最悪間に合わなければ誕生日のやつだけごり押します()
問題は明日5回目のフィルムライブ行くから時間危ういことだぞい!
さて、今回は燐子と奏多の他に2人しかメインキャラが出ない珍しい回になりました。
それでは本編どぞ!
始まりは両親に連れられて見に行ったピアノコンサートでした。
演奏が始まった時に幼い頃の私は衝撃を受けました。
周りに人がいっぱいいて怯えていた私を、ピアノの音が包み込んでくれて、とても安心できて、私もこんな演奏ができるようになりたいと思ってピアノを始めました。
たくさん練習して、コンテストに出て賞をとると両親やピアノの先生がとても褒めてくれて、それが嬉しくて楽しくて、私はいつの間にかピアノの虜になっていました。
「すごい、燐子ちゃん!そんな難しい曲、もう弾けるようになったの!?」
「はい・・・たくさんれんしゅうしました・・・」
「ふふっ・・・燐子ちゃんは本当にピアノが大好きだね。楽しそうに弾いてる燐子ちゃんを見ると、先生もなんだか楽しくなっちゃうな〜」
「えへへ・・・」
「その曲が弾けるなら、もっと大きいコンクールにも出られるよ。ね、よかったら挑戦してみない?」
「こ、コンクールは・・・えっと・・・」
「大丈夫。燐子ちゃんはいろんなコンクールでも賞を取ってるし、大きなコンクールでも上手にピアノを弾けるよ!」
「は、はい・・・」
・・・そんな感じで、もっと大きなコンクールに出ることになったんです。
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そこまで言うと、今まで黙って聞いていた友希那さんが少し驚いたような顔をして発言した。
「少し意外ね。燐子なら、コンクールはもっと嫌なものだと思っていたわ。」
「嫌じゃなかった訳では無いです・・・人がたくさんいるので・・・あの頃も、ずっと怖い場所だと思っていました・・・でも、コンクールに出て頑張ると、みんな喜んでくれたんです。お父さんやお母さん・・・それに、ピアノの先生が・・・それが嬉しくて・・・あの頃は苦手だったコンクールにも、よく出場していました。」
「そういう事だったの。」
友希那さんが納得したような顔をした。
けど、ここまではまだ余興に過ぎない。
私の暗い過去は、ここからが本番なのである。
「・・・でも、その頃の私は・・・まだわかっていなかったんです・・・大きいコンクールに出るということが・・・一体どういう事なのかを・・・」
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その会場は、昔両親に連れられて行ったコンサートのホール程の大きな会場でした。
今まで行ってきたコンクール会場よりも広くて大きく、そしてそれに比例してお客さんも多い会場でした。
(人たくさんいる・・・みんな、こっちを見てる・・・)
「・・・金さん?白金燐子さん?」
「えっ・・・」
「審査が始まってますので、演奏よろしくお願いします。」
「は、はい・・・すぐひきます・・・」
私の頭の中はずっと『みんな応援してくれてるんだから頑張って弾かなきゃ』と『お客さんは気にしちゃダメ』の2つでいっぱいでした。
しかしそれしか頭にないせいで、冷静さが失われてしまっていました。
いつも弾けているところをミスしてしまったり、次はどうすればいいか迷ってしまったせいで頭の中はパニックになっていました。
(どうしよう・・・どうしよう・・・だめ・・・わかんなくなっちゃった・・・)
結局、その曲を弾ききることは出来ませんでした。
周りの人は「まだ小さいから仕方ないよ。次頑張ろ!」や「今回のミスを次やらなきゃ大丈夫」と励ましてくれましたが、私の心はその言葉を全く受けいることが出来ず、沈んでいく一方でした。
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「・・・そう。そんなことがあったの・・・」
「あれから怖くなって・・・コンクールに出るのを辞めてしまったんです・・・でも、Roseliaに入って・・・わたしも少しずつだけど・・・変われてる気がしたんです。今なら・・・コンクールにもちゃんと向き合えることが出来る・・・そう思ってたんです・・・でも・・・コンクールに出るのは・・・まだ早かったみたいです・・・」
「燐子・・・」
私はこのコンクールのことを友希那さんにしっかり話すことにした。
「私、このコンクールに出たことあるって言いましたよね。」
「ええ、それに今回の曲も弾いたことあるって言ってたわね。」
「実は・・・このコンクール、私が昔失敗したコンクールなんです・・・」
「なんですって・・・!」
友希那さんが驚きの表情をあげる。
まさかさっき話したコンクールと今回のコンクールが同一のものだなんて誰も思わないだろう。
「もう一度・・・あのコンクールに出て・・・最後まで自分の音を演奏できたら・・・ひとつ・・・何かを乗り越えられる気がしてたんです・・・でも、あの曲を弾いてると・・・あの頃のことを思い出してしまって・・・たくさんの人の・・・がっかりした顔・・・今も覚えています・・・」
演奏中にずっとその事が頭をよぎるのだ。
悲しそうな顔、軽蔑する顔、「小さい子の演奏だ、こんな物だろう」と蔑む顔・・・どれも幼い少女からすればとても辛く、恐ろしいトラウマになるものだ。
「・・・私・・・全然変われてないですね・・・私事を気にして手伝ってくれた人の気持ちまで踏み躙って・・・傷つけて悲しませて・・・昔と・・・変われてない・・・」
私は今の自分を振り返ってみて自嘲した。
みんなの思いを託されて、台無しにして、怖がって、逃げて・・・そんな自分が嫌で変わろうとして、勝手に変われたと勘違いして・・・
しかし、そんな私に友希那さんはそっと話しかけた。
「・・・そんな事情があるなら、今回は見送ることも出来たと思うわ。あなたは今回のコンクール、見送るの?」
「そ、それは・・・したくありません・・・」
「どうして?また、あの時のように失敗するかもしれないのよ?それなのに何故あなたは今回、このコンクールに向き合って、出ようとしているの?」
「そ、そうかもしれません・・・今まで、それを理由に自分から逃げてきました・・・でも・・・自分から逃げても、このコンクールからは逃げたくなくて・・・これからも逃げてしまったら、何も変わらず・・・ずっと今のままだから・・・」
友希那さんはそれを静かに聞き遂げると首を横に振った。
「・・・あなたは、自分は変われていないと言ったけど、それは大きな間違いね。」
「えっ・・・?」
「逃げないことを決めた。それだけでもあなたは十分に変わったわ。」
「そ、そうでしょうか・・・」
「ええ、それも勇気がいることだもの。」
「・・・!!」
友希那さんの言葉が心に突き刺さる。
こんな自分でも変われていたと思うと、少しだけ勇気が湧いてくる。
私は友希那さんに一つ質問をすることにした。
「あの、友希那さん・・・ひとつ質問をしても・・・いいですか?」
「ええ、構わないわ。」
「友希那さんは・・・ステージに立つ時・・・プレッシャーを感じたりしないんですか?上手にパフォーマンスできるのかとか・・・お客さんをがっかりさせないかとか・・・ステージの上には、いろんなプレッシャーがあると思うんです。」
その質問に対し、友希那さんはすぐに答えた。
「そういうものを感じたことは無いわ。オーディエンスの目を意識してないわけじゃないけど・・・誰かの期待のためにステージに立っている訳でもない。自分自身の・・・Roseliaの音楽をするために私はステージに立っているの。ただ目の前にあるそのことを集中してやっていれば、ほかのことは自然と見えなくなるわ。」
友希那さんの言葉に思わずハッとなる。
いつかの日、氷川さんが教えてくれた『正射必中』の考え・・・
友希那さんはそれが自然にできる人なのだ。
だから友希那さんはステージの上でも、迷わずに自分を貫くことが出来る。
だから友希那さんは堂々と、そして雄々しく歌うことが出来る。
すると今度は友希那さんから質問が帰ってきた。
「燐子、私からも質問をさせて。」
「はい・・・なんでしょう・・・」
「あなたは、なんの為にピアノを弾くの?」
「・・・!それは・・・その・・・」
考えてみるものの、これと言った答えが浮かんでこない。
仕方ないのでそう答えるしかない。
「えっと・・・すみません、すぐには・・・答えが出ません・・・」
「すぐに答えを出す必要は無いわ。ただ、もっと自分の気持ちに寄り添ってみて、正直になってみて。きっと、あなたが探している答えはそこにあるはずよ。」
「友希那さん・・・!」
自分の気持ちに寄り添い、答えを見つけること。
多分これが今私がすべきことであり、コンクールを乗り越える最大の答えであると、私は思った。
燐子に追い出され、行くあても特にない僕は適当にその辺を歩いていた。
自分の言った言葉が燐子を傷つけてしまったのは確かだ。
燐子が叫んだ「いつもの私って何?」
これがずっと引っかかっていた。
僕からしたら、燐子は大人しくて、本が好きで、人混みが苦手で・・・けど、心の真はしっかりしていていつもみんなを見守ってくれる優しい・・・暖かい人だ。
でも、その認識が間違っていて、彼女を傷つけてしまったのか?
それに恐らく僕が触れてしまった燐子の逆鱗「燐子の過去」・・・
彼女は「誰だってあなたみたいに過去を乗り越えられるわけじゃない」と言った。
正直な話をすると、僕だってあの忌まわしき過去を乗り越えれてるわけじゃない。
未だに体の傷はお風呂の鏡を見る度に嫌悪するし、たまに昔の夢を見てうなされる時もある。
でも、今はみんながいるからこうして暗い過去を無理に乗り越えようとせず、そういった過去があったことをふまえて前に進んでいる。
・・・まぁ、僕の場合は『もう1人のボク』が心に現れたのがあったのだが。
ともかく、自分基準に考えすぎたことが今回の反省すべきところだ。
燐子に謝りたいけど、今謝りに行ってもな・・・といった感じでずっと考えながら歩いているわけである。
気がつけば商店街の方まで来ていた。
引き返すべきかと考えた時、突然目の前が真っ暗になった。
「はてさて〜一体どこの美少女なんでしょう〜?」
「パンの匂い・・・それにこの言い方・・・多分モカ」
「すぐバレちゃいましたか〜」
視界がクリアになって、後ろを見ると私服姿のモカが立っていた。
「奏多さんやほ〜・・・あれ、なんかありました?なんかいつもの幸せそうなオーラがないんですけど・・・」
「・・・いつもそんなに幸せオーラ出てる?」
「そりゃもうこのままエネルギーになってスーパーサイヤ人になるのではないかってぐらいに。」
マジか
次から気をつけよ・・・うにもどう気をつけたらいいのだ?
まぁ、それは置いといて・・・
「まぁ、ちょっと色々あってね・・・」
「その様子だと燐子さんと喧嘩でもしました?」
「うぐっ・・・」
「やっぱり・・・モカちゃんには全てお見通しですよ〜」
「はい・・・喧嘩と言うよりかは・・・逆鱗に触れたというか・・・」
「まぁ、あたしで良ければ話聞きますよ。あたしも気になりますし〜とりあえずつぐの家までれっつごー」
「・・・拒否権は?」
「ないです。」
「あ、はいお願いします。」
ということで半強制的な雰囲気ではあるが、モカに話を聞いてもらうことにした。
羽沢珈琲店はたまたますぐ近くにあり、話しやすいよう店の端のほうの席を用意してもらった。
とりあえずコーヒーをひとくち啜ってから、モカにこれまでの経緯を話した。
「・・・ということなんだ。」
「そうですか・・・そんなことが・・・」
話を聞いたモカの表情が少しくらい。
いつもならもうちょっと明るいようなイメージなのだが。
するとモカは静かに質問してきた。
「奏多さんは、燐子さんが今どの辺にいると思います?わかりやすく言うと・・・その・・・なんだろう・・・自分が今立っているところから見て、燐子さんはどのくらい離れていますか?」
「えっ・・・?」
モカからの質問にすぐ答えることが出来なかった。
燐子が今立っているところ・・・少なくとも後ろではない・・・なら・・・一体どこに・・・
そんな僕を見兼ねたのか、モカは1人、語りだした。
「奏多さん、Afterglowはね。中学の頃1人だけクラスが離れ離れになってしまった蘭と『一緒にいられる場所』として出来たのが始まりなんです。そこから1年ぐらい経って、みんなで横1列で走り続けてきたと思ったら気がついたら蘭だけ1人先を走っていて・・・蘭の『いつも通り』の歌詞が、あたし達には理解できなくなっていたんです。」
Afterglowが幼なじみ5人で組んだバンドであることは知っている。
しかし、そんなことがあったのは初耳である。
「それでケンカして、みんなで考えて、笑って、仲直りして、夕焼けをみて、みんなで歌詞を考えて、朝焼けを見て・・・そこから生まれたのが『ツナグ、ソラモヨウ』なんです。みんなでまた居られるように、それぞれの思いを繋いで新しい『いつも通り』になれるようにって・・・」
「あの曲・・・そんなことがあって・・・」
Roseliaがバラバラになった時に、Afterglowのみんなに聴かせてもらった曲、『ツナグ、ソラモヨウ』
その曲がそんなに深い意味があったとは知らなかったのでとても驚いた。
「・・・それに、実はあたし、蘭の横でこっそり泣いてたんです。」
「も、モカが!?」
「しーっ・・・声が大きい・・・つぐに聞こえます・・・」
「あ、ごめん・・・」
「でも、そこであたしは誓ったんです。これからも5人は一緒に歩けるけど、でもこれからは隣を歩くんじゃなくて背中を追いかけようって。せめて、その背中は見失わないように。届かなくならないように・・・って。」
ここまで来て何故モカがこの話をしたのかわかった。
彼女達が経験したことと今回のこと、類似点が多いのだ。
だから、モカはこの話をしてくれたんだと思う。
「モカ・・・」
「いやはやしみっぽいお話になりましたな〜モカちゃんその手の話あまりしないからどう言えばいいかわかんなくて〜」
モカがいつもの調子で話し出す。
でも、その瞳はまっすぐ僕を見つめていた。
「奏多さん、あなたに起った事の詳しい話まではあたしにはわかりません。でも、それでも燐子さんのことを見失っちゃダメです。過去の燐子さんに何があったかはともかく、奏多さんのすべきことはそれを受け入れてなお、その手の届くところにまで追いかけて、そっと燐子さんの背中を押してあげることだと思います。」
「モカ・・・」
モカはそのまま自分の考えを伝え続けた。
「奏多さんが燐子さんを見失っては支えるどころか何も出来なくなってしまう。そうなる前にもう一度話し合って、正しい方へ導いて欲しいんです。1人で頑張るんじゃなくて一緒に頑張ってあげてください。」
モカはそれを言い切ると机にくたァと倒れ込んだ。
「も、モカ!?」
「もうダメ・・・シリアスな展開になれてないから疲れた・・・どこかにここの美味しいパンケーキを奢ってくれる優しい方はいらっしゃいませんかぁ〜」
「・・・話聞いてくれたお礼に今回は僕が持つよ。」
「わ〜い、つぐ〜注文いい〜」
全く・・・現金なヤツである。
けど、これで僕のやることは決まった。
明日、もう一度燐子と話し合う。
そして彼女に想いをしっかり伝えるには言葉よりもっと効率的なものを僕は知っていた。
……To be continued
あと2話程になるかと・・・
頑張るぞい