無色と灰色の交奏曲   作:隠神カムイ

40 / 125
話はシリアスだけどここだけテンションの高い隠神カムイです。
あ、話の尺の関係上さらっとタイトル長くなってます。そこは前の次回予告いじるのでご勘弁を・・・←ダメな作者のやること
新イベ来たね~チョココロネ先輩新規きたね~ってヤン陰原作者に言ったらハイテンションな海馬社長となって返ってきました(笑)

さて、こんな感じにおちゃらけてますがめちゃくちゃ重い本編始まります。


35話 フサグココロ ウラ ノ ムショク

燐子side

 

ここに来てから1時間が経った。

 

九条さんは一向に目覚める様子がない。

 

時折、今井さんやあこちゃんが話を切り出そうとしてもこの重苦しい空気の中では長くは続かない。

 

「・・・悪いなお前ら、今日はもう帰れ。時間も時間だ。」

 

そんな中九条さんの叔父さんが私たちに帰るよう促した。

 

そう言われて今井さんが反応する。

 

「いえ、私たちなら大丈夫・・・」

 

「この様子じゃ奏多が目覚めるのがいつになるかわからねぇ。しかもお前ら明日学校あるだろ、学生が学業に支障を出しちゃいけねぇ。」

 

「け、けど・・・」

 

「リサ、今日は帰りましょう。茂樹さんの言う通りだわ。」

 

「・・・わかった。けど茂樹さん、ソータが目覚めたら連絡ください。」

 

「おう、そんときゃ連絡する。」

 

「シゲさん・・・よろしくお願いします」

 

「あぁ、奏多の事は任せとけ。」

 

そう言って私達が帰ろうとした時だった。

 

「・・・んっ」

 

小さく、弱々しいけど聞きなれた声。

 

その声を聞いて全員が一つの方向を見る。

 

そこにいたのは意識が戻って体を起こしていた九条さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

 

 

 

体が重い

 

 

 

 

 

 

 

痛みはないが手足に力が入らず感覚がない

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえる

 

 

 

 

 

 

 

 

誰だ

 

 

 

 

 

 

 

「し・・・ん・・・ソータが・・・たら・・・らく・・・さい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

この声はリサ・・・?

 

何を言っている、途切れ途切れでわからない。

 

 

 

 

 

 

「シゲ・・・よろし・・・いします・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

あこの声・・・?

 

幻聴か?

 

でも途切れ途切れでも幻聴にしてはハッキリしすぎてる・・・

 

 

 

 

 

 

 

手足の感覚が戻ってくる。

 

 

 

 

この柔らかさ・・・ベッド?

 

 

 

僕は・・・今どこに?

 

 

意識を・・・ハッキリ・・・

 

起き・・・ない・・・と・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・んっ」

 

目をうっすら開ける。

 

そこには見たことのない白い天井。

 

軽く周りを見ると自分が今ベッドの上にいることがわかる。

 

病院でよく見るベッドだ。

 

(・・・ん?病院のベッド?)

 

そこでようやく自分が今どういう状況なのかを思い出した。

 

僕はどうやら『何かがあって』病院に送られたようだ。

 

体を起こす。

 

意識が落ちてから全く動かさなかった体は各関節の痛みを起こしながらもゆっくりと動き出す。

 

「く、九条さん!」「奏多!」「ソータ!」「奏多さん!」「九条さん!」「おお、起きたか奏多!」

 

聞きなれた声が一斉に来る。

 

そんなに言われても反応できないって。

 

「ここは・・・なんで・・・それに・・・シゲさん・・・みんな・・・」

 

「よかったぁ・・・行く前に起きてくれたぁ・・・」

 

「もう・・・ほんとに心配したんだからね!」

 

「し・・・心配・・・」

 

何が何だか全くわからない。

 

何故ここにいるのか、何故Roseliaのみんなが心配そうにしてるのか、そして何故倒れたのか・・・

 

「九条さん・・・なぜ倒れたのか話してもらえますか?」

 

紗夜がそう聞いてきたので考えてみる。

 

確か担任に仕事を頼まれてその後炎と話して・・・

 

 

 

 

 

 

『次、口答えしたら昔みたいに優しくは済まないわよ。』

 

 

 

 

 

 

全身に寒気が走り震え出す。

 

そうだ・・・思い出した・・・会いたくなかったあの人に会ってしまったんだ・・・

 

「そ、ソータ!?どうしたの?」

 

リサが心配してこっちに来る。

 

しかし今の僕はそれどころではない。

 

「・・・いで。」

 

「な、何か言った?もう一回言って!」

 

目は開いてるはずなのに前が見えない。

 

僕が何かを言ったのだろう、リサが心配して近づいている気配はする。

 

「・・・らないで。」

 

「ソータ!?震えがやばいよ!ホントに・・・」

 

 

 

 

 

辞めて・・・

 

 

 

 

 

 

ほんとに辞めてくれ・・・

 

 

 

 

 

 

今の・・・

 

 

 

 

 

今のボクニ・・・

 

 

 

 

 

 

 

チカヨラナイデ・・・

 

 

 

 

 

 

「近寄らないで!」

 

「!!」

 

無意識に出た言葉に全員がしんと静まる。

 

ふと我に返るとリサがびっくりした顔をしていた。

 

「・・・すみません、今日は帰ってもらえますか。今は・・・話したくないんです・・・」

 

「・・・うん、わかった。ごめんねソータ・・・」

 

Roseliaのみんなが病室を出る。

 

自分の言ったことに凄く後悔が残る。

 

すると一人病室に残ったシゲさんが優しく真剣に話しかけてきた。

 

「奏多・・・お前何があった。今の反応は異常だ。お前をそこまで追い詰めたのはなんだ。」

 

体が震える。

 

心臓の動機が激しくなる。

 

呼吸が荒くなる。

 

しかしそれをなんとか抑えて学校であったことを正直に話した。

 

「あの人に・・・僕の・・・母に会った・・・」

 

「!!」

 

それにはいつも能天気なシゲさんも驚きを隠せなかったようだ。

 

「・・・なぜお前の母親に会った。兄貴が別れた後行方わかんなかったんだろ?」

 

「炎の・・・転校生の・・・母親が・・・あの人だった・・・その後・・・話をした・・・」

 

「なんて言われた。」

 

「・・・『次、口答えしたら昔みたいに優しくは済まない』って。」

 

「・・・お前しばらく学校休め。それにバンド活動もだ。」

 

「それは・・・出来ない・・・みんなには・・・Roseliaには・・・僕が・・・いかないと・・・」

 

「今のお前に何が出来る。」

 

「っ!」

 

シゲさんに一喝されて言葉を失う。

 

「今のお前は人に対する恐怖と自分の存在を否定すること、そしてこれらから逃れたいとの事しか残ってない。そんな人間がまともに人を支えれるはずがねぇ。行っても逆に足でまといになるだけだ。」

 

確かにそうかもしれない。

 

今こうして話している自分は今の自分からしたら本当の自分ではないのだろう。

 

今の自分は『甘い物好きで優しく、自分の色を模索しているRoseliaの九条奏多』ではなく『人と接するのを恐れ、無色の自分を否定しその事を逃れようとしている九条奏多』なのだろう。

 

いつもの自分は今の自分にとってその身を隠す『側』でしかない。

 

そんな僕が練習に行ってもいつかのタイミングで今の『側』の心が砕けるかわからない。

 

迷惑をかけ、傷つけるかもしれない。

 

『最高の音楽を目指す』彼女らにとって今の僕は障害でしかない。

 

「・・・わかった。」

 

「悪いな・・・何もしてやれなくてよ。休む手続きとかは俺の方でやっとく。お前は大人しく寝とけ。それと手続きとかやるから家の鍵借りるぞ。」

 

そう言ってシゲさんが家の鍵をもって病室を出て、僕だけになる。

 

僕は毛布を頭まで被った。

 

「ったく・・・どうしたらいいんだ・・・」

 

毛布の中で頭を悩ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナラ、ニゲレバイイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえた。

 

しかもその声は毎日嫌という程聞いている自分の声だった。

 

「お前は・・・誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ボクハ、キミダヨ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるさい、お前が僕のはずがない。早く出ていけ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

『アイニク キミ ト ボク ハ イッシンドウタイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるさい・・・」

 

 

 

 

 

 

『コノ クルシミ カラ ノガレル ニハ』

 

 

 

 

 

 

 

「うるさい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ココロ ヲ トザシテ マワリ ト カカワラナケレバ イイ』

 

 

 

 

 

 

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!それ以上言うな・・・頼むから言わないでくれ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ソウスレバ キミ ハ キズツカナイ ダレモ キズツケナイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「辞めてくれ・・・それ以上この心を蝕むな・・・」

 

 

 

 

 

『サァ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

「来るな・・・来ないでくれ・・・」

 

 

 

 

『ボク ト・・・』

 

 

 

 

 

 

 

「せめてこの心は消さないでくれ・・・」

 

 

『ヒトツニ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・これで、誰も傷つかない。僕が・・・僕がいなければ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

九条さんに病室を追い出された私達は病院のエントランスで座っていた。

 

「ソータどうしたんだろ・・・」

 

「奏多さんのあんな声・・・初めて聞いた。」

 

「九条さんのあの行動は異常でした。本当に一体何が・・・」

 

「奏多があそこまで変わった理由がわかれば・・・」

 

「しかし・・・それを知っている九条さんが・・・」

 

九条さんのあの様子は明らかおかしかった。

 

今井さんが近づいた時に大きな声を出したがあれは怒っているんじゃなくて怯えているような声だった。

 

人と話すのを拒むような・・・

 

ポーンと音がしてエレベーターから九条さんの叔父さんが降りてきた。

 

「茂樹さん!」

 

「お前達まだ帰ってなかったのか・・・」

 

「奏多はどうだったんですか?」

 

「あぁ・・・あの様子じゃ学校もバンドもしばらくは無理だな・・・」

 

「そんな・・・あこ達の力じゃなんにも出来ないのかな・・・」

 

「確かに九条さんのあの様子じゃマネージャー業は無理ですね・・・」

 

みんなの気持ちが落ちてきた時だった。

 

「あ、あの・・・茂樹さん!」

 

「なんだ、白金ちゃん。」

 

「九条さんの・・・過去を教えてもらえませんか?」

 

とっさにそんな考えが出た。

 

なぜこの言葉が出たのかはわからない。

 

しかしあの顔は『昔が原因でなにかに怯える』顔をしていた。

 

・・・昔の自分がそうであったように。

 

「ソータの過去を・・・?」

 

「なんでそう思ったんだ?」

 

「何故かは・・・正直わからないです・・・けど・・・今回の件は・・・九条さんの過去にも何かあると思って・・・」

 

「確かに奏多さんちょっとわからない所あったよね・・・」

 

「思えば九条さんはいつも親しんではくれていました。しかし、なんだかいつも一歩引いた感じでした・・・」

 

「茂樹さん、前にあなたはこう言いましたよね。『奏多は慣れた相手じゃないと内側を見せない』って・・・あれも関係があるんですか?」

 

茂樹さんは黙って私たちの質問を聞いた。

 

そして諦めたかのように息を吐いた。

 

「・・・長くなるが構わねえか?」

 

「・・・!はい!」

 

「まず湊の嬢ちゃんからの話だが・・・あの言い方は崩しすぎてわかりにくかったな。」

 

「それは・・・どういう事ですか?」

 

「あいつはな・・・『本当に信頼出来るやつしか心を開かない』のさ。今、本当に心を開いてんのはあいつの親父と俺だけだ。」

 

「もしかしてシゲさんだけタメ語で話してたのも・・・!」

 

「あぁ、あいつはお前達のことを信頼しているが心から信頼しきってねぇ。」

 

「それはどうして・・・」

 

「とりあえずここだと話しにくい。奏多ん家の鍵借りてるからそこで話そう。」

 

そう言って私達は九条さんの家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

これから語られる九条奏多という人間の過去を知るために

 

 

 

 

 

 




次回『ムショク ノ カコ』

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。