この回で累計99話目になります。
次回の更新はちょっと違うことをやる予定なので・・・
ということで本編どぞ!
ひとつ
またひとつ
またひとつと
花びらのように私の手からこぼれ落ちる
けど、私は止まれない
止まることなんて出来やしない
今の音ではなく、昔の威厳ある音を
それを取り戻したいなら信じた道を進め
自分の信じる道が正しいと思うなら
それを信じて進まなければ
私は・・・
紗夜side
日菜が誘ってくれたPastel*Paletteのライブから2日ほど日が経ち、Roseliaの練習日。
CIRCLEに集まったのは私と今井さんの2人だけだった。
「おはよー紗夜。・・・今日も2人だけ?」
「白金さんと宇田川さんはまだ来れる状態ではないでしょう・・・九条さんはこの前日菜に誘われたライブの日に話をしたんですけど、九条さんの才能は帰ってきているそうですが、まだ答えを見つけられていないので見つけてからここに帰ってくると言っていました。湊さんは・・・連絡がつかなくてまだわかりません・・・」
「友希那、アタシが出る時もう出てるって友希那のお母さん言ってたしな・・・」
今井さんがわからないのなら私にもわかるはずがない。
湊さんはこの前みたいな用事はないのでおそらく来るはずなのだが・・・
「はぁ・・・あ、でもさ。こういうこと言ったら怒られちゃうかもしれないけど、アタシ、ちょっと嬉しくって。」
「何を言っているの、こんな時に・・・」
こんな時に言うセリフではないのはわかる。
しかし今井さんの事だ、なにか裏があって言ったのだろう。
「バンドを始めたての時ってこんなふうにバラバラになったことなかったじゃん?バンドとかチームを組んでると考えの違いから絶対に衝突はするし喧嘩もする。でもその後に大体元に戻って技術や絆がぐっと成長するでしょ?Roseliaに今までそんなこと無かったから、そう考えるとやっとなんだな〜って思って。」
「まぁ・・・わからなくもないけど・・・」
「アタシもさ、バンドを始めた頃は友希那や、紗夜、ソータ達と必死に向き合おうとしてた。音楽経験の薄いアタシなりに考えてくらいつこうとしてた。でもさ、こうやってアタシ自身が弱音を吐いたりできる相手って今までいなくてさ・・・」
「あ、あの時は私も、個人的な悩みがあって・・・それどころではなかったのよ・・・」
正直あの頃は日菜に向き合えず、どうやって自分の音を磨くかしか考えていなかった。
しかしそう考えると私にとってRoseliaという存在は大きい。
「あーなんだろう、そうじゃなくて・・・アタシ自身が勝手に抱え込んでたのかもなって。こんな風に、友希那やRoseliaのことについて相談できる相手がいることってアタシにとってはすごく嬉しい。それって、お互いに心を開いたからこそなのかなーって。えへへ・・・」
「今井さん・・・」
今井さんの言葉に感動する。
しかし、現状は感動している暇なんてないのだ。
「こ、こういう話は全てが解決したあとにしましょう!今は目の前の問題に真剣に取り組まないと・・・」
「そうだよね、ごめんごめん。・・・紗夜。」
「何?」
「一緒に、がんばろ」
「最初からそのつもりよ。」
そこまで言った時、扉を開く音が聞こえた。
扉の奥から話し声が聞こえる。
声や気配からして奥にいるのは紗夜とリサ・・・
恐らく燐子、あこ、奏多は来ていないのだろう。
来ないものはほおって置く、最初にそう決めたではないか・・・
今更未練なんて残しても仕方ない。
私は・・・
スタジオに入ってきた銀髪の女性。
見間違うはずもない。
湊友希那・・・Roseliaのボーカルだ。
時間を見るとちょうど集合時間だった。
「2人とも、お疲れ様。」
湊さんが少し低いトーンでそう言った。
今井さんが慌てて返す。
「ゆ、友希那・・・!おはよ!」
「練習を始めましょう」
しかし湊さんは挨拶を返すことなく冷淡にそう言った。
「あ、あのさ・・・友希那・・・」
今井さんがぎこちなく話す。
そんな今井さんを黙ってみることは出来ず、私が口出しすることにした。
「湊さん、1つよろしいですか?」
「何かしら?」
「Roseliaの音を取り戻さなければならない。それはわかります。ですが・・・昔のような未熟な状態に戻る必要はないのではないでしょうか。私たちは成長しました。それを無下にすることは・・・」
「・・・からない・・・」
その途端、湊さんの様子が一変した。
「友希那・・・?」
「わからないのよ!!」
湊さんは今まで溜め込んでいた思いを爆発させるように大きな声を出した。
「他にどうしたらいいか、わからないのよ!見つからないから・・・こうするしか・・・っ!!こうするしか・・・ないじゃない・・・!」
「・・・っ!」
湊さんが自分の思いをぶつけた。
なら私も自分の思いをぶつけるしかわかり合えないと悟った。
「私だって、わからないですよ!でも、こんな形でこれまでの経験をなかったことにしたくないんです!!個人的な話ですが・・・私は、バンドに入ったからこそ、成長することが出来ました。妹と約束したんです。彼女の隣を並んで歩けるようになると・・・前に進んでいくと・・・湊さん・・・あなただって同じはず。お父様の大切な歌を歌ったこと。それも全部なかったことにするんですか?」
「・・・それは・・・」
湊さんが動揺する。
そして逃げ出すようにスタジオを出ていってしまった。
「あっ、友希那・・・!」
「・・・・・・」
今の発言で湊さんを傷つけてしまったかもしれない。
それでもこれだけは伝えないと取り返しのつかないことになりそうだったから。
彼女が・・・湊友希那という人間がこれがきっかけでひとつの答えを見つけだすこと、それを祈るしかなかった。
わからない
わからない・・・!
わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからなイわからナイわかラナイわカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイっ!!
後戻りすれば昔の音を取り戻せても今までのこと全てなかったことにしてしまう。
かと言ってこのまま進めばRoseliaはRoseliaでなくなってしまう。
自分の道を否定されてしまっては自分は自分でいられなくなるかもしれない・・・
本当に・・・どうすれば・・・
『振り返ることと後退は違う』
確か奏多はそう言っていた。
奏多や紗夜の言う『別の道』
それがなんなのか私にはわからなかった
友希那side
「・・・っ!」
CIRCLEから逃げるように出ていき、気がつけば駅前まで来ていた。
逃げる途中もずっと目頭が熱くなっていた。
そして駅に着いた途端、溢れるように涙がこぼれ落ちた。
「・・・っ・・・うっ・・・うう・・・っ・・・!」
わからない・・・自分が何をしているのかも、なぜこんなやり方しかできないのかも・・・!
どんどん、遠のいてる・・・このままじゃ、何もかも失ってしまうかもしれない・・・
「・・・友希那・・・先輩?」
聞いたことのある声。
そっちを向くとそこには花咲川の制服。
その正体は戸山香澄、Poppin’Partyのボーカルだった。
「戸山さん・・・!」
私は落ち着きを取り戻すと近くのベンチに腰をかけた。
「・・・ごめんなさい、見苦しいところを見せてしまって。」
「い、いえ・・・友希那先輩、大丈夫ですか?」
戸山さんが心から心配してくる。
Poppin’Party
演奏技術も、パフォーマンスもまだまだ甘く、まだ半人前としか見ることのできていないバンド。
Roseliaを結成して2回目ぐらいのライブの時に一緒に出てからグイグイ来るようになったのがこの戸山さんだ。
最初は冷たく接していたがいつの間にか普通に話す程度には親しくなっていた。
「ええ・・・落ち着いたわ。」
「・・・あの!ライブ、来てくださいっ!」
「は、はぁ!?おい香澄!なんでそうなるんだよ!?」
いつの間にか合流していた市ヶ谷さんが戸山さんを追求する。
その追求に戸山さんはすぐに答えた。
「友希那先輩の力になりたいけど、私、上手にアドバイスとか、無理だし・・・」
戸山さんは視線を市ヶ谷さんから私に変えた。
その瞳は輝いていた。
「あの、私達の演奏、Roseliaの皆さんみたいに上手じゃないですけど、観てくれたら、きっと元気になると思いますっ!」
「戸山さん・・・」
すると市ヶ谷さんがすまなさそうに話しかけた。
「あの、すみません・・・ホント、無理言っちゃって・・・無理だったらいいので・・・で、あなたはどうするんですか?そこに隠れている九条先輩?」
「・・・バレてましたか・・・ちゃんと隠れてるつもりなんだけど・・・」
「そりゃ、顔隠せてないですもん。」
「奏多・・・!」
奥から奏多が顔を出した。
さっきの泣き顔を見られたと思うとめちゃくちゃ気まずい。
「・・・友希那、一緒に行かない?僕も僕なりの答えを探している途中だし。それにほら、こんなに真剣に戸山さん言っているのに断りにくいと思うけど?」
「いや、九条先輩それ無理やりいけって言っているようなもんですけど・・・あの、無理だったらほんっといいので・・・」
「・・・行くわ。」
気がつけばそう呟いていた。
その言葉に真っ先に反応したのは戸山さんだった。
「やったぁ!それじゃあ、明日、この時間にCIRCLEでライブやるのでよろしくお願いします!」
そう言って私にチケット2枚を渡す。
おそらく1枚は奏多用だろう。
「ちょっ、香澄!・・・本当にいいんですか?無理しなくても・・・」
「行くと言ったら行くわ。」
「は、はいっ!」
「有咲ぁ〜ひびってる?」
「び、びびって・・・るわな・・・」
「お、珍しくデレた。」
「デレてねー!・・・ですっ!」
奏多が突っ込んで市ヶ谷さんがいつものノリで返して後に敬語を付け足す。
花咲川は仲がとても良いと聞いたので多分その結果だろう。
「では、明日はよろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします・・・」
そう言って戸山さんと市ヶ谷さんが帰っていく。
この場には私と奏多が残された。
「奏多・・・その・・・」
すると奏多は私の手からチケットを抜き取った。
「・・・みんな、自分なりに答えを探してる。自分で考えるだけじゃなくて人に頼りながらも。友希那も、自分だけで考え込むんじゃなくて人に頼りなよ?僕にそう言ってくれたのは友希那達なんだからさ。」
奏多は笑顔でそういうとその場から去っていった。
人に頼ること、そして明日のPoppin’Partyのライブ・・・
これが私なりの答えであることを祈るしかなかった。
次回、『二重の虹(ダブル レインボウ)』