九校戦五日目、新人戦二日目。
俺と雫はそれぞれアイス・ピラーズ・ブレイクの予選に臨むのだったが、朝からあるものに見惚れていて、試合どころではなかった。
試合前、雫に呼び出された俺は、水色に振袖を纏った雫に見惚れ、立ち尽くしてしまっていた。
「おかしくないかな?」
「......」
「神威くん......やっぱり変?」
はっ!つい見惚れて黙ってしまった。
「いや、すごい似合ってる」
「本当?ならなんで目を逸らすの?」
目を逸らしていたのは無意識だった。
「......可愛いすぎて直視できないです」
俺の本心がつい口から出てしまった。
「神威くん......」
雫が照れているのが顔を見なくても分かった。
やばい、振袖姿の雫が頭から離れなくて、試合に集中できなそうだ。
しかし、当然試合は行われる。
まあ、一条以外は楽に終わるだろうと思っていたし、実際その通りだったから集中出来なくても問題なかったけど。
◇
六日目、新人戦三日目。
この日はアイス・ピラーズ・ブレイクの男女決勝トーナメントとバトルボードの男女準決勝〜決勝が行われる。
アイス・ピラーズ・ブレイクには俺、雫、深雪さんが、バトルボードにはほのかが出る。
みんな、心配の必要はなさそうだけど。
かく言う俺も決勝で一条と当たる以外は楽できる。
もちろん、一条との試合も楽じゃなくても圧勝はするけど。
俺の予想通り決勝戦まで危なげなく勝ち進み、いよいよ一条将輝と戦う時が来た。
《クリムゾン・プリンス》の異名を持つ彼は、十師族の一つ、一条家の次期当主。
当然強いわけだけど......それでも俺の敵じゃない。
五神家の、中神の前では敵じゃない。
雫と一緒に一位取ろう!
密かに、勝手に俺はそう決めていた。
雫側の問題を忘れて。
櫓に上がると、一条はじっとこちらを見つめていた。
白夜から何かを聞いたのか、個人的な興味か。
どちらにしても、見せてやるよ。
試合開始のランプが灯った。
自陣のピラーズを強化し、一条の魔法を防ぐ。
その後、振動系魔法で敵陣のピラーズを壊していく。
最初は呪詛返しでも使ってやろうと思ってたけど、面白そうだから正攻法で行くことにしたのだった。
単純な力比べでも俺が勝つのは必然。
優勝候補の一条が力比べで負けるとなれば大ニュースだ。
それも相手が十師族関連の家ではなく、無名の家の人間となればなおのこと。
あんまり大ごとになると五神家的に良くない気もするけど、当主がいいと言うんだからいいはずだ。
そんな事を考えている内に一条の表情は曇っていく。
多分、対照的に俺の顔はニヤケ顔になっていただろう。
そのまま力でねじ伏せて、俺はアイス・ピラーズ・ブレイク新人戦男子の部で優勝した。
九校戦六日目はバトルボードでほのかが優勝、アイス・ピラーズ・ブレイクでは俺と深雪さんが優勝、二位と三位も一高という快挙の一日となった。
勝手に舞い上がっていて、雫が深雪さんに負けることを全く考えていなかったことに、試合が終わってから気づいたのだ。
俺は雫とほのかの泊まっている部屋の前で立ち尽くしていた。
何度もノックしようとしてはやめ、ノックしようとしてはやめを繰り返していた。
深雪さんと戦い、圧倒的な力の前に敗れてしまった雫になんと声をかけるべきか、俺には分からなかった。
大体、俺が声をかけていいものなのか、そんな疑問が何度も頭に浮かぶ。
とりあえず会うだけ会おうと意を決してノックしようとすると、扉が開き、雫とほのかが出てきた。
「「あ......」」
俺と雫は固まってしまう。
お互い、この展開は予想していなかった。
「神威さん、ちょうどよかったです。私たちこれからお茶しに行くんですけど、一緒にどうですか?」
ほのかの気の利いた提案に俺は
「ああ、それじゃあ一緒に行こうかな」
と答える他なかった。
「それじゃあ、行きましょう」
「あ、そうだ。神威くん、優勝おめでとう」
雫が笑顔で俺の優勝を祝福してくれた。
なら、俺も......
「雫、準優勝おめでとう。ほのかも優勝おめでとう」
二人の栄誉を称えなければ。
◇
一方、無名の相手に圧倒された一条将輝は呆然としていた。
「ダメだ、全く情報がない。何一つ引っかからないよ」
「中神神威......何者なんだ?」
友人の吉祥寺真紅郎も神威について調べているが、当然大した情報は出てこない。
「多分、無理だぜ。アイツの事調べたって大したもんは出てこねえよ。普通の手段ならな」
見かねた白夜は二人にそう声をかける。
「白夜、何か知ってるのか?」
「もちろん、知ってるぜ。アイツとは古い付き合いだからな。
アイツは俺と同じ五神家の次期当主。それも俺たちを束ねる中神の跡取りだ」
白夜の言葉に二人は唖然とする。
白夜はこの二人には自分の家の事を話していた。
「なぜ隠していた?」
「俺たちの存在は隠されるべきものだ。それに知ってたって勝てるわけじゃない。どうやったってアイツには勝てねえよ」
「なら、なぜ明かしたんだ?」
「お前らは......特に将輝、お前は知っとかなきゃならねえ。中神神威が成そうとしている事の助けになってもらうためにもな」
白夜も知っていた。
神威が五神家を終わらせようとしている事も、その為に必要な事も。