無色と灰色の交奏曲   作:隠神カムイ

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沖縄宮古島より帰ってきた隠神カムイです。
楽しかった!CD(限定版)買えた!ついでにクレーンゲームの蘭ゲットできた!
手なわけで3分の1しか沖縄の楽しさ表現出来なくなるぐらい買えたことが嬉しいです。
あと蘭の造形ヤバすぎィ・・・

ということで帰ってきてから久々の投稿でこの章の山場であります!
さて、久々の本編どうぞ!


46話 アキシグレ ニ カサヲ

湊さんと九条さんに言われて外へ出た私は商店街の中を歩いていた。

 

『この苦しみと逃げずに向き合うことこそが何よりも大切で、とても尊いことなのだと、わかって欲しい』

 

湊さんに言われた言葉を思い出す。

 

自分が向き合う相手はわかっている。

 

わかっているけど、でも・・・

 

「今の私には・・・そんな勇気・・・」

 

そう思っていると鼻先に冷たさを感じる。

 

何かと思い上を見ると曇天の空がさらに黒くなっている。

 

「あ・・・雨・・・?」

 

するとポツポツと雨が降ってきた。

 

さらに数分としないうちに勢いが増していく。

 

とりあえず適当に雨をしのげるところを探す。

 

この雨は今の私の心を表しているように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

「うん、それじゃあ一度熱色スターマインから合わせてみようか。」

 

「「「「了解!」」」」

 

紗夜不在の中いつも通り初めに曲を合わせて一度フルで流そうとした時だった。

 

バタンと扉が開く。

 

そこに居たのは翡翠色の髪の色をした・・・日菜さんだった。

 

「お、おねーちゃん、いる!?」

 

「ヒナ!?どうしたの!?」

 

リサが驚きの声をあげる。

 

いつもはアイドル業で忙しそうな日菜さんが何故ここにいるのかわからない。

 

しかしその手には2本の傘があった。

 

そしてその片方はかなり濡れていた。

 

「外、すっごい雨降ってるの!だからおねーちゃんに傘もってきたんだけど・・・おねーちゃん、いないの?」

 

そう言われたのでスタジオの窓の外を見ると確かに雨が降っている。

 

しかもその勢いはかなり凄かった。

 

「紗夜は・・・今ここにはいません。でもまだ近くにいると思います。」

 

「ソータくん・・・ならおねーちゃんにこれ・・・」

 

すると今まで黙っていた友希那が口を開いた。

 

「いえ、日菜・・・あなたが紗夜に傘を渡してあげて。」

 

「・・・ん!わかった!リサちー、友希那ちゃん、ソータくん、ありがとー!」

 

日菜さんがそう言ってスタジオから出ようとする。

 

「日菜さん!」

 

「?どうしたの、ソータくん?」

 

僕は日菜さんを引き止めた。

 

何故引き止めたかはわからない。

 

けど一言だけ言っておきたいことがあった。

 

「その・・・紗夜のこと、よろしくお願いします。」

 

「私からも、紗夜のこと、頼んだわよ。」

 

「・・・?う、うん・・・じゃ、あたしその辺探してくるから!」

 

今度こそ日菜さんがスタジオから出ていった。

 

「・・・友希那さん、奏多くん・・・氷川さんがいない理由・・・2人は知っているんですか?」

 

「はい、さっきの口調からして知ってるような言い方でした・・・もしかして、あこ達が来る前に何かあったんですか?」

 

これは言わなければならない空気だとわかり、みんなが揃うまでにあったことと紗夜がなぜあんなことになったのかを話した。

 

するとリサが静かに、しかしハッキリと話し出した。

 

「・・・紗夜があんな状態になった理由はわかった。けど何でそんな紗夜の所に日菜を行かせたの?もしかしたら紗夜は日菜から傘を受け取らない可能性もあったかもしれないんだよ?」

 

「・・・今の紗夜に私たちの声は届きにくい。だから日菜に頼むしかなかった。私は日菜の言葉が1番紗夜に届くと思ったからそう頼んだの。多分この考えは燐子が一番わかると思う。」

 

「私・・・ですか?」

 

「奏多が私たちから離れた時、燐子に誘うように頼んだわね。あの時奏多に対して1番声が届くと思ったのは燐子だと判断したから頼んだ。だからこうして奏多はここにいてくれている。」

 

「だからあの時・・・友希那さんは私を・・・」

 

「私は誰かが挫折したりした時に一番声が届くのは一番親しみのある人だと思うわ。インディーズの時もそう、奏多のときもそう、いつだって身近で親しい人が助けてくれた。だから今回も紗夜の一番身近な人、日菜に頼んだのよ。」

 

「紗夜の苦しみや辛さは正直リサに燐子、あこより僕と友希那の方がわかると思う。だから僕も紗夜のことを日菜に託そうと思った。話すタイミングが無くて話せなくてごめん。でも今回のことは日菜さんに任せてみよう。」

 

「・・・うん、わかった。ごめんね、アタシも考え無しで聞いちゃって・・・」

 

「大丈夫よリサ。紗夜は必ず答えを見つけて帰ってくる。だから私達は練習を再開しましょう。」

 

そう言ってみんなが元の位置につく。

 

そうして練習が再開された。

 

みんなの演奏を聞く中、僕は窓の外を見る。

 

秋の時のこの雨・・・俳句とかでは「秋時雨」というのだろうか。

 

この様子ではしばらくやみそうにない。

 

紗夜がどこかで濡れていないか心配だがそこは日菜さんに頼むしかない。

 

僕は紗夜が答えを見つけて帰ってくることを願うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜side

 

私はあるお店の前で雨宿りをしていた。

 

外の雨は勢いを増す一方だ。

 

この様子ではしばらくやみそうにない。

 

「・・・そう言えばあの日もそうだったわね。」

 

私はあの日・・・七夕の日を思い出す。

 

その日も一時的にこんな感じに雨が降っていた。

 

やんだあとに買い物に出たら1人で七夕祭りを見に行っていた日菜と偶然であった。

 

しかも出会った場所もこの商店街だったはず。

 

『日菜とまっすぐ話せますように』

 

そう願ったのは自分であり、その願いを叶えるのは自分自身だとその時からずっとわかっていた。

 

わかっていたはずなのに・・・

 

「私・・・あの日から、何も変わっていないんだわ・・・」

 

そう思いざるを得なかった。

 

実際今もこうやって逃げてばかりいて九条さんや湊さん達を困らせてしまっているのだから・・・

 

「っ・・・」

 

悔しさ、辛さ、そして悲しさがこみ上げてくる。

 

その時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・おねーちゃん・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声、そして私を「おねーちゃん」と呼ぶ存在。

 

そんな人はこの世にただ1人しかいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・日菜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔を上げる。

 

やはり声の主は日菜だった。

 

「よかったあー、ここにいたんだ!雨がすっごいから傘渡そうと思ってスタジオに行ったんだけど、おねーちゃん、今日スタジオに来てないって言われてね、友希那ちゃんとソータくんにまだそのへんにいるはずだから傘、渡してきてって言われてさ。はい、これ。」

 

日菜が傘を手渡してくる。

 

私はその傘を・・・素直に受け取れなかった。

 

「・・・どうして・・・どうして・・・」

 

どうして、私が何度突き放しても、何度拒絶しても日菜が私のそばにいようとするのかわからなかった。

 

しかし、日菜がこんなに私のそばを離れずにいてくれたというのに、私はすべて日菜のせいにしていた。

 

私は・・・私はそんな自分が惨めで、悔しくなってきた。

 

「・・・うっ・・・ううっ・・・」

 

思わず嗚咽が漏れる。

 

そして・・・雨とともに涙が流れる。

 

「お、おねーちゃん!?大丈夫・・・!?ご、ごめん、あたし・・・また、おねーちゃんのこと・・・」

 

日菜が慌ててまた自分のせいだと思いそうになる。

 

しかし私は日菜の言葉を最後まで言わせなかった。

 

「日菜・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

私は・・・日菜に謝ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着きを取り戻した私は日菜が渡してくれた傘をさして日菜と一緒に自宅へ帰った。

 

家には誰もおらず、私と日菜は向かい合うように座った。

 

「・・・。」

 

「・・・さっきは、突然ごめんなさい。」

 

「う、ううん!おねーちゃん、もう大丈夫?」

 

日菜がまっすぐこちらを見てくる。

 

いつもの私なら目をそらしている。

 

しかし今は・・・

 

「・・・日菜、あなたと、あなたの目を見て、まっすぐに話をする時が来たわ。」

 

「えっ?それって、どういう・・・」

 

「私は・・・いつもあなたにコンプレックスを感じてきた。・・・日菜と比べられたくない。だから私は、あなたがやっていないギターをはじめた。けれど、あなたは私を追うようにギターをはじめて・・・あっという間に私を追い越していって・・・」

 

「おねーちゃん、そんなことないよ・・・っ!」

 

「いいのよ、日菜。あなただって気づいているはずよ。私より、あなたのほうが・・・」

 

そこまで言って言葉が詰まる。

 

・・・そして涙が出そうになる。

 

「おねーちゃん・・・っ!もう、それ以上は・・・!」

 

日菜が止めようとする。

 

しかしここで止まってはいけない。

 

ここで止まればその先にいる者達に追いつけないから。

 

「いいえ、ダメよ。言わないと・・・言わないと私は・・・変われないから・・・!」

 

「おねーちゃん・・・」

 

「・・・あなたの演奏する音が怖かった。自分への劣等感、それに・・・あなたへの憎しみが増していってしまうから・・・前に、一緒に七夕祭りへ行ったでしょう?」

 

「うん、覚えてるよ。」

 

「あの日の短冊に私はこう書いたの。『日菜とまっすぐ話せますように』・・・と。」

 

「・・・!」

 

「けど、その願いを、星が叶えてくれるはずがない。叶えるのは、私自身なのだと・・・そう自覚もしていた。だから、以前よりもあなたと一緒にいる機会を作ろうとした。そうすれば短冊の願いも叶えられると思ったから。・・・でも、あなたの演奏を聴くことだけは逃げ続けていた。沖縄の時も日菜の音より自分の音や他の楽器の音にだけ集中していた。そんな時、久しぶりにあなたの演奏をしっかり聴いて・・・あなたの音は技術にとらわれない魅力的な音をしていると、そう感じたの。『音楽を心から楽しんでいる』・・・私には無い、そんな音がした。あなたに負けないために、何にも左右されない評価を得たくて技術を磨いてきたけど私の音なんて・・・その程度の『つまらない音』なのだとはっきりと感じてしまった。あなたに負けたくない・・・ただそれだけのために磨いて、弾いてきた音なんて、つまらない音で当然よね。もう・・・もう全部嫌なのよ。『つまらない音』を奏で続けている自分も、短冊の願いからどんどん遠ざかっている自分も、全部・・・全部!」

 

自分の今思っていることをすべて話す。

 

すると日菜は下を向いて身体を震わせていた。

 

「・・・日菜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねーちゃんの・・・おねーちゃんの嘘つき!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ・・・?」

 

日菜が滅多に見せない大きな声で私を叱りつけるようにそう言った。

 

日菜はそのまま話を続けた。

 

「おねーちゃん、約束してくれたよね?あたし達はお互いがきっかけだから勝手にギターをやめたりしないでって!あたし・・・それが、すっごく嬉しかったのに・・・!」

 

確かに日菜がギターをはじめたとき私は突き放すためにそんな約束をした。

 

日菜は泣きそうな自分を抑えてひとはく開けるとそのまま話を続ける。

 

「あたし、おねーちゃんの音、大好きだよ!前よりも今の方がもっとるんって・・・えっと・・・楽しそうな音、してるんだよ?おねーちゃん、自分で気づいてる?あたしはおねーちゃんの音がつまらない音だなんて思ったことないよ!おねーちゃんの音を聞いて、あたしはギターをはじめたんだよ!」

 

「日菜・・・!」

 

日菜が擬音ではなくわかりやすいように言葉を変えて話す。

 

私は日菜の言葉に驚きを隠せなかった。

 

「・・・あたし、知らないうちにおねーちゃんのことたくさん傷つけていたんだよね。本当にごめんね、おねーちゃん。でも、でもね・・・あたし、おねーちゃんにギターやめて欲しくないよ。どんな理由だっていい!苦しいこと、辛いことがあったらあたしのせいにしたっていいよ。おねーちゃんが・・・おねーちゃんがギターを続けてくれるんなら!・・・あたし、おねーちゃんと昔みたいに仲良くなりたいって思ってた。けど、そのせいでおねーちゃんが苦しい気持ちになるんだったら・・・いいよ。あたしの事、嫌いでも。それに・・・そんな風にギターをやめようとして・・・約束を破るおねーちゃんなんて、あたしだって・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしだって・・・大っ嫌いだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・!」

 

日菜がたまらず泣き出す。

 

私は・・・私の心には日菜の言葉が突き刺さった。

 

・・・しかしその言葉が私を『いつもの私』に戻してくれた。

 

「・・・あなたは・・・いつもすぐに私を追い越していくのに、私を待って立ち止まって・・・時には傘をさして、私を苦しみから守ろうともしてくれた。・・・私は、いつしかあなたの優しさに、甘えていたんだわ。でも・・・そうよね。あなたとの約束・・・そして、短冊に書いた願い事・・・どちらも違えては行けないわよね。」

 

「・・・!」

 

「私は・・・常にあなたが先に行くような現状を受け入れられるようなできた人間ではない。でも・・・いつか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたと並んで一緒に歩いていくことができるように・・・私はこの音・・・『つまらない音』でギターを弾き続けようと思う。そしていつか・・・自分の音に誇りを持てるようになりたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが今の気持ち、そして・・・精一杯の願いだった。

 

「おねーちゃん・・・!」

 

日菜が泣きながらも笑顔を見せる。

 

やはり日菜にはまだ追いつける気がしない。

 

「・・・また、あなたに先を行かれてしまったわね。・・・ありがとう、日菜。必ずあなたのもとへ向かうから、その時までもう少し・・・待っていて。」

 

「うんっ・・・うんっ・・・!あたしは・・・おねーちゃんが止まらない限りその先で・・・おねーちゃんを待ってるから・・・必ず・・・必ず来て!約束だよ、おねーちゃんっ!」

 

日菜に追いつくにはまだまだ時間がかかる。

 

しかし私はこの音を・・・このまだ『つまらない音』を『誇りある音』と思えるようににすることが先だと思った。

 

私は・・・ようやく前に進めるようになったと思った。




いつもより長い・・・そしてストーリー見直したら泣きそうになった・・・
さすがブシロードさん・・・神作を作る・・・
ということで次の投稿でこの章はラストになります。
次の更新は明日です。
それまでお楽しみに!

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