ソートアートオンライと世界一初恋のりっちゃんとのクロスオーバーです。

過去のベッターからレスキューです。
(ベッターの事故があってから消えちゃうと困るので移設しようともくろんでいます。)

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過去のクロスオーバーをベッターから移行したものなので放置してください。
(ベッターから消えちゃうと困るので)

本当は恋愛もの苦手で戦闘ものばっかり書いてたのに…。


第1話

漆黒の闇の中、いくらバーチャル世界だとはいえ、ここはソードアートオンライン。

デスゲームの中なのだ。

こんなに無防備に眠っていても良いのだろうか?

 

例えば街は安全な圏内だ。

まあ…、それでも睡眠中に勝手に指を操作して一方的に攻撃をしてkillするデュエルもあるけど…。

 

しかし森の中は昼間も夜も命を削りに来るモンスターがうようよいる。覚醒していても気を抜くことなどできないのだろう森のど真ん中で大の字になって人が寝ている。

 

MOBではないよな?

少しだけ迷うのは無防備な大の字の姿は雄々しいけど全体的な印象はまるで女性だったから。

 

密集した森の木の葉の隙間からは月明かりが、まるでステージに降り注ぐスポットライトのように美しくその人物を照らし出していた。

中心に浮かぶ蜂蜜色の髪に細いフェイスライン。きっちり閉じられた瞼の先の長い睫毛は目の縁の肌に当たってクルリと反り返っている。

 

瞳は見えないから顔立ちの全容は測りかねるが、しかし、美しいであろうことは推測できた。

 

 

行き倒れているわけでもなさそうだと思えるのは、それはそれは気持ち良さそうな寝息が発せられていることに他ならない。

 

夜中の森…。まさか何らかのレベル上げか?

 

キリトは月の光の隙間を作っているその木の上方からその姿を半分呆れながら見ていた。

 

『ま、この場合見て見ぬふりが一番か。』

 

ソロで活動している自分とて思い当たるところはある。なにしろ今から自分も仮眠を取ろうと思ってこの場に来たのだから。

 

きっと同類に違いないだろうと無視を決め込む。

万が一何かあれば、まあ、自分も手助けができるかもという思いもあった。

 

目を閉じ睡魔に引き寄せられそうになる瞬間、場に緊張が走ったのがわかった。

 

その時、先ほどの人物がむくりと上体を起こした。

 

 

白い神官のような服装は防御という点でも随分貧弱に見えた。もちろんソートアートオンラインには賢者も神官も勇者も存在しない。

強さはソードのスキルだけ…。

 

暗闇の中に光る双眸は禍々しく、頭は鶏、ツノは水牛、尾は蛇、しかも身体を覆う羽根はギラギラと鋭く身の丈2メートル以上、鳴き声はぎゃうぎゃうと獰猛に聞こえる。

 

こんな化け物にソロで太刀打ちするような奴は滅多にいないぞと、ぞわりと肌が泡だつ。

これはこいつも逃げるか?と思った瞬間、その人物は両手を掲げ頭の後ろで交差させる。

 

瞬間、その背に何かが光とともに現れ、再び両手を前方に向けて勢いよく投げ出すと、その手から何かが弾けるように飛びだし、そのなにかに引かれ光が糸のように後を追う。

 

それは6つの筋となり全てモンスターに命中し、右上に光るステータスバーのHPインジケーターメモリが減る。

 

そいつは再び糸を手繰り寄せ、右手だけ再度投擲をするように宙に勢いよく泳がせる。

光の糸はモンスターを拘束するように巻きつき、先にあった小型のナイフのようなものだけがまるで磁石で引かれるように背中の鞘に自からスッと戻る。

 

留まっている光る糸はそれからもグイグイとモンスターの身体を拘束し、苦しそうなうめき声を発し始めた頃合いでその人物は何も下がっていない左の腰に右手をうごかす。

 

そしてそいつは素早く間合いを詰め、モンスターの眼前に飛ぶように動き、今までなかった右手の先の細長い(えもの)を目にも留まらぬ勢いでシャラリと振り抜いた。

 

HPが消滅しモンスターはデータの塊と化し、それもばちんとはじけその人物は刀を一振りすると刀からは水しぶきがピシャリと飛び刀は何もなかったようにシャランと光った。

 

一連の舞のような流れをある意味で呆然と見守っていると、その人物はスッと鞘の口を滑らし、ぱちりと刀は鞘の中に収め「なに?」とあきらかに木の上のキリトにを向けて問う。

 

キリトはハイディングしていたはずなのにばれた事に驚きを隠せない。

 

「い、いや、すまない。盗み見るつもりも、ましてや襲ったりするつもりもない。」

キリトは素早く木の下に降り、両手を挙げ振りながら敵意のないことを伝える。

 

「俺は寝場所を探していただけだから…。」

その人物は声は発せず、しかし深緑の美しい双眸できつくキリトを睨みつけた。

 

「強いんだな。」

キリトが距離は詰めずその人物に苦笑しつつ話しかけるけど疑問はぬぐえない。これほどの強さを持っているのになぜという気持ちが時間と共に強く湧くからだ。

 

「それにしては前線では見かけないけど。」

『なぜ』の真意、攻略組に参加していないのか?問うと、

 

「俺なんてチームワークを乱す元だ」

その人物は敵意のないキリトの態度に自身の態度もやっと軟化させキリト同様に苦笑する。

 

「なんで?」

ここでは皆一刻も早くクリアしたいと願い力ある者は我も我もと前線に出てきたがる。

 

「βテスターは嫌われ者だから。」

しかし返答は意外だったがキリトにも覚えのあることだった。

 

「え!?君もなのか?」

「え!?」

 

お互いに初めて正面を向いてまじまじと顔を見合わせ、次に互いに右上のステータスバーをみつめる…。

 

「キリト!」

「リツ!」

 

それはかのβテストの時に共にフィールドで戦った人物だった。

 

 

「やっぱりいたんだね、ここに…。」

リツが苦笑しながら言うと

「俺はリツがいるなんて思いもしなかった。」

キリトは苦しそうにそう言った。

 

β版の時、コアなゲーマーだったキリトと違い、リツはゲーム初心者だった。

おそらく同年代らしいことも分かり、気心も知れ、あっという間に二人は仲良くなった。

 

初心者のくせになぜこのテストの場にいるのかとのキリトの問いに、開発系の関係者が身近にいて、初心者の感想をとレアな効果の対処法を知りたいということで、半分無理矢理参加させられているとリツは言っていたのだ。

 

そんな彼がこんなデスゲームになったこの場にいるはずもない。

ここにいるのは関係者か発売当日に勇んでログインしたゲーオタばかりだろう。

そしてキリトは、あの日、無意識にその彼さえも恨んだのだ…。

 

リツのその関係者というのがかの茅場だったのだから。

 

 

 

リツはキリトには隠しても無駄なことだと、聞かれる前に自分の置かれた状況を丁寧に説明をした。

 

「晶彦さんがなにを考えていたのかは知らない。でも、俺はゲーム初日はバグも出るだろうからくれぐれもログインしないようにと忠告をされていたんだ。

その日俺は留学先のイギリスにいるはずで、普通に考えれば初日にログインなんてできるはずはなかった。

だけど運命が俺をここに来させた。」

 

リツはその日のことを思い出しているように冷えた視線を遠くに投げた。

 

「β版で体験したこの世界が綺麗だったから、散歩でもするようなつもりで気まぐれでログインした。そして君と同じように囚われた。」

 

スッと視線をキリトに向けてまた綺麗にニコリと笑った。

 

β版ではゲームの進め方などと世界観、モンスターを倒すための武器の使い方のコツ、戦略まで、初心者のリツにキリトは丁寧に手解きをした。

初めは小さなスライムにさえ怯えるリツだったがもともと体術の心得があったため、VRの世界に慣れた後はあっという間にレベルが上がった。

 

そうか、と合点がいったのはβ版でリツが手に入れたドロップアウトのレアアイテム、魔剣・村雨。

 

そうか、そういえばあの刀は彼のアイテムだった。まさかそのままストレージに残っていたのか?

 

リツの左腰を見つめる目にキリトの言いたいことを察したのだろう、リツが重そうに口を開く。

 

「レベルが上がってきたらβ版で使っていたこの刀がストレージに現れた。

なぜβ版の時の武器がリセットされていなかったんだろうと不思議だったけど、単純に考えれば俺をログインさせないつもりだったのだからリセットしていなかっただけだろう…、でも、一人でずっと心細くて泣いてばかりだった俺は、村雨が残っていて、不謹慎だけど初めて晶彦さんを恨む気持ちがすこし緩んで生きて帰れるかもしれないと思ったんだ。」

 

いつの間にかまた手に握られていた村雨を見つめリツが言葉を続ける。

 

「でも…。だから俺は人と一緒に行動できない。俺だけずるいから…。」

リツは一層苦しそうに眉間に皺を寄せた。

 

確かにこのデスゲームにおいて、リツの存在とその優遇された立場を知れば、感情的な人たちの妬みだだけではなく、冷静な一般市民と成り果てている人々にも糾弾されるかもしれない。スケープゴートよろしく見せしめに何をされるか分かったもんじゃない。

 

しかし、今はそういうことよりも一刻も早くこのデスゲームを終わらせることだ。

キリトはそう思った。

 

「それは違うんじゃないか、リツ。俺たちβ経験者はこの世界のクリアに積極的に関わっていくべきだ。もちろん強制ではないけど、それをやる力を持っているんだから。

ユニークスキルは出現条件のはっきりしないものばかりだ。リツがなんでも皆に正直に言う必要はないよ。俺の胸に止めておく。」

 

キリトは更にきっぱりとリツに向って続ける。

 

「だからリツも攻略に参加すべきだ。死にたくないから怖くて引っ込んでるとかいうなら無理にとは言わないけどそういうわけでもなさそうだし。」

 

白い顔で俯いているリツの横顔をチロリとみて、先ほどのモンスターとの戦いで感じたことをキリトは言った。

 

「俺は、ずっとずっと消えてしまいたいと思っている。なのに、生き残るために足掻くなんて…。」

リツはそれを恥だとでも言わんばかりに顔を歪める。

 

「俺は生きたい。今まではゲームの中こそ自分の居場所だと思って来たけど、今は必ず生きてあの世界に帰る。そう思っている。」

キリトは優しくリツの肩をたたく。

 

「俺は生き残りたいと思ってもいいんだろうか。」

「一人ではなくみんなでってつけてな。」

 

月の光の中、リツとキリトはここに来て初めて心の底から自然に自分の思いを語った。

誰にも言えなかったこと、ぐっと飲み込んで来たこと。いつの間にか月夜は朝の光に変わり始めた。

 

 

「リツ、パーティー組まないか?」

「はぁ!?俺と?」

「ああ。以前みたいにな。」

 

キリトがメニュー画面を操作し、ボタンをタップする。

リツの目の前にも同様の画面が立ち上がる。

リツは○をタップする。

 

するとお互いの詳しいステータスバーにさらに細かいインジケーターが表示された。

 

「よろしく、相棒さん。」

キリトが手を差し出す。

「こちらこそ」

リツがにっこりと笑う。

 

 

「おまえ、そんな綺麗な顔してたんだな。女か男か分からなくて寝てるとこ見てかなり迷った」

キリトがあらためてとリツの顔をまじまじと見る。

 

「自分だって性別不明な感じだけど!?」

リツが真っ赤になって言い返す。

 

お互い残念なところだな。とキリトがわらった。

 

 

 

 

「腹減った。」

一段落ついたとばかりにキリトが呟くと

「面白いよね…。電波信号でできたデータだけの俺のはずなのに、確かにこうやって渇きを感じる。そして美味いものはありえないほど美味い。」

と、言ってメニュー画面のストレージをシャラリと開きアイテムをタップした。

 

「さっきのモンスターってさあ、実は食べられるんだよね。」

「え!?」

「だからここで寝て待ってた。」

 

「鶏とか牛とか蛇は魚の味がするんだ。狩ると1週間分ぐらい食べるのには困らないんだけど、出現条件が夜中であることと、地味に強い。」

「地味に強いって…。見たところあいつメチャ強かったけど?」

 

眉間に皺を寄せるキリトをよそにリツは平然とした表情で

「キリトのレベルなら問題ないんじゃない?まあとにかく食べよう。」

と言いタップして出現したグッズは目の前にポンポンと行儀よくならんだ。

 

それは野営用の調理用品だった。

 

「俺、料理スキルないんだけど…。」

キリトがぽりぽりと頭を掻く。

 

「俺も一般的な料理スキルはないけど、実はアウトドアキャンプのスキルをコンプリートしている。始めの頃怖くて森で縮こまってて藁にも縋る気持ちでさ、その中に野営用の料理スキルが含まれてる。」

 

キリトの態度には気にもせず野営の仕度を続けるリツがナイフを肉にかざすと先ほどのモンスター『バジリスク』はみるみるうちに一口大の塊になっていく。

 

それとは別に用意された焚き火の上に金属製の三脚を広げると真ん中からシャラリとチェーンが下がり、先には鋳物製の鍋が吊るされていて、その鍋にリツはバジリスクの肉を次々と放り込んだ。

 

鍋の中に先ほどの肉と、ストレージから取り出した野菜や水、調味料に固形のブイヨンとハーブが入り、チョンと触れると蒸気をあげて煮込まれて行った。

「この世界ってさ、簡単だよな。料理なんかは失敗がない。あくまでもスキルのレベルで出来上がる。」

リツはへへっと笑ってからさらに小さいコンロを取り出し、その上に小鍋を乗せ、そこに水と米を入れ、炊き始めた。

 

「あとは出来上がりを食べるだけ。レストランの料理とは違うけど味は結構変わんないみたいだよ。今までこんなふうに料理をしようなんて思ったことなかったから、いい経験だと思うようにしている。」

 

キリトはリツの色々な気持ちが閉じ込められているだろう笑顔を静かに見つめていた。

 

 

「美味いな。」

手渡された料理を口いっぱいに含みながらキリトは今更ながらに空腹だったことを思い知りただ感嘆の言葉を発した。

「コーヒーも入れるから飲んで。」

リツはそんなキリトの笑顔を嬉しそうに見ている。

 

 

これがリツとキリトの久しぶりの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

金曜の夜…。

 

律と一緒に帰ってそのまま食事とベッドをと思っていた高野だったが

思いのほか会議が長引いてしまって、編集部に戻った時には律はもう先に帰っていたあとだった。

 

もう食事も終えてしまっているだろうか?

 

高野が部屋に帰った時、隣はひっそりとして明かりも点いていなかった。

 

律と高野は理由もなしに気軽に同じ時間を過ごせる間柄ではない。だからこそいつもどうやったら律を部屋に呼べるかばかりを考えている。

 

でも今日は手札がなにもない…。

 

おそらく…、今は律の全てを手に入れる最後のコーナーは越えている。

ゴールまではほんの僅かであろうと確信はあるものの、まだゴールテープは見えてこない。

高野はそのもどかしさに歯噛みする。

 

 

街灯も控えめにすでに静けさを取り戻した帰宅路の住宅地は、みな家庭の時間に浸っているようだった。

しかし自分は一人義務的に疲れた足を交互に動かし自宅にたどり着くような有様だった。

 

部屋に着いた瞬間の高野は、ホッとした気持ちのせいか身体が鉛のように重く、もうこのまま寝てしまいたいと思ったが、ベタつく身体のまま冷えたシーツに潜り込む気持ちにはなれない。

仕方なく手早くシャワーを浴びる。

 

今日の昼間は日差しも強く、初夏にしては蒸し暑かった。

 

しかし、さすがに夜にはこの季節らしい涼しさを取り戻し、開けた窓からの五月の風が風呂上がりの火照った身体には心地い。

 

今日の夜空に浮かぶ月は霞んで儚く見える。白いそれは氷のように冷え冷えと見え、口に含んだら一瞬で解けそうだ。

 

そうだ、月見を口実に酒にでも誘おうか?

そんなことを考えながら高野は都会では珍しい美しい夜空にしばし見惚れた。

 

高野が冷蔵庫から取り出したばかりのビールを持ち、ふらりとベランダに一歩出て部屋の床にすわりこみ星を見上げると隣から歌声が聞こえてきた。

 

それは小さく小さく囁くようなかすれた声だった…

 

 

Remember me to one who lives there…。

She once was a true love of mine…。

 

随分と優しく歌うんだな…。おまえ…。

誰かを想って歌っているの?

 

俺だといいのに…。

 

高野はしばらくその場で身じろぎもせず律の歌声をただただ聞いていた。

 

 

Are you going to Scarborough Fair?

スカボローフェアに行くの?

Parsley, sage, rosemary and thyme…。

 

Remember me to one who lives there…、

そこに住んでいるあの人に伝えてほしい

She once was a true love of mine…、

かつて私が真の愛を捧げたあの人に

Parsley sage, rosemary and thyme…。

 

 

 

「パセリ・セージ・ローズマリー・タイムはなに?」

高野からひっそりとした声が漏れる。

 

ベランダの仕切板のこちらに人がいるとは思っていなかったのか、一瞬だけ隣から驚いた気配がしたが「魔界に引きずり込まれない呪文です。」と少し間を置いて答えが返ってきた。

 

月の近くの天上には木星が輝き、アルクトゥルスが夜空を鮮やかに演出している。

 

隔てた壁で姿が見えない分その他の感覚に集中しているために、いつもより身近に律の動く気配がわかる。

それは高野にとって、直接触れ合うのとはまた違う感覚が不思議ではあるものの決して不快ではなかった。

 

 

「高野さんは何してるんですか?」

 

先程の会話の後しばらくは場を静寂が支配していたが、いつもよりちょっとだけボヤリとしたかすれ気味の律の声がそれを破った。

 

「夜空を見てた…。」

高野はビールの缶を揺らしながら答え、その後口元に缶を運んだ。

 

 

不意に律が小さく歌うようにつぶやいた。

「僕、もうあんな大きな暗の中だって怖くない。きっとみんな本当のさいわいをさがしに行く…。」

 

それに応え考えるより先に高野の口が続きを紡いだ。

「どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう…。」

 

 

「先輩は賢治(宮沢賢治の銀河鉄道の夜の一節)を何度も読んでいましたね。」

「ああ、そういえばお前も天体と気象の世界が好きだったな。」

部屋の床から尻を上げ、ベランダの手すりに身を預け横を見れば律の切れ端が目に入った。

 

「俺は先輩の読んだ本を追いかけて読んだだけです。」

 

律がまたふわふわとした口調で言う。

 

「何冊も何冊も同じ本を読むことによって、誰よりもお前と俺は同じ思想や感覚を共感できる。そう確信している。俺の隣はお前でなければならない…。」

 

高野の言葉は穏やかだが、その内容はきっぱりと強かった。

 

 

 

「そっちに行ってもいい?律の顔をみてビールを飲みたい。」

高野がねだるように言うと、

「俺、今日は飲み会でした。」

と、律はまた答えともつかないぼんやりとした言葉を発した。

 

 

「どうりで、酔っ払いのお前は昔の織田律に似ている。」

「今日の高野さんもまるで嵯峨先輩みたいです。」

 

自虐的ではあるが、それも事実なのでお互いに苦笑する。

 

「鍵開いてる?」

「どうかな…。」

 

律がその場を動かず、しかし何かガサゴソとしている。

次にピョコリとベランダの仕切板ごしに首を伸ばし「はい」と手を差し出して来た。

 

「開いてなかったら鍵どうぞ。」

 

見るとその手の中には皮のキーケースが握られていた。

ポケットにでも突っ込んでいたのだろう。

 

素面なら絶対にしないであろう律の行動に少し驚いたから、高野の次の動作に間が空いてしまったが、それを悟られないようにすぐに気持ちを立て直し鍵を受け取った。

 

告白より先に鍵を渡されるとは…。

 

と、なんとも複雑な気持ちのまま高野はビールやツマミを抱えて律の部屋に向かった。

 

 

 

 

部屋はやはり閉ざされていた。

受け取った切符(鍵)を使い部屋に入り、先ほどと同じようにベランダの手すりに頬杖をついてぼんやりしている律を高野は見つけた。

 

持ってきたものをテーブルに置きベランダに出ると、律の身体を後ろから覆うように両手をベランダの手すりに付ける。

 

「酒、どれくらい飲んだの?」

「今日は久しぶりに友達に会ったのでたくさん飲みました。」

「そういえば律の友達って知らない。」

「そうですね。誰にも言ってないです。」

 

律は腕の中から逃げることもなく、それどころか背中を高野の胸に預けるようにもたれかかった。

 

 

 

「律…、結構酔ってる?」

「ふふふ、酔ってません。」

「この鍵、もらっていい?」

「鍵?もらって何するんですか?」

「掃除とかご飯作り。」

「高野さん、それ家政婦さんですよ?」

「そうだな。(嫁じゃねーの?)」

「ふーん。ふふふ、変な高野さん。」

 

律は楽しそうにコロコロと笑うと高野の方を向き胸に顔をうずめた。

 

「2年間、ずっと魔界から帰れなくて…。」

「2年間?」

「そのあとも少し…。」

「そのあと?」

「あの歌を…。誰かに思いを届けてほしくて…。」

「パセリ?」

「そう、パセリ…。」

 

だんだんと小さく震え不明瞭になる声に高野が察し、律の顎を支え唇に親指を当て言葉をとめる。

 

律の10年間はどんなだったのだろう。自分の10年は律には断片的に知られている。

しかし自分は未だに律の事を何も知らない。

 

高野は律の頬に両手を当て潤んだ深緑の眸を見つめ、そっとその唇に自身の唇を合わせた。

そして僅かに離れた唇から「いつか、律のその旅の話を聞かせて。」と高野はそっとつぶやいたのだった。

 

 

 

空にはそろそろと夏を思わせる星座が高野と律を置き去りにして深く広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「俺は嫌だって何回も言ってます。」

丸川書店の廊下に大きな声が響く。

 

「仕事なんだからそんな我儘言えるわけないだろう。なんでそんなに嫌がるのか寧ろ理解できない。」

 

丸川書店編集長の高野が何時もの仕事に対する真摯な態度と異なる小野寺を諌めるように言うが

「絶対にいやです。」と律は取り付く島もない。

 

いつもと違うその態度に違和感を持ちながらも言っていることは大したことではないはずだと首を傾げたくなる。

 

「命令だ。とにかく入るぞ。」

手をぐいっと強く引くが

「こんな命令なんて聞けません。」

と手を振り払おうとする。

 

「クビになってもか?」

仕方なく最後の脅し文句を口にしたが、驚いたことに

「クビでもです!どうしてもというのであれば今ここで辞表を出します。」

と強烈に拒否をする。

 

しかも小野寺の言葉は高野のそれと違い決して脅しではなさそうだった。

 

頑なな態度に疑問を持つが時間は限られている。

井坂のオーダーは引きずってでも連れてこいということだったので暴れる小野寺をかなり強引に肩に担ぎ上げて斜め向かいにある会議室に入っていった。

 

すでに客人は到着している。

無礼は承知で、小野寺のこの状態を井坂に見せなければ断ることも難しいだろう。

その場合の処分は自分と小野寺の双方であることを高野は覚悟していた。

 

しかし、どさりと長い方のソファーに放り出された小野寺の姿を見ても井坂は驚かなかった。

寧ろ面白がっているようにさえみえた。

「七光り、仕事だ。お客様の相手をしろ。」

井坂は言葉短く冷淡に言い放った。

 

「井坂さん、あんたって人は!」

普段の柔らかい品の良い態度はなく、小野寺は激しい怒りを込めた目で自社の社長を睨みつけていた。

「リツ、井坂さんの言う通り、これは仕事だ。」

客がすっと立ち上がり小野寺の前にしゃがみ込んで顔を覗き込んで言った。

 

「キリト!俺を巻き込むな!これはお前の仕事だ!」

小野寺はその人物から目を逸らしたまま大きな声でそう言った。

 

「リツとでなければこの仕事はしない。昨日言った通り。」

『キリト』は小野寺の襟をグッと掴み、自分の顔の間近に引き寄せ言った。

 

「俺も嫌だと言った。」

小野寺も客人に顔を一層近づけて叫ぶように答えた。

 

井坂は相変わらずニヤニヤとしていたが、高野は成り行きに呆然としていた。

 

二人は知り合いだっのか?!しかもかなり親しげでもある。

昨日会ったって、どういうことだ?

 

 

 

丸川のアニメ系雑誌で、最近は一般化したオンラインゲーム、VRMMOを特集することになった。

その取材の担当者として呼ばれたのが高野で、その道に詳しい人物として井坂が招いたのは今日来ている客だった。

 

かのSAO事件の時のメインの人物で非公表だがその事件を解決した当事者だったというのが情報だった。

 

それに何故小野寺が呼ばれたのか?

高野は井坂に小野寺も連れて来いと言われただけだったが、その言い方はかなり強固なものだった。何をしてでもいいから連れてこいという気迫が感じられた。

 

その客人は小野寺に手を差し出し、小野寺は観念したのかその手を取り立ち上がる。

 

「リツ、背が伸びたな。顔もずいぶん男らしくなった。それなら女と間違えられることもないだろう。」

客人の本位の見えない表情と言葉に小野寺がクッと息を吸い

「キリトだって同じだ。それでも相変わらず女みたいだけどな。」

と言い返した。

 

「何度も言うけどこっちでキリトって呼ぶな。」

客人が眉をひそめる。

 

「俺なんてリアルもバーチャルもリツだ。」

小野寺はフンと鼻を鳴らす。

 

「ゲームネームを本名で登録したやつが悪い。」

昨日あったと言ったくせに久しぶりにあったような話しぶりに高野は混乱していた。

 

「井坂さん、話はつきました。リツとこの仕事をします。」

「どうしてそうなるんだ。」

「俺の手を取った。お前は拒否しているときは何も受け入れない。」

「メディアに出るなんて…。知らないからな。勝手にこんなことして。」

「菊岡さんなら了解済みだ。」

 

言い合いの中の二人を置いて井坂は突然「じゃっ」と部屋を出て行った。社長がのこのこ出てくる場面でもないことは分かるがそれでもこの状況の説明なしに放り出された高野はどうすべきか迷ったが、とにかく取材をしなければいけないのだからと観念するしかなかった。

 

場を仕切り直してソファーに対面で座るとキリトは『それにしても』と名刺を交換した高野に

「不思議ですね。VRMMOの事でわざわざ俺に取材を申し込んだりするなんて。」

とニヤニヤと意味ありげに笑った。

客人は桐ケ谷和人という名前なのが名刺の文字から分かった。

 

「もう取材なんだから不穏な事言わないで。俺は取材には関係ない。」

小野寺がボイスレコーダーを指差して苦々しい表情で言う。

 

「桐ケ谷さんはかのSAO事件の被害者と伺いましたが?」

「その通りです。2年間デジタル世界にとらわれ、その後も国の監視のもと何年も自由のない生活を送りました。」

高野はシナリオの通りの質問を始めた。

 

「あれから規制も厳しくなっていますが、一方で老若男女、かなりの人たちがVRMMOを楽しんでいるようですね。そんな現在をどのように感じられますか?」

「高野さんはVRMMOのご経験は?」

「残念ながらありません。」

「一度体験してみてはいかがですか?そうしないとおそらくちゃんとした記事も書けませんよ。」

 

キリトは足を組み替えて掌を上に、人差し指を高野に向けた。

 

「そうですね。ご案内いただけるのであれば是非と思いますが…。」

高野が暗に『案内してくれないなら行かない』という意味を込めて言うと

「俺もリツもいつも行っているので声をかけてください。」と答えが返ってきた。

「え!?」

 

高野が驚いて小野寺の顔を見ると小野寺は瞬間高野から目を逸らした。

 

 

 

 

 

「小野寺、どういう事なのか聞いてもいいか?」

高野は堪えきれず小野寺に質問をする。

「俺もSAOの生還者です。しかもキリトと同じ攻略組で一緒に戦っていました。」

でも、ここでは…・。と眉間に深く皺を寄せてレコーダーを指差したのだった。

 

 

 

「先輩に振られて、学校にも行けなくなって、イギリスに留学する予定でした。

そんな時に知り合いからβのモニターとして参加して欲しいと声をかけられたんです。

βではキリトは達人で俺は全くの素人だったから色々と教えて貰って…。そしてあのキリトと再開した。」

 

「リツは強かった。抜く速さでは俺も誰もかなわなかった。リツがいなければ俺たちはここにいなかった。あの時だって。」

「止めろよ…。」

小野寺は何も語りたくないとキリトを制するが、キリトは気にせず続ける。

 

「お前は俺たちの命の恩人だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの最後の時…。

 

キリトはヒースクリフと最後の対決に挑んでいた。

 

ヒースクリフこと茅場晶彦はその正体が知れるや全員を動けないように床に戒め、このゲームの中において唯一のヒールの力を持つリツをその力を封じ自分の手の中に収めた。

 

賢者も勇者も僧侶もいないこのデスゲームの中でリツの存在は異質なのだ。

 

 

ヒースクリフが自分を閉じ込めた本人、憧れのかの晶彦であることに呆然として思考を手放しているリツに対してヒースクリフは自分とともにあれと悪魔のささやきを吹き込んだ。

 

 

人形のようにグダグダになったリツを小脇に抱え、しかしそんな不自由な体勢でありながら尚もヒースクリフの剣技は素晴らしかった。

 

彼はこのシステムを作った張本人だ。

システムアシストを使ってはいけないとわかっていたはずなのに、その反応速度と衛の強さゆえにキリトは一瞬我を忘れた。

 

ヒースクリフの剣が彼を貫こうとした瞬間の彼を助けたのは恋人のアスナだった。

アスナはデータの塊となりチリのごとく消えた。

 

キリトはその瞬間廃人と化した。

彼にはもうなにも必要ではなかった。

アスナとあの世界へ戻る。その約束は果たされず恋人は散ったのだ。

 

その時キリトはなにも考えていなかった。考えられなかった。

 

身体だけが木偶人形のように手に持っている剣でヒースクリフをなぎ払おうと動いていた。それはこの世界に閉じ込められていた自身の身に沁み込んだ本能のようなものだったのかもしれない。

 

しかし、力無いその姿はあまりにも無常だった。残ったHPはわずかに1。

 

ともに戦ってきた愛剣は呆気なく遠くに払われ、眉間に皺をよせ、哀れむような目でヒースクリフがその命の灯火に終止符を打とうと剣を振り下ろした瞬間、ヒースクリフに抱えられていたリツの身体が踊った。

 

「キリト!」

 

ヒースクリフの剣はリツを貫き、キリトの脇腹をかすめた。

 

「みんなを、村雨で…。」

 

キリトの手に自身の刀を握らせリツもまたデータの塊と化し弾けて宙に消えた。

 

それに覚醒したキリトはワナワナと震えるヒースクリフの胸元を、手にする村雨で貫いた。

 

キリトのわずかに残った命の灯火も消え、ラスボス・ヒースクリフのHPも全て削られたその瞬間、デスゲームソードアートオンラインはクリアされたのだった。

 

 

 

 

そうですね、高野さん、一緒にVRの世界に行きましょう。離れていた10年間の中の濃度の濃い2年間、確かにあそこで自分は生きていた。

 

律は高野の瞳をまっすぐに覗き込んでしっかりとした口調でそう言った。

 

 

 

 


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