無色と灰色の交奏曲   作:隠神カムイ

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実はバンドリで一番最初に来た星4が七夕の日菜な隠神カムイです。
今ではスキルマになりながらもパスパレのイベント以外での使い道がなくて全然使ってない・・・(基本イベントは属性固めたバンドでやってるタイプ)
なお全話の改良が終わりましたので読むと少し変わっているところもありますので読み返してみるのもおすすめです!
それでは本編始まります!


43話 ツマラナイ オト

紗夜side

 

みんなが九条さんの作ったマフィンを堪能している中、私は1人ギターの練習をしていた。

 

練習している所はRe:birthdayのサビの前。

 

ここで少し詰まるところがあるのでそこを練習している。

 

詰まりを微調整して一度フルで流す。

 

引き終わると宇田川さんが絶賛の声をあげた。

 

「今日も紗夜さんのギター超カッコイイですっ!リズムもテンポも正確で・・・弾いてる姿もバーンって感じで~!紗夜さんの右手にはこう・・・音楽を司りし聖なる・・・えっと・・・そういう感じのがいるんだと思いますっ!」

 

宇田川さんのいう事は未だに不明なところがある。

 

しかしこれも日菜の擬音語と同じようにわかってしまう日が来るのだろうか。

 

「あこの表現はよくわからないけど・・・紗夜。あなたの演奏はとても正確ね。今日の演奏も問題ないと感じたわ。これからもその正確さを持って精進して。」

 

「正確さ・・・」

 

「紗夜?どうかしたの?」

 

「え、ええ。そのつもりです。」

 

そう行ってる間にギター周り以外の現状復帰を終えたメンバーが帰る準備を始めていた。

 

「紗夜どうする?もう少しやっていく?」

 

「は、はい。あと少しだけやってから帰ります。」

 

「了解、今度マフィンの感想よろしくね~」

 

そう言って九条さんや湊さん達が帰っていく。

 

そして1人残ったスタジオでもう一度Re:birthdayのフルを演奏してみる。

 

「・・・ダメね。何度やってもしっくりこない。」

 

湊さんや宇田川さんはさっきの演奏を問題ないと評したが私にとっては全くしっくりこない演奏だった。

 

テンポもリズムも正確なはず。

 

しかしそれ以上でもそれ以下でもない『何か』が違うのだ。

 

その何かが足りない。

 

そのせいで『日菜と比べて』テンポもリズムも正確なはずなのに自分の演奏がつまらないものに聞こえる。

 

気がつけばそろそろ終わらなければいけない時間である。

 

私はギターとギター周りを元に戻し、自分の荷物をまとめた。

 

カバンの上には九条さんが作ったマフィンが置いてあった。

 

封を開けて中のマフィンを取り出す。

 

チョコレートの甘い匂いがする。

 

そのマフィンを口に運ぶ。

 

柔らかな食感とチョコレートの甘い味が疲れた体に行き渡る。

 

「・・・美味しい。」

 

私は今さっきまでのモヤモヤをマフィンの甘い味で押し込めていた。

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

マフィンを振舞ってから数日が経った。

 

3週間前になったライブを成功させるため、新曲以外の3曲を通しで練習している時だった。

 

「紗夜!また同じところミスよ!」

 

「・・・っ!すみません、もう一度いいでしょうか。」

 

「では、その二つ前のフレーズからやりましょう。」

 

二つ前のフレーズに戻って演奏を始める。

 

Re:birthdayのギターがメインとなる所で紗夜が同じ所でミスをする。

 

いつもの紗夜からしたら彼女らしからぬミスだ。

 

「どうする紗夜?休憩入れようか?」

 

「いえ、平気よ。もう一度お願いします。」

 

「紗夜・・・」

 

やはり無理をしているようにしか見えない。

 

しかし紗夜がそういうのでそのまま練習を続行した。

 

 

 

 

 

 

練習が終わった帰り道、リサはバイトで燐子とあこは新しい衣装のアクセサリーを買いに言ったので僕と友希那と紗夜で帰っている。

 

しかし紗夜は終始考え事をしているようだった。

 

「紗夜、今日は本当にどうしたの?あなたらしくなかったわよ。」

 

「うん、聞いてていつもの紗夜の演奏じゃなかった。本当にどうしたんだ?」

 

「私らしい・・・」

 

紗夜は少し考えると呟くようにこう言った。

 

「・・・私らしい、って何なんでしょう?」

 

「えっ?」

 

「いえ、何でもありません。今日は申し訳ありませんでした。今日のぶんは必ず取り戻しますから。」

 

紗夜はそう言って自分の自宅の方へ向きを変えた。

 

「紗夜待って!さっきのは・・・」

 

友希那が追いかけようとしたので咄嗟に腕を掴んで止める。

 

「奏多!なぜ止めるの?」

 

「友希那、これは多分僕達がどうこうして答えを見るけるものじゃない。これは紗夜自身の問題だと思う。」

 

さっきの『私らしいって何なんでしょう』と言った言葉。

 

その発言でようやく確信がつけた。

 

紗夜の音に違和感があったのは彼女が自分の音に迷いを持っていたから。

 

なぜこうなった原因はわからない。

 

けどこれは僕の時みたいにみんなが答えを見つけるものではないとわかった。

 

「今の紗夜は自分の音に迷いを持っている。このことは僕達が見つけても彼女のためにはならない。だから今は見守って、進んではいけない道に進もうとしたらこうやって止めてあげればいい。今はただ、それだけだよ。」

 

「奏多・・・」

 

友希那が納得したように力を抜く。

 

僕も掴んだ腕を離した。

 

「友希那、多分今の紗夜の気持ちを一番よくわかるのは友希那だと思う。だから友希那が紗夜を導いてあげて。」

 

「私が・・・紗夜を・・・」

 

「うん、だから一度自分がどうしたら立ち直れたのか考えてみて。友希那ならいいアドバイスをあげれるとおもうよ。」

 

「・・・わかったわ。とりあえず今は見守りましょう。」

 

友希那の瞳は決心がついたような瞳をしていた。

 

自分がこうやって説教臭いことをするのは珍しいが、今回の件は僕も経験があるので見守るのが先決だと思った。

 

(だから紗夜、自分で答えを見つけて・・・)

 

今の僕はただこう思うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

紗夜side

 

『私らしいって何なんでしょう・・・』

 

私はこの言葉を頭の中で繰り返していた。

 

湊さんと九条さんの前で出てしまったこの言葉。

 

他人に聞いてもわかるはずかないのに何故か二人の前で出てしまった。

 

湊さんも九条さんも困惑した顔をしていた。

 

当たり前だと自分の心で自嘲する。

 

自分がわからないものは他人にもわかるはずが無い。

 

いつも練習後に必ずしていたギターの練習もここ最近やっていない。

 

それは自分の音を聞きたくなかったこと以上に日菜に自分のつまらない音を聞いて欲しくなかった。

 

するとドアがガチャりと開く。

 

開けたのは日菜だった。

 

「ねえねえ、おねーちゃん!ギターの練習が終わったら一緒にテレビ見ようよ!今から動物番組の特番があるんだって!」

 

日菜が私の気持ちなんてお構い無しに話しかける。

 

他人の空気を読めないのが日菜の悪いところだ。

 

「・・・ギターの練習なんてしないわ。」

 

「えっ?でも・・・いつも家に帰ってから練習してたよね。」

 

日菜が私の行動を覚えていた。

 

しかし生憎その事は今の私の癪に障る事だった。

 

「・・・弾かない。」

 

「お、おねーちゃ・・・」

 

「ギターは弾かない!!弾きたくないの!!」

 

口に出してから初めて、今自分が何をしたのか気がついた。

 

日菜は驚いたような顔をしていた。

 

「・・・っ。申し訳ないけど今はあなたとも会話したくない。・・・一人にして。」

 

「おねーちゃん・・・どうして・・・?」

 

「ごめんなさい・・・お願いだから今は一人にさせて・・・」

 

「・・・わかった。」

 

日菜が寂しそうに部屋から出ていく。

 

日菜に強くあたってしまった。

 

これでは昔に逆戻りではないか。

 

「・・・どうすればいいの。」

 

ふと視線の中に自分のギターが映る。

 

私はギターから目をそらした。

 

今はギターというものを見たくない、聞きたくない。

 

今ギターを見てしまうと自分のつまらない音が、そして『日菜の音』を思い出してしまうからだ。

 

『日菜とまっすぐに話せますように』

 

そう願ったのは自分だ。

 

しかし今の自分はそれとかけ離れてきている。

 

『日菜と比べて』私は前向きじゃないし可愛らしさもない。

 

私にないものは日菜がすべて持っている。

 

しかし自分より劣っているはずの私のことを日菜は慕ってくる。

 

 

 

 

 

 

今の私はそれが不思議で不快だった。

 

 

 

 

 

 




前の章から挫折の話ばっかりだから重め・・・
次の投稿までお楽しみに!

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