無色と灰色の交奏曲   作:隠神カムイ

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単発教のあまり10連に馴染みがない隠神カムイです。
本日はチョココロネ先輩こと牛込りみ先輩の誕生日です!
皆でチョココロネを食べるのだァ!

さて、そんなテンションを覆す本編ですがここから重い道まっしぐらです。

そんな本編、お楽しみください!


72話 ウシナワレハジメタオト

後片付けを皆に任せ、先に帰宅した私は今回のライブのことをずっと考えていた。

 

それはもちろんオーディエンスがいなくなってしまったことだ。

 

いつもの演奏ならこんなこと絶対にない。

 

私達は以前より確実に演奏は上手くなっているはずだ。

 

それぞれ個人の課題をクリアし、乗り越えようとしている。

 

それに今回の演奏は今まで演奏してきた中でもトップクラスに良いものだと思っている。

 

しかし現実は違う。

 

舞台上から観客席はよく見えるのでオーディエンスがどのような行動を取っているのかはボーカルの私が1番よくわかる。

 

その結果からして目の前でオーディエンスが次々といなくなっていくのがはっきり分かったし、 残っていた人達もRoseliaの音楽にあまり耳を傾ける様子はなかった。

 

おそらく店や街中で流れるBGM程度に聴いていたのだろう。

 

それは興味を示さないことと一緒である。

 

それに盛岡さんが言ったあの言葉・・・

 

『すみません、緊張していましたか?以前聴いた時と印象が違ったような・・・』

 

それは以前と今回では私達の音は違っていたという事だ。

 

あの人がいつ私達のライブに来たかはわからない。

 

しかし他のバンドと見比べる必要があるのでそう最近では無いはずだ。

 

「以前と・・・何が違うの・・・」

 

『以前』のRoseliaと『今』のRoselia、その違いを私はずっと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

やはり聴こえない。

 

音が、その一人ひとりの個性が。

 

あの後みんなが帰った中、僕は1人だけSMS会場に残って他のバンドの音を聴いていた。

 

最近注目のバンドから人気トップクラスのFWF常連バンドまで色々な音を聴き分けていた。

 

しかし結果から言うとすべて『凄い』の一言で終わってしまっていた。

 

今まであまり音楽に触れてこなかった人が初めてライブ会場に来た時ぐらいの感覚しか無かったのだ。

 

「・・・どうしちゃったんだろ僕・・・疲れてんのかな・・・」

 

ココ最近ずっと動きっぱなしだったのだ、いくら疲れにくい僕でも疲れが溜まるだろう。

 

これは帰って寝ることが得策である。

 

「あっ、そうだレイン・・・」

 

そういえば友希那にレインを預けっぱなしである。

 

明日返して貰いに行くか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が代わり次の日

 

SMS後の初練習である。

 

いつもならもう少し賑わう練習も、昨日のことがあってか空気が重い。

 

「・・・では、さっきの二つ前から。」

 

そして友希那もこの通りいつもより冷たい。

 

「・・・・・・」

 

「あこ?カウントお願い。」

 

「・・・あ、は、はい・・・!」

 

いつもテンションが高いあこでさえこのテンションである。

 

昨日のライブはかなり刺さっているようだ。

 

「・・・・・・」

 

そしてその中でも燐子が1番不穏そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習開始から数時間が経った。

 

僕の方は結論からいえば昨日と全く変わらなかった。

 

疲れだけかと思ったらそうでも無いらしい。

 

ため息が出そうになるがまだ演奏中だ、抑え込む。

 

そして演奏が終わり、時計を見るとそろそろ終了時間である。

 

「・・・そろそろ終わりの時間だけど・・・」

 

「・・・それぞれつまづいた所を次までに必ずつぶしておくこと。それじゃあ、今日はここまで。片付けましょう。」

 

「「「お疲れ様でしたー」」」

 

それぞれが挨拶を返す。

 

重い空気が少しだけ軽くなった気がした。

 

そしてリサはいつも通りアレを持ってきていた。

 

「ゆーきなっ!お疲れっ!友希那もクッキー食べない?」

 

「今井さん、一緒にクッキーを作る約束していたのに・・・1人で作ってしまったの?」

 

リサの手作りクッキー。

 

紗夜は残念そうにしているが恒例行事といえば恒例行事である。

 

「あはは〜・・・ごめんごめん。でもこれは、ちょっと別って言うか?SMSではさちょっと・・・上手くいかなかったけどさ、アタシ達もまだまだなんだなって改めてわかったし!これからも頑張っていこー!っ的な?」

 

リサがそう言った。

 

リサなりの気配りなのだろう。

 

「そういうことなら、なおさらバンドメンバーの私も参加したかったというか・・・」

 

「ううっ・・・あこ、どうしてSMSが上手くいかなかったのか、未だにわからないんです・・・」

 

あこが自分の気持ちを伝えた。

 

そこから流れはSMSの反省会へと移っていた。

 

「うーん・・・アタシは、自分の技術がまだまだなのかなって思ったよ。うまくノレて演奏はできたけど、技術がさ・・・」

 

「技術的なブレがあるなら練習あるのみです。今井さん、付き合いますよ?」

 

本当にそうなのだろうか。

 

個人的には演奏技術より別のところにあるような・・・

 

「紗夜さんも、やっぱりあこ達が上手じゃなかったから、お客さん達がいなくなっちゃったと思っていますか?」

 

「そうね・・・一概にそれだけじゃない気もするのだけど・・・ただ、技術を磨くことは損ではないはずだから、まずはそこを、というところかしら。」

 

「わかるまでは・・・まずは練習、ということでしょうか・・・」

 

「そうですね、考える時間は大切ですが、考え続けて時間をつぶしてしまうのはもったいないですから。」

 

紗夜らしい意見だ。

 

原因はわからなくともまずは己を磨くという所は賛成である。

 

「あははっ、紗夜らしいね?それじゃあ、練習付き合ってもらおうかな!」

 

「ええ。それではスタジオの時間を延長しましょう。九条さん、大丈夫そうですか?」

 

「ええっと・・・確かこの後ここを使うところはなかった・・・はず。」

 

記憶が確かならさっき予約確認した時にこの後ここを使う人はいなかったはずだ。

 

最悪ここが使えないならまりなさんに頼んで空いているスタジオを借りればいい。

 

「オッケー☆それじゃあ、一旦解散したら、あとは個人練だね。友希那はどーする?」

 

「今日はこのまま帰るわ。それからリサ。」

 

「え?どうしたの?」

 

友希那が真剣な眼差しをする。

 

そして友希那が発した一言にその場が凍りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もう、クッキーは作ってこなくていい。必要ないわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那side

 

あのまま考えても拉致があかなかった。

 

ならば1度音を合わせて見ればわかると思って練習に来たが、みんなと合わせても全くわからなかった。

 

何故、SMSの演奏は受け入れられなかったのか、そして以前と何が違うのか・・・

 

私は練習後の風景を黙って見ていた。

 

「ゆーきなっ!お疲れっ!友希那もクッキー食べない?」

 

リサがいつもの調子で私に声をかける。

 

いつもなら受け取るのだが、今回は受け取りにくい。

 

(あ・・・)

 

リサのクッキー

 

それはRoselia結成当初にはなかったもの。

 

いつしかRoseliaのものとして浸透していたものだ。

 

Roseliaの音が変わった原因、それはもしかするとこれなのかもしれない。

 

各々がSMS失敗の原因を話し合う中、気がつけば私はこれが原因だと思い込み始めていた。

 

こんな小さなものが原因になるはずがない、それにリサのクッキーがあったからこそこのメンバーの絆が深まってきたのだ。

 

・・・いや、()()()()()()()()()()()()なのかもしれない。

 

Poppin’PartyやAfterglow、Pastel*Paletteにハロー、ハッピーワールド!のバンド演奏を通じて絆の必要性はわかっていたはずだった。

 

しかし、Roseliaは()()()()()()()()()()()()であり、あのバンド達とは違って技術の足りないものは抜けてもらうなどの厳しい規則とかもあったはずだ。

 

しかしそれもいまや消え去っている。

 

私にとって原因がそれらだと思い込んでしまっていた。

 

1度思い込んだものはそう簡単に書き換えられない。

 

もしこの仮説が違っていたかもしれなくても試す価値ぐらいはありそうだ。

 

「一旦解散したら、あとは個人練だね。友希那はどーする?」

 

リサがそう尋ねてくる。

 

私は覚悟を決めてその事を伝えてみることにした。

 

「今日はこのまま帰るわ。それからリサ・・・もう、クッキーは作ってこなくていい。必要ないわ。」

 

「友希那・・・さん・・・?」

 

「あ、あれ?ゴメン、なんかアタシ、空気読めなかったかな・・・?」

 

燐子が驚きの声を上げて、リサは反省気味に返す。

 

多少の罪悪感は湧くがこれもRoseliaのため、心を鬼にするしかない。

 

「それじゃあ、これで・・・」

 

「あ、ちょっと友希那!」

 

奏多の声がするがそれを無視してスタジオを後にする。

 

私達は取り戻さなくてはならない。

 

私達の歌を、私たちの張り詰めた思いをーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

「それじゃあ、これで・・・」

 

友希那はそう言ってスタジオを後にしようとする。

 

「あ、ちょっと友希那!」

 

必死で静止するも、友希那はそのまま行ってしまった。

 

「あちゃー・・・行っちゃったか・・・どうしたんだろ・・・友希那・・・」

 

「友希那さん・・・どうしちゃったんだろ・・・」

 

リサとあこが心配そうな声を上げる。

 

「奏多くん・・・なんで友希那に声を・・・?」

 

「うん、友希那にレイン預けっぱなしだからさ・・・いい加減迷惑かなって。」

 

「確かにレインは湊さんが預かっていたはずですね。」

 

「うん、でもあの状況だと言い出せにくいよね・・・」

 

「どうする?アタシから言っておこうか?」

 

リサが自分が聞こうかと勧めてくる。

 

しかしこれは僕の問題だ、リサに任せるわけにはいかない。

 

「・・・いや、明日も練習あるし明日言うよ。とりあえず僕からまりなさんに言っておくからみんなは練習続けて。僕はこのあと・・・用事あるから!」

 

本来は用事なんてない。

 

しかし今ここに僕がいても特にアドバイスを送ることが出来ない。

 

壊れたものなぞそこにいても邪魔なだけだ。

 

なので退いた方が良いと判断したのだ。

 

僕は荷物をまとめ、スタジオを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして友希那と僕、この2人の変化が原因でRoselia解散の危機に瀕するとは誰が予測しただろうか・・・




次回、『クルウハグルマ、チリハジメルアオバラ』

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