やはり俺の半額弁当争奪戦はまちがっている   作:逃亡群鶏

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やっとプロローグが終わり、これから争奪戦が多くなります。

お気に入りありがとうございます!


先輩…? え、先輩!? by一色いろは

雨も上がり満天とまではいかないものの星と月が慎ましく輝く空の下、7つの湯気が天へと立ち上る。

俺はかき揚げを1口頬張り蕎麦を啜る。 うん、どん兵衛はいつでも美味いな!

 

「張り切ってた割にはスグやられたな比企谷」

「…うるせ、お前らが容赦なさ過ぎるんだよ…ったく」

 

結局、最後の8人でやり合った時にオルトロスにボッコボコにされてボロ雑巾のようにスーパーの床へ捨てられていたところを顎鬚と坊主の2人に拾われ、こうして公園での夕餉に参加しているのだがこの美味そうな鰻の匂いは体に毒な気がすると思いつつ俺は蕎麦をすすっていた。

 

月桂冠は佐藤くんが見事奪い取りさっさと何処かへ行ってしまったようだ。 誰かとメシの約束をしてたのか?

 

「あ、あのヒキガヤさん…?」

「…ん?」

 

遠慮気味に声をかけてきたのは沢桔姉。 そんな彼女はふかふかの白米に蒲焼を載せておずおずと、箸をこちらに差し出してくる。 見せびらかしですかそうですか…ちくせう俺も食べたかった!

 

「あ、あーん…」

 

物欲しそうに見ていたら唐突に「あぁん?」とメンチを切られてしまった。 最近の若者ってキレやすくて怖いなぁ…でも八幡めげないっ!

 

「……あーん?」

 

何故だろうか、沢桔妹や二階堂は疎か茶髪ちゃんに顎鬚と坊主までこちらに視線は釘付けでニヤニヤと口元を緩ませながら箸を止めている。

まさか、まさかとは思うが…これは俺にあーん、としているのか? でも、これきっと口を開けたら残念でしたー!とかなる奴じゃないの?マジで?

 

「…え、えと………あ、あーん」

 

あむ…っ、口の中に放り込まれたアツアツのご飯は甘さ控えめのタレがしっかりと染み込み、これならご飯だけでも何杯でも食べれる。しかしご飯と一緒に口の中へ入ってきた大本命の鰻はふかふかと多少の弾力とともにご飯と混ざるとその香ばしさが口の中いっぱいに広がり、もっと…とカラダが欲してしまう。

 

「如何ですか…?」

「…ん、美味い」

 

いや、本当に美味い。 自分で取った半額弁当ではないのだが散々あの匂いを嗅いで目で見て欲したのだからこれだけ美味いのも頷ける。

 

「しかし、お前達東区の連中はいつも一緒に居るよな? 変態のところみたく同好会か何か作ってるのか?」

 

顎鬚は見切り品の稲荷寿司を食べながらそんな事を言い出した。 確かに、二階堂やオルトロスと最近は一緒にいる事が多かったが俺に至ってはオルトロスの件が片付いたのだから狼を続ける理由も金銭面が何とかなれば争奪戦に出る必要も無くなるのだ。

 

「そうです。そうですわ! 二階堂さん、ヒキガヤさん!! 大学にサークルを作ってくれませんか? わたくし達も参加いたしますので」

「…いやいや、高校生は参加出来んだろ」

「佐藤さんのところはHP同好会があるのにこちらはない…というのが納得いきません」

「姉さん、だいぶ無理を言ってることを自覚してください」

 

沢桔妹が止めに入るが姉は聞く耳持たず興奮冷めやらぬと言った感じで俺の肩を掴んで揺さぶってくる。やめて、どん兵衛さんが零れちゃうから! やめて!

二階堂はふむっ、と考え込んでいるしそんな姿を見せられると俺としてはかつての経験から嫌な予感がじわじわと湧く。というか、もう既に片足を突っ込んでいる気がした。

 

「いいんじゃないか比企谷。お前は確か何処にも入ってなかったし表向きは文芸とか適当に語っておけば。 それに毎回お前と同じコマを取るわけじゃない…お前の依頼をこなすにはそうやって同じ場所に集まる必要もある」

「…メールがあるだろう」

「バカか。 お前がメールを使うなと始めに言ってきたんだろう。 鉄仮面が何処からデータを引っ張り出すか分からない…と」

 

そういえばそうだった。

 

「…また押し切られる形か…はぁ」

「それではっ!」

「非公認の集まりでも別にいいんだろう? 俺も用事がある時は出られないし二階堂も出られない時は多いだろうしな。 それでいいなら何処かに集まるようにする」

「十分ですっ! 鏡、明日から楽しみね!」

「えぇ…と言いたいところですがもう夏休みになりますよ」

 

ピシリッ、空気が割る音がした気がする。 そうだよね、夏休みだよ? 俺は去年と同じで部屋から出るつもりのないから休日と何ら変わらない。

 

「が……」

「「「が?」」」

「合宿をしましょう!!!!!」

 

うわ、面倒なリア充の代名詞きちゃったよ。 どうすんの二階堂さん…は、無言で首を振ってるし俺もお断りしたいんだけど沢桔姉は泣きそうな顔してるし…俺どうすれば正解なのん? 一緒に行くしかないのん?

 

「…わ、わかったから泣くなよ? こんな時間に公園で泣いている女子高生とか俺と二階堂が確実にとっ捕まるからな? な?」

「二階堂さんももちろん行きますわよね…?」

「…………」

「…二階堂」

「…わかった。まぁ、いい機会だ別の地域の狼とやり合うのも」

 

年上である俺達が折れるとパァっ!と擬音がつきそうなほど表情は一変して満面の笑みが見れた。 あらやだ、やっぱり可愛いじゃないこの子。 あまりの可愛さに口調がオネエになっちゃったわ! キモイ

 

「そろそろいい時間だな。さっさと食べて帰るぞ」

「あら、もうそんな時間…? 残念ね、ワンコ達を見てるぐらいアンタらも面白かったのに…ま、また会うでしょ」

「俺達も帰るか…またなオルトロス、ラチェット、グール」

 

手を振って公園から出てくる西区3人組とはなんやらこれからも長い付き合いになりそうだなと、その背を見て感じたのだが何よりも重要なのが顎鬚が俺の事をシレッとグールと呼んでいたことだ。 二階堂を睨みつけるとサッと視線をそらしやがるし。貴様。

 

「合宿の話はまた後日でいいだろう。俺達も帰るぞ」

「そうだな…お前達家近いのか?」

 

そんな質問にキョトンとした顔を見せてくるオルトロス。

違うよ?八幡ストーカーしたいわけじゃないからっ。こんな時間に女の子だけで返したらダメっていう最愛の妹から教わった教訓だから。

 

「俺達が送る…と比企谷は言いたいみたいだ」

「そうそう、俺達バイクだし…後ろでいいなら乗せるが…」

 

あれ、二階堂に通訳されないと俺の言葉って通じない? 言語の差異が生じてるんです?

まぁ、俺の提案を快く受け入れたオルトロスは俺と二階堂の後ろに1人ずつ乗り、しっかりと引っ付きながら自宅付近まで送ることとなった…。 はぁ、合宿とか何時ぞやの林間学校を思い出されるが此度はオルトロス、二階堂共に行く半額弁当争奪合宿という二年ほど前の俺には全く想像だにつかない内容なので実は楽しみだったりしない訳では無い。 面倒くさいのは変わらないが。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

疲れた。 疲れてしまった。

 

何とかあの先生を脅しまがいに進学先を聞き出し、思いの外…いや想像以上にレベルの高い大学へ進んだあの人を追うために1年間死にものぐるいで勉強をした。 自分の執念深さに驚きはしたけどそれもこれも全部自分の為だった。

 

私は後悔したから。 あの3人の中には入っていけない…そう思い込んで結局、後悔した。

 

卒業式で何が起きたかはちゃんとは知らないけど、だけど先輩は1人に戻ってしまった。 チャンスだと思った。

我ながら最低な考えと思いつつもそれでも私は行動を起こしたかったし、ちゃんと想いを伝えて振られたのなら何度でもアタックし続ける。 2人みたいに『信じて待っている』なんて綺麗事は抜かさないし待つのなんて性にあわない。

 

「…でも、何処にいるんですかせんぱーい……」

 

大学は間違えてないはず。

幾ら広いキャンパス内と言えど、夏になってまで見つからないなんて思ってもみなかった! 言い寄ってきた男共に片っ端から「腐った目をしたアホ毛のある男子を探してくれませんかぁ?」と頼んだというのに手掛かりゼロ!!

いや、確かに陽乃先輩ですら見つけられてないのだから私じゃ難しいかもしれないけど…

 

若干自暴自棄というか、何時もの猫かぶりと辞めご飯を求めてスーパーをさ迷っていたのだが何処の店も閉店時間を過ぎたのかドアは開かずに腹はなるばかり…ふと、最後に立ち寄ったスーパーの近くからいい匂いが漂ってきたのだがそれが余計に空腹に拍車をかけた。

 

匂いは公園から…?

 

フラフラと公園へと出向くが残り香のみ。 いや、誰か食べてたとしてもそれはそれで気不味いので良かったといえばよかったのだけれど…

ベンチに腰を下ろし空を眺めると星が煌めいている。 先程まで雨が降ってたなんて嘘みたいな夜空だった。

 

「…カバン?」

 

伸ばした手に何かが当たり視線を移すとリュックサックがごろん、と転がっている。残り香の主が忘れていったのだろうか…交番に届けるか? 置いておけば持ち主が来るかもしれない。

そんな思考を続けていると、足音が聞こえてきた。 持ち主だろうか…

 

街灯に照らされたのはフルフェイスのヘルメットを被った人物。 ゆらりゆらりと近寄ってくる様は実に怖い。 あれ、もしかして私ピンチなのでは? 先輩にもよく遅くに出歩くな…なんて叱られてたっけ? あれあれ?

 

夜の公園にたった1人、そんな当たり前のことを今更思い出し身体が恐怖に固まる。 声が出ない。脚が震える。

 

 

どうしようどうしようどうしよう…!?

 

「あ……の…」

「それ俺のバックなんだけど……あ、拾ってくれたのか? ありがとう」

 

バックを指さし、俺の俺の…と身振り手振りしてくれたからか幾分恐怖は薄れた。 というか、私はいつの間にかバックを全力で抱きしめていたみたいで持ち主は困っている。

 

「す、すみません! 交番に届けようかなって思ってたんですけど…!!」

「いやいや、いい人に拾ってもらったみたいでよか…………げっ」

 

カバンを抱きしめながら持ち主に近寄り差し出すとその人物は言葉を切った。

 

「え、…と?」

「いや…なんつーか………はぁ」

 

溜息をつきながらヘルメットに手をかけスルリと脱ぐとその素顔が街灯に晒される。 気怠けな雰囲気に幾分マシになったけど以前と大差のない腐った瞳、それでいて整った顔立ちをしていて髪型は今時流行りにカットしてあって前より断然カッコよくなっている…………

 

「…久しぶりだな、一色」

「先輩…? え、先輩!?」

 

私が心の底からきっと、大好きな先輩の姿がそこにあった。


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