この作品ではなんだかんだでゴーグル使ってる設定です。
地底魔城、謁見の間……そこでは玉座に座り鎧の魔剣を傍らに携えたヒュンケルが、モルグからの報告を聞いていた。ちなみに俺はヒュンケルの隣に休めの姿勢で立っている。
「……ご命令通り、レオナ姫はこの地底魔城でも特に人目のつかぬ場所に幽閉しております……そして、表向きには我らが処刑した、と流布致しました」
「……ご苦労、下がっていい」
「は、では失礼いたします」
恭しく一礼した後、謁見室から退出するモルグ。それにしても、いくら好条件が揃っていたとは言え、レオナ姫をあっさり攫ってくるとは……モルグも中々隅に置けないな。
「さてカロン、お前も報告を頼む」
「ああ、俺もモルグが働いている間遊んでいたわけじゃない……勇者ダイとレオナ姫に深い親交があったことは掴んでるし、数日前、ロモスの大型船がパプニカへの航路を取っていることも確認済みだ……そして港町付近にはガイコツ兵を見張りにつかせた」
船による航海というのは、どうしても天候に左右される。ロモスからパプニカへ向けて出発した、勇者ダイ一行が乗っていると思しき船の出港日は調べがついたのだが……具体的にいつ到着するか、と聞かれると分からないのが実情だ。
「航海が順調に進んでいると仮定した場合、今日にでも着くだろうな」
「報告ご苦労……ならば、準備を整えておくか」
ヒュンケルは懐から首飾り……アバンの印を取り出して装備する。
「ん?それ着けてくのか?」
「これがあれば、アバンの弟子共の方から寄ってくるだろうからな」
ヒュンケルは鎧の魔剣を引っ掴み、マントを翻しながら立ち上がる。
「最近は天気の荒れもなかった……ならば航海は順調だと仮定して考えるべきだろう」
「……今日、小さき勇者一行と戦うってわけか」
「少しは楽しめる
「あの獣王クロコダインを倒した勇者一行様だろ?お眼鏡には適うんじゃないか?
「どうだか、な……行くぞ」
そう言うとヒュンケルは、ずんずんと進んで行った。俺は慌ててその辺に立て掛けてあった『今日の上着』を羽織り、ヒュンケルについて行った。
ヒュンケルは一瞬、チラリと横に並んだ俺の『上着』を見て微妙そうな顔をしたが、すぐにいつもの澄まし顔に戻って歩みを進めた。
しばらく歩いていって到着したのは、瓦礫が積み上げられた港町の外れである。俺とヒュンケルはその瓦礫の天辺に飛び乗ると、そこから見える海を見回した。
「なぁヒュンケル、どうせ奴らが来たらガイコツ兵共から連絡くるんだから、来るか定かじゃない今ここで待機するのはどうよ……って聞くのは野暮か」
周囲を見回している間の暇つぶし……というわけではないが、分かりきっていることを質問してしまった。
「ああ、俺は戦いを望んでいる……アバンをこの手で討てなかった分、その弟子を一刻も早く討ち取りたいんだ」
「そうだよな……それに、ちんたらしてるとハドラーやフレイザード辺りが横から掻っ攫いそうだしな」
「ふ、そういうことだ……それに、待ちぼうけを食う心配はなくなった、見ろ」
ヒュンケルが指差した水平線の先には、立派な船が一隻浮かんでいた。その船は着実にパプニカの港へと近づいてくる。
「あの船か……」
俺とヒュンケルはパプニカの瓦礫の山から、その船を眺めていた。おそらくはあの船が、勇者ダイ一行の乗っている船であろう。
「見張りのガイコツ共では相手にならんだろうな……カロン、行くぞ」
「俺は後から行くよ、アバンの弟子同士の運命の出会いに茶々を入れるほど野暮じゃないさ」
「……この際聞いておこう……お前、その格好は何だ?」
その時になって、ヒュンケルが今さら俺の『上着』に突っ込む。俺は普段は戦士風の軽装の上に、ヒュンケルとお揃い(支給品だから同じ型なのは当然だが)のマントを羽織っている。だが今の俺は普段の軽装の上から、フード付きの黒いローブを羽織っていた。ちなみに、このフードを深く被れば顔がすっぽりと隠れるタイプだ。
「俺は上司の顔は立てるタイプだ。同じ人間にして同じアバンの使徒……そのお前が魔王軍にいるって衝撃展開に、俺みたいな見た目だけ人間っぽいのがいたら邪魔だろ?」
そう、だから俺はフードで顔を隠してダイ一行の前に立つことにしたのだ。適当なタイミングで乱入して、露払いとして勇者以外の相手でもすればいいだろう。その「適当なタイミング」が来る前にヒュンケルが全員倒す可能性もあるが。
「……相変わらず妙なところに気を遣う奴だな」
そんな俺のできる気遣いに苦笑するヒュンケル。まるで出来の悪い弟に呆れているような表情だ。まったく、失礼な奴だな。確かに年齢的にはヒュンケルの方が上だが……こいつちょくちょく兄貴ぶるよな。
――――まぁ、ヒュンケルに兄貴ぶられるのは悪い気分ではないが。
と、そうこうしているうちに、船はパプニカの港に到着する。そしてすぐさま、一人の小柄な少年が飛び出して来た。少し遅れて、少年と少女が一人づつ船から降りてきて、最初の小柄な少年を追う。距離がある故に顔は見えなかったが……遠目に確認できた装備故に間違いない。あの一行こそが勇者ダイのパーティーだ。
「……あいつらか……カロン、お前の妙な気遣いは嫌いではないが、あまり遅れるなよ」
そう言って瓦礫の山から飛び降りたヒュンケルは、勇者パーティーの方向へ向かっていく。一方、勇者パーティーはというと……勇者ダイと思しき小柄な少年が、パプニカの崩壊した街並みを見て、ガックリと膝をついていた。
俺には彼が何を考えているのか分からないが……大方、救えなかった後悔だろう。正直、ヒュンケルの取った戦略のおかげで、町の惨状の割には死人は少ないから、あんなに落ち込むことないと思うんだけど……まぁそんなことあの勇者ダイには知りえないことだから、しょうがないか。
そして、パプニカの港町を見張らせていたガイコツ兵士たちが、勇者ダイ一行と戦闘を開始する。そろそろ俺も行かなきゃならないか。
俺は瓦礫の山から飛び降りると、港へ向けて駆ける。もちろん、ローブのフードを深く被ることを忘れない。今日の主役はヒュンケルだ。だから今日は目立たないよう、顔を隠して行く。
……こんな怪しげな格好してたらそれはそれで逆に目立ちそうだが、まぁ『人間が魔王軍にいる』インパクトを『人間にそっくりの魔物がいる』衝撃で潰さないようにすることが目的だからいいか。
★ ★ ★
「俺の名を知りたがっていたな……教えてやろう……俺は、ヒュンケル……!魔王軍六団長の一人……不死騎団長ヒュンケルだ!」
勇者ダイは驚愕していた。たった3日間だけとはいえ、アバンの素晴らしい教育を受けたダイには、同じアバンの弟子が、魔王軍にいることが信じられなかった。
「そんな……先生の弟子が……軍団長だなんて……!」
「やっぱりさっきの大地斬は手加減してやがったんだな……ちっくしょうめーー!」
ダイが驚いている横では、魔法使いポップが魔法の杖でガイコツ兵士の頭部を強打する。倒れ伏すガイコツ兵士……だが、そのガイコツ兵士は頭部が欠けながらも、何事もなかったかのように立ち上がる。
「げぇ!?」
「フ、別に手加減などしていない……こいつらは死を超越し蘇った骸の兵士!コナゴナにでも砕かん限りは前進をやめないのだ」
不死の兵士たちはじりじりと、ダイたちににじり寄っていく。
「ピピーッ!」
「待ってヒュンケル!あなた知ってるの?先生は……アバン先生は殺されたのよ魔王軍に!あなたは……それでも魔王軍に味方するの!?」
ゴールデンメタルスライムのゴメちゃんが飛び回り、僧侶戦士マァムはヒュンケルを止めようとする。
「ああ知っているとも、ハドラーに殺されたんだってな……がっくり来たよ」
その言葉を聞いて、僅かに喜色を浮かべるマァム。だが……
「まさか一度倒した相手にやられちまうとはな……弟子作りなんぞにうつつを抜かし自らの修行を怠った証拠だ。ククク、俺自身の手で引導を渡してやろうと思っていたのに、全く口惜しいわ」
ヒュンケルはそんな彼女の喜びを一瞬で踏み躙る。
「腹いせに弟子共に始末を申し出てみれば、このような小僧共とは、拍子抜けもいいところだ……ガイコツたちの遊び相手がちょうどよかろう」
そう言ってヒュンケルは手を振り上げて、ガイコツ兵たちに指示を出そうとする。ダイは剣を構え、ポップは魔法の準備をし、マァムは額のゴーグルをかけて魔弾銃を構える。
今まさに戦線の火蓋が切って落とされようとしたその時……!
「おいおい、冷静になれよヒュンケル……クロコダインを倒した奴らに、ガイコツ兵の相手をさせるのは役不足だろ」
黒いフードで顔を隠した怪しげな人物が、その場に新しく現れた。
「こ、今度はなんだぁ!?」
ポップがおっかなびっくり叫ぶ。
「ヒュンケル、ガイコツ共を下がらせろ……無駄に部下を消耗させるような人間じゃないだろ、お前は?」
「ふん……副団長殿がそういうなら、そうしよう」
ヒュンケルが手を上げると、命令を受けたガイコツ兵士たちはどこかへと去っていく。
「副団長だって……!?」
「そうだ、俺の名はカロン……不死騎団副団長、カロンだ!……と言っても今日はヒュンケルの単なる付き添いだ、俺は覚えてくれなくていいぜ」
ダイの剣を握る手に、思わず汗が滲む。副団長……おそらくは団長のヒュンケルと同等か、それに近い実力……少なくとも、ガイコツたちとは比べ物にならない力を持っているのだろう。
団長と副団長を同時に相手にする……苦戦は免れないだろうが、ダイは逃げるつもりはない。彼にも譲れないものがある。
「先生を……殺すつもりだっただと……!?」
ダイにとってアバンは、自分をずっと憧れていた勇者に近づけてくれた存在……そして命を落としてまで、自分をハドラーから守ってくれた存在……そんな彼を殺そうとしていたと聞いて、ダイは憤っている。
「たとえ誰でもそんなことを言うやつは許さないぞ!取り消せ!」
「ほう、面白い……取り消せない、と言ったら、どうするつもりだ?」
「こうだ!」
互いに剣を構え、ぶつかり合うダイとヒュンケル。ポップとマァムも本当ならばダイを援護したいのだが……
「じゃあ、お前たちの相手は俺だな、魔法使い君に……戦士ちゃん、か?」
黒いローブに同色のフードで顔を隠した、もう一人の強敵、カロンの相手をしなければならない。
「へ、こいつは僧侶戦士……僧侶の魔法と戦士のバカ力を合わせ持ったハイブリッドなんだぜ!」
「へぇ、そいつは凄い……純正な僧侶だったら俺の最近の好みだったかもな」
「こ、好み!?ふ、ふざけた野郎だぜ……!」
「ポップ、ふざけてないで構えて!メラミーー!」
ポップは呪文で、マァムは魔弾銃で炎系呪文を放つ。
それに対しカロンは、豪快に剣を振るって魔法を打ち消し、そのまま肉薄してポップを殴り飛ばす。
「ぐぁああああ!」
「ぽ、ポップ!」
「魔法使いは体が弱いからな、最初に潰させてもらった」
「だ、誰が誰を潰したってぇ……?ギラーー!」
だが、ポップはつい最近、あの獣王クロコダインの攻撃を生身で食らった身だ。それに比べたら、カロンの素手の攻撃は軽い。
殴り飛ばされて地面に転がったものの、意識を失うまでには至らなかったポップは、覚えたての閃熱系呪文を放つ。
「っと……驚いたな、魔法使いが今のを耐えるか……」
だが、不死であるカロンには閃熱呪文は効かなかった。例えばこれが極大閃熱呪文ベギラゴンであったら、その身体も無事ではすまなかっただろうが……ベギラマですらないただのギラでは、有効打足りえなかった。
「え……!?」
だが、彼の纏っていたローブは違う。灼熱系呪文を受けたローブは焼け落ち、その下の戦士風の軽装と素顔が晒される。
「……似て、る……」
カロンの顔を見て、一瞬固まるマァム。そして、カロンはそんな余りにも明確な隙を見逃さなかった。
「あぅ!?」
カロンは左足の蹴りあげで、マァムの持っていた魔弾銃を蹴り飛ばす。あらぬ方向へ飛んでいく魔弾銃。これでマァムは攻撃手段を失った。
そして、カロンの持っている剣が煌めく。
「っ!」
マァムは咄嗟に仰け反って斬撃を避けるも、ハラリ、と彼女の髪が舞い……そして、ゴーグルの紐が切れてずり落ち、素顔を晒すことになった。このままでは斬られると思った彼女は素早くバク転し、カロンから距離を取る。
先ほどは思わず動きを止めてしまったが、何とかこの『あの人』に似てる男を撃破して、ダイの援護に行かなければ……そう思ってキッとした目つきでカロンを見据えたマァム。だが、カロンはゴーグルの飛ばされたマァムの素顔を見て、驚愕したような表情を浮かべていた。
「レ……イ、ラ……?」