今回は燐子目線となります。
前書きは短めにしますので本編どうぞ!
「だって・・・誰も・・・みんなの音、聴いてないから・・・っ!!」
あこちゃんに対する友希那の対応に思わず大きな声を出して出ていってしまった。
流れ出る涙をそのままにスタジオを出て道の真ん中で立ち止まる。
涙を抑えて1度冷静になる。
「うぅ・・・あんなこと・・・言っちゃった・・・」
あんなことを言ってしまってはスタジオに戻りにくい。
それにあの様子では戻ったところで変わらないし、あこちゃんもしばらくは練習に参加しないだろう。
それにあこちゃんのことだ、家に帰って自室でこもっている可能性が高い。
「1度帰って・・・反省しよう・・・」
1度落ち着いてから見直した方がいいかもしれない。
私は1人自宅へと戻った。
自宅に着くと私はベッドに顔をうずめた。
「はぁ・・・何やってるんだろ・・・」
いつもならこんなこと家の中で呟かないが今日は両親がいないので呟いた。
両親は会社の都合で三日前に名古屋へ向かった。
聞くところによると3週間は帰って来れないそうだ。
なのでしばらくは1人で何とかしなければならないのだが今日に限っては1人でよかった。
なんだかんだ両親には心配を掛けさせてばかりだ。
なのでこういった1番心配かけそうな時にいなくて助かったのだが誰かにこの気持ちを話したいという気持ちもある。
「あこちゃん・・・繋がるかな・・・?」
体を起こして椅子に座る。
するとちょうどあこちゃんからメールが来ていた。
私が『今家に居るからボイスチャットで話したい。』と送るとすぐに返ってきてボイスチャットを開けた。
『もしもし、りんりん・・・?』
「うん、聞こえてるよ・・・あこちゃん。」
やはりあこちゃんの声に元気がない。
私も繋げたはいいが、どう話せばいいのかわからなくなり、つまる。
「『はぁ〜・・・』」
ため息をつくと、ちょうどあこちゃんと被った。
『あっ・・・』
「被っちゃった、ね・・・」
するとその事が引き金となったのかあこちゃんが話し出した。
『今日のあこ、最低最悪だったと思う・・・急に大きい声出したり、飛び出して行ったりして・・・何やってるんだろ・・・』
「それは・・・私も同じだよ・・・」
『えっ・・・りんりんも?』
あこちゃんが驚いた声を上げる。
普段の私を知っているあこちゃんは普通私がそんな事しないことを知っている。
「あこちゃんが飛び出していった後・・・私も・・・つい、大きな声を出して・・・出て行っちゃったの。」
『りんりん、そんなことしたんだ・・・』
「はぁ・・・反省、しなくちゃ・・・」
『でもね、今日のRoseliaはなんか変だったと思う。友希那さん、どうして急にあんな厳しくなっちゃったのかな・・・』
あこちゃんが悩んだ声を上げる。
私はあこちゃんに今の私の考えを話した。
「あこちゃんがね、『こんなのRoseliaじゃない!』って言った時に思ったの・・・Roseliaって、なんだろう?って。」
するとあこちゃんはたてまくるように発言した。
『Roseliaは超、超、超かっこいいバンドだもん!!!だからね、SMSでお客さんが帰っちゃった時、すごく悔しかった!こんなにかっこいいバンドなのにどうして聴いてくれないの?って。』
「・・・友希那さんや、みんなも・・・同じこと、考えているのかな・・・?」
『どうして聴いてくれないのかなって?』
「ううん、そうじゃなくて・・・SMSの結果・・・みんなはどういう風に受け止めてるのかな、って・・・SMSの後の練習・・・空気が違っただけじゃなくて・・・演奏も違う風に聴こえたんだ。」
キーボードという立ち位置の関係上、みんなの背中がよく見えて、音も聴こえる。
なので奏多くんまでとはいかないが、私にも多少の聴き分けぐらいできる。
『それって、うまく演奏できなかったからかな・・・』
「それもあるかもしれないけど・・・なんだか・・・みんなが違ったこと考えているような感じに聴こえて・・・私達・・・FURTHER WOULD FES.っていう大きな目標はあるけど・・・それだけで・・・本当に同じ方向を向いているのかな・・・」
今のところ1番大きな悩みをあこちゃんに話す。
あこちゃんは『うーん・・・』と唸ったあと、自分の考えを話した。
『あこ、そういった難しい話はまだわからないよ。でも、りんりんの言いたいことはわかるし、SMSでみんながどう感じたのかっていうのも全部って訳じゃないけどわかる。みんな、絶対絶対ぜーったい悔しいって思ってると思う!・・・でも、それぞれが自分の気持ちを話せてないからみんなバラバラになっちゃったって、あこは思う。』
あこちゃんが、あこちゃんなりの解釈でそう話した。
確かにあの後ろくに反省会もしていない。
「自分考えを話す・・・か・・・」
『うん、でもさ・・・あんな出て行き方したら・・・』
「行きにくい・・・よね・・・」
やろうとしても、そのことが原因でとても行きにくい。
そして少しの沈黙の後、あこちゃんが話し出した。
『・・・あこ、もうちょっとだけ考えてみる。自分に何が足らなくて、何が必要なのかって。』
「・・・うん、私も・・・少し考えてみるよ。」
『うん、それじゃあね、りんりん。』
ボイスチャットが切断されて、また一人に戻る。
私は椅子に深くもたれかけた。
「自分の気持ちを伝える・・・か・・・」
それは私にとって1番難しいことだ。
そもそも話すことが苦手な私はそういった自分の気持ちを伝えることができない。
Roseliaや、他のみんなと出会ってからは徐々に良くはなってきているが、苦手なことには変わりない。
昔、ピアノの先生に「ピアノは音で自分の気持ちを伝えられる」と言われたが、今のRoseliaに私の音は届きにくいと思う。
「どうすれば・・・いいんだろう・・・」
私はそのことについてずっと悩んでいた。
次の日になっても改善策は見つからなかった。
時折、今井さんからチャットは来るのだが雑談ならまだしも練習の話となるとどうしても濁してしまう。
今日の練習も行きにくいので初めてサボってしまった。
良心がチクリと痛むが今行っても練習にすらならないだろう。
適当に時間が過ぎて、昼過ぎ。
「・・・外に出よう。」
気分転換に軽く外に出てみることにした。
軽く散歩してある公園のベンチに腰を下ろす。
この先のことを考えていると頭がぼーっとしてきた。
「・・・あれ、燐子?」
聞きなれた声がするのでそちらを向くと今井さんがいた。
「今井・・・さん・・・?」
「よかった〜今日練習来なかったから心配したよ〜!」
「すみません・・・その・・・昨日のあれで・・・行きづらくて・・・」
「そりゃそうだよね・・・でも、これだけは聞いて欲しいことがあるんだけどさ・・・」
「聞いて欲しいこと?」
「うん、あこと燐子が出て行った後、実はソータも出て行っちゃったんだ。それもかなり怒って。」
「奏多くんが・・・怒った?!」
信じられないことだった。
あの奏多くんが怒るなんてよっぽどの事がない限りありえない。
「びっくりだよね、今まで練習や日常で怒ったところを見たことがなかったからアタシと紗夜は驚いちゃってさ。その後友希那と口喧嘩して負けて出て行っちゃったんだ。」
「あ、あはは・・・」
口喧嘩で負けるところも奏多くんらしい。
彼は根が優しすぎるせいで喧嘩や荒事にはとことん向いてない。
「それでさ、友希那が『音も聴こえないクセに偉そうな口を叩くな』って言ったんだけど・・・」
「音が聴こえない・・・ですか?」
「うん、多分それってソータの才能のこと指しているんだと思うけど多分それの原因が・・・」
「笑ってない・・・ですか?」
「う、うん・・・なんでわかったの?」
今井さんが驚いた声を上げる。
別に話さない理由もないので話す。
「私からだと・・・みんなの背中と奏多くんの顔がよく見えるんです・・・それでSMSの練習の後から彼の様子を見てもずっと難しい顔をしてて・・・」
「そっか・・・確かにキーボードの立ち位置だと周り良く見えるよね。でもさ、なんでソータはアタシ達に音が聴こえなくなったこと話さなかったのかな・・・もしかしてまだ信用されきってない・・・?」
今井さんの心配を私は否定した。
「そんなことないと思います・・・彼、自分の問題は自分で解決させようとする癖があって・・・多分私たちに話さなかったのは信用していないんじゃなくて・・・自分の問題に巻き込みたくなかったからなんだと思います。」
「確かにそうだね。この前も自分のことを溜め込みすぎてあんなことが起こったし・・・懲りないよね・・・」
「奏多くんはそういう所・・・変に頑固ですから・・・」
今井さんが苦笑する。
すると思い出したかのように話した。
「そうだ、昨日から奏多と連絡取れないんだけど燐子から連絡取ることできるかな?多分1番信用している燐子からなら出るかもしれないし。」
「は、はい・・・ちょっと待ってください・・・」
スマホを取り出して奏多くんに電話をかける。
しかし、スマホは『この携帯は電源が入っていないか、電波の届かない・・・』と、言った。
「ダメです・・・どうやら電源を落としているみたいで・・・」
「そっか・・・って、こんな時間か。アタシはこの後バイトあるから連絡繋がったら教えて!」
今井さんがその場を立ち去った。
私は公園のベンチに座りっぱなしだった。
「・・・奏多くんに・・・会いたいな・・・」
気づけばそう呟いていた。
……To be continued
次回、『ツナグ、ソラモヨウ』