必要はないと思う。

独りぼっちになってしまった。

 

カーストというものがある。所謂順位付け。

そのカーストで最下位まで行かなかったのは、偏に、こういう言い方は嫌だが純然たる事実なので言おう。

渡辺曜の彼氏であったからだ。

渡辺曜はヨウキャだ。クラスのトップカーストと言っても良い。だが付き合ってる彼氏はカーストの下。

 

渡辺曜は、俺と付き合ってる所為で学校での居心地が少し悪くなった。

一緒にスクールアイドルの活動をしていて渡辺曜の一番の友人達と言ってもいい高海千歌や桜内梨子と一緒の時は特に何もないらしいが、それ以外のクラスメイトからは俺と付き合ってるのが男女共に良く思われておらず、少し肩身の狭い思いをしている。

 

彼女は少しづつ俺から距離を置いている。

 

勘違いしないように言うが、彼女は俺のクラスでのカーストが下になったからそのような態度を取っているわけではない。

 

俺が彼女が肩身の狭い思いをしていると知って、今まで以上に彼女に対して上手く接せれなくなった。

 

カーストと彼女に対する目に見えづらい迷惑を掛けている自覚で、彼女に対して遠慮してしまっている。

 

関係性が対等じゃなくなった。

 

よって彼女から愛想が尽きてきているように感じてしまう。

そう感じている俺を彼女は知っていて、でも知らないフリをして彼女は俺に気遣って優しく離れていってくれている。

どうしようもないほどダサい自分に嫌気がさす

 

「なら行動しろよ」

 

タイムリープを願う前に何かを変えようと努力しろと自分を叱責する。

この叱責をこの部屋で自分にするのももう何度目だろうか。

 

携帯を見る、今年も夏祭りが一カ月後にある。

『またな!』に対する彼女からの返答はやはりない。でも彼女もこのままは嫌だと思っているとそう信じて、俺は彼女にメッセージを送る。

 

『今年の夏祭りもまた一緒に行こう』

 

そう文を打ち終えて、彼女に送った。

三年前の夏祭りを思い返し、仕切り直しを目指そう。

少しは成長しよう、そう思って携帯を閉じて、彼女に夏祭りでこう思ってることも全部話そうと思った。

それで全部解決すると、思った。

 

そう信じていたかったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

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ここから俺の間抜けは加速する

 

 

 

 

 

 

 

 

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クソ長い坂を登る。朝早くから学校に登校。登校理由は夏休みの課外授業と言ったところ。

いつもギリギリまで寝て居たくて遅くに登校している時よりは幾分か熱気が柔らかい。

朝早くから学校に登校しているのは訳がある。

少し心臓がうるさい。

坂を全体の半分まで登った辺りで彼女の姿が見えた。

渡辺曜だ。彼女がこの時間帯に登校している。それが心臓がうるさいのと今日は朝早くに登校している理由になる。

 

スクールアイドル部に入ってから彼女は朝練のため学校に早い時間に登校している。

鼓動がうるさい。

なんて声をかけようか。

なんて考える頭を振り払う、考えたところで時間が過ぎるだけだ。

 

「よ!」

 

後ろから彼女に声を掛ける。

アッシュグレーのショートヘアーがくるりと振り返る。

渡辺曜がこっちを見た、それだけで死にそうなぐらい恥ずかしさと気まずさに襲われる。

足が止まりそうになるのを無理やり動かして彼女の隣に並んで歩く。

出した勇気は計り知れないが、少しは成長している気はした。

 

「び、びっくりした〜。なんでこんな時間に?バスケ部辞めたから朝練ないんじゃないの?」

 

少し口を震わせて彼女はそう自身の感情と疑問を声に出した。

 

「あ、いやその。あれだ」

 

返答に対する言葉はタジタジで、こういう所は成長してないと思った。

 

「ちょっと早くに目が覚めたから」

 

お前に会おうと思ってと脳裏では言おうと思っていたが、口に出たのは全くの嘘。彼女にも多分バレていると思う。

 

「ふーん、珍しいね」

 

訂正多分じゃなくて完璧にバレている模様。

それでも今更言いなおすのもダサいし、何より恥ずかしいから絶対に言えない、言わない。

 

「でも朝早くに登校するのもいいよねー、ほら、まだお日様が顔を出し始めたばかりだからあんまり暑くないし」

 

彼女もそんな俺の内心を読み取ったのか、何も言わずに話題を振って来た。

彼氏彼女の関係だと言うのに俺はまだこうして会話するのを変に意識して、どうにも口が回らなくなる。

嘘を見逃してくれてるその優しさに縋るように俺も口を開いた。

 

「うん、眠いけどまだマシだな」

「あははー、でも、こうして一緒に登校するのも悪くないね」

 

少し顔をうつむかせて彼女はそう言った。

目の前には校舎が見えてきた。

私立浦の星学園、俺たちが通う馬鹿みたいに長い坂の上に立つこの学校は、今廃校の危機にあっているらしい。

つまりは廃校の危機にあうほどこの地方、内浦は深刻に人が少ない。

その少ない人数だったからこそ、俺は彼女と付き合えたんだと思う。

 

「お、おう。」

 

情けない肯定の仕方だった。もうちょっと他にもあるだろ。

校内に入った、徐に空を見上げる。

彼女は、俺と違い校舎より先に体育館に用がある。つまりはここでお別れだ。

だから精一杯の勇気を振り絞った。

 

「あ、あのさこれから毎日一緒に登校しないか……?それと夏祭り、今年も一緒に行きたい」

 

振り絞った勇気から出た言葉はなんと情けないことか、一切カッコいい所がない自分に対する苦笑が喉から漏れそうになる。

キョトンと彼女は立ち止まって不思議なものをみるような目で俺を見る。

少し顔を赤くした、それだけで心は充足を感じる。

 

「明日は雨だね」

 

恥ずかしそうに笑いながら彼女はそう言った、その返答がなんだか茶化されてる気がしてダメだったかと思ってこっちも愛想笑いして言い返した。

 

「なんだとコラ」

「うっわ、怒ったー、いやだって快斗らしくないんだもん、後笑いながら怒らないの!普通に怖いから!」

 

自身の名前を彼女が呼んだ、少し胸が弾むがバレないように笑う。

彼女は逃げる振りをして自身から距離をとった、反射的に追いかけようとするが彼女が走った先は体育館で俺が向かう場所じゃないことを理解し、足を止めた。

彼女は振り返ってこちらを見て立ち止まった。いい区切りだ、名残惜しいけど一旦お別れだなと思った。

そう思い手を上げ、さよならを合図をしようとする。

 

「じゃあ」

 

またなと言う前に入り込むように彼女が言った。

 

「夏祭りも登校もオッケーだから!」

 

そう言って彼女は走って行った、部活の時間が迫ってて急いでいるんだろうと思った。

やはり名残惜しく感じた、なにせ話したのが久しぶり過ぎた、だからちょっと悲しくなった。

でも、それ以上に登校と夏祭りを了承してくれた彼女を嬉しく思い、ガッツポーズを上げたのは流石に許してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

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私は、どうして嘘をつくんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

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遥か下にある水面を覗き込む。

私はそこに落ちるために、高いところにあるここに登る。

 

現在は放課後でスクールアイドル部の練習も終わって、今は水泳部として得意な飛び込みの練習をしているところだ。

 

屋内のこのプールには他の水泳部員はもう帰って私一人が残っている。

 

水面を覗く。

思考が回る、内容は今朝のこと。

私の彼氏のこと。

 

本当は。

 

 

 

 

 

 

 

別れるつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理由は、快斗がクラスで浮いてるからでも、それで私に対して重い目を感じたりしていることでも、ない。

 

始めからだった。

本当は、あの夏祭りで告白された時にきちんと、ごめんなさいと言うべきだった。

でも、ごめんなさいと振って快斗を傷つけるのが嫌だった。

偽物の関係を作る方が私も快斗も傷つくと本当は分かっていた。

 

でも、それでもどこか今じゃないタイミングで振れば良いと思った、まだその方が夏祭りのあの花火の時に振るよりもお互いに傷つかなくて済むような、そんなことを考えていた。

 

水面を眺める。

息を吐いて、飛び込んだ。きっと今の不安定な心じゃ上手く潜れないな、なんて心の何処かでそんなことを考えながら。なら飛び込まない方が賢明だと私も思うけど、今は水に打たれたい気分だった。

 

水面には殆ど音を立てずに飛び込めた、否飛び込めてしまった。

冷たい水の感覚が私を包む、痛い思いをしたいと思いながらも、でも自分でも綺麗に飛び込めたと思ったのは素直に快感だった。

体をプールの水に任せる。

少ししたら私は浮かび上がるだろう。

 

私は快斗に酷い態度をとり続けている、形だけの彼女を演じている。

悪女だ、自分を非難してちょっと苦笑する。

 

水の中で、酸素が足りず体が苦しくなる、でもそれ以上にずっと心が苦しい。

快斗は、うんまぁ。その、良い男の子だと思う、好感は持てる。

けど恋愛感情となると話は別だった。

 

それに、私は快斗に恋をしちゃいけないと思っていた。してはいけない理由があった。

 

プールサイドに出て、また、飛び込むために高台に登る。

また高台の上から水面を見る。私は何をしているんだろう。

全部言おう、夏祭りも誘われた。いうのにはぴったりの機会だし、それにこんな最低な私はどう思われたって仕方がない。

でももうさすがにこれ以上嘘をつくのは絶対良くない。

 

水面を眺める、プールの水は何処か重そうで、自分のしたことの重さが現れている気がしてちょっと目眩がした。

 

息を吐く。私は、生きてて良いんだろうか。そう思い水面を見る。

飛び込みは命懸けだ、ちょっとのミスで大怪我をする。最悪死に至る。

集中しろ、自分に叱責する。でも死に至った方がいい気も今はした。

そんな暗い考えが脳裏をよぎる、私はこんなことしてて良いのか。

一刻もはやく快斗に、ごめんって言うべきじゃないのか。

 

飛び込んだ、今度も綺麗な着水だった。

視界いっぱいの水の色は綺麗で自分がプールに浮かぶ染みに思えてきた、なんてそんな自虐が文字通りプールに浮かんでくるかのようだった。

 

私は何者なんだろう、快斗を傷つけて自分も傷つけて。

答えは出ている私はバカだ、でもバカでも罪は償わないといけないなってことくらいは、分かっているつもりだ。

 

夏祭りの日は、うんといっぱい好物を買ってあげて、うんといっぱい怒られて謝ろう。

 

プールを出た今度はさっきよりはやく出た。水に髪が引っ張られた気がして振り返った。

水に映る私の顔はなんだか________だった。

 

それでも私は、千田快斗のことを好きになったらいけない理由が、やっぱりある。

 

だって私は快斗のことが好きじゃなかったのだから。だから傷つかせないように好きになるなんて、そんなの嘘だ。

 

 

 

 

 

 

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淡くて儚い夏の思い出を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「もうなんで千歌がそんなこと手伝わなきゃいけないの!」

「頼む!一生のお願い!相談に付き合ってくれ!」

 

あれから曜とは前よりは上手く行ってる、朝はいつも一緒に登校してるし会話もまぁ悪くない。

現在俺は目の前にいる人物に全力でお願いをしていた。

相手の名は高海千歌、俺と曜の幼馴染でオレンジの色の髪が特徴な美人でかつ曜が入っているスクールアイドル部の発足人。

そんな相手に俺がお願いしている内容は

 

「お願いします神さまみかんさま千歌さま!夏祭りの日にどう行った行動をすれば女子の皆様は喜ぶのでしょうか!?」

「うぅ……私だって分からないよ彼氏なんていたことないし……」

 

高海千歌とは昔から仲のいい異性の友達のうちの一人だ、かつ千歌は曜とも仲がとても良い。

つまりは俺が気兼ねなく相談できる唯一の異性と言ってもいい。

高海家、正確には高海家が経営している旅館の千歌の部屋で俺は土下座しながら千歌にお願いを続ける。

 

「頼む!彼氏がいる状態を想像してくれ!」

「無茶振りが過ぎるよ!」

 

返答は、できないー!といいながら座ったベットをバタバタ叩く千歌の姿だった。

 

「うーん、まぁそうだよな、千歌に想像なんてことできるわけないもんな」

 

普通にお願いしても効果はなさそうなので煽るようにそういうと千歌はうー、と唸ってから少しため息ついて言葉を吐いた。

 

「別に、普通に屋台まわって食べ物買って遊んでたら満足すると思うよ、好きな人と一緒なら、だいたい満足だよ……」

「いやそれじゃダメだ。まずそれを俺はできない。一体今までどれだけ話してこなかったと思うんだ。まず屋台回るのに何から回るかでお互い絶対譲り合う。つまりそのまま平行線でダメになる。一番はじめにどの屋台に行くのがいいんだ」

「いや、そんな自信満々に今まで曜ちゃんと喋ってなかったって言われても……あれじゃない?えーと、そう!自業自得!」

 

呆れながら千歌は俺にそう突きつけてくる。

ぐっ。

たしかにその通りだ、自業自得でしかない。

しかしだからこそ、これからは上手くやるしかない。

打てる手は全部打っておかないとダメだ。

俺は渡辺曜の彼氏として怠惰はもう許されない。

 

「いや自業自得なのは分かってる。けど、だからこそ今の俺は償わないといけないんだ」

「……はぁ。いいなぁー!曜ちゃんも快斗も楽しそうな夏休み過ごせてて!」

 

またバタバタと千歌は布団の上で暴れ出す。

私も彼氏欲しいー!なんて、そんなことを言う。

 

「……でも、本当に変に凝ったことする必要はないと思うよ。

そうやって夏祭りを楽しく過ごそうって思ってるなら絶対楽しく過ごせると思う。」

 

千歌は体の動きを止めて、俺を見つめた後そう言った。

いやに確信のこもったその声に、とりあえずそうだなと頷いた。

それを見て千歌は満足したのか、ニヒッと笑った。

 

「あぁ〜あ、昔は曜ちゃんと快斗と私の三人で夏祭り回ってたのになぁ……今は快斗が曜ちゃん好きすぎて千歌は曜ちゃんと回れないよ〜」

「そこは我慢しろ」

 

幼馴染だからか、割とこういうことはズバッと言える、曜にも同じように言えたらいいのにとそう考えるが卑屈になるだけだから辞めておく。

 

「むー、なんだその言い方はー!」

「はいはい。……いつもありがとな千歌」

 

千歌に適当に返事して礼の言葉を言う。

俺の返事に不満気な顔をしていたが礼の言葉を聞くとポカンとしてから少し千歌は俯いた。

なんで俯くのか分からなかった、千歌のことだから適当に何かを要求するだろうと思ってただけに、その予想と違った態度にどうすれば良いかも分からなくなった。

 

「……ずるいよ、そうやって……私だけ……」

 

仲間はずれに。言葉に出なかったがそう言うことだろうか。

それとも、曜ちゃんと遊べない。だろうか。

分からなかった。

どっちもだと思うし、違う何かかも知れない気がした。個人的には、仲間はずれに。だと思うけど何にも確証がなかったから何も言えなかった。

 

「……」

 

千歌が無言で俺のシャツの裾を握ってくる。

 

「辛いよ」

 

急に変わった空気に少しついて行けなかったからか、その言葉を聞き取るのに時間が掛かった。

何が辛いのか。やっぱり仲間はずれだろうか。

何か言わないと、そう思った。だからとりあえずは声を出した。

 

「大丈夫」

 

なんの根拠もなく言葉を吐いた。

とりあえずはそう呟いた。

あるいはそれは、千歌にじゃなくて自分に言ったのかも知れなかった。

そう思うと、少し逡巡した。大丈夫?俺は一体何が大丈夫じゃないんだ?

微かな疑問が脳裏を過ぎり俺も顔が少し曇る。

その俺の曇った顔を見て多分千歌は勘違いしたんだと思う、千歌は何かを思うように愛想笑いを浮かべた。

 

「……えへへ。ごめんね困らして」

 

何か、俺からきっと勘違いした何かを察したのか、千歌は誤魔化すように謝って笑った。

昔から人の顔色を伺うのが上手いやつだった、だから曇った表情をした俺をみて、そんな俺に遠慮して自分の気持ちを誤魔化して、笑ったんだと思った。

 

「……あ、いや俺もなんかごめん。…でも相談乗ってくれたのは本当にありがとうな、すげぇ助かった。」

「……うん、頑張ってね!」

 

言葉始めは声に力が無かったが、後に連れて千歌の返事は大きくなった。

相変わらず愛想笑いは続けたままで。

 

 

 

 

 

 

 

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淡くて儚い。

 

嘘だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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夏祭り当日。

目の前の行き交う人々は最早見ることすら苦痛など溢れかえっていて、曜と二人で来たのはいいが、祭りを回る前にとても活力を持っていかれそうになる。

 

「いやー、やっぱり人が多いね。皆花火見に来てるのかなぁ……でも曜ちゃん予報的には今夜は雨だと思うんだけど、大丈夫かなぁ」

 

俺の彼女は体感で天気が分かるらしく本人曰く今日の夜は雨らしい。

祭りの日になんて不吉な。と思うが、実際天気予報でも雨と出ていたため仕方ないと思うし、(地味に曜は凄い)それに今は雨が降ってないから、いいやと頭の中からネガティブな内容は振り払う。

 

「だな、人多すぎて祭り回るのが疲れそう」

「うーん……はぐれちゃいそうだよね」

 

苦笑しながら曜はそう言うと俺に左手を差し出した。

 

「?」

「手、繋いで行こうよ」

 

ドキっとした。思わず身を引いてしまうほど。

しっかりしろ千田快斗。今日一日は上手くやると決めたんだろ。

ごく自然に、意識してない風を装って渡辺曜の手を取った。

 

「えへへ。なんだかそれっぽいね」

 

また心臓が跳ねた。言葉の裏には今までは恋人らしくないとのことが含まれているが、それが気にならないくらいまた心臓が跳ねた。

しっかりしろ千田以下略。

 

「おう、でもこれで安心して屋台回れるな」

 

内心の焦りを一切合切みせずに受け答えをする。勿論体の内側は完全に決壊したダムみたいに荒れ狂ってる。

夜風が心地よい、人波で篭った熱を吹き飛ばしていく。

少し回復した体に気合をいれるかのように祭りの中央に向けて踏み出した。

 

「あ、りんご飴だ。ほらほら快斗!焼きそばもあるよ!」

「良し全部回るぞ!!」

 

その後は素直に楽しかった。祭りを普通に回ってテンション上げて、はしゃいで。

一つやらかしたことと言えばりんご飴を地面に落としてしまったことか。

それ以外は本当に楽しかった。

普通の高校2年が夏祭りを楽しんでるいる姿と言っても、俺にとってはとても特別に贅沢に非日常的に楽しかった夏祭りだった。

 

現在は買ったお面や金魚やたこ焼きを持って中学の時に俺が告白した場所に向かっている。理由としては花火を見るのに丁度良いし、〆を括るならここだと思っている。

 

「うーん。たくさん買いすぎちゃったね」

 

両手一杯だよ、と彼女は微笑みながらそう言った。

その一コマだけで何よりも幸せになりそうになる。

坂道を登る、途中で荷物が多くなり手を離したことがそういや残念だなと右手を見て思った。

隣の彼女は普通に歩くのがつまらないのか石ころを蹴りながら登っていく。

 

「うん、はしゃぎ過ぎちゃったな」

「だねー、でも祭りの日ははしゃぎなきゃ!」

 

また彼女が微笑む。楽しそうに踊るように先程までサッカーのドリブルを思わせるように蹴っていた石ころを遠くに蹴り飛ばし、止まった。ようやく中学の時の始まりの場所にたどり着いた。

 

この場所に立ちこの場所に来たと思うと3年も前のことなのに、色んな感慨が生まれそうになる。

 

もうこの時、俺は彼女に今までどう思っていたとか、ちゃんと仕切り直しと謝ろうと言った気持ちは消えていた。

祭りがあまりにも楽しかったからだろうか、それとも曜と一緒が楽し過ぎたからだろうか。

楽しい時に嫌なことはしたくないと言った普通の気持ちが溢れてそう言う気持ちは消えていた。

 

「なんか懐かしいな」

「…………だねー」

 

過去の思い出に浸る、告白した時のことを思い出し、恥ずかしさと嬉しさが過ぎる。

振り払うように先程曜が石ころを蹴り飛ばしたのを真似るように俺も近くの石を探して蹴り飛ばした。

 

ドーン!ドドドドドーン!!

 

少し遠くで大きな音が鳴った。

思わず曜と一緒に音の方向を見ると赤や橙の花火が打ち上がっていた。

一瞬で色を散らして消えて行く花火が幻想的で夏の終わりの蝉を何故か思い出してしまった。

二週間で死ぬ命と一瞬で消える花火は短いと言った所以外に似てる所はないと思うのにそれでも何故か蝉が連想された。

 

「花火……始まったね」

「うん、凄いな」

 

曜が花火に見入ったままそう告げる、それに対して素直な感想を漏らすとすぅーと息を吸い込む音が聞こえて、曜の方を向く。

たまやー!とでも叫ぶのだろうか、彼女ならやりそうだなと思い少し微笑を浮かべた。

曜は花火に見入った状態から俺の方に向き直って口を開いた。

 

「ごめん、快斗」

 

言葉を聞き取り内容を吟味にするまでに時間がかかった。

老人かと思うほどその言葉が聞き取れなかった。

予想と違ってたことによる嫌な予感と花火と蝉と俺が浮かび上がった。

何がごめんなのか、謝るのは俺の方だ。

何故彼女が謝るのか。

答えは脳裏で出ていて警鐘が鳴っている。

 

「急にごめん、快斗。別れ、よう」

 

少し途切れ途切れなりながらも力強い意思を感じる声で曜はそう言い切った。

 

「なんじぇ……」

 

なんで。と言おうとしたが声が震えて掠れた。

どうしようもなく動揺しているのが強制的に理解できた。

花火の音は途切れない。なんとなく鳴り止めばそれが最後な気がした。

 

「本当は、私は快斗と付き合いたくなかったの」

 

なんでそんなこと言うんだ。

今まで無理をさせていたのか。

何故俺はダメなんだ。

ならなんで付き合ってくれたんだ。

 

様々な言葉が喉に引っかかって気持ち悪くなって吐きそうになる。そのまま言葉達も吐き出せたらまだ気分はマシになるだろうか。

言いたい言葉に合わせた感情が自分の中で混ざり合ってぐちゃぐちゃになってよくわからなくなる。

でもやっぱりぐちゃぐちゃになっても唯一わかるのは悲しみだった。

 

「ごめん」

 

また彼女は謝る、頭を下げる。

 

ポツポツ

雨が少し降り始める。傘はお互い持ってきている。

 

「……」

「……」

 

お互い何も言えないまま時間が過ぎる、俺は曜を見ていた、何か言葉を発せるように。曜は地面を見ていた何も聞かないように。

やがてざあざあと雨は強くなる。

雨が降り始めたからか花火の音は消えた。アナウンスで中止の音が遠くから聞こえる。

 

「いや、俺こそごめん。今まで無理させちゃってたよな、悪い今まで気付かなかったなんて馬鹿みたいだよなー」

 

ハハと乾いた笑いを続ける、どう見たって強がりだった。

 

「本当にごめんね」

 

その言葉を最後に彼女はクルリと振り返って俺から離れて行く。

聞きたく無かったその言葉、雨が吸ってくれたらどれほど幸せだっただろうか。

雨が強くなる。

 

予報通りの雨に打たれる。

 

予報が外れてたらまだマシだっただろうか。

 

予報通りの雨に打たれる。

 

俺は彼女を追いかけることも家に帰ることも出来ずその場に佇み雨に打たれる。

 

予報通りの雨に打たれる。

 

この結果も予報通りだったのだろうか。

 

予報通りの雨に打たれる。

 

淡くて嫌に忘れなさそうになった夏の思い出だった。

 

予報通りの雨に打たれる。

 

今は心から雨に打たて居たい(痛い)と思った

 

いきなり後ろから着ているシャツが引っ張られた。

少し振れるように、心は驚いたが少しも振り返る気力が湧かなかった。

 

「……風邪、引くよ。傘ささないの?」

 

聞き慣れた声だった。千歌の声だった。

 

「……聞いてたのか」

 

僅かな気力を振り絞ってそう声を出した。

 

「……うん」

 

千歌は肯定した。それ以上は何も言わなかった。

なんで居たのかとか、なんで聞いていたのかとか、疑問は浮かんだがどうでも良くて声に出なかった。

 

「傘、ささないの?」

 

千歌はそう言って俺に自分の傘の中に入れようとする。

 

「雨に、濡らされたい気分なんだ」

 

情けない涙声が漏れた。自分が泣きそうになってることに気づかなかった。

いや気付いていた。だから雨に打たれたいと思ってたんだと思う。涙が雨と共に流れてくれるのを願ったんだと思う。

千歌の傘を少し横に退けて要らない意思を伝える。

隣に立った千歌はそっかと言って傘を閉じた。

 

「お前、風邪引くぞ」

「私も、一緒に雨に濡れたい気分なんだよ」

 

 

予報通りの雨に打たれる。

雨は痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

________・________・________・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏は白くて青くて切なくて、そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________・________・________・

 

ーー思い出か、夢か。そのどちらかを見ている。

 

高台に男と女の二人が登る、空は曇ってて、でもたくさんの花が咲いていた。

 

ーー結末は知っていた、ここ最近よく思い出し、よく見る夢だ。

 

女の顔にはモザイクがかかってて、男は浮かれてニヤニヤと笑いながら空に咲く一瞬の花達を眺める。

まるで何かに焚べられるように消えていく花を、男は永遠をそこに感じるかのように見る。

 

ーー女の顔は思い出しくないのだと、見ていると痛く思い知らせられる。

 

女が男に何かを話しかける、男はそれに対して表情は保って話を聞いていく。

ただ空に咲く花火に対する目の向け方はどこか変化を感じた。

 

ーーそこから先は止めろ。結末は知っている。

 

永遠は消えて、焚べられていくその花を噛みしめるように男は空を睨む。

やがて女は消えて雨が降り始める、焚べられた花達は何の成果もあげられなかったように雨に消され、流されていく。

 

ーーこの先に望んだものがないことは分かっている。

 

男は雨に濡れていく、濡れすぎて雨と一緒になったかと錯覚するように男も消えていく。

輪郭がギリギリ残っている、あれが、全て消えたら、男はどうなるんだろうか。

 

 

ーーきっと、取り戻したいだけという、情けない女々しさがありありと映し出されるだけだ、だから、もういいだろ。

 

 

目覚めは最悪だった、ここ最近良くこの夢を見る、自身が引きずっているのは分かっているが心地良く寝れないとまで来ると重症だなと苦笑が漏れる。

寝巻きを脱ぎぴっちりと自分のサイズにあったシャツを取り出し、それを着る。

他には少し大きめなシャツ等もあり、いつもは気にせず選ばず着るが、ここ最近はぴっちりした物じゃないと自分の中から色々な感情が抜けていきそうで、選んでぴっちりした奴を着ている。

 

 

夏祭りが終わってから俺は特に意味もなく外を歩いた。

目的も得るものも自分の心すら不明瞭なまま、ただ闇雲に色んな場所を回った。

たまに千歌が付いてきた、次第にそれは毎日のことになった。

あの日以降千歌に心配されているのは分かっている、でもだからこそどう接したらいいか分からず今日も俺からは何も話すことは無く、ただ千歌を後ろ隣に置いて町を歩く。

 

まだ夏が終わらないように、町の中から彼女と夏の匂いを探すように歩き回る。

時折クラスメイトに会い、不可解そうな顔をされるとその度に何かを思い出しそうになった。

 

他には一度、千歌と食べたコンビニのアイスが美味かったのが印象に残っている。

でもなんだか泣きそうになったからアイスを食べたのは一回だけだった。

 

夏と彼女の匂いをやはり探すように町を徘徊した。一種のストーカーに思えてたまに苦笑した。

 

本人に会えた日はない。

無意識に彼女が居そうな場所を避けてるのだと思った。

 

未だに心の整理はついてない。

それでも理由は分からないが夏を終わらせたくなかった。

 

今日も夏を終わらせないように無駄な努力を積み重ねようと、外にでる。

携帯が鳴った、恐らく千歌からだろう。少し待つとトタタタッと早歩きで千歌が来た。

 

「おはよう」

「ん、おう」

 

朝の挨拶を軽く返して今日もこの町を散策する、目的場所もなく成果も期待できず、それでも縋るように歩く。

 

朝から歩き昼になった、連日歩き回っているからか、足の裏が痛い。

昼飯をどこかで食おうと思ったその時に、千歌から声を掛けられた。

 

「ねえ快斗、今夜、気分転換に蛍を見にいかない?」

 

心配そうな顔をしながら少し後ろ隣を歩く千歌が言う。

話の内容は、多分、直訳で考えると励まそうとしてくれているんだと思う。

ただそれに対しての感情は湧かなかった。

蛍、蛍か。

それも夏な気がして良いと思った。

 

「しまねえが車出してくれるからさ、ね」

 

不安気に千歌は俺の方に聞いてくる。

特に断る理由も無かった、もし蛍を見れば夏に区切りがつくだろうかとそんな淡い期待が脳裏をよぎる。

俺は本当は、ただ吹っ切れたいだけなのだろうか。それは言葉にすれば本当にそうなりそうなほど、しっくりくる今の自身の感情に思えた。

だから、せっかくだし蛍を見に行こうと思った。

 

「うん、見に行こう」

 

明るく元気な声は出せないがそれでも返事はした。

少し安心気な顔を千歌はした。それを見て少し笑いながら町を歩き昼飯を食えるところを探す。

未だに、それでも俺は彼女の影を探していた。

 

夜になった、千歌との約束で蛍を見にいく。

家の前に迎えに来ると言っていた千歌を待っていると程なくして車が来る。

 

「快斗!後ろに乗って!」

 

言われるがまま後ろの座席に乗る。隣には千歌が座っていて前の運転席に千歌の姉である志満さんが座っていた。

必然的に千歌との距離が近くなる。千歌の匂いが鼻を掠めて女の子の匂いがして、条件反射で幼馴染相手に少し緊張した自分がアホらしいと思った。

 

「蛍、たくさん居るといいね」

 

千歌はそう言って微笑みかけて来る。

無邪気な笑顔、まるで子供が持つ夢のようなそんな純真無垢な光を願った言葉を千歌は言った。

 

「うん。夏っぽいしな」

 

そんな千歌に俺はどうにもうまく返せない。

でも夏らしさを求めていたから、嘘はつかないようにそう答えた。

 

車で約一時間、具体的な時間は約52分。千歌が見に行こうと言っていた蛍の住処に到着した。

車から降り千歌と一緒に奥に進んでいく。

 

「この先にね、蛍がたくさんいるんだって」

「あね……そういや千歌って虫とか大丈夫だったけ」

 

凄く久しぶりに長い言葉を言った気がする、口を開くと自分ですら知らない思いを吐き出しそうだったからか、無意識に喋らないようにしていたのか。そう自分を分析してほんのちょっと笑いそうになった。

 

「んー。触るのは嫌だけど、見るのはへーき!」

「なるほどな」

 

奥に進む。程なくしてひらけた場所に出た。

川のせせらぎが聞こえてくる。

その音に導かれるように進むと、一つの光が見えた。

 

「蛍だ」

 

千歌が言った。

 

「蛍」

 

俺が言った。

 

「「蛍だ」」

 

二人で言った。

 

上手い言葉も何もない、見たものをそのまま言った。小学生みたいなそんな感想が小さく響き、答えるように光の数は増していく。

囲むように、舞うように宙を照らしていくその光は夜の闇に溶けるように消えていくが、それでもまた光る。

 

「綺麗だよね」

「うん」

 

千歌の言葉に共感する。綺麗だ、憧れすらするかも知れない。来世は蛍として生きてみたいとすら思う。

幻想的な風景、暗闇を照らしていくその蛍達の命の輝きは綺麗だ。

 

「でもね、ここはね。えーと、上を見てみて」

 

千歌に言われるまま、蛍達の輝きから目を離すのを名残惜しく思いながら空に目を向けた。

 

大銀河。

 

この表現があっているのかは分からない。でもそれ以外言葉が見つからなかった。

きらめくように空にはたくさんの星が瞬いて、輝いて。

蛍達に負けないくらい綺麗な星が並び、それは俺たちを照らすようにまばゆい光を撒き散らす。

 

「良い場所でしょ?」

「うん、来れて、良かった」

 

途切れ途切れに言葉を漏らし吐いた。

 

「ここ、すごいなぁ。なぁ、ここにあるもの全部、綺麗だ」

 

儚い命が放つ明かりも、見守る星々の光も、周りに穏やかに育つ草花も、川から聞こえるせせらぎも。

全部、全部。泣きそうな位綺麗だ。

 

「うん、だよね。だからここに連れて来たんだよ」

 

千歌がはにかみながらそう言って周りをグルグルと歩き、たまにステップを踏み踊るように回っていく。

 

妖精のようだと思った。

 

周りの雰囲気が、幻想的だからそう思ったのに過ぎないのは分かっている。

幼馴染を妖精と思うなんてな、そう自分を苦笑する。

バカみたいなことを思った自分に少し驚愕しながらも、頭から流した。

 

「ここなら言えるかなーって思ってさ。」

 

「私ね、快斗のこと大好きだよ。この世界で一番好き」

 

比べられない位の衝撃が襲った。

俺の意識と意味と頭と体と命の全てが、高海千歌に向けられる。

意味を理解するのは容易かった、飲み込むのは未だにできてない。

 

「え、あ」

「あはは、びっくりした顔してるね快斗」

 

無邪気に恥ずかしそうに千歌は笑う、誤魔化すように先程より大袈裟なステップを踏む。

その一挙一動に目を惹かれる。

俺から離れるように、俺に近づくようにその大袈裟なステップを踏み続ける。

しばらくして飽きたのか、千歌は大きく俺の目の前まで足を伸ばした。

目が合う。心臓だけがうるさい空間が形成される。

距離が近い。いや当たり前か。

 

「ん」

 

目を閉じて千歌は背伸びをして俺に正面から顔を寄せる。

するのか、していいのか。唇がすぐそこまで来ている。

千歌が来ている、千歌()いいのか。俺は、千歌()いいのか。

唇はもう触れ合う寸前だ。

答えはーー

 

『ずっと好きです!付き合って下さい!!』

 

ーー千歌の肩を抑える、できないとそう伝える。

そうだ、俺はあの時、ずっと好きですと、そう言ったんだ。

ずっと好きと言ったならそれは、馬鹿かも知れないがずっと好きじゃないとダメだ。

千歌は目を見開いて、少し離れた。ほんの少し寂しそうな顔をチラッとしたがすぐに笑顔に戻した。そのまま開こうとする口を抑えた。

 

「悪い、千歌が嫌いなわけじゃない。いやむしろさっきまで多分惚れかけてた。でも俺は曜に、ずっと好きですって言ったんだ。それを思い出した。

……俺は今、千歌()いいのかって思ったんだ、それじゃダメだ。ダメなんだ。だから、だから「うん、なんとなくね上手くいかないって分かってた。」

 

だからの先の言葉が見つからなかった、上手く言葉にできないでいると、千歌が今度は逆に俺の口を塞いで言葉を吐いた。

 

「快斗は昔から曜ちゃん一途だったの知ってる、知ってるけど今夜、私()良いのかって迷ってくれた。私はそれで満足。」

 

手を離し千歌はまた踊るように周囲でステップを踏む。それは妖精が森に帰るようにも見えて、咄嗟に俺はその後ろ姿に手を伸ばした。

瞬間、千歌は振り返ってニヒヒっと妖精に似つかわしくない笑顔を見せて俺も少し苦笑した。

スゥーっと息を吐いて千歌は上を見上げた。俺も空を眺める。

 

「でもね、快斗と曜ちゃんの言葉に決着がついたらいつか、私()良いってそう思わせてやるんだ。」

 

そう千歌が良い終わった瞬間。

 

「あ」

「あ!」

「「流れ星だ」」

 

二人同時にそう声をあげた。

星々の大銀河を一つの線が通り過ぎって行った。

幻想的な星達の中で大きくそれは自己主張するように、俺たちの頭上を光らせて行く。

それは数多の願いを叶える一つの尊い光の道筋で、だからまるで。

 

「これで私の願いが叶うことは決定したね」

 

ニヒヒってとまた千歌は今度は先程より少し恥ずかしそうに笑う。

返答に困った。

困ったけど、なんだかその千歌の笑い方に力が抜けて、あの祭りの日以降ひさびさに俺もふざけたくなった。

 

「馬鹿言うな、流れ星に願いを任せるやつが願いを叶えれるわけないだろ」

「むぅー」

 

千歌が少しふくれっ面になる。その顔が素直に面白くて、吹き出しそうになるのを抑えて笑った。

 

「あっははは」

「ぷっ、ふふふ」

 

やがてお互い少し抑えながら笑う、やがて堪えれなくなって大声で二人で笑う。笑い合う。

蛍の住処に似つかわしくない笑い声が響き合う。

笑い声が消えるまで随分時間がかかった。

笑い声が止むと俺たちはどちらともなくまた星を眺め始めた。少し気まずい気持ちを誤魔化したかったのかも知れない。

 

「快斗。」

「ん。」

 

千歌が俺の名前を呼ぶ。

 

「好きだよ」

 

もう一度告白を受けた。

今度は狼狽しなかった。

 

「さっきも聞いた。」

 

告白の返答としてはずさんな、でもそれで良い気がした返答をした。

 

「うん、でもね。快斗。好き」

 

一つ一つの言葉に間をつけて千歌はまたも好きとそう言う。

その言葉が胸に落ちて行くたび、ダメだと分かってもドキッとしてしまう。

 

「今はね、快斗にね、私の好きって気持ちを伝えたいだけなんだ」

「……よくそんな恥ずかしいこと言えるなお前」

 

そう返答すると千歌がまたこちらに寄ってくる。

暗くて今までよく見えなかったが、赤く色付いた頬。トロンとした目。それを認識してまた胸が鳴った。

 

「快斗、好きだよ」

「ち……か」

 

再四の告白。4回目は流石に狼狽した。

また千歌はキスを求めるように俺の顔に顔を寄せる。

どうしたらいいかわからなくなる。

甘い匂いが漂ってきて、理性が死にそうになる。

柑橘系のその匂いも柔らかそうな唇も千歌の表情も。その全てが脳にダレイレクトに訴えてくる。

頭に、変な強がりはやめて受け入れたらどうだ、との声が響く。

それでも、それでも俺は。

 

初めて告白したあの日を嘘にしたくない。

 

千歌の肩をまた抑えて首を振る。

ダメだとの意思をちゃんと伝える、

 

「うん。そうだよねでも」

 

キスくらいしても良いじゃん。

拗ねたように千歌はそう言って、またお互い爆笑した。

二度目の笑い疲れが襲われる。

また空を見上げる。

 

「快斗、帰ろうか」

 

千歌が立ち上がりそう言った。

その言葉に異論はなかったため俺も立ち上がり、来た道を元に戻る。

帰り道は下らない話をして、志満さんが送ってくれる車の中でもたくさん下らない話をした。

そうして俺の家に着いた。

自宅の玄関前に千歌と一緒に降りる。

後はさよならを言うだけだ。

千歌もそれを分かっていてその四文字を吐き出そうとするが、俺がそれを遮るように先に声を出した。

 

「今日はありがとな、千歌。おかげでだいぶ楽になったというか……元気になった」

「うん……快斗。快斗はこれからどうするの?」

 

曜ちゃんのこと。少し小声で俯いて千歌はそう言った。

 

「腐ってても仕方ないって思えたから今から行く、遅い時間だけど多分曜は起きてる。だから今から曜のところに行ってくる」

「……本当に曜ちゃん一途だなぁ」

 

千歌はそう悲しげに苦笑を漏らした。

少し心が痛んだ。

正直、自分でも馬鹿だと思うことをしようとしている。こんな夜遅くに。迷惑だ。

それでも、決着は付けないといけない。行動しなければ何も変わらないのだ。

 

「うん、そっちの方が快斗らしいよね」

 

苦笑して困ったように千歌が言った。

 

「おう、だから行ってくる」

 

自分に言い聞かせるように俺は言った。

曜の家に向かって走り出し千歌から離れて行く。

 

「快斗!」

 

千歌から少し離れ始めたところで、千歌に大きく名前を呼ばれた。

振り返ると千歌は目をぎゅっとつぶり口に手を広げる形で当て

 

「走れ!!!」

 

そう近所迷惑にもなる大きな声で叫んだ。それが走り出しの合図になった。

 

「走る!!!!!!」

 

もっと大きな声で返して、全力で走り出した。

それがスタートラインの合図になった。後は走るだけだった。

止まるな。

絶対に止まるな。

こういうもんは感情に任せろ!冷静になんてなるな!

そう自分に言い聞かせて大きく股を広げて走る。

走る。走る。走る。走る。

等間隔で建てられている電柱や民家が過ぎ去って行く。腕大きく振りもっと速く駆け抜ける。

息を吐いて吸ってもう一歩。

もっと前へ前へ前へ。

好いてくれた女に応援された以上絶対に止まるな。

そう呪いのように自分に言い聞かせ夜の街を疾走する。

止まらず目的地まで止まることなく。

やがてどれくらい走っただろうか。無我夢中で走っていて時間の感覚がない。

ただ体に酸素が足りてないことだけが分かった状態で渡辺曜の家にたどり着いた。

 

「……快斗。」

 

曜の声が聞こえた。まだインターホンは押してないはずだ。

汗を振り払い前を向くと玄関先の扉の前に曜は立っていた。

 

「ぜぇ……はぁ……、なんで?はぁ……」

 

呼吸をしながら疑問だけとりあえずぶつけた。

 

「千歌ちゃんが、快斗がくるって」

 

携帯の画面をこちらに向けて少し声を震わせながら曜が言った、千歌が先に手回しをしてくれてたのかと感謝をした。

呼吸を整えて曜をまっすぐ見る。

前までは恥ずかしさに押しつぶされていたが、今回は絶対に目を逸らさないと覚悟ができていた。

 

「曜。ずっと好きだ」

 

すんなりと言葉が出た、とてつもなく自然にその思いを吐き出せた。

返答の期待はしていなかった、ただ先程の千歌の気持ちは分かった。

今はただ、曜が好きだというその気持ちをただ伝えたいだけだった。

曜は俺のその言葉を聞いて、破顔して泣きそうに唇を噛んでいた。

 

「なん、で。」

 

今度は曜に疑問をぶつけられた。

好きに理由はいるのか、要らないと綺麗事を飾るならそうだと思う。

でも、理由があった。

 

「ずっと」

 

俺はそう、いやあの日よりもっと前から

 

「ずっと」

 

この気持ちを持っていてそれは

 

「ずっと」

 

今でも、色褪せることなく胸の中で輝いて

 

「ずっと好きです!!!付き合って下さい!!!!」

 

 

 

消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

________・________・________・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちの心を照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________・________・________・

 

 

 

 

 

 

 

前を向けた。前を向いた。

悲しいことはあった。

泣きそうなこともあった。

 

夏は、複雑で熱くて色々なものが陽炎で滲んで分からなくなる。

自分の心さえ。

それでもその中で見つけたものはきっと。

 

そんな夏ももう終わる。

また彼女に来年のことを話そうと思う。

 

それは祭りことなのか、蛍のことなのか。

見上げた空にあるのは花か流星か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どっちの結末でも儚く綺麗で、俺は()()




オチはご想像にお任せします。

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