最終回じゃないのにタイトル回収してるのは今回がこれからの無灰にとって大切な回になるからです。
あとから見直して赤面黒歴史になりそうな予感がしますがそこはどうか暖かい目で見てくださらると嬉しいですw
それでは本編お楽しみください!
燐子side
「歌・・・ですか?」
今の九条さんを助けることが出来るものは歌うことだと友希那さんは言った。
「歌と言っても何の曲をやるんです?」
「今までの曲だと全部ソータがいてできた曲だから悪いけど今のソータには届くとは思わないけど・・・」
「みんな、この前言った曲・・・覚えてる?」
友希那さんの一言に全員がハッとする。
実は1曲だけ九条さんがいない間に全員でやろうとしてた曲があるのだ。
「しかし、あの曲はそれぞれ個人練習でしかやって来ませんでしたしそもそも合わせたこともないんですよ!」
「そうだよ!確かにあの曲なら届くかもしれないけど合わせたことのない曲をやるのはリスクが大きいって!」
氷川さんだけでなく今井さんまでが友希那さんの意見を否定している。
しかし友希那さんは臆さず続けた。
「最高の音楽を目指すなら多少のリスクは乗り越えないといけないわ。それに今のRoseliaには奏多がいないと・・・いえ、奏多の存在がないと私達は最高の音楽を目指せない。それに、今から猛練習すれば出来るかもしれないわ。その可能性を捨ててしまっては前に進むどころか後退してしまうわ。」
「し、しかし・・・」
「・・・やりたいです。」
「え?」
「私・・・この曲をやってみたいです!九条さんの為でもあります・・・けど、私が・・・私達が前に進むためにもやってみる価値は・・・あると思います!」
気がつけば頭で考えるより先に言葉が出ていた。
するとそれに乗っかるようにあこちゃんも話し出した。
「あこもやってみたいです!奏多さんには色々お世話になってますしこのままどこかへ行っちゃうような気がして・・・何もしないままなんて、あこ嫌ですっ!」
「・・・そうだね。ここで臆病になっちゃソータに悪いもんね。」
「九条さんのためだけじゃなくて私達の成長のため・・・そのためにはものすごい集中力が必要ですが。」
「ふふっ・・・紗夜、何のためにここに集まったと思ってるの?」
CIRCLEの第3スタジオ。
ここはRoseliaがいつも練習していて色々なことがあった慣れ親しんだスタジオだ。
後でわかった話なのだが今日治ったばかりのスタジオを無理を言って借りたそうだ。
もしかして友希那さんは全員が賛同するのをわかっていてここにしたのだろうか。
「みんな、これから合わせる曲は私達にとって初めての曲調よ。それを完璧にするにはみんなの心を一つにする必要がある。昔の私達なら出来なかったでしょうね。けど今は違う。お父さんが、インディーズの人たちが、他のバンドの人たちが、そして奏多から・・・色々なことを教わった。その教わったことを今ここで発揮する時よ。今回の練習は本番の時より集中してやるわよ!」
「「「「はい!」」」」
全員の気持ちがリセットされる。
今からやるのは私達にとって未踏破の曲。
しかしこれをこなせないようではこの先前に進めない。
Roseliaにとっても、私にとっても。
「それじゃあ始めるわよ。」
あこちゃんがリズムをとり、私達が創る無銘の曲は奏でられ始めた。
九条さんが倒れてから4日が経った。
昨日は丸一日を使って『無銘の曲』を練習していた。
名前は友希那さんが九条さんに発表する前に決めるのだそうだ。
曲もほとんど完成し、私はその曲を聴いてもらうために九条さんがいる総合病院まで来ていた。
今の九条さんと話すなら集団で行くより1人の方がいいとの事で友希那さんに指名されて私が来ている。
本当はもう退院出来るらしいのだがあの様子だともう少しいた方がいいとのことで検査入院という形で入院している。
「あの・・・205号室の九条さんに面会を取りたいのですが・・・」
「はい、わかりました。けど・・・」
受付の人が口を濁す。
何があったのだろうか。
「どうか・・・しましたか?」
「いえ、九条さんなんかうちの看護師達のこと避けているみたいで・・・検査や食事の時間にもすぐに出ていくよう言われたみたいでね・・・面会するなら気をつけた方がいいわよ。」
どうやら今まで以上に人を避けているようだ。
恐らくこの前のことが原因だろう。
追い出されることを覚悟し、私は九条さんのいる病室へ足を運んだ。
部屋の前につき、ドアをノックする。
「・・・はい。」
小さく、弱々しいが九条さんの声だ。
少し緊張してきたが声をかける。
「あ、あの・・・白金です。入っても・・・いいですか?」
「・・・どうぞ。」
そう言われたので部屋に入る。
九条さんを見ると様子が変わっていた。
いつもの九条さんでも無くこの前の九条さんでも無い。
例えるなら『無』・・・
「・・・どうしてまたここに来たんです。ほっといてって言ったはずですが。」
「あ、あの・・・九条さんに来て欲しい所が・・・」
「すみません・・・行きたくないです・・・」
案の定断られた。
しかしここで諦めては今までのみんなの頑張りが水の泡だ。
「お願いします・・・1度だけ・・・1度だけでいいんで。」
「やめてください・・・一人でいたいんです・・・」
九条さんが毛布にくるまって身を隠す。
この行動が原因かはたまたこれまでの九条さんの態度が原因か。
私という人間はその時だけ無意識となった。
「・・・逃げるんですか。」
「・・・逃げてないです。」
「いえ、逃げてます。一人でいたいから、傷つきたくないから、そして過去の傷を一人で抱えながらもそれを認めたくないから。」
「・・・っ。黙ってください。」
「それなのに人に話そうともしない。信用してもどこかで信用できないと思って話さない。あなたの場合は信用できないんじゃない、信用しようとしてないんです。」
「・・・黙って。」
「誰にも話そうとしないからそうやって逃げるんです。これでも逃げてないって言うんですか?」
「黙れ・・・黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!ならどうすればいいんだよ!どうせ僕の傷なんて誰にもわからない、誰にも伝わらない!嫌なことから逃げて何が悪い!だからもう・・・1人に・・・」
九条さんが涙を流しながら自分の想いを表にする。
九条さんが言い切る前に私の体は動いていた。
奏多side
誰とも話したくない。
誰とも関わりたくない。
他人と話すことなんて自分が傷つき損するだけの事だ。
しかし彼女はそれを思い切り否定した。
「・・・逃げるんですか。」
これは逃げているんじゃない。
自分の身を守るために当然のことだ。
それが自分の世話をしてくれている看護師や医者でも話しても損をするだけだ。
「・・・逃げてないです。」
「いえ、逃げてます。一人でいたいから、傷つきたくないから、そして過去の傷を一人で抱えながらもそれを認めたくないから。」
やめろ、そんなことを言うな。
こんなの人に話せるものじゃない。
信用できる人なんているはずも無いのだから。
それに今過去のことを話すな。
虫唾が走る。
「・・・っ。黙ってください。」
「それなのに人に話そうともしない。信用してもどこかで信用できないと思って話さない。あなたの場合は信用できないんじゃない、信用しようとしてないんです。」
信用できない訳じゃないんだよ。
確かに心のどこかでは信用しようとしてないのかもしれない。
わかったような口を聞くな。
僕の心に触れようとするな。
「・・・黙って。」
「誰にも話そうとしないからそうやって逃げるんです。これでも逃げてないって言うんですか?」
お願いだ・・・黙ってくれ・・・もう・・・たくさんなんだよ・・・
「黙れ・・・黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!ならどうすればいいんだよ!どうせ僕の傷なんて誰にもわからない、誰にも伝わらない!嫌なことから逃げて何が悪い!だからもう・・・1人に・・・」
八つ当たりだとわかっている。
この前も今回も、他人にきつく当たってしまってることぐらいわかる。
しかし叫ばずにはいられない。
涙が止まらない。
そうでもしないと自分が自分でいられなくなる。
本当に何もかも無くなってしまう。
僕がいい切ろうとした瞬間だった。
視界が突然暗くなった。
頭に違和感がある。
額の方は柔らかいのに側頭部から後頭部にかけて何かが絡んでいる。
しかし、それは凄く暖かかった。
初めはどうなっているか理解できなかった。
しかし今の状況がどうなっているかすぐに気がついた。
『燐子』が僕の頭を抱き抱えていたのだ。
その行動に思考が停止した。
「それなら・・・何故他人に一度ぶつけようとしないんですか!」
声が震えている。
頭に何かが落ちてきていた。
それは燐子の涙だった。
「燐・・・子・・・」
「もう一人で抱え込まなくてもいい!一人で逃げなくてもいい!だって・・・」
「私が・・・私達『Roselia』がいるから・・・」
「・・・!」
一人で・・・抱えなくていいのか?
この悪しき過去を・・・?
自分が・・・傷つくかもしれないのに?
「抱え込まなくても・・・いい・・・?」
「そうです!確かに私達はまだあなたの過去を詳しく知らない!話したくなかったのもわかる!その傷は深いかもしれない・・・けどそれを支えてくれるのが友達では!仲間じゃないんですか!」
「友・・・達・・・、仲間・・・」
本当にいいのか・・・他人を・・・友達を・・・そして仲間を信じても。
「無色だっていい・・・それがあなたの『個性』だから・・・だから・・・そんな重荷を一人で背負い込まないで・・・私を・・・私達を頼ってくださいよ・・・」
燐子の抱きつく強さが強くなる。
これが女性の暖かさなのか・・・
これが優しさなのか・・・
これが信用ってものなのか・・・
その抱擁が強くなったのをきっかけに心の何かがなくなった気がした。
こんな自分でも信用してもいいのだと。
他人を頼っていいのだと。
そしてこれが自分なんだと。
そう思うようになっていた。
気がつけば僕は泣いていた。
しかしさっきの涙じゃない。
これは嬉し涙というものなのか。
「信じても・・・いいんだよな・・・こんな自分でも・・・こんな過去を背負っていても・・・」
「・・・はい、信じて・・・頼ってください。」
「・・・ぐっ、ううっ・・・信じさせて・・・もらうよ・・・」
僕は泣いた。
子供っぽいし情けないかもしれないけど彼女の胸の中で思いっきり泣いた。
彼女も泣いていた。
ずっと「大丈夫だから・・・大丈夫だから・・・」と呟きながら泣いていた。
しかしその抱擁はしばらく解かれることは無かった。
これが無色の少年と灰色の少女の気持ちが重なり始めたきっかけだったのかもしれない。
しかし共に奏で始めるのはまだ先の話である
次回『~軌跡~ムメイ ノ ナマエ ユメ ノ ツヅキ』