無色と灰色の交奏曲   作:隠神カムイ

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前編の続きです。
元々トリカゴ ノ ウタヒメは3話で全部書くつもりだったんですけど長々しいのは好きではないので分けることにしました。

それでは本編どうぞ!


4話 トリカゴ ノ ウタヒメ(後編)

僕が会場に戻るとちょうど湊さんの一つ前のバンドが始まったばかりだった。

 

そのバンドは人気があるのかファンが多く、熱気が凄いことになっていた。

 

服装が長袖と厚手のズボンのせいなのかいつも以上に暑くなり、ドリンクカウンターへ向かった。

 

 

 

 

 

ドリンクカウンターで適当に飲み物を買い、飲んでいると階段から見覚えのある2人が降りてきた。

 

「大丈夫だって!確かにりんりん人混み苦手なの知ってるけどあこが一緒にいるから安心してって!」

 

「あ・・・あこちゃん・・・その・・・引っ張らないで・・・私・・・やっぱり・・・」

 

「ドリンクカウンターの辺りなら人少ないから大丈夫だって!友希那を見た後すぐに帰るから!」

 

あれは白金さんとあこって言う子だ。

 

どうやら湊さんのライブを見に来たようだが白金さんはあまり乗り気ではないようだ。

 

するとあこがこちらに気づいた。

 

「あれ?この前の道に迷ってた人だ!ええっと確か名前・・・」

 

「この前の案内してくれた子ですね。僕は九条奏多って言います。この前はどうもありがとうございます。」

 

「私、宇田川あこ!この前のことは気にしないで!九条さんも友希那を見に来たんですか?」

 

「いや、道に迷ってたらたまたまこのライブハウスがあって休息ついでに見ているんです。」

 

「ええ・・・また迷ってたんですか?ねぇりんりんがこの前言ってたクラスメイトってこのひ・・・りっ、りんりん!?」

 

宇田川さんが白金さんに話し掛けようと振り向くとそこには顔が真っ青になって震えている白金さんがいた。

 

「わ・・・私・・・やっ・・・家・・・かえ・・・」

 

「し、白金さん!?大丈夫!?」

 

「りんりん!友希那を見るまで死んじゃダメぇ!」

 

「ちょっとあなた達少し静かに・・・九条さんと白金さん!?」

 

あまりの騒がしさに注意しに来た氷川さんがこちらに気付いた。

 

「ひ、氷川さん!その・・・すみません・・・」

 

「りんりん!大丈夫!?」

 

あこはすこし慌てすぎて周りの声が聞こえてないようだ。

 

「そこのあなた、少し落ちついて」

 

氷川さんが話切る前に湊さんの歌声が流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは優しくも強く、深く、そして澄んだ歌声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

宇田川さんは慌てていたのが嘘のように止まり湊さんの歌を聴き入っている。

 

 

 

白金さんは震えていたのが止まり、落ち着きを取り戻している。

 

 

 

氷川さんは怒るのを忘れ、2人以上に湊さんの歌に感銘を受けているように思える。

 

 

 

そして僕はその澄んだ歌声に何も言えずにいた。

 

 

 

曲は「魂のルフラン」だろう。

 

昔からある曲だが今でも王道曲として歌われ続けている曲だ。

 

原曲も素晴らしいのだが湊さんが歌うと一層引き立って聴こえる。

 

湊さんの「魂のルフラン」が終わると盛大な拍手が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湊さんの出番が終わり僕と宇田川さんと白金さんはライブハウスの外の席で話していた。

 

「やっぱり友希那超超超カッコよかった!」

 

「うん・・・そうだね・・・」

 

「確かにあれはすごかった・・・」

 

「ねぇりんりん!ここで待ってたら友希那来てくれるかな?」

 

「ええっと・・・私・・・そろそろ・・・帰りたい・・・」

 

宇田川さんがここで待とうと提案している中、僕は白金さんに質問をした。

 

「ねぇ白金さん、なぜライブ会場に降りてきたとき真っ青になっていたんですか?」

 

「えっと・・・私・・・人混みが・・・大の苦手で・・・ああいう場所に行くと・・・怖くて・・・震えてしまうんです。」

 

「なるほど・・・」

 

「でも・・・あの人の・・・歌を・・・聴いていたら・・・不思議と・・・心が・・・落ち着いたんです。」

 

だから湊さんの歌の時はあれほど落ち着いていたのか。

続けて質問をしようとした時にライブハウスから湊さんと氷川さんが出てきた。

 

「あら?九条さんに白金さん、まだ帰っていなかったんですか?」

 

「紗夜、その人たちは?」

 

「クラスメイトです。たまたま一緒にいたんですよ。」

 

「そう、紗夜バンドを組むにあたって練習日時は」

 

氷川さんが湊さんの質問を返し話を続けようとするとあこが僕の前に出た。

 

「えっと・・・友希那・・・さん。バンド組むんですか?」

 

「えぇ、そうだけど。」

 

「わ、私!ずっと友希那さんのファンでした!だからえっと・・・友希那さんのバンドに入らせてもらえないですか?」

 

宇田川さんが思い切った質問をした。

 

これには僕も白金さんもとても驚いた。

 

「悪いけど遊びでやってるつもりは無いから。」

 

しかし湊さんは冷たく引き離した。

 

「えっ・・・うぅ・・・」

 

「紗夜、行くわよ。」

 

「え、ええ。」

 

宇田川さんは落ち込んだ様子だった。

 

その落ち込んだ様子を気にせず湊さんは氷川さんを連れてどこかへ行ってしまった。

 

僕は氷川さんと話をするため2人を追いかけた。

 

 

 

 

 

「氷川さん!」

 

「九条さん、どうしましたか?」

 

「あの・・・実は僕、氷川さんのライブから見ていたんですけど・・・」

 

「あぁ・・・今日はすみません、最後の方少しミスをしてしまいました。お見苦しいのを見せてしまいました。」

 

「えっ・・・その・・・」

 

そんなミス気がつかなかった。

 

確かに最後の方のテンポが少し早まったかなと思ったけど全然気にならないぐらいだった。

 

それをミスと言うならどこまで意識が高いのだろうか。

 

「紗夜、早く行くわよ。」

 

「それでは私は湊さんと打ち合わせなどをしに行くので。また学校でお会いしましょう。」

 

氷川さんはそう言うと湊さんの後を追いかけて行った。

 

 

 

 

 

ライブハウス前に戻るとそこにはまだ白金さんと宇田川さんがいた。

 

「九条さん、あの2人と何話してたんですか?」

 

「えっと・・・氷川さんと話をしようと思ったんですけど少ししか話せなくて・・・」

 

「そう・・・でしたか。」

 

「あこ、何回でもお願いしに行きます!入れてくれるまで絶対絶対あきらめないんだから!」

 

宇田川さんがとても燃えていた。

 

凄いやる気に気圧されつつも僕は2人と別れ、帰ろうとした。

 

「えっと・・・九条さん・・・道・・・わかるん・・・ですか?」

 

あっ・・・

 

 

 

 

 

 

また2人のお世話になりつつ、何とか家に着いた。

 

家を出たのが11時ほどだったはずなのだが帰ってきたのは7時前だった。

 

居間に着くとどっと疲れが押し寄せ、そのままソファーにダイブした。

 

夕飯を作る気力もなく僕はソファーにもたれながらも今日あったことを思い出した。

 

パン屋のパンが美味しかったこと、コーヒーが美味しかったこと、神社からの景色が素晴らしかったこと、そしてあの湊さんの歌声が素晴らしかったこと。

 

すると僕はあのピアノの音色を思い出した。

 

あの澄んで心に響く音色と湊さんの歌が合わされば素晴らしいものができるのではないか。

 

そんなことは不可能だとわかっているが、いつかそんな演奏が聴けたらいいなと思いつつ僕はそのまま眠りについた。




本当はプロット1枚しか書けてないのですがまさかプロット1枚で2話も書けるとは思ってなかったです(笑)
次回はあの人気2人を出す予定!(タグ注目)

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