無色と灰色の交奏曲   作:隠神カムイ

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千聖さんの誕生日特別編やろうかと考えましたが別日に番外編としてやろうと考えた隠神カムイです。
さすがに連続番外編はキツイ・・・
ということでようやく主人公目線で話を進められます・・・

てなわけで本編どうぞ!


75話 トオザカル ユメ

「・・・もういいよ、どうなっても知らないから!」

 

怒りのあまりそう言って飛び出してしまった。

 

しかし今のは絶対友希那が悪い。

 

あこのことを切り捨てたり昔に戻ろうとしたりと明らかあちらに非がある。

 

それでも自分の考えが正しいみたいな態度を取られては誰だって怒るだけ損だと思う。

 

「・・・1回現実を見ろって。」

 

そう呟きながらCIRCLEを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしその5分後。

 

「・・・でも少し言いすぎたかな・・・あんな言い方したら誰だってムキになるし・・・でもあれはあっちが・・・けど・・・」

 

たった5分で心が揺らぎ始める。

 

人は怒りから冷め始め、落ち着き出すと色々反省しだすものだ。

 

でもあれは誰だって怒るだろうし・・・

 

「いやいや、あっちが悪いんだから・・・」

 

そう思い込むように僕は足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・そしてその2分後。

 

「あぁ・・・もうホント僕ってバカ・・・あんな言い方したら謝りにくいし帰りにくいじゃん・・・」

 

心が折れて自分を責め始めた。

 

『お前は優しすぎるから怒るのに向いてない、怒るだけ自分を責めるだけだぞ』

 

確か昔親父に言われたっけ。

 

ほんの10分前ぐらいはめちゃくちゃ怒っていた僕だが今では反省点を考えまくるほど弱気になってしまっている。

 

本当に怒るのに向いていない人だ。

 

「あんな口叩いちゃったら誰だってムキになるよ・・・友希那だってRoseliaのためにどうやったら元に戻るか模索していただけかもしれないし・・・」

 

そうぶつぶつ呟いているといつの間にか商店街の方まで来てしまっていた。

 

家とは思いっきり反対方向の場所である。

 

「変に来ちゃったな・・・」

 

今の気分的にあまり知っている人に会いたくない。

 

時計を見ると11時過ぎ、人が多い時間帯である。

 

でもどこかで1人考え事をしたい。

 

「・・・なら、あそこなら行けるかな。」

 

僕はひとつ思い当たるところに足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、その場に居づらくなって思わず出て行っちゃって気がついたら商店街に来ていたからここに来たと。」

 

「はい・・・すみませんマスター、突然お邪魔しちゃって・・・」

 

「いやいや、九条くんなら大歓迎だよ。話し相手がこの子達とおじさんだけだけどしっかり聞いてあげるからさ。」

 

やってきたのは猫カフェ『にゃぴねす』

 

ここの開店時間は11時なので、開店した瞬間はお客さんがいない。

 

しかもここの利用客が来る時間はだいたい3時ぐらいが多い。

 

なぜならここは『食事』を求めるのではなく『癒し』を求めるために来るところだからだ。

 

というわけでここに来たのだ。

 

いつもはこの時間に来ないのと、マスターは人柄的に話しやすい人なので少し相談に乗ってもらおうと思ったのだ。

 

「まぁゆっくりして行ってよ、はい、これサービス。」

 

注文したコーヒーと一緒にこの店名物のロールケーキをサービスしてくれた。

 

ここのロールケーキは本当に絶品なので、ここに来た時は毎回注文している。

 

しかし今はそういった状況ではないので注文しなかったのだが気を利かせてサービスしてくれるようだ。

 

「すみません、ありがとうございます。それとごめんなさい・・・突然押しかけて勝手に悩みをぶつけちゃって・・・迷惑ですよね・・・」

 

「いやいやそんなことないよ。君も知っている通りこの時間帯はお客さん来ないから暇だし、君にとっておじさんが良き相談相手として思われているのは嬉しいよ。」

 

マスターが立派な口ひげを触りながらそう言った。

 

見た目も中身も本当にイケメンなお方である。

 

「いやでもねぇ〜あの湊ちゃんがねぇ〜」

 

「はい・・・昔みたいに人に冷たいっていうか・・・己の夢のためならなんだってする!みたいな感じになってしまって・・・」

 

「確か大きなライブに出ることを目標にしているんだっけ?たしか・・・ふゅーちゃー・・・わーるど・・・なんとか?」

 

「FURTHER WOULD FES.っていう大きなライブに出て頂点に立つことが友希那の夢で・・・いつの間にかRoseliaの大きな夢みたいになってます。」

 

「ん〜おじさん素人だから音楽のこととかインターネット並にわからないけど・・・これだけはわかる。それ絶対夢から遠ざかってるよね?」

 

マスターが真面目な顔でそう言った。

 

やはりマスターもそう思うのだろう。

 

「僕もそう思います・・・けど今の友希那はそのことをわかってやっているのか、どうやって元に戻せるかと模索しているのかがわからなくて・・・」

 

「人って調子のいい時と悪い時があるから原因はそれだと思うんだけど・・・聞いた感じだとそういう訳じゃなさそうだねぇ。SMSってライブが原因だとすると何かしらの変化が起こってたのかな?」

 

「それはわかりません。でも僕もそのせいか音っていうか・・・音色っていうか・・・いつもはその善し悪しみたいなのが聞き取れていたんですけどライブの日からそれが全く聞こえなくなって・・・マスターはそういった自分の才能ってものが上手く働かなくなった時ってどうしていますか?」

 

それを聞くとマスターは「ん〜・・・」と顎に手を当てて考え始めた。

 

そして答えを見つけだしてくれたのかゆっくり話してくれた。

 

「・・・おじさんもね、昔コーヒーの修行をしていた時にいつも通りコーヒーを淹れることができなくなってしまった時があるんだよ。何度やってもいつもの味にならない、どう試行錯誤してもこれって味にならないって時がね。でもね、おじさんの師匠が突然紅茶を淹れなさいって言い出したんだよ。」

 

「コーヒーから・・・紅茶?淹れ方が違うはずでは?」

 

「そうそう、その時はおじさんも絶対違うって答えたんだけど早くやりなさいって言うから渋々紅茶を淹れたんだよ。昔コーヒーだけじゃなくて紅茶も修行していたからね。師匠はそれを1口飲むと次は緑茶を、次はほうじ茶をって色々なことをやらせてきたんだ。緑茶なんて初めてだったしそりゃあ緊張したよ。あらかたやってみてついにおじさんも師匠に言ったんだ『なんでこんな意味の無いことをやらせるんですか』って。師匠はそれを聞いたあと、いつもと変わらずにコーヒーを淹れなさいって言ってきたから淹れてみたらこりゃまたびっくりコーヒーがいつもより美味しくなってた。」

 

その事に驚愕を受けた。

 

なぜマスターの言う無駄なことをしたら味が良くなったのだろうか。

 

「なぜ味が良くなったんです?紅茶とかにコーヒーの淹れ方のコツとかがあったんですか?」

 

「おじさんも不思議に思ったから師匠にそう聞いたらニコって笑って『いや、どれもコーヒーと関係なし』って言うんだよ。だったら何故良くなったのか聞いてみたら『あなたはひとつのことにこだわりすぎている。だから1度視野を広げ、そのこと以外のことをすることで気分を切り替えすことが大切なんです。あなたもやったことの無い緑茶を入れる時緊張したはずですがそれと同じくらい楽しかったでしょう?初めてやった時の緊張感とひとつのことにこだわりすぎないことが大切なんです』・・・ってね。」

 

マスターはどこか懐かしい顔をしてそう言った。

 

「緊張感とこだわりすぎない・・・」

 

「まぁ、おじさんの時がそうなだけで誰しもそうなるとは限らないけどね!今は悩んで答えを見つけ出すことが大切だとおじさんは思うな。若いうちはさんざん悩んで、考えて前に進めってね!」

 

マスターがハハハッと高笑いする。

 

やはりマスターに相談してよかった。

 

「ありがとうございます。マスターの言う通り今はさんざん悩ませてもらいます。あなたのアドバイスも試してみます。」

 

「ハハッ!そりゃよかった!また困ったことがあればまたおじさんの所に来なさい。猫達と共にコーヒーとロールケーキ作って待ってるからさ。」

 

マスターが優しい笑みをむけてくれる。

 

やばい・・・この人本当にイケメンだ・・・

 

「本当に・・・ありがとうございました!」

 

お礼とお代を置いて店を出る。

 

店を出た途端、見たことある人達に出会った。

 

「あら!奏多じゃない!」

 

「あ、そーくん!やっほー!」

 

「あーちょっと二人とも走らないでよ!あ、九条先輩、どうもです。」

 

弦巻さん、北沢さん、奥沢さんの3人。

 

ハロー、ハッピーワールド!の方々だ。

 

「皆さんこんにちは。」

 

「奏多、ハロハピに来てくれる気になったかしら!」

 

「ちょっとこころ、いい加減しつこい!すみません九条先輩、うちのこころが迷惑かけて・・・」

 

奥沢さんが必死に謝る。

 

・・・さっきマスターに言われたこと、試す機会かもしれない。

 

「・・・1週間。」

 

「・・・へ?」

 

「い、1週間だけ、僕をハロハピのメンバーにしてくれませんか?」

 

「もちろん!大歓迎よ!」

 

「わーい!そーくんがハロハピになったー!」

 

弦巻さんと北沢さんがめちゃくちゃ喜ぶ。

 

そんな中、奥沢さんは固まっていた。

 

「・・・奥沢さん?」

 

「・・・え」

 

「・・・あの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その叫びは商店街中に響き渡った。




次回、『キミがいなくちゃ!』

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