クッパ姫SOS!?   作:シュペルロ・ギアルキ

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クッパ姫SOS!?

 とある日、キノコ城の最上階、ピーチ姫の居室にて…。

 ピーチ姫はグスグスと泣き続けるキノピコを慰めていた。

 

「ごめんなさい姫様…。姫様に頂いたスーパークラウンをクッパ軍団に奪われてしまって…」

 

「いいのよそれくらい。それよりあなたに怪我がなくてよかったわ」

 

「でもでも~~…」

 

 なおも泣き続けるキノピコをなんとか宥めすかして泣き止ませ退室させると大きなため息を付いた。

 

「まったくもう…。それにしてもスーパークラウンなんて盗んでどうするのかしら…? また悪巧みをしていないと良いんだけど…」

 

 そんなことをぼやきながらティーカップに口をつけるピーチ姫。その時、背後からしわがれた声がかけられた。

 

「失礼します、ピーチ姫様。少々よろしいでしょうか」

 

 姫としての名誉にかけて紅茶を吹き出すようなはしたない真似はしなかったが、それでも飛び上がりそうになるほど驚いて慌てて振り向く。

 そこにはクッパ大王の忠臣にしてカメ一族最高の魔法使いであるカメックが姫を前に頭を垂れ跪いていた。

 

「あなたは…カメック!?」

 

「左様でございます。この度は無断で居室に立ち入りましたことを心よりお詫びします」

 

 跪いたまま更に深く頭を下げ謝罪するカメックから目を離さないままさり気なく体勢を整えるピーチ。

 魔法の技量という面においてカメックに劣るつもりはないが、彼女の魔法は癒やしと守護を主としているのに対し、カメックは戦いに長けた魔法を多数使いこなすタイプの魔法使いだ。

 もしも争いになったら遅れを取ることは必至である。やはりまたクッパは悪巧みをしていてまた自分を拐いに来たのだろうか…?

 そんな事を考えているピーチ姫をよそにカメックは頭を下げたまま必死さを感じさせる声でピーチ姫に懇願するのであった。

 

「ピーチ姫様…! 何卒! クッパ様のために貴女のお力を貸していただきたいのです…!」

 

「…はぁ?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 とにかく必死で平身低頭。土下座までして姫に縋り付くカメックの様子にとうとう根負けし、クッパ城へ招かれることになったピーチ姫。

 それで良いのかという思いもあるが、カメックには囚われの身のときなどによく世話になっていたし、クッパには迷惑をかけられることのほうが多いがなんだかんだで旧知の仲の友人でもある。

 そのクッパがどうやら大変なことになり自分に助けを求めているとなればやはり放ってはおけないお人好しなピーチ姫だった。

 

「「「「ようこそ、ピーチ姫様!」」」」

 

 クッパ城に到着すればクッパの家来たちがいつものようにピーチ姫の来訪を歓迎し出迎えるが、動揺があるのか緊急で予定外の来訪だったためか、動作や規律に僅かな乱れが見えることにピーチ姫は気付いた。

 彼らの高い忠誠心から考えてもこれが演技とは思えずやはりクッパの一大事というのは本当なのだろう。

 

「本来なら盛大な歓迎を行うべきなのですが何分…」

 

「わかってるから、クッパのところに案内して頂戴」

 

「はっ…」

 

 申し訳無さそうなカメックの謝罪を遮り先を急がせるピーチ姫。

 クッパ城には何度も来ているが毎回毎回改装されるのでクッパの居室がどこかなどピーチ姫にはわからない。

 そして長い廊下を進みいくつもの階段や橋を渡り隠し通路を通ってようやくクッパの居室に到着した。

 カメックが扉をノックし、中に声を掛ける。

 

「クッパ様。ピーチ姫様をお連れしました」

 

 間髪入れずに扉が開き中からノコノコが顔を出す。

 

「ようこそおいでくださいました。中へお入りください。クッパ様がお待ちです」

 

 そうして通されたクッパの居室をざっと見渡す。暗く威圧感を感じさせる装飾の調度品の中に自分の肖像画が飾られているのを見つけた。ついでに的当ての的にでもされているらしいボロボロになったマリオの肖像画も。

 そして部屋の最奥に大きなベッドが設置されており、その上にはおそらくクッパのものであろうシーツの盛り上がりがあった。

 うつ伏せで寝そべっているらしく、時折尻尾らしきものがシーツを盛り上げてゆらゆらと揺れている。

 

「クッパ? 来てあげたわよ? 何があったのか説明して頂戴」

 

 そのシーツの盛り上がりに声を掛けるピーチ姫。その口調には隠すことのない心配といたわりの感情が込められていた。

 その声を受けてピタリと尻尾の動きが止まり、クッパはシーツをかぶったまま身動ぎして起き上がる。

 

「う、うむ…。かたじけない…」

 

 返ってきたその声にピーチ姫は首を傾げた。普段より弱々しいのは良い。多分大変な状態なのだろうから。

 だが、いつもの豪快で荒々しい重低音のダミ声が、どこか高貴さを感じさせる女性のように澄んだ声になっているのだ。

 それに、シーツの盛り上がりがいつものクッパの姿より明らかに小さい。高さは二回りくらいは小さくなっているし、幅も半分以下になってしまっているように見える。

 

「実は折り入って頼みがあるのだ…」

 

 そう言ってクッパははらりとシーツを払い落とし姿を現す。

 

「ク、クッパ!? 貴方その姿は…!?」

 

 その姿にピーチ姫は驚愕し目を見開く。

 

「ワガハイを…ワガハイを…。ワガハイを元の姿に戻してほしいのだ!」

 

 なんとシーツの下から現れたのはクッパ大王ではなく、黒いドレスを纏ったピーチ姫にそっくりの女性だったのだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 それは遡ること1日と半分ほど。クッパは部下たちが集めてきた戦利品の一つを手に持ち興味深そうに眺めていた。

 

「フーム。これが被るとピーチ姫の姿になれるスーパークラウンか。ピーチ姫もたいそれたものを作るものだな」

 

「ハイ、大王様!」

 

 自分の献上品でクッパに喜んでもらえたことが嬉しくて仕方ないという様子のクリボーにニヤリと笑いかけると、彼は更に嬉しそうに破顔する。

 くるくるとスーパークラウンを手の中で回し眺めてみるが、優れた魔法の使い手であるクッパの目にもただの王冠のようにしか見えない。

 

「フーム。どれどれ…」

 

 スーパークラウンを持って姿見の前に立ち、おもむろに自らの頭の上に乗せる。

 すると桃色のまばゆい閃光とともにクッパの身体はピーチ姫そっくりの姿に変身してしまった。

 

「オォ! 本当にピーチ姫そっくりではないか!」

 

 意志の強そうな眉など顔はピーチ姫と比べてややキツめの印象を与えるし、ピーチ姫よりだいぶ大柄で筋肉質で胸も大きいような気がするし、頭には角が残っていたり耳が尖っていたり口の中は鋭い牙になっていたり尻尾も残っていたり着ているドレスも黒く露出度が高くトゲやら甲羅のアクセサリーが付いていたりするが、それでも一目でピーチ姫とそっくりだと判断するような容姿へと変わっていた。

 

「ウム、声も普段と違うな?」

 

「はい、声もピーチ姫様そっくりですよ!」

 

「なるほど、自分ではよくわからんが…」

 

 鏡を覗きながらほっそりとした顎を撫でるクッパ。顎に触れる手の感触も、手のひらに感じる顎の感触も、いつもの強固なウロコに覆われたゴツゴツとした感触ではない。クッパが初めて感じるような極めて柔らかでなめらかな美しい肌の感触である。

 

「これはイロイロと面白い使い方ができそうだ。よくやったぞ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 クッパに褒められたことを飛び上がって喜ぶクリボーに柔らかな微笑みを向けながら変身を解除しようとスーパークラウンを脱ぐクッパ。だが…。

 

「オヤ? 戻らないぞ?」

 

 スーパークラウンを外しても元の姿には戻らず、困惑しながら首をかしげる。

 

「オイ、どうやって戻るんだ? これ?」

 

「え? それは、その…オイラに聞かれましても…」

 

「え゛…?」

 

 さっと青ざめるクッパ。部下達も巻き込んでオロオロとうろたえ出す。

 

「ま、マズイぞ! 実にマズイぞ! こんなピーチ姫に変身した状態でマリオやピーチ姫に会ったりしたら何を言われるか分かったもんじゃじゃないではないか!」

 

「どうしましょうどうしましょう!?」

 

 そんな空気の中一人のノコノコがぴーんとひらめく。

 

「そ、そうだ! パワーアップアイテムの効果を解除するならダメージです! 一発殴られたら元に戻るのでは?」

 

「そうか! それだ! ヨシ、オマエ! 早速ワガハイを殴るのだ!

 

「え!? ボクがですか!?」

 

「そうだ! 怒ったりしないから早く殴るのだ!」

 

 そう言ってノコノコの前に頭を差し出すクッパ。

 髪が揺れたときにふわりと漂った良い香りに指名されたノコノコはドギマギしてしまう。

 

「では…。失礼して…」

 

 そう言って恐る恐ると拳を振り上げるが…。

 

「どうした? 早くするのだ?」

 

「できませぇん!!!」

 

 振り上げた拳を自分の顔に振り下ろすノコノコ。ゴツンという痛そうな音ともにひっくり返る。

 

「オイ! 何をしている!?」

 

「無理ですぅ! クッパ大王様とピーチ姫様に手を上げるなんて!」

 

 敬愛するクッパに手を上げるだけでも部下たちには大変な難事である。仮にそれを乗り越えることが出来たとしても今のクッパの容姿はピーチ姫そっくり。ピーチ姫のことも尊敬している彼らにとってそれを乗り越えて殴るなどもはや不可能中の不可能としか言いようがない。

 

「グヌヌヌ…。わかった。こうなったらワガハイが自分でやろう」

 

 すっと戦利品の中に混ざっていた棒状のものを手に取るとそれを振りかぶり…。

 

「トリャ!」

 

 パコーン! といい音をさせて自ら頭に振り下ろすクッパ。

 

「………!!!」

 

 しかしクッパは見誤っていた。ピーチ姫の姿になった自分にはもう硬いウロコも丈夫な皮膚も分厚い頭蓋骨も残されていないということを。

 そしてクッパはあまりの衝撃に目から火花を散らしぐらぐらぐらんっと目を回すとそのままばったりと倒れ込んでしまったのであった。

 

「クッパ様!」

 

「大王様!?」

 

「姫様!」

 

 部下たちが慌てて駆け寄ってくるのを感じながらクッパはそのまま意識を失った。

 

 

 ……数時間後。

 

 

「う、うぅーん…」

 

「お目覚めですかクッパ様?」

 

「ウ、ウム? カメックか?」

 

「左様でございます。お倒れになられたクッパ様を寝室までお運びしました」

 

 言われてみて自分がいつものベッドの上で寝ていることに気付く。

 

「そうか、大儀であった。…ふー…。なんだかいつもより布団が気持ちいいな? 柔軟剤を変えたのか?」

 

 普段より何倍も柔らかでなめらかに感じるシーツの上をゴロゴロと転げ回るクッパ。あまりの気持ちよさに身体まで軽くなったような気がする。

 

「うーむ、これは良い…。今後もこの柔軟剤を使うようにしろ。ワガハイは気に入った」

 

「いえ、柔軟剤は変えていません」

 

「ム? そうか? しかしいつもと…。もしやシーツを変えたのか?」

 

「いえ、ベッドについては何も変わっておりません。変わったのはクッパ様、あなたの皮膚です」

 

「皮膚…!? まさか!?」

 

 ガバリと起き上がり自分の手を見つめるクッパ。そこにはいつものウロコに覆われた無骨な手ではなく、白魚のようになめらかで美しい女性の手がついていた。

 そう、それはつまり…。

 

「ダメージでは戻らなかったのか…?」

 

「そのようで…」

 

 ピーチ姫そっくりの容姿のまま呆然と呟くクッパに沈痛な声をかけるカメック。

 

「………カメックよ…。お前の魔法でこの変身を解くことは出来ないのか?」

 

 しばらく呆然としたあと一縷の望みを託してカメックに尋ねるが…。

 

「残念ながら…。ピーチ姫様の魔法の技は私を遥かに凌駕しております。このような高度な魔法を解くには私でもどれだけかかるか…。そもそも時間をかければ解けるかどうかさえ…」

 

 カメックに沈痛な面持ちで首を振られ絶望するクッパ。うるうると目が潤みだす。

 

「そんな、そんな…。ワガハイは一生ピーチ姫の姿で過ごさなければならないというのか…?」

 

 顔を伏せ悲しげに呟くクッパの様子にカメックは胸を押さえる。敬愛する主君の力になれないことも辛いが、美しい女性が目の前で悲しげにしているのも辛い。胸の痛みは当社比二倍である。

 胸の痛みをこらえカメックはなにかアイデアを絞り出さんと必死で頭を回転させる。すると光明のように一つのアイデアが脳裏に浮かび上がる。

 

「そうだ! 思いつきましたぞクッパ様!」

 

「オォ! なんだ! 何を思いついたんだ!?」

 

 カメックはメガネを輝かせしたり顔でアイデアを披露する。

 

「ピーチ姫様です! スーパークラウンをお作りになられた御本人である姫様ならあるいは!」

 

「ナ、ナニィ!?」

 

 衝撃を受けるクッパ。たしかに、作った本人に頼むというのは道理である。だが。

 

「こ、この姿をピーチ姫に晒せというのか!?」

 

 そもそもこんな姿を誰にも見せられないから変身を解きたいのである。それを見せたくない相手筆頭であるピーチ姫に見せて解呪してもらおうなどとは…。

 

「ですが、もはやそれ以外に方法はないかと…」

 

「グヌヌ…」

 

 ベッドの上で頭を抱えながらジタバタと暴れるクッパ。履き慣れないスカートがずり上がってしまい眩い太ももまで見えてしまっているが、カメックは忠臣の勤めとして目をそらした。

 そしてそのまま更に数時間。クッパは悩み続けたが、結局諦めてカメックの案に乗ることにした。それしかなかったのだ。

 

「ではカメックよ。ピーチ姫を我が城に呼んでくるのだ…。…丁重にだぞ?」

 

「御意にございます。速やかかつ丁重にピーチ姫様をお迎えしてまいります」

 

「頼んだぞ…、お前だけが頼りだ…」

 

「ハッ!」

 

 颯爽と出立するカメックを見送ると、クッパは精神的疲労を癒すべくベッドに倒れ込みシーツを引っ被るのであった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「…と、いうワケなのだ…」

 

 ベッドに腰掛けメソメソしながら事のいきさつを語り終えたクッパに隣りに座っていたピーチ姫はこらえきれない笑いを漏らしながら呆れた、という態度を見せる。

 

「何やってるのよあなたったら…。ふふっ…」

 

 肩を震わせるピーチ姫を恨めしげに見つめるクッパ。

 

(やだ…。このクッパ可愛い…)

 

 可愛い自分の容姿で普段自分がやらないようなわかりやすい表情をするクッパになんだかときめきを感じてニヤけてしまうピーチ姫。

 その表情を見てますます情けない顔になるクッパ。

 

「まあ良いんじゃないのその格好のままでも? だって可愛いし…」

 

「か、可愛いだって!? ワガハイが!?」

 

「そうよ、すっごく可愛いわ」

 

「……それはひょっとして自画自賛をしているのでは?」

 

 クッパは訝しんだ。

 

「そ、そんなことはないけど…」

 

 目を泳がせるピーチ姫。

 

「とにかく頼むのだ! ワガハイを元に戻してくれ!」

 

「もー、仕方ないわね…」

 

 隣りに座ったクッパににじり寄るとその顔に手を触れ、クッパに掛かっている魔法の状態を感知しようとするピーチ姫。

 美しい女性ににじり寄られ顔に手を触れられるという嬉し恥ずかしな事態に思わず顔を真っ赤にしてモジモジしだすクッパ。

 

(うわー! もう! 何その可愛い反応! 可愛いじゃない!)

 

 内心叫びながらもすまし顔でクッパの顔を撫で回す。その化粧っ気のない肌は美しくなめらかで、なんとなく自分より血色がよく健康的な印象を感じさせる。

 

「あー、なんだか面倒な感じね…」

 

「ど、どういうコトなのだ!?」

 

 面倒臭そうな声を出したピーチにクッパが慌てて尋ねる。

 

(…慌ててる様子も可愛い…!!)

 

「もともとスーパークラウンはキノコ族が使うために作ったものだから、カメ一族が使った場合なんて想定していなかったのよ。それで魔法の術式がおかしくなっちゃったみたい。本当ならダメージを受ければ戻るはずなのに…」

 

「そ、そんな…! 戻れるんだろうな!?」

 

(私より背が大きいのにそんな縋るような目で見ないでよ…。可愛いじゃない!)

 

「うーん、ちょっと時間がかかるかも…?」

 

 悩むように首をかしげるピーチ姫。

 その様子に焦ったように手を振りながら迫るクッパ。

 

「ちょっとというのはどれぐらいなのだ!?」

 

「えー? そんなこと聞かれても…」

 

 首を傾げたまま考え込むピーチ姫。

 そんな釣れない反応にクッパは必死でピーチ姫に縋り付くとあうあうと涙目になって懇願する。

 

「そ、それでは困るのだ!」

 

(もー、何よこのクッパ! 可愛すぎる!

 

「………可愛すぎる…」

 

 思わず妙にドスの効いた声でボソリと呟いてしまったピーチ姫のただならぬ気配に一歩下がるクッパ。

 それを見て慌てて取り繕うピーチ姫。

 

「あ、あ~…。うん、大丈夫よ! 多分。時間をかければちゃんと魔法を解くことはできるわよ! きっと

 

「小さく「多分」とか「きっと」とか入れるのをヤメテ欲しいのだが…」

 

「ふふっ、気にしない気にしない。とりあえず、多分マリオが私を迎えに来る頃には解呪が終わると思うんだけど…」

 

「ほ、本当だな!? マリオが来るまでには終わるんだな!?」

 

 ピーチ姫の肩をガシッと掴んで顔を近づけながら念押しするように問いかける。

 

「え、ええ。それまでには解呪できるように努力するわ…」

 

 ちょっぴり目をそらしながら答えるピーチ姫。

 それを見てクッパは怖がらせてしまったかと慌てて離れる。

 

「ふー…。安心したら腹が減ってきたのだ…。昨日から何も食べていなかったからな…。食事にしよう!」

 

 ごまかすようにそう言ってベッドから立ち上がると、ピーチ姫を振り返る。

 

「ピーチ姫も食べるであろう? なにか用意させよう」

 

「ええ、そうね。じゃあなにか軽いものをお願いするわ」

 

「よし。オイ! 食事にするぞ! 準備をしろ! ピーチ姫にもお出しするのだ!」

 

 そんなことを部下たちに叫びながらノッシノッシと歩き出すクッパ。その様子にはいつもの調子を取り戻しつつある活力が見て取れた。

 

(……言えない…。本当は2日くらいで解けそうだけど今のクッパが面白すぎるから適当に引き伸ばしたなんて言えない…)

 

 なんて考えながら若干目を泳がせるピーチ姫であった。

 そして泳がせた目がクッパの足元に向くと…。

 

「ちょっと! クッパ! あなた裸足じゃない!?」

 

「なんだ? 当たり前だろう? ワガハイが靴なんて履くわけがないではないか」

 

 普段のクッパは足の裏まで分厚くウロコで覆われており靴など履く必要がなかったので当然靴など履いたこともないし、そもそも一足も持っていない。

 だが…。

 

「でも今のアタナは…」

 

 ピーチ姫の忠告は少し遅かった。声をかけられて振り返ったクッパは床に落ちていた小石を思い切り体重をかけて踏んづけてしまったのだ。

 

「いったぁっ!?」

 

 足の裏に異物が突き立つという初体験の痛みにひっくり返るクッパ。

 

「ワガハイの足が! 足の裏になにか噛み付いた!?」

 

「もう、言わんこっちゃない…」

 

 泣き声を上げるクッパの様子に呆れたように呟くピーチ姫。クッパ城は大雑把なクッパの性格が反映されているのかそれほど清掃が行き届いていない。肉体的にキノコ族や人間より頑強なカメ族は多少の小石やガレキが落ちていても問題ないということもあるだろう。

 

「ググググッ! 一体誰がワガハイの部屋にこんな致死性のトラップを…」

 

「いや、ただの小石だから…」

 

 呆れながらも床にあぐらをかくように座り込んで足の裏の様子を確認する自分そっくりな女性の姿にモヤッとした感覚を覚える。

 高貴な女性がするには全くもってはしたない姿だ。

 

「ちょっと、あなた今私の姿になっているんだからそんなはしたない格好しないでよね」

 

「ウ、ウム?」

 

 その叱責の言葉に慌てて足を下ろすクッパ。だがあぐらはかいたままだ。

 

「ちゃんと立つ!」

 

「ハイッ!」

 

 鬼気の籠った一喝を受けて慌てて立ち上がるクッパ。それでもピーチ姫は容赦しない。

 

「ガニ股しないで足を伸ばす! 背筋はまっすぐ! 顎も引いて!」

 

 どこからか取り出したセンスでピシピシと叩きながらクッパの姿勢を整えさせていく。

 

「ウ…ウゥ…」

 

「うん、まあまあかしらね?」

 

 散々センスで叩かれてようやくピーチ姫が次第点を出せる姿勢を取れるようになったクッパ。普段ならセンスで叩かれる程度痛くも痒くもないのだが、ウロコも甲羅もない女性の体になってしまった今は思ったより遥かに痛い。

 

(人間の体というのはこんなにも痛がりなものだったのか…。これからはもっとピーチ姫の身体も労ってやらねばならないな…)

 

「さて、じゃあ靴はどうしようかしら…?」

 

「それでしたらこちらに」

 

 いつの間にかスススっと歩み寄り真っ黒なハイヒールを差し出すカメック。これにはピーチも驚いた

 

「なんでこんなものを持っているの?」

 

 もしやヘンタイか。

 

「はい、こちらはクッパ様が変身した際に最初から身につけていたものです」

 

「へぇ、さすが私の魔法ね」

 

「左様でございますな」

 

「オイ、それをワガハイに履けというのか?」

 

 思わずそんな問いかけを発してしまうクッパに、何を当たり前のことを…と言いたげな目を向ける二人。

 

「他に靴はないもの」

 

「クッパ様のおみ足をこれ以上傷つけるわけには行きませんしな」

 

 結局抗議虚しくハイヒールを履かされてしまうクッパ。

 プルプルと震えながらもかろうじて姿勢を維持する様子を満足気に見上げるピーチ姫とカメック。

 

「いい感じ…。そうだ、良いことを思いついたわ!」

 

「ナニ?」

 

「クッパ、これから貴方は私のお姉さんね!」

 

「ハァ?」

 

 意味がわからない、と首をかしげるクッパに自分の意見の正しさを確信したピーチが畳み掛ける。

 

「ちゃんと女性として扱われれば女性らしい気品ある所作も身につくはずよ。だからこれからは貴方のことを私のお姉さんにしてあげる!」

 

 昔から欲しかったのよね、お姉さん…。などとうなずくピーチ姫に抵抗の声を上げる。

 

「なにがダカラなのだ!? なぜワガハイがそんなことをしなければならないのだ!? それにワガハイは男だぞ!」

 

 しかしそんなクッパの必死の抗議にピーチ姫はすっと目を細めると…。

 

「あら? 私は今すぐに帰っても良いんだけれど?」

 

「グッ!!」

 

 あっさりと弱点を突かれ言葉に詰まるクッパ。

 

「じゃあ決まりね! これからあなたのことはお姉さんって呼ぶわ! …お姉ちゃんのほうが良いかしら? それともお姉さま?」

 

 ウキウキした様子で呼び名を考え始めるピーチ姫に追従するカメック。

 

「では我々もこれからはクッパ様のことをクッパ姫様とお呼びしましょう」

 

「いいわねそれ! 徹底させましょう」

 

 忠臣であるカメックの爆弾発言に驚愕するクッパ。

 

「カ、カメック…!? オマエ裏切るのか!」

 

 しかしカメックはしれっとしたすまし顔で答える。

 

「クッパ姫様…。今はピーチ姫様の機嫌を損ねていい状況ではございません。従うのが最も適切な選択かと…」

 

 この正論にウググググとしばらく唸るもやがてがっくりと肩を落とす。

 

「ワカッタ…。好きにしろ…」

 

 こうしてキノコ王国に新たなる王女、クッパ姫が誕生したのであった。

 

「ナゼ…こんなことに…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 風呂…それは憩いと癒やしの空間…。

 入浴…それは安らぎとくつろぎの時間…。

 

 のハズだったのだが…。

 

「ワザワザこんなことしなくても…」

 

「ダメよ」

 

 ピシャリと言われてしまい黙りこくり、ピーチ姫の手が自分の体からドレスを剥ぎ取っていくのに耐えるクッパ姫。

 現在彼女は風呂に入るべく目隠しをされながら服を脱がされているのであった。

 

「クッパ姉さんは今私の姿になってるんだから」

 

「…ムゥ…。たしかに顔はソックリだが身体はそこまで似ていないと思うが…?」

 

 たしかにクッパ姫のほうが背が高く全体的に骨格もがっしりとしており、胸やおしりのボリュームもピーチ姫より勝っている。

 顔はともかく、身体に関してはピーチ姫と同じとはとても思えない。

 他人から見た印象もおそらくはそっくりな双子や同一人物とはならず、顔がよく似た姉妹というのがしっくり来るだろう。

 

「…そんなに女の子の裸が見たいの?」

 

 ピーチ姫の声が剣呑さを帯び始めていることに気づき慌てて否定するクッパ姫。

 

「そういうワケではない! ただ、そう…落ち着かないだけだ」

 

 人間の王族であるピーチならこうして誰かに入浴の手伝いをさせるのは当然なのだが、そもそも王族であれどもカメ族であり入浴に手伝いなど必要なかったクッパ姫にはどうにも慣れない感覚なのである。

 

「姉さんは今はお姫様なんだから、こういうのにも慣れないといけないのよ」

 

「あまり慣れたくないのだが…。痛ッ!?」

 

 そんなふうに愚痴ると背中をピシャリと叩かれてしまう。

 

「いつまでもグズグズ言わないの! よし、ちょっとまっててね」

 

 すべての服を脱がされ全裸になったクッパ姫の横でピーチ姫もまた服を脱ぎ始める。

 

「…………ムゥ……」

 

 目隠しされているとはいえ耳は聞こえる。すぐそこでピーチ姫が衣服を脱いでいる衣擦れの音など聞かされれば思わずドギマギしてしまう。

 余り考えるな、とは思っているがやはり想像してしまう。

 ピーチ姫の白い肌、美しい曲線、細い身体。

 思わずゴクリとつばを飲み込んでしまい、あわててその音が聞かれたのではと周囲の気配を探り、なおさら衣服を脱ぐピーチ姫の様子に気がいってしまい、ますます慌てる。

 

「~~~~♪」

 

 もっともピーチ姫はそんなクッパ姫の焦燥などどこ吹く風で気楽な様子でさっさと衣服を脱ぎ全裸になるとバスタオルを身体に巻く。

 先ほどクッパ姫に他者に手伝わせることを説いておきながら、何度も何度も拐われたことによって王族でありながら従者なしでも大概のことは出来てしまうピーチ姫である。

 

「さ、入りましょう?」

 

「ウ、ウム…」

 

 目隠しされたままのクッパ姫の手を引き奥へと向かう。その先はクッパ城自慢の大浴場である。

 巨体のクッパが悠々とくつろげる大きさの湯船に目を輝かせるピーチ姫。

 とはいえもちろんそのまま湯船に入るようなはしたない真似はしない。

 クッパ姫を洗い場に導き腰掛けに座らせると手早く二人の髪をまとめる。

 

「まずは体を洗いましょうか?」

 

「ソウダナ、ではあの辺りにあるブラシを取ってくれ」

 

 その指差した先にあるのはピーチ姫の頭ほどの大きさのブラシヘッドにワイヤーのような剛毛が生えたクッパ愛用のボディブラシである。

 

「あんなのダメよ!」

 

 人間があんなもので身体を洗ったら血まみれになってしまう。

 

「ヌ?」

 

「全く、やっぱり一緒に入って正解だったわね」

 

 そういって用意してきた自分用のタオルや石鹸、香油を準備していく。

 

「くすぐったいと思うけど我慢してね」

 

「ナニ? うひゃっ!?」

 

 ピーチ姫がクッパ姫の身体を優しくタオルでこすり始めた途端、くすぐったさに身悶えをし悲鳴を上げ始める。

 敏感な柔肌の上を泡にまみれたタオルで撫で回されるという、愛用のブラシでウロコをガシガシとこする時の気持ちよさとは全く異質の感覚にクッパ姫は耐えられなかったのだ。

 

「ヤ、ヤメロー! ひぃっ!?」

 

 くすぐったさのあまりに腕を振り回してしまいそうになるが必死でこらえる。目隠しをされた状態で手を振り回したりしたらピーチ姫を突き飛ばし転ばせてしまうかもしれない。

 それだけは避けなければいけないと思ったクッパ姫の必死の自制心だったが、おかげで彼女自身は全身をタオルで撫で回されることに大きく抵抗することが出来ない。

 

「うぅ、うひぃっ…。うひゃぁ!?」

 

 変な声を上げながらクネクネと身体を揺らすクッパ姫。それによって暴力的な肉の塊がピーチ姫の目の前でブルンブルンと跳ね回る。

 

 その胸はピーチ姫より豊満であった。

 

 ピーチ姫は無言でタオルを桶の中に投げ捨てると、未だ石鹸と香油でぬめる両手でその肉塊を鷲掴みにした!

 

「ミギャアアア!?」

 

「やっぱり納得行かない! なんで私の姿になるはずがこうなるわけ!?」

 

「オワァァ! ヤメロー!!」

 

 鷲掴みにしてもニュルニュルと己の手から逃げ出す肉の塊を逃すまいと何度も指を動かすピーチ姫。

 その顔はなんとも言い難い無表情であり、もしもクッパ姫の目隠しがなくその顔を見ていたらピーチ姫を突き飛ばしてはいけない、などという考えも消し飛び必死で抵抗して逃げ出すことだろう。

 

「ウゥゥ、もうやめてくれぇ…」

 

「…………はっ!?」

 

 どれほどの時間が経ったのか、クッパ姫の半泣きと言うかもうほぼ泣いてる感じの声に我に返るピーチ姫。

 

「ご、ごめんなさい、ちょっと我を忘れちゃって…」

 

「…………チョット?」

 

「かなり、ね。ごめんなさい…」

 

 なじるような声を向けられ謝罪を続けるピーチ姫の様子に一つ大きくため息を付くクッパ姫。

 

「まあいい…。だがあまりこういうことになるなら次はワガハイ一人で入るぞ」

 

「わかってるから、もうしないわよ…。次は髪を洗うわね」

 

 その証拠か今度は乱心などせず丁寧にクッパ姫の髪を洗っていくピーチ姫。

 その丁寧な作業にクッパ姫も今度は気持ちよさそうに口元を緩める。

 

「こんな風に丁寧に毛を洗ったことはなかったが、ナカナカ気持ちいいではないか」

 

「そう? それなら良かったわ」

 

 たっぷり時間をかけて丁寧に髪を洗い終え、タオルで水気をとったあと頭皮や髪に丁寧に香油を塗り込んでいく。

 

「オォォォ…。これもナカナカ…」

 

 頭皮をマッサージするように香油を塗り込む指の動きに更にとろけるように体の力が抜けていく。

 

「うん、こんなものかしら」

 

 丁寧にトリートメントした髪をタオルでまとめると満足したようにうなずく。

 

「はぁぁ~…。もう終わりか?」

 

 とろんとしていたクッパ姫もピーチ姫の指が止まったことですっかりリラックスして緩みきっていた身体を起こす。

 

「ええ、私も身体を洗うから先に湯船に入っていて」

 

「わかった」

 

 ピーチ姫に手を取ってもらい足元に気をつけながらゆっくりと湯船に入るクッパ姫。

 

「フワァ~~~…」

 

 湯に心身を委ねリラックスする快感に思わず艷やかな声を漏らしてしまう。

 

「じゃ、私は身体を洗ってくるから」

 

「ウム、ワガハイはのんびりしていよう」

 

 みぞおちまで湯に浸かり細い手足を伸ばす。ピーチの指示で普段入浴している温度よりぬるめになっているのだが、しかしこの身体にはこれぐらいの温度がちょうどいいようだ。

 ゆっくりと、湯を染み込ませるように柔らかな手で柔らかな身体を擦る。

 いつものカメの身体とは比べ物にならないほど繊細な肌触りに湧き上がるような快感を感じる。

 

「しかしなんとも…。疲れたな…」

 

 ピーチ姫に姉宣言をされたあとは大変だった。

 食事を摂るときも手づかみで食べようとするクッパ姫をセンスでひっぱたきナイフとフォークを使った上品な食べ方を文字通り叩き込み、その後もこの入浴の時間になるまでひたすら上品な所作とやらを叩き込まれ続けたのだ。

 

「ワガハイが弱っているというのに…。ピーチ姫め…」

 

 恨み言のような言葉だったがその表情に険しさはない。むしろ穏やかな安らぎを感じさせる表情だ。

 

 楽しかった。ピーチ姫と礼儀作法の特訓をすることが。

 叱られ、叩かれたが、そこには悪意など一欠片もなく、自分への思いやりに満ちていた。

 普段は見せないような様々な表情を見せてくれるピーチ姫がたまらなく魅力的に見えた。

 いつまでもこの時間が続けば、などということまでチラと思ってしまうほどに。

 

「ヤレヤレ、これではワガハイのほうが妹のようではないか…」

 

 そんなことをポツリと呟く。

 

「あら、それも面白そうね。私をお姉ちゃんって呼んでみる?」

 

「カンベンしてくれ…」

 

 身体を洗い終えたピーチ姫がやってきて湯に浸かりながらからかうように言うのにげんなりとした声を返すクッパ姫。

 その本当にうんざりだというような声に逆にピーチが慌てる。

 

「じょ、冗談よ…」

 

「アァ、そうであってくれ…」

 

「………」

 

 しばし無言で湯を浴びる二人。

 ちゃぷちゃぷとお湯が跳ねる音だけが浴室に響く。

 ピーチは入浴で上気したクッパ姫の薔薇色の頬を小さな汗の粒が流れ落ちていく様子をぼんやりと眺めながら口を開いた。

 

「ねえクッパ…。迷惑だった?」

 

「ム? なにがだ?」

 

「………いろいろよ…」

 

「…………」

 

 クッパ姫は目隠しの下から天井を見上げ少し考え込む。

 ピーチ姫が自分をおもちゃにして遊んでいることはとっくに確信していた。

 そのことに多少思うことがないわけでもない。自分が困っているのにそれを肴に遊ばれてはそれは面白くないだろう。

 だが。

 

「メイワクなどではない…」

 

「…本当に?」

 

「本当だ。ピーチ姫が来てくれてこの魔法を解く目処も立った。そしてこの不慣れな身体の扱いについて指導までしてくれるのだ。感謝している」

 

「…そう…。ならいいけど…」

 

「そもそも今のこの姿はワガハイの自業自得なのだ。ワガハイの方こそピーチ姫に迷惑をかけてスマナイと思っている」

 

「まあ、そこはそうだけど…」

 

「………」

 

「………」

 

「………フッ」

 

「………クスッ」

 

 そしてようやく浴室内に明るい笑いが響いた。

 

「さて、そろそろ出ましょうか」

 

「ン? もうか?」

 

 静かに立ち上がりバスタオルを巻き直したピーチ姫の言葉を受け、ザバァと派手に水しぶきを上げながら立ち上がるクッパ姫。

 その動きに暴力的な大きさの肉の塊がまた大きく揺れ水滴を撒き散らす。

 その暴力的な動きにまたなんとも言えない無表情になるピーチだったがなんとか自制し再びクッパ姫を導き脱衣場へ向かう。

 

「そういえば寝間着はどうしようかしら…?」

 

 当然だがクッパのパジャマは現在のクッパ姫の身体には大きすぎる。

 だが、他の部下たちから寝巻きを借りるということも出来ないだろう。クッパ姫になったことで大幅に背が縮んだとはいえ彼女の身長は現在もドッスンなどの寝間着とかそれ以前の問題なものを除けば部下の誰よりも圧倒的に高い。

 この城にいる者の中でその次に背が高いのはピーチ姫というのが現状である。

 クッパ姫の豊満な身体をタオルで拭いて水気をとりながら頭を悩ませるピーチ。

 

「…私の寝巻きなら着れるかしら…?」

 

 どうせ今回も泊まり込みになると予想していたピーチ姫は多数の着替えを持ち込んでいる。

 その中にロングタイプのゆったりとしたネグリジェがあったことを思い出し、脱衣場の外で従者として控えていたクッパの部下にそれが入ったトランクケースを持ってこさせる。

 

「うん、ちょっと裾が短いけど大丈夫ね」

 

 部下が持ってきたトランクケースから純白のネグリジェを取り出しクッパ姫に着付けたピーチ姫。

 ピーチ姫よりワイルドさを感じさせる雰囲気を発するクッパ姫に清楚さを引き出す白をあえて着せることによって、さらなる魅力が引き出されていた。

 

「ウーム、少し胸がきついな」

 

 しかしそんな事を言いながら両手で胸を掴んで胸のポジションを調整するクッパ姫。清楚ではない。

 その手をビシッとはたき落とすピーチ姫。

 

「はしたないことをしないで」

 

「ム、ウム…そうだな」

 

 ちなみにピーチ姫は今日はスッキリとした桃色のツーピースパジャマを着ることにした。

 

「くあぁ~~」

 

 ふと大口を開けてあくびをするクッパ姫。手で口を抑えもしないで大変はしたないが、その無邪気で無防備な印象がまた可愛らしくピーチ姫の口元が緩む。

 

「……ウム…。なんだか今日はもう疲れたからそろそろ寝るか」

 

「そうね…。私も休もうかしら…」

 

 ピーチ姫も今日は色々あったためか疲れを感じ始めていた。

 

「では寝室に案内させよう」

 

「ん~~…。ねえ、せっかくだから一緒に寝ましょうよ?」

 

「ハァ!?」

 

 いきなりの爆弾発言に驚き戸惑うクッパ姫。

 

「いいじゃない。女の子同士なんだし」

 

「いやいやいや…」

 

「お姉さんと一緒にお布団の中で女子トークとかしてみたかったのよねー」

 

 楽しげに話しながらクッパ姫の手をガシッとつかみ歩き出すピーチ姫。

 多少の抵抗はするが、体格では勝っていても使い慣れない身体では意外とパワフルなピーチ姫の強引な牽引を止めることは出来ずあっという間に寝室に連れ込まれてしまう。

 

「オワッ!?」

 

 そのままベッドに押し倒される。

 

「うふふふふ…」

 

「マテマテマテ、落ち着け! おちつくのだ!」

 

 仰向けに転がったクッパ姫の上にのしかかるように覆いかぶさりながら怪しげな笑みを浮かべるピーチ姫。

 

「マテ! 待てと言っている!」

 

「大丈夫、大丈夫…。ふふふふ……」

 

「ノワァァー!!」

 

 

 

○半月後

 

 

 

 清々しい朝。小さな家のベッドの中でとある陽気なイタリア男が目を覚ます。

 ぴょんっとベッドから飛び降りるとぐっと体を伸ばし軽く体をほぐすように体操を始める彼の名はマリオ。

 

 人々は敬意を込めて彼をこう呼ぶ、スーパーマリオと!

 

 今日も彼の調子は絶好調。

 伊達男らしく鏡の前で丁寧にヒゲを整えてから家の外に歩み出る。

 マリオは眩しいお日様に目を細めながら挨拶をすると、外に立ててあるポストへと目を向ける。

 配管工でありながら世界を股にかける冒険家でもあるマリオのもとには仕事の依頼がいくつも届く。

 中には危険な依頼もあるが、どんな危険な仕事であっても冒険を愛する彼は怯むことなく飛び込んでいくのだった。

 だがそれでも、招かれざる手紙というものもある。

 例えば今日届いた、大魔王クッパの紋章が刻まれた手紙などだ。

 

『マリオへ。

 

 ピーチ姫を我が城で預かっている。

 早く返してほしければさっさと迎えに来ることだ。

 というか何故半月たっても来ないのだ!

 いいか! 早く! 迎えに来るのだぞ!

 とにかく急いで迎えに来い! ピーチ姫が待っているぞ! ワガハイもだ!

 

クッパより。』     

 

 なんだかいつもと全然違う雰囲気の手紙に首をかしげるマリオ。

 だがまあ、おそらくはいつものようにピーチ姫がクッパに捕まったのだろうということは理解できたので取り合えず手紙に書かれたように急いでクッパ城へと駆け出す。

 どんな困難が立ちふさがろうと必ずピーチ姫を助け出す。その決意を胸に。

 

 

 なぜかいつもより妙に張り切って「姫様のために!」とか「姫様を奪わせはしない!」「我らが姫様を守れ!」などと叫びながら立ちふさがるクッパの手下たちを苦戦しつつも蹴散らしクッパ城へとたどり着いたマリオ。

 突入を前にいつもよりはるかに消耗してしまった自分の状態に顔をしかめる。

 ひょっとしたら今回の手紙はクッパがマリオをおびき寄せ叩き潰すための必殺の罠だったのかもしれない。

 だが、スーパーマリオに退却は許されない。今も囚われ怯えながら自分の助けを待っているであろうピーチ姫のことを思えば傷ついた身体にも勇気が湧き上がってくる。

 罠を警戒しつつも、みなぎる勇気に後押しされ真正面から正門を押し開き城内に突入するマリオ。

 

 明るい野外から薄暗い城内に入ったことで周囲の様子が殆ど見えないマリオはそれでも鋭く視線をめぐらしながら周囲の気配を探る。

 エントランスホールに感じる気配は一つ…、いや、二つだけ。いずれも自分の真正面だ。

 ぐっと拳を握り戦闘態勢を整えるマリオ。

 徐々に暗闇に目が慣れ始め、エントランスの奥、中央階段の上に佇む二つの人影の姿が浮かび上がってくる。

 

 そこにいるのは二人の麗しき姫君…。

 一人はマリオもよく知るいつもの桃色のドレスを着込んだピーチ姫。そしてもう一人はピーチよりも背が高く、黒色のドレスを着たピーチ姫そっくりの、マリオの知らない女性であった。

 いきなりピーチ姫がいるとは思わず動きが止まるマリオ。隣の女性が誰なのかわからないことも硬直に拍車をかける。

 

「ようこそマリオ、我がクッパ城へ…」

 

 すっと気品あふれる動作でドレスのスカートを摘み挨拶をする謎の女性。マリオはその頭に大きな角が生えていることに気付いた。

 そしてピーチ姫はまあまあね、といった顔で黒いドレスの女性が挨拶を続ける所作を眺めていたが…。

 

「も、もういいだろう!? 約束ではマリオが迎えに来たら元の姿に戻してくれると言っていたはずだ!」

 

 挨拶を終えた瞬間わっと叫びだし蹲ってしまう黒いドレスの女性。

 そんな様子にピーチ姫は怒ったように腰に手を当てる。

 

「あぁ、もう、クッパ姉さんったら。ちゃんと最後までやらないとダメじゃない」

 

「マリオが見ているんだゾ!!?」

 

「だからいい練習になるんでしょ」

 

 マリオそっちのけで言い争いを始める二人。

 それを眺めながらマリオは先程ピーチが発した「クッパ姉さん」という言葉に頭を悩ませていた。

 彼女はクッパの姉なのだろうか? それにしてはピーチ姫そっくりである。

 

 マリオが頭を悩ませているうちに言い争いを一方的に打ち切ったピーチ姫が階段の手すりに腰掛けスルスルと滑り降りてくる。大変はしたない。

 

「ハァイ! マリオ!」

 

 元気よく挨拶をしてくるピーチ姫に挨拶を返し何がどうなっているのかと尋ねる。

 それに対してピーチ姫はウフフと含み笑いを漏らして…。

 

「マテー! 言うなー! 言うんじゃない!」

 

 大きな声を上げながら黒衣の女性も階段を降りてくるが、ハイヒールを履き慣れていないのかやけにモタモタとした歩き方でなかなかこちらにたどり着けない。

 

「実は彼女ね…、クッパなの!」

 

 その思わぬ爆弾発言にマリオも僅かな時間硬直。ピーチ姫の言葉が脳に浸透すると同時に飛び上がって驚いた。

 まだ階段中程で手間取っている女性の姿をよく見るが、やはりピーチ姫にそっくりでとてもクッパには見えない。

 そこでピーチ姫にどういうことなのかとさらに尋ねるマリオ。

 

「実はね、キノピコのために作った私そっくりの姿に変身できるアイテムをキノピコから取り上げて自分で使っちゃったのよ!」

 

 一瞬、何を言っているんだ? とでも言うような表情を浮かべるマリオに面白くて仕方がない、という様子でピーチ姫が続ける。

 

「そしたら戻れなくなっちゃって…。ウフフフ…。あまりに可愛いからみんなでクッパ姫って呼んであげてるのよ…。フフフ…」

 

 何をやっているんだ、と言わんばかりに頭を抑えながらクッパを見上げるマリオ。

 知られたくなかった秘密をマリオに知られガ~ンとショックを受けるクッパ姫。しかしそんなショックを受けながらも階段を降りる足を止めなかったのがいけなかった。

 

「アッ!」

 

 そのとき、ショックによって気がそぞろになってしまった足元がもつれ階段を踏み外してしまうクッパ姫。含み笑いを漏らしていたピーチ姫も思わず硬直する。クッパ姫の手が縋るように空に伸ばされ、しかし掴めるものなど何もなく…。

 瞬間、女性の危機に反射的に動いたマリオがひとっ飛びでクッパ姫のもとまで飛び上がると倒れ転げ落ちようとするクッパ姫をしっかりと抱きとめて支える。

 

「ア、ワワワ…」

 

 お姫様抱っこの姿勢で支えられながら転倒の恐怖でバクバクと高鳴る心臓を抑え至近距離にあるマリオの顔を見上げるクッパ姫。そのたくましい腕と分厚い胸板からは激しい戦いを潜り抜けた男の汗の匂いがした。

 こちらを見つめ優しく微笑みながら安否を尋ねてくるマリオに慌てて「大丈夫だ!」と答え顔を背けるが、胸の高まりは収まらず、何故か顔がどんどん熱くなってくる。

 そんなクッパ姫の様子を気にする様子もないマリオに抱き上げられたまま階段の下まで運ばれ、優しく床に降ろされた途端そそくさとマリオから距離を取る。

 そして自分のことを何故かニヤニヤと見つめるピーチ姫になにか取り繕うかのように声を荒げ詰め寄る。

 

「とにかく! マリオが迎えに来たんだからワガハイを元に戻すのだ!」

 

「そうね、()()()()()()()()()()()()、魔法を解いてあげるわ」

 

 その含みある感じの言い方に嫌な予感を覚えたのか慌ててクッパ姫が今度はマリオに詰め寄る。

 

「マリオ! オマエはピーチ姫を迎えに来たのだよな!? ワガハイを助けると思ってそう言うのだ!」

 

 マリオに縋り付き涙目になりながら懇願するクッパ姫。だが、マリオの肩にそっと置かれる手が…。

 

「違うわよね、マリオ? あなたはこの城に遊びに来ただけで私を迎えに来たわけじゃないわよね?」

 

 ピーチ姫に掴まれた肩が急速に冷たくなっていく。おそらくはピーチ姫の魔法によるものなのだろうが…。

 

「ね、マリオ…?」

 

 見る人すべてを魅了するような優しく美しい笑顔を浮かべるピーチ姫。だがそこから言いしれぬ重圧を感じマリオの背筋を冷や汗が流れ落ちる。

 NO、と答えることを恐れたマリオが思わずピーチに向かって首肯してしまう。するとその瞬間あれほど重苦しかったプレッシャーも痛くなるほど肩に込められていた冷気も雲散霧消する。

 

「と、いうことよクッパ姉さん。まだまだ私のお姉さんで居てね?」

 

 ニッコリと花がほころぶような笑顔を浮かべるピーチ姫。

 しかしその笑顔を向けられたクッパ姫は半泣きだし、マリオもドン引きだ。

 

「マリオもしばらくここで一緒に暮らして遊びましょ! ね! それがいいわ!」

 

 そんな大はしゃぎなピーチ姫に引きつった笑みを返すしか出来ないマリオ。

 

 マリオに意地でもYESと答えさせようといい笑顔で迫るピーチの横で思わず天井を見上げるクッパ姫。そして。

 

「もうスーパークラウンはコリゴリなのだー!」

 

 そんな声がクッパ城内に大きく木霊するのであった。

 

 

 おしまい




クッパ姫がとてもツボったので書いた
なお、猥褻は一切ない






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