早速一話目のお気に入りありがとうございます! 頑張っていきます
若干、八幡がらしくないですがお許しを
誰かさん達の所為で人と飯を食い始めるようになってから早数日経つと流石の俺も大学生になって成長したのかある程度、彼らとも会話を交えることができるようになってきた。 そもそも会話の前に拳を交えてること時点で世間一般様から大変厳しい目で見られそうなのだがそこはスーパーという領域での暗黙の了解だ。
因みに戦績はこの後芳しくはなかったというか俺と佐藤くんの奪い合いだった。 佐藤くんが取れば俺はどん兵衛でその逆も然り…つーか、二階堂め毎日しっかり弁当確保しやがって…
「ヒキガヤさんってだいぶ癖のある戦い方するよな?」
「ん? あぁ…まぁ、正攻法で向かっても勝てる見込みが無かったからな。こういうやり方しか選べねぇって感じだ」
「真っ向から向ってくるヒキガヤさん……ふふ…っ」
「何笑ってんだ沢桔姉」
「いえ、向ってくるヒキガヤさんを想像したら先日観たゾンビ映画を思い出したもので」
ぶふぅ!? と茶を噴き出しむせ返っている二階堂と沢桔妹はこちらから目をそらし必死に笑いを堪えている。
いや、ゾンビっておい。確かに目は腐ってるけど身体は腐ってねーよ。
なんか彼女をこのまま放置しておくと
「いいじゃないか、比企谷…くくく…っ」
「おう、もし広まったりしたらマッちゃんに二階堂が高校生に手を出した(意味深)って伝えるからな」
「お前…」
互いに睨みを聞かせながらどん兵衛の汁を啜り終えると鞄から徐ろに自宅から持ち出したマッ缶を開けてガブ飲みする俺を8つの瞳が凝視してくる。 ま、マッ缶はやらんぞ!!
「その飲み物はなんです?」
「…は? マッ缶だが…」
「鏡、マッ缶って知ってる?」
「たしか、甘過ぎるコーヒーを語った何かだったかと」
「おい、マッ缶は千葉のソウルドリンクだぞ!」
「なるほど、お前千葉出身だったのか。 記録しておくとしよう」
あ、余計な事がバレた気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
3日ほど連続で姉妹とやり合って分かったことがある。 彼女達は正真正銘の二つ名持ち『オルトロス』ということ、そして情報源として最も信頼のおける二階堂によると、そのオルトロスを駆逐しようとしているゲスが今夜スーパーに現れると。 そして、二階堂は俺にこう言った
『依頼だ。 オルトロスを救え。沢山貸しはあるだろ?』
あいつ、一番知られたくもない高校時代を調べやがったな? この前のマッ缶の件から地域は絞りこめるだろうけど…どこから調べあげたのか分からんがそれを皮切りにあの強化外骨格がここを嗅ぎつけたらアイツを餌にしてやる… などと悪態を吐きながらも親父が餞別に寄越してくれた愛車のバイク(命名・komachi)に跨り、おんボロアパートには似合わない快音を響かせた。
ここから二階堂の指示があったスーパーまではバイクならそう時間は掛からない。 時計を見、バイザーを下げるとすぐさまタイヤを回転させ音と共に俺をスーパーへと向かわせてくれるkomachiちゃん。
『ヘラクレスの棍棒』とやらが使う手は二人の少女を犠牲にして自分達の勝利を手にするという名前負けもいい所の巫山戯た作戦。 やるんだったら自分を犠牲にする気概ぐらいみせろってんだ。
ま、いい年こいて二つ名なんかを振りかざしている時点で底の浅さが知れているのだが。 だったら俺のやることは決まっているも同然だ。
「作戦そのものをぶっ潰す…か」
普段引っかからない信号待ち、それに降り出してきた雨に軽く苛立ちながらも時間に余裕はあるので落ち着くんだ。クールタイム八幡!
ボーッと信号を渡る人々を眺めていると子供連れや高校生のような人が多い中、傘もささずにたった1人で歩く女性が居た。活発そうな雰囲気でもなく落ち着いていて、でも何処か高校時代の俺を思い出させるようなスレた雰囲気を持ち合わせた雨で濡らした『亜麻色』の髪を靡かせた女性…
あ、信号青だっ。 ハヤクイカネート
「なんだこりゃ…火事?」
辿り着いたスーパーには煙が充満していた…いや、この匂いは……そうか、うなぎの蒲焼きを焼いているお店。そしてそれを半額にする馬鹿な店があると聞いていたがここの事なのか。 確かに今日は土用の丑の日だしオルトロスが確実に現れると簡単に予測できる。 ぶっちゃけ俺は今日出るつもりなかったし知らなくても仕方ないよね!
「やぁ、キミも鰻を狙って来たのかい? でも、今のままでは彼女達に取られてしまう。 だけど上手くいけばこの先、二度とオルトロスは現れないよ。どうだい? 僕の案に乗ってみる気はないかな」
なんだ、この劣化葉山みたいな笑顔で寄ってくる男は…?
「僕は以前、彼女達を駆逐した狼さ。 巷ではヘラクレスの棍棒…なんて呼ばれているけれどね」
「…なるほど。お前が」
ヘラクレスの棍棒の案は簡単。 半額神が扉の奥へと消えたら走り出さず、彼女達に『タダ』で弁当を提供してやろう。それだけで彼女達の狼としての誇りはぶち折れる。 確かに恵んでもらった弁当なぞ美味くもないだろうな…
「ヒキガヤさん…」
俯きがちに俺の名前を呟く沢桔姉の横を素通りし晩に飲む飲み物を物色する。茶髪ちゃんも顎鬚も坊主も口を閉ざし異様に重い空気が漂うも然したる問題では無い。 誰も彼女達の相手にならないのなら俺が飛び出し、二階堂が来るまで1人でオルトロスの相手をしてやろうじゃないか。
少し遅れて変態…佐藤くんもやって来ると俺と同じように劣化葉山から説明を受け俯きながらカップ麺のコーナーに消えていく。
「よぉし! こいつぁ、これだなっ!!」
陰鬱な空気とは裏腹に空気読めよと言いたくなるほど元気な声を張り上げる半額神を見れば最後のうな重弁当にシールを貼る瞬間。 そしてそのシールはただのシールではなく一風変わった半額シール…神の太鼓判を得た弁当にのみ貼られる『月桂冠』の半額弁当。
勢いよく扉を開き奥へと去った神に追従してその扉は閉じていく。 俺1人飛び出しても批判を買うのは俺だけなのだ…また狼から足を洗えばいい。
息を吐き、扉が閉じた瞬間。
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夢を見ているのだろうか?
ヘラクレスの棍棒によって数年前の焼き回しになるかと思われたスーパーは開始の合図と共に豪雨のようなバタバタとした音が巻き起こり、立ち竦んでいたわたくし達を通り抜けて十数名が一気に弁当コーナーへと躍り出た。その光景は、まるで何時も通りの争奪戦で…とても彼の作戦には思えない。
「キミ達何をしている!? オルトロスを駆逐したいんじゃなかったのか…!!?」
「はっ、確かにぶっ倒してーよ! 自分の拳でなぁ」
「奴らがいなくなった後のあまりもんなんて勝利の味がしないただの弁当だっての!」
「あまりにも馬鹿らしい作戦で笑いを堪えるの必死だったのよっ!」
彼の訴えにここ数日ひたすらわたくし達に食らいついてきた茶髪さんに御二方は鼻で笑い飛ばす。
そして、ヒキガヤさんと佐藤さんは吠え……いや、吼え上げる。
オルトロス!!!!
「鏡、わたくしは夢を…」
「姉さん、現実を見ましょう……彼らは…本当に…っ」
震える互いの手をしっかりと握りしめ目の前の光景を目に焼き付ける。 彼らはわたくし達を、オルトロスを敵として見据えてくれていると。 そして彼らの手は確実にわたくし達に差し伸べられていると…
暴風が店内に吹き込む。恐らく最後の1人が遅れてやってきたのだろう。 ズブ濡れの上着を脱ぎ捨て、鍛え上げられた肉体を晒した二階堂連が未だに動けないで居る2人の横をたった一言残して通り過ぎる。
「来い」
「行きましょう鏡、あの最低最高の狼野郎共を蹴散らしてさしあげます」
「ええ、姉さんと一緒なら敵はいません…っ」
カゴを持ち、舞い踊る。 密集していた狼達はこちらの連撃は次々去なし距離を開けて拳を突き出し構えている彼らは普段の彼らではなく不思議なくらい飢えていた。
最初に仕掛けてきたのは何とあのヒキガヤさんだ。 普段は背後からの奇襲を戦法とする彼が自ら突っ込んできたのには驚くが慣れないことをすべきではない。
鏡が割って入り拳をカゴで受け止め絡めとると空いた腹へ梗が掌底を放ち吹き飛ばすのだがその手をしっかり掴まれてしまう。 しまった、と思うが比企谷の力では抑えるのが精一杯…浅はかな考えをしたのが一つ目の間違い。 彼は普段とは段違いな力で梗を引っ張り放り投げて鏡と分断して見せた。
分断されても梗とて二つ名持ちの狼なのだから他の狼達には引けを取らない…しかし次にやって来たのは先日ツードックスと名付けた狼。ここ暫く自分達に追いすがり今日、自分達を助けてくれた愛すべき人達。
二階堂と佐藤が左右から宙に舞い上がった梗へと飛びかかるが崩れた体勢ながらも持っているカゴで厄介な二階堂の方を叩き落とすかわりに背後の佐藤からの打撃は効くものがあるが高々一撃でこのピンチを脱することが出来るのならば甘んじてその身で受ける。
殴られながらも身体は地へと着き、梗は眼前の強敵達を睨みつける。何故、こんなに急に強くなった…? その疑問は即座に解決する。
彼らは何を感じている? 場を支配する狂気とも呼べる空気だ
彼らは何を聞いている? うなぎが焼ける音だ
彼らは何を目にした? 月桂冠だ
彼らは何を嗅いだ? うなぎが焼かれた香ばしい香りだ
彼らは何を求める? たった5つしかない勝利の味だ
五感全てがあの弁当を感じ取り腹の虫の加護が極限まで引き上げられた彼らと先程まで涙を流し感動のあまり減退している腹の虫の差は大きい。
「……っかは!?」
突然の衝撃に肺から空気を吐き出すと身体が前面へ押し出され、何事かと目を動かせば比企谷が自分を蹴り飛ばしたのだと理解する。 いつの間に…! 鏡に足止めをくらっていた筈なのに…っ!!
完全にバランスを崩した梗を待つのは佐藤と二階堂の拳が防ぐ事も出来ずに腹へと突き刺さる。
梗のカラダがボールのように地面をバウンドし転がるとようやく狼の波から逃れた鏡が受け止める。
「ツードックス…というのは間違いかもしれませんね…鏡」
「えぇ、3つの頭を持つ化物…ケルベロスかもしれませんね…」
こちらに見向きもせずに3人は殴り合いを始めている。
「鏡、休んではいられませんわ。 オルトロスがこの程度でないこと教えて差し上げませんと…っ」
わたくし達はまだ夢を見続けていいんですね?
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おいおい、なんだコイツら。 さっきまで俺1人でも!なんて張り切ってたけどめっちゃ恥ずかしいじゃんっ?
昔、先生、比企谷くんが一人で張り切っていてウザイ。とか言われたこと思い出しちゃったよ? やだ、悲しい。 でも、杞憂に終わって良かった…いや、二階堂の野郎は分かってたのかもしれないな。 万が一の為の保険が俺か?
とにかく、今は弁当だ。 俺というものがこの匂いと空腹で久しぶりに本当に弁当を欲している。
残る弁当は依然として5つ。
立ち上がっている狼は8人。
「はぁ、最後のひと頑張りといきますか…」
あの弁当を手に入れるために狼達は吼え、駆け出した。
どん兵衛が美味しいです。