アイス・ピラーズ・ブレイク新人戦が終わって、私の九校戦での出番は終わった。
準優勝したものの、決勝戦では深雪に惨敗。
神威くんと一緒に優勝するというささやかな目標は叶わなかった。
その神威くんの決勝戦は圧巻だった。
十師族の、一条将輝を相手に単純な力比べで圧倒したのだ。
やっぱり神威くんは只者じゃない。
紅羽さんも神威くんと同等......ううん、それ以上の力を持ってるはず。
スピード・シューティングという限られた環境でもそれは感じた。
そうなると私はますます神威くんにふさわしくないんじゃないかと思う。
紅羽さんは神威くんのこと好きみたいだし、私よりも紅羽さんの方が......。
そんなことを部屋で一人考えていると
コンコンッ。
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
気を使ったのか部屋から出て行ったほのかならノックせずに入ってくるはず。
深雪とか他の一高生かな?
そう考えながら覗き穴を見る。
そこにいたのは......桜華ちゃんだった。
なんで彼女がこの部屋に来たのか、全くわからない。
とりあえず話を聞いてみよう。
扉を開けると
「夜分遅くにすみません、雫さん。今から少し付き合ってもらってもいいですか?」
と桜華ちゃんが尋ねてきた。
「え......うん、いいけど......」
「ではついて来てください」
そう言われて、先を行く桜華ちゃんの後を追う。
そうして連れてこれたのは上層階の一室。
いわゆるVIPルームだった。
「......ここ?」
「はい、目的地はここです。どうぞ中へ」
桜華ちゃんに促されて扉を開ける。
中に入ると、紅羽さんが一人で待っていた。
「やっと来たわね。桜華、案内ありがとう」
「いえいえ、これも全ては兄様の為ですから」
「ねえ桜華ちゃん、なんで私をここに連れて来たの?」
「そういえば用件を言ってませんでした。紅羽さんが雫さんと話したいことがあるそうです」
「用件聞かずについてくるとか警戒心なさすぎよ」
「でも、桜華ちゃんだったし......」
「本物とは限らないわよ」
「今回は本物でしたけどね。あ、私も同席しますね」
「まあ、いいわ。来てくれないよりマシだから。早速本題にはいるけど、話っていうのは......神威のことよ」
紅羽さんの口から出た言葉に私は驚かなかった。
私と紅羽さんでする話といえばそれぐらいしか思いつかない。
「単刀直入に聞くわ。あなた神威の事好き?」
「はい、好きです」
「......即答か。アイツが背負ってるものを知ってもそれは変わらない?」
紅羽さんの問いに首を縦に振る。
「アイツは喋りたがらないだろうし、代わりに私が教えてあげるわ」
そう言って紅羽さんが語り出したのは五神家、中神家について。
遥か昔から日本という国を守り続けている五つの家が五神家で、転換期には表舞台に現れ、導く存在でもあると言う事、その際に表舞台に立つのは中神家の当主で、中神は五神家のまとめ役も担うという事。
そして......
「アイツはね、五神家の歴史を終わらせようとしているの」
紅羽さんはそう告げた。
「どうして?どうして神威くんはそんなことを?」
「兄様は五神家の存在そのものに疑問を抱いているのです。守ることも導くことも嫌なわけではありません。ただ、五神家だけでは守りきれないと、自分たちが国を導くのはおこがましいことだと考えているのです」
「事実、沖縄防衛戦でも南神家の出番はなかったしね。今の時代、十師族もいる、軍もいる。私たちの存在は最終手段でしかないのよ」
「最終手段にはなるんだ......」
「そりゃそうよ。五神家の当主は戦略級魔法師で対戦略級魔法師なんだから」
「紅羽さん、喋りすぎですよ」
「いいじゃない。どうせ中神に入る事になるんでしょ?」
「中神に入る?どういうこと?」
その言葉の意味がわからず、私は首をかしげる。
「どういうことって......神威と結婚するって意味よ。好きなんでしょ?神威のこと」
神威くんのことが好きなのは事実だけど、そこまで考えたことはなかった。
「で、でも......紅羽さんも神威くんのこと好きなんでしょ?」
「......好きよ。ずっと前から、あんたが神威と出会う前から。けどね、私は南神の次期当主。中神の次期当主である神威とはどう頑張ったって結ばれないのよ」
そういう決まりがあるんだ......。
普通なら喜ぶことなはずなのに、私はなぜか喜べなかった。
「けど、神威くんは五神家を終わらせようとしてるんでしょ?なら、結ばれるチャンスはあるはず」
「......ぷっ、あんた随分とお人好しなのね。そこはライバルがいなくなって喜ぶ所でしょ?」
「喜べないよ。好きな人がいるのに、好きでいちゃいけないなんてそんなの......」
「どっちにしても私に勝ち目はないわ。アイツが好きなのはあんたなんだから。ただ、これだけは言っておく。アイツが好きなら覚悟を決めなさい、何があってもアイツの隣にいる覚悟、アイツと生き抜く覚悟を」
「......うん、わかった」
わかったとは言ったけど、話の半分ぐらいしか理解出来ていなかった。
でも神威くんを助けたい、そばにいたいという想いだけは確かなものになった。