なんか色々あって全く出来なかったけど隠神カムイ、帰ってきたぞ!!
あ、専門学校へ進学してカムイさんデザイン頑張ろうと思ってます()
さぁ・・・記念すべき100話、でっかくやろうじゃないですか!!
キーボードの鍵盤をひたすら叩き続ける。
狂ったように、その曲をひたすら演奏し続ける。
叩いて、叩いて、叩き続け、最後のパートに来る。
友希那さんや、氷川さんに教わった正射必中の考えを貫き通す。
今のところ完璧に演奏出来てきている。
あとは最後の、1番の難所だけ・・・
しかしそこである言葉が頭に浮かんだ。
『あなたは、なんの為にピアノを弾くの?』
そこで突如思考が途切れ、指がズレて違った音が鳴る。
「・・・はぁ。」
いったい何度目のミスなんだろうと私は考える。
指もかなり疲れてきて限界に近い。
これ以上やるとあとの練習に支障が出てしまうかもしれない。
自分の気持ちに正直になれないまま、私は未だこの問の答えを見つけることが出来ていない。
昔の私ならすぐ答えられたのだろうか・・・いや、今も昔も変われていないからこうやって悩み続けているのだろうか。
「・・・ダメだな・・・私・・・自分の気持ちに正直になれなくて・・・こんな音じゃ誰も振り向いてくれない・・・いつもの私じゃだめなの・・・いつもの私だと・・・怖くて弾けない・・・けど・・・逃げたくない・・・」
思わず弱音が漏れてしまう。
今は弱音を吐いている暇ではないというのに。
するとドアが突然ガチャっと開いた。
まだ練習には1時間も早いと言うのに誰だろうか。
「・・・それが君の今の気持ちなんだね。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
彼女はコンテスト前の期間はずっとこうやって誰よりも早く来て練習している。
だからこうやって早くCIRCLEに来てみて正解だった。
フロントに居たまりなさんに軽く挨拶を交し、スタジオの前まで行く。
部屋の外からでも聞こえる音・・・間違いない、燐子はもう練習を始めている。
いつもより少し力強くなった音。
この前別れた後に何かあったのかもしれない。
しかし音にはまだ迷いやブレが生じている。
そして最後の局面で音がズレて演奏が止まってしまう。
やっぱりこの曲をしっかりと演奏できないみたいだ。
スタジオに入ろうとドアノブを握った途端手が止まる。
この前の件があるため、ここまで来て入ろうか入らないか迷う。
僕の手は震えていた。
「・・・ははっ・・・やっぱり覚悟決めれてなかったじゃん・・・」
冷や汗が止まらない。
すると扉の奥から震えた声が聞こえてきた。
「・・・ダメだな・・・私・・・自分の気持ちに正直になれなくて・・・こんな音じゃ誰も振り向いてくれない・・・いつもの私じゃだめなの・・・いつもの私だと・・・怖くて弾けない・・・けど・・・逃げたくない・・・」
燐子の、いつも見せることの無い掠れて震えた声。
いつも見せることの無い燐子の本当の気持ち。
彼女はずっと今の自分のままではダメだと言ってきた。
生徒会長になったのも、Roseliaに入ったのも、全て新しい自分になるためだと言っていた。
燐子は自分の課題を乗り越える時、必要最低限の手助けがあったとはいえだいたい1人でやってきた。
自分のことで誰にも迷惑をかけたくないから、自分の試練は自分で乗り越えたいから。
燐子の悩みなんかと比べると、僕の悩みなんてちっぽけなものだ。
そこでとるべき選択など、ひとつしかない。
扉を開けて、燐子と向き合うこと。
これが今、九条奏多に課せられた使命だ。
扉を開き、燐子に声をかけた。
「・・・それが今の君の気持ちなんだね。」
「・・・!・・・奏多くん・・・」
「・・・この前はごめんなさい。燐子の気持ち考えずに自分の考えばかり押し付けて。」
「そんなことない・・・私こそ・・・奏多くん悪くないのに・・・いきなり怒鳴っちゃって・・・」
「いや、怒るのも無理ないよ。君はずっと過去の自分から変わりたいと言ってた。こうやってコンサートを受けたのも昔の自分から逃げたくないから。それを一番傍で見てきたのに一番わかっていなかった・・・そりゃ、今まで通りに戻ってなんて言ったら怒るよね・・・」
「嫌でも・・・あの時の私は冷静じゃなかったし・・・お陰で少し助かったところもあったから・・・」
このままお互い引き合ってしまってどうしようもないため、話をもちかけた。
「・・・燐子さ、いつも自分の課題に立ち向かう時は一人で頑張ってきたよね。」
「・・・自分の決めたことは自分でやり遂げたかったから・・・もちろん、奏多くんやあこちゃん・・・友希那さん達に頼る時もあるけど・・・」
「ずっと今まで考えていたんだ。燐子のやることに積極的に手を貸す方がいいのか、それとも見守った方がいいのかって・・・」
「・・・・・・」
「その答えはまだ見つかってない。だからここで見つけたい。だからお願いがあるんだ。」
「お願いって・・・?」
僕は今日のためにあるものを持ってきていた。
モカが教えてくれたことを僕なりのやり方で燐子に伝えるために。
「僕と音を合わせて欲しいんだ。」
そう言って僕はバイオリンを取りだした。
使い込まれ、たくさんの傷が目立つが、美しさと威厳は失っていない父のバイオリンを今日このために持ってきていたのだ。
「そのバイオリン・・・確か奏多くんのお父さんの・・・!」
「音は正直だ。だから重ねて始めて相手の本音がわかる。音を感じることしか出来ない僕だからこそこれが一番相手の気持ちを受け取れる。そして確かめたいんだ・・・今君がどこにいて、僕からどれだけ離れているかを・・・」
「・・・うん・・・音、合わせてみよう・・・曲は何がいいかな・・・」
「今回の課題曲、一度合わせていいかな?」
燐子の表情が暗くなる。
やっぱり抵抗はあるようだ。
「嫌だったら別の曲にするけど・・・」
「私はいいけど・・・この曲難しいよ・・・?」
「大丈夫、何度も聞いたしそれっぽくは演奏できるさ。」
バイオリンを取り出し、構える。
それに合わせて燐子もキーボードの前に立った。
「それじゃあ
「うん・・・わかった」
「いくよ・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
言われるまま課題曲を演奏し始めた瞬間、世界が変わった。
最初、私から奏多くんに合わせようとした。
けどそんなことは余計だった。
彼の音を聴いていると勝手に指が動き、自分の弾くべき音の道が見える。
奏多くんの音が、私を導いて、背中を押してくれている・・・!
鍵盤の上を楽しそうに指が踊る。
奏多くんの音と私の音が重なり合い、ひとつとなり、輝き出す。
(聞こえる・・・聞こえるよ・・・!奏多くんの音・・・奏多くんの思い・・・奏多くんの気持ちが・・・!!)
まるで奏多くんと私の心と体がひとつになったみたい・・・!
そしてひとつだけ、この旋律の波の中で私が思うことはただ一つだけだった。
それは・・・・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
彼女のピアノに合わせてバイオリンを弾き、音を重ね合わせる。
今思えばこうやって燐子の音に自分の音を重ね合わせるのは初めてかもしれない。
そして初めてわかる今の燐子の気持ち、思い、そして自分との距離感。
(やっぱり、近いようで・・・遠いなぁ・・・)
手を伸ばせば届きそうで、それでも掴めないような、そんな所に今燐子はいる気がする。
(モカはその背中だけは見失わないような道を選んだ・・・だけど・・・だけど僕は・・・
燐子と同じ道を、同じ距離で・・・隣り合わせで進んでいきたい・・・っ!!!)
その想いが通じたのかどうかはわからない。
でも確実に燐子のピアノの曲調が変わった。
これまでの悲しみや辛さから一変して、まるで音を楽しむような音になった。
燐子の音が僕の音とぴったり重なり合い、とてつもないシンフォニーを醸し出す。
まるで僕と燐子の心と体が一体化したように、互いの音が互いの音をひきたて合ってひとつの音色へと変わっていく。
(今ならわかる・・・燐子の気持ち・・・!)
多分・・・いや、確実に今燐子はこう思っている。
なぜそう言い切れるか、それは僕もこのことしか頭になかったからだ。
それは・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「「今、この時が一番楽しい!!!」」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
気がつけば1曲まるまる演奏しきっていた。
肩で息をしているが、不思議と疲れは感じてこない。
私はいまさっきの演奏がどんなものだったのかをハッキリとは覚えていない。
でもひとつ確実に言える。
「・・・とっても・・・とっても楽しかった・・・!」
「僕もだよ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・今まで演奏してきた中で・・・一番っ・・・!」
すると突然横の方で拍手が聞こえた。
そこには今井さん、氷川さん、あこちゃんの3人がいた。
「とても素晴らしい演奏でした。」
「みんな・・・どうしてここに・・・」
「あこ達、りんりんが元気ないからみんなで早く来てこうして励まそうって思ってきたんだけど、先越されちゃったんだよ!」
「みんな来てるなら声掛けてくれれば良かったのに・・・」
「あんな状況でどうやって声かければいいのよ!燐子とソータ、2人の演奏が凄すぎてなんかこう・・・入りにくかったんだよ!」
「あの演奏の中入りに行くような人はいませんよ。」
それほどさっきの演奏は凄かったのだ。
私と奏多くん、2人がまさに一心同体になった演奏だったのでそれも当然かもしれない。
「だから、今度はあこ達も入れて演奏しよ!」
「・・・うん、やろう・・・!」
いつにもなくノリノリで答えた。
柄にもなくはしゃいでいる自分がここにいる。
「よし、ちょっと待ってね。アタシらすぐ準備するから!」
そう言ってリサ達はそれぞれの楽器の準備に取り掛かった。
するといつの間にか横に奏多くんが来ていた。
「どう?自分なりの答えは見つかった?」
「・・・なんとも言えないや。でも、とても楽しかった・・・!」
「多分それがもう答えなんだと思う。」
「え・・・?」
「『ピアノを弾くのが楽しいから』これだけでも立派なピアノを弾く理由だと僕は思うな。」
「楽しいから・・・」
「僕もさっきの答えは何となくでしか掴めてない。でも、大まかでもそれが確かなものなら、それが答えでもいいんじゃないかなって僕は思う。」
その言葉で私は昔を思い出した。
小さい頃、どうしてピアノを始めたのか。
すごい演奏を見て私も弾けるようになりたかったのは始めたきっかけであって本当の理由じゃない。
私がピアノを続けてこられたのは・・・
ピアノを弾くのが楽しくて、技術が上がる度に褒められるのが嬉しかったから・・・!
「まぁ、僕が偉そうなこと言える立場じゃないんだけどね。」
そう言って彼は顔をクシャッとして笑った。
その顔がとても優しくて、愛おしいと、心から思った。
「ううん・・・そんなことない・・・こうやって理由、見つけられたから・・・ありがとう、一緒に演奏してくれて。」
「ううん、まだこれからもう一曲やるみたいだし、次も楽しんでやろう!」
「おーいソータ!燐子!準備終わったよー!」
今井さんから私たちを呼ぶ声が聞こえた。
「呼ばれたし行こっか。」
「うん・・・!」
私はキーボードの前に、奏多くんはいつも友希那さんがいる所に立った。
「曲は何をやりますか?」
「あこ、オペラやりたい!!」
「Opera of the wasterland・・・私もやりたいです・・・」
「じゃあそれね。ソータできそう?」
「何回みんなの音聞いてきたと思ってるのさ、感覚で合わせるから何とかなるよ。」
「奏多さん、そこ本当に凄いですよね・・・」
「そう?バイオリンぶっちゃけ今まで感覚だけで弾いてきたから・・・」
「まぁいいじゃん!今回はやりたいように演奏するだけだしさ!」
「それじゃあ・・・始めましょう・・・!」
演奏が終わって、今日の分の練習も終わった。
終わって片付けが始まった瞬間、友希那に肩を叩かれて話しかけられた。
「燐子、どうやら答えを見つけたようね。」
「・・・そうみたい。」
「この前少しだけ話をして、燐子のことずっと心配してたけど杞憂に終わったようね。」
「燐子と話をして、どうだった?」
「そうね・・・燐子は確かに昔と向き合えきれてないところはあると思うわ。でもそれはみんな同じ、それでも向き合おうとするあの子は・・・強い。」
「・・・・・・友希那がそういうなら間違いないね。」
「新曲の歌詞、未完成の部分をあなたに任せようと思う。」
「え?」
突然の提案に言葉を失った。
今まで曲のタイトルはあれど歌詞などやった事なかった。
「この曲は、燐子のための曲にしたい。だから、この中で一番燐子をわかってる奏多に任せたい。1度音を重ねて、互いをわかりあったならいい歌詞が書けると思うわ。」
「・・・わかった。やってみる。」
「あなた達が積み重ねてきた絆と信頼が、どのような歌詞を創り出すのか、楽しみにしているわ。」
「おーい友希那〜!サボってないで片付け手伝って!」
「・・・任せたわよ。」
友希那はそう言って片付けの方に向かった。
「・・・・・・やり切ってみせる。この曲を、最高の曲に・・・!」
……To be continued