第二十四話 父との話
俺は部屋のベッドで横になっていた。
寝慣れていたはずのなんか馴染まない実家のベッドで。
別に夏のうだるような暑さでバテたわけではない。
今から数時間前、父である中神家現当主から告げられた真実に戸惑い、迷い、考えていた。
中神家の当主となる自分がこれからなすべき事を。
◇
「すまないな、神威。友人からの誘いを断って来たそうじゃないか」
父である現中神黄龍の謝罪から普通じゃない親子としての話し合いは始まった。
「いえ、大丈夫です。それで話と言うのは?」
俺の問いかけに父さんは一呼吸置いて話を始めた。
「私は先日の九校戦の結果を受けて、計画を次の段階へ移行する事を決めた。
故に、その計画......五神家解体を進めるため、私は中神家当主の座をお前に譲ろうと思う」
父から告げられたその話に俺は驚きのあまり立ち上がり、
「待ってください!俺に当主の座を譲るって何言ってるんですか!?まだ早過ぎます!」
と声を荒げてしまった。
「安心なさい。儀式を行うのは来年の三月だ」
「それでも......早すぎます」
「当主をお前に任せるという話はこれでも遅らせた方なんだが......。本当は高校入学と同時にお前を当主にするつもりだった。だが、それではお前への負担が大きいと皆に言われてしまってね。
私ではこれ以上は力不足なのだよ。勝手に決めたのは悪いが、どのみち継ぐつもりだったなら良いだろ?」
確かに父さんの言う通り当主の座をいずれ引き継ぐという事は決まっていた。
それが早まっただけというのもわかる。
早く継がせようとしていたのも知ってる。
父さんは自称最弱の黄龍だから。
「ブランシュの件や無頭龍の件でお前たちに全てを任せたのも継ぐために必要な経験だと思ったからだ」
「だから極力、榊影を使わなかったんですか......」
けど、
「なら計画の方は?俺はそんな話聞いてません!」
父さんが述べた計画を俺は知らなかった。
「それはお前の考えていた計画と同じはずだ。何も問題ないだろう?」
「......知ってたんですか?」
「皆知っているよ。私だけでなく桜華も他の五神家の者もね。
私や先代も通った道だから皆受け入れているのさ」
父さんも爺ちゃん同じ事を考えていた?
「中神だけでなく、他の四家の当主もこの計画には賛成している。
実のところ、十師族の設立もこの計画の一部だった。
しかし、五神家の代わりになるべく存在として作ったのだが、あやつらは力を持ちすぎ、裏の権力も手にした。
だが、十師族も今回の九校戦で知ったはずだ。十師族を圧倒できる存在がいる事を」
「だから本気で挑む事を許可したと?」
「ああ、その通りだ。お前が一条を一対一で圧倒したのは貴重な収穫だった。
だが、問題は四葉だ。
司波達也、彼もまた一条と戦い、勝利した。
元々、最大の敵となりうるのは四葉だと踏んでいた。だから、お前に彼とその妹が入る一高への入学を勧めたのだ」
全部父さんの計画通りだったってわけか......。
「神威、私は五神家の解体は自分の手で行いたかった。史上最弱の中神黄龍ではなく、最後の中神黄龍として歴史に名を残したかったのだよ。
だが、お前に託すことにした。
最後の中神黄龍になること、それがお前がその身に龍を宿す意味だと私は思っている」
「ですが、やはり今の俺では力不足です。全てを守ることなんて......」
九校戦で十師族を圧倒する力を見せた一方で、自分を犠牲にしなければ仲間を守れない事実も、俺が全てを守れるわけじゃないことも理解した。
「なら全て守ろうなんて思わなければ良い」
「......え?」
「まずは自分の手の届く範囲で、自分が守りたいと思う人だけでいいさ。
最初の五神家が守りたかったのは国ではなく、人だったと聞かされたことがある。
ただ彼らは欲深かった。手の届かない人すら守ろうとしたそうだ。
結果、彼らにはそれができた、できてしまった。
一方で私は、欲深いが力がなかった。
だから大切な人すら守れなかった。
けど、お前は大切な人ぐらいは守れるだけの力がある。
そして周りには力を持つ者が多くいる。
全てを守る必要はない。自分の手の届く範囲で、守らなければいけない人だけ守りなさい」
「......はい」
「話は以上だ。三月の儀式をもってお前は中神黄龍となる。
だが、お前は中神神威でもある。
学校では今まで通りの神威で、桜華にとっては良き兄の神威、私にとっても大切な息子の神威だ。それは何も変わらない。
今日はゆっくり休みなさい」
そう言い残して、父さんは部屋を出て行った。