魔法科高校の劣等生-黄龍の異端児-   作:愚者ぺら

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第二十六話 雫との話

中神家当主襲名の話を聞かされて一週間が経った。

今日は再び実家を離れて家に戻る日。

そして、数週間ぶりに雫と会う約束をしていた。

 

 

そう、今日は決戦の日。

桜華から雫の覚悟を聞き、俺も覚悟を決めた。

今日、俺は雫に告白する。

 

今日は俺と雫にとって大事な日だから。

 

 

 

「神威くん、久しぶり」

 

「久しぶり、雫。この間はゴメンな。せっかく海に誘ってもらったのに、俺も桜華もどうしても外せない用事があって」

 

「ううん、大丈夫」

 

「今日はその埋め合わせ的な意味もあって誘ったんだけど、迷惑じゃなかったか?」

 

「むしろ嬉しいよ」

雫はそう言って微笑む。

その笑顔が今までと違うように見えたのは俺が覚悟を決めたからだろう。

 

「とりあえず行こうか。遅れると大変だからな」

そう言って俺は雫と車に乗り、

「お願いします」

と運転手に告げる。

 

 

「そういえば雫は紅羽と桜華からうちのこと聞いたんだよな?」

移動中、俺は唐突にそう切り出した。

 

「......うん」

 

「それを聞いてどう思った?」

 

「正直言って......よくわかんない」

まあ、そうだよな。

それが普通の感想だよな。

 

「......けど、凄いなって思った。神威くんの家が、じゃなくて神威くん自身が。

生まれ持った使命に向き合ってて、でもちゃんと自分の考えを持ってて」

 

「そっか......」

雫がどんな説明を受けたかはわからないけど、悪い印象を受けなかったならよかった。

 

「ねえ、神威くん。これからどこに行くの?」

 

「詳しい場所は言えないけど、海だよ」

雫にはまだ行き先を伝えてなかった。

ちょっとしたサプライズのつもりなのだ。

 

 

それからしばらく車に揺られる。

その間、夏休み中の思い出を雫は嬉しそうに話してくれた。

海に行った話を中心に。

楽しかった思い出だけじゃなくて、雫のお父さんが俺に会えなくて少し残念そうだったこと、達也とほのかがいい感じだったことなんかも話してくれた。

 

 

 

そうして目的地に着くと、俺は

「さあ、降りた降りた」

と雫に言う。

そして、

「じゃあいい時間で迎えを頼むよ、父さん」

と運転手に声をかけて車のドアを閉めた。

 

「あの人、神威くんのお父さんだったの?」

驚いた様子で雫は聞いてきた。

 

「ああ、そうだよ」

と軽く答える。

 

「じゃああの人が中神家の当主なんだ......。全然そんな風に見えなかったけど......」

 

「本人もよく言ってる。もっと威厳が欲しいって。

まあ、もうすぐその必要もなくなるんだけどな」

 

「え?」

 

「それについても後で詳しく話すよ。話しておきたいし」

 

 

日が沈み始めた道を俺は緊張が強くなるのを感じながら歩いた。

そして数分。

夕陽がよく見える岬についた。

 

「ここって......」

雫は気づいたらしい。

それもそうだろう。

雫はここに来たことがあるんだから。

 

「一緒に夕陽を見るって約束してたからな。六年前に」

 

「ちょうど六年前だったもんね」

そう。雫と夕陽を見るはずだった日がちょうど六年前の今日だった。

 

「あの時の約束果たそうと思って」

 

「でも、それだけじゃないんでしょ?」

雫はどうやら本題が別にある事をお見通しらしい。

深く深呼吸をしてから俺は

「さっき、父さんのこと話しただろ?話したいことがあるって」

と話を切り出す。

 

「うん」

 

「俺、三月に中神家の当主になるんだ」

 

「......そっか」

 

「それで気づいたことがあったんだ。

五神家の当主としてこれからこの国を守っていかなきゃないけど、俺には全てを守れる力なんてない。

でも、手の届く範囲で大好きな人を守ることはできるはず。

雫、俺は君を最後まで守りたい。

いや、守っていく。だから、隣に欲しい」

 

「それって......告白ってことでいいの?」

 

「ああ」

 

「私でいいの?」

 

「雫がいいんだ」

 

「紅羽さんが神威くんのこと好きだとしても?」

 

「......はい?」

覚悟を決めて臨んだ告白で予想外の言葉が雫の口から聞こえた。

紅羽が俺のことを好き?

そんなことありえるのか?

 

「いや、あいつが俺のこと好きだとして、それはライクであってラブではないと思うんだけど......」

 

「じゃあ、もしラブだとしたら?それでも私でいいの?」

そう問われても俺の気持ちに変わりはなかった。

 

「......ああ、雫がいい」

気を取り直してそう答える。

 

「そっか、わかった。

神威くん......よろしくお願いします」

そう言って雫は頭を下げた。

告白成功ってことだよな?

よろしくお願いしますってそういうことだよな?

 

「はあ〜、緊張した〜」

 

「神威くんでも緊張することあるんだ......」

 

「そりゃああるよ。俺だって人間なんだから」

 

「そうだよね。どんなに凄い家の生まれでも神威くんは普通の人間だもんね」

普通......か。

 

「普通とは言いがたいけどね」

 

「え?」

 

「俺は中神家の守護神である黄龍を宿しているんだ。だから傷の治りが異様に早いし、魔法を無効化する力も持っている。あとは金縛りとか飛行魔法とかも使える。

モノリスコードでの怪我が治ったのも九校戦行きのバスでの一件で魔法式をかき消したのもそれのおかげだよ」

 

「あれも神威くんの仕業だったんだ......。でも、それってBS魔法の一種じゃないの?」

 

「そうなんだけど、五神家の歴史の中でもこんなに多くのBS魔法を持って生まれた人はいないらしいんだよ。一人の人間に扱える範疇を超えてるんだってさ。飛行魔法は五神家なら大体使えるけど、それだけの人も多いし、父さんは飛行魔法すら持ってないし。

だから普通じゃなくて、異端児って呼ばれたりもしてる」

 

「でも、魔法師はみんな普通じゃないよ?魔法が使えること自体特別だもん」

雫の言葉にハッとさせられる。

確かに雫の言う通り、魔法を使えることは特別なことだ。

魔法が当たり前の社会でそれを忘れてはいけない。

 

 

「あ、神威くん見て。夕陽綺麗だよ」

雫に言われて海を見る。

海に沈みゆく夕陽に俺は願いを込めた。

 

『ずっと雫を守れますように』

それは願いであり、決意であった。


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