無色と灰色の交奏曲   作:隠神カムイ

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新章『~軌跡~ムショク ノ ナミダ ト オボロゲ ナ ユメ』に入りました。
ある意味この章が無灰の大きな山となります。
作者が一番やりたかったところであり、この先の九条奏多の変化の起点となります。
この回では大きくは動きませんが次辺りは大きく動くかと。
それでは本編始まります。


7章 ~軌跡~ムショク ノ ナミダ ト オボロゲ ナ ユメ
32話 フオン ナ カゲ


 気がつくとそこは見慣れない場所だった。

 

 

 

(ここは・・・一体・・・)

 

周りを見るとどうやら部屋のようだ。

 

テレビにソファー、タンスに机など至って普通の部屋。

 

一見なんともないように思えたがチクリと頭が痛む。

 

周りをよく見ていくと頭の痛みが激しくなる。

 

しかし何故かその部屋から目が離せないのだ。

 

(・・・っ、なんでこんなに頭が痛む・・・別になんとも無い・・・)

 

僕はふと気づいた。

 

この部屋は見慣れない場所じゃない。

 

あのテレビの型にソファーに置かれているキャラクターのクッション、タンスの上に置かれた写真立てや机に刻まれた傷。

 

すべて見たことがある。

 

「そんな・・・ここって・・・」

 

 

 

 

 

 

認めたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ここがあの場所だって。

 

 

 

 

 

 

 

『僕が幼少期に過ごした家の中だって。』

 

 

 

 

 

 

「なんで・・・なんでここに・・・もう二度と来たくないって思ってた・・・ここに・・・」

 

足が震える。

 

しかし体は気がついてから首以外全く動かない。

 

するとガチャりと音がした。

 

その音の方向を見るとそこには女性が立っていた。

 

 

 

 

 

その髪色、服装、きつい香水の匂い、そしてその顔。

 

 

 

 

 

忘れたかった。

 

 

 

 

 

しかし忘れられるはずがなかった。

 

 

 

 

 

 

そこには自分を1度絶望のどん底に落とした母親がいた。

 

 

 

 

 

「なんで・・・何であんたが!」

 

震えながらも必死に声を出す。

 

しかし母親は何も話さない。

 

しかしその顔は気持ち悪いものを見たような引きつった顔をしていた。

 

母親はヌルッと動き出し僕の首を片手で掴む。

 

掴んだまま前に進むと僕は棒が倒れるように倒れる。

 

不思議と痛みがない。

 

しかしその指の細さからは考えられないほど首を絞められている。

 

そしてもう片方の手には何かを持っていた。

 

 

 

 

 

 

それは割れて先端が尖った酒瓶だった。

 

 

 

 

 

 

ふと脳裏に幼少期の記憶が思い出す。

 

子供の頃、常に気持ち悪いものを見たような顔をされること。

 

近寄るだけで怒鳴られたこと。

 

そして何も言わないことをいいことに服を脱がされ酒瓶で骨折をしない程度に殴られたこと。

 

気がつくと上半身の服が無くなっている。

 

そこには僕が小学二年生で母親が男を作って逃げるまで付けられた傷が痛々しく残っている。

 

母親が酒瓶を振りかざす。

 

体が言うことを聞かない。

 

早く逃げたい。

 

早くどうにかしなければ。

 

頭は動いても僕の体はもう声が出せないぐらい動かなくなっている。

 

母親の酒瓶が振り下ろされた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

体を起こすとそこはいつもの部屋のベッドの上だった。

 

「ゆ・・・夢?」

 

どうやらあれは夢だったようだ。

 

置時計を見ると今は9月1日月曜日の5時前。

 

始業式の日の朝だ。

 

体からは汗が滝のように流れていた。

 

「・・・最悪だ。」

 

朝から最悪の夢を見た。

 

思い出したくもない幼少期、しかも一番最悪な場面を思い出してしまった。

 

とりあえずこのままでは気持ち悪いのでシャワーを浴びに体を起こした。

 

 

 

 

 

風呂場に入り、いつも通りバルブをひねると暑いお湯が出た。

 

そのお湯は僕の体から汗を心地よく流してくれる。

 

僕は風呂場に付いている鏡を見た。

 

そこにはもちろん僕が映っている。

 

銀色か灰色か中途半端な色の髪、細いがバイトやトレーニングで付いた筋肉、そしてその筋肉の上に刻まれた数多い古傷。

 

僕はこの体が嫌いだった。

 

親父によるともっと綺麗な銀色だった髪色も暴力の恐怖かくすんでしまっている。

 

今でこそ児童虐待にあたるのだろうが親父が気づいた頃には母親は行方がわからず、暴力を振るわれ始めた5歳の頃からの傷は二度と消えなくなっていた。

 

親父の帰る時間が遅いせいか毎日のように暴力を振るわれていたし小学四年生までは僕は何も喋ることが出来ず、別室で授業を受けていた。

 

なんとか小学五年生頃からしゃべることが出来て中学生になると人並み程度には喋れるようになっていたが敬語は抜けなかった。

 

よく考えてみると敬語じゃなくタメ語で話せるのは親父と親父と一緒に育ててくれたシゲさんぐらいかもしれない。

 

深く考えていたせいで風呂場から出ると時間は5時半になっていた。

 

「・・・光熱費と水道代もったいないな。」

 

そんなケチ臭いことを考えながら僕は濡れた体を拭いて着替えてから朝食の準備を始めた。

 

 

 

 

 

いつも通りの時間に出ていつも通りの道を歩く。

 

いつも早めに出ているせいかこの時間だと花咲川の生徒の通りは少ない。

 

校門前に着くとそこには黒塗りの見たことある車が止まっていた。

 

「おはよう、奏多!今日こそはハロハピに入ってもらいましょうか!」

 

そこにはいつも通り元気な弦巻さんがいた。

 

「あの・・・だから僕はRoseliaに入っているんですけど。」

 

「知ってるわ、だから私考えたのよ!奏多がRoseliaとハロハピの2つのマネージャーをやってくれたら丸く収まるんじゃないかしら!」

 

確かにそれならまとまるかもしれないがそれだと体がいくつあっても足りない。

 

「やっぱり!ちょっと、こころ!」

 

そこに走ってきたのか息を切らして立っている奥沢さんがいた。

 

当たり前だがミッシェルじゃなくいつもの姿だ。

 

「あら、美咲おはよう!」

 

「お、おはようじゃないよ!あんたまた九条さん誘ってたの!?」

 

「そうよ。」

 

「あーもー!だから前からやめとけって言ってるでしょうが!嫌な予感したから走ってきたらこれだよ!」

 

嫌な予感とはそう簡単に当たるものなのか?

 

ある意味この2人はいいペアなのかもしれない。

 

「とにかくもう行くよ!九条さんほんっとうちのこころがすみません・・・」

 

「い、いえ・・・」

 

「奏多!ハロハピはいつでもあなたを待ってるわよ!」

 

「そんな事言わない!行くよ!」

 

奥沢さんが弦巻さんの襟首を掴んで引っ張っていく。

 

この状況を僕は苦笑いするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

始業式のお決まりといえば全校集会である。

 

うちの学校は体育館が広いためいつも体育館で集会や式をやっている。

 

お決まりの校長先生の長い話で眠たくなってきた頃だった。

 

「今日から新しい生徒がうちの学校に転入してきました。」

 

なんだ、この時期に転入してくる不幸なやつがいるもんだと思った。

 

しかしその考えはすぐに覆された。

 

「入ってきた生徒は2年生で2人目の男子生徒です!」

 

その瞬間一瞬で目が覚める。

 

今まで女子ばかりの中男子1人だったので男子が増えるのを少しばかり祈っていたのだ。

 

周りから「どんな奴だろ?」「イケメンだといいな!」「九条みたいに影が薄いかもよw」と声が聞こえる。

 

自分の影が薄いのはわかっているが、いざあまり知らない人に言われると気持ちが悪いものだ。

 

「それじゃあ挨拶してもらいましょう!」

 

校長が段から降りて代わりに男子の制服を着た奴が段に登る。

 

マイクを持ってそいつは挨拶を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、今日からこの学校に入ることになった陰村炎(かげむらほむら)だ。よろしく頼む。」

 

 

 

 

 

 

 

影村炎と名乗った生徒が頭を下げる。

 

簡素な挨拶だった(と言っても僕も人のこと言えない)が顔を見ると結構な美顔だ。

 

女子がものすごくざわめく。

 

教師の静止で収まるまで少し時間がかかった。

 

「えっと、陰村くんにはA組に入ってもらおうと思います。A組の皆さん、陰村くんと仲良くしてあげてください。」

 

そう言った後細かい連絡が終わり、始業式が終わった。

 

教室へ向かう途中、後ろから誰かにつつかれる。

 

後ろを見るとそこには燐子がいた。

 

「男子・・・入ってきましたね。」

 

「はい、やっとこの学年でも2人めですか。」

 

「九条さん・・・前から男子1人はきつい時あるって・・・言ってましたもんね。」

 

そうなのだ。

 

一学期の時、男子が僕しかいないということで2年の教師にめちゃくちゃ力仕事などを任されていたのだ。

 

しかも多い時は1日に3回も思い書類を運ばされ、家に帰ると筋肉痛ということもしばしばあったのだ。

 

「やっと力仕事地獄から解放されますよ・・・」

 

「ふふっ・・・でも九条さんの頑張ってる姿・・・凄くカッコイイと思います。」

 

「そ、そうですか?別にそんなことないと思いますけど・・・」

 

すると後ろから担任の教師が声をかけてきた。

 

「いた、九条!」

 

「は、はい。なんでしょうか。」

 

「手伝って欲しいことがあるんだ。転入生を手伝わせるわけにもいかないから頼む!」

 

「噂をすれば・・・ですね。」

 

「はい・・・行ってきます。」

 

僕は燐子と別れ、担任の所へついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの先何が起こるかを知らずに。




たまに見る怖い夢ってトラウマになる時あるよね・・・
ということで次回九条奏多をいい言い方で挫折、悪い言い方で絶望のどん底に叩き落とそうと思います。
明日試合(しかし作者は応援)で書けるかは不明ですがその時はTwitterや時事報告で連絡する予定です!

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