リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。
発目は考えた。己が緑谷を守る為には何をするべきか。
緑谷はヒーローを目指す事を辞めはしないだろう。それは彼女も理解している。
ならばどうするべきか?
簡単だ。
犯罪者を全て殺戮すれば良いのだ。
「明! やめろこの馬鹿!」
「ごめんなさいデステゴロ。でも私もう決めたので! 出久さんがヒーローを続けるなら、私がこの世から全ての犯罪を消すって!」
発目製スーパーコンピューターと大量の機動兵器による圧倒的戦力での恒久的平和実現。
「この世全ての人間の脳波をスキャンし犯罪係数毎に危険度のランク分け、一定ランクを超えた人間は即時抹殺!」
「なんか聞いたことあるぞその設定!? あとそれ真っ先にお前死ぬだろ!」
「出久さんが生き残るならそれでいいので!」
「覚悟がやーばい!!」
デステゴロのツッコミも虚しく、発目はスーパーコンピュータのボタンを押す。
「スーパー発目システム! 起動ォ!!」
「やめろおおおおおおお!!!!!」
────その日、世界秩序は崩壊した。
崩壊し、再生した。
ただ一つの犯罪すら存在しない……真の理想世界へと────
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!! 嘘だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
唐突に力の限り叫び倒した緑谷は汗だくで寝床から飛び上がり、焦り過ぎて足を引っ掛け治ったばかりの顔面を床に強打した。
『うるせぇ朝から叫んでんじゃねえ殺すぞ!!!』
丁度通りかかっていたのか、ドアを殴る音と共に爆豪の怒鳴り声が聞こえたところで正気を取り戻した緑谷は、強打した顔面を押さえながらゴロンと天井に身体を向けた。
「ゆ、夢か……」
雄英高校襲撃事件より、二日が経過していた。
本日から、雄英高校登校再開である。
「…………良かったぁぁ……夢で…………」
それはつまり、発目が折寺に帰ってから二日が経っているという事でもある。
緑谷は床に転がったまま、自分と一緒に転がり落ちていた携帯を操作し耳に当てる。
一コール、二コール。
『もしもーし』
「あ、明ちゃん。起きてた?」
『起きてましたよ〜』
「何もしてないよね(ガチ)」
『何もしてませんよ〜(適当)』
発目は未だ、帰らない。
「うう……お腹痛い」
緑谷にはこの二日間で既に胃潰瘍の初期症状が現れ始めていた。
「雄英体育祭が迫っている」
『うおおっしゃぁぁぁぁ!!!!』
相澤の言葉に一瞬でブチ上がる教室。
ギロリとひと睨みでその盛り上がり自体は収まったものの、その後も相澤へこの間事件が起こったばかりなのにそんな事をするのかといった批判的な言葉が飛ぶが、相澤は「敢えて時期を変えず開催する事で雄英の犯罪者に対する毅然とした対応を見せる」と何とも分かるような分からないような理由を述べていた。
それに対する生徒の反応は様々で、「犯罪によって雄英高校が運営体制を変えるという前例を作らない」という点に納得を見せるものもいれば、犯罪者がまた来るかもしれない状況で大規模なイベントを行う事に眉をしかめる者も居た。
どちらの反応も決して間違いではない。彼らの考えることを放棄しないあり方に心の中で満足しながら、相澤は警備体制の大幅強化や、何よりここが
「何度も言ってるだろ、時間は有限。なんならこの一回目の体育祭でプロに見込まれサイドキック入りなんて例だってある……脅すようで悪いと思うが、日本全国のヒーローに活躍を存分に見てもらえるチャンスなんて君らの人生全体で見ても間違いなくこの三回っきりしかないだろう。たった一回だって無駄にするんじゃないぞ」
その言葉に目の色を変える生徒達。
しかしてその中で唯一欠片たりとも盛り上がらず机に突っ伏して体力を回復している緑谷に後ろの峰田が声を掛けてくる。
「中止勢はオイラだけか! ってかおーい、緑谷? やっぱまだ体調悪いか? お前大怪我してたんだしな」
「……? え、ごめん何? あ、大丈夫だよビオフェルミンは胃薬と一緒に飲んで良いやつだから」
「いや何いってんのお前!? 雄英体育祭の話だよ!」
ツッコミを入れつつも話の流れを説明すると、胃を押さえている緑谷は笑いながら自身も開催勢に回った。
「いやー。まだギリギリどうにか延期はできても中止は無理だよ、体育祭にどんだけの予算掛かってるか分からない峰田くんじゃないでしょ?」
「大人は何時だってそうだ!!」
「古くは高校野球から、日本人は
珍しく生徒の会話に乗っかってくる相澤は、そのまま緑谷に顔を向ける。
「それとな、緑谷と爆豪は昼休みに職員室に来い」
「明ちゃんに電話した後で良いですか」
「飯とかも食った後で良いから。おう、待たせたなマイク」
「お待ちどうだぜイレイザー! オラリスナー! 今日も英語の授業始めるぜ! エビバデスタンダッ! 盛り上がれー!」
「起立! 礼!」
今日も、一日が始まる。
「では今日の授業はこれまで! シーユアゲッ!!」
「ありがとうございましたー!」
授業が終われば、普段ならば他の生徒達と授業の内容について会話をしたりもするのだが、今の緑谷にそんな余裕は無い。
「あ、緑谷ぁ。ここの問二なんだけどさぁ」
「ごめん峰田くん! 後で聞く!」
峰田のカラミをスルーして携帯を片手に飛び出していく緑谷。
その尋常ならざる様子に近くに居た瀬呂が寄ってくる。
「……何あいつ。どしたん?」
「さぁ……勃ったんじゃね?」
下劣過ぎる峰田の想像に、しかし得心がいったとでも言いたげに瀬呂はぽんッと手を打ち合わせる。
「あー、なーる……発目チャンが居ねえから溜まってんのか」
「あっそういう!? 嘘だろ!? 羨ましすぎんだろあの野郎!!! って事はこれから多分便所でテレホンセッ」
「男子うるさい!」
芦戸が二人にピッピッと酸を二人に飛ばして叫び声をあげさせる中、八百万がコソッと心操に尋ねる。
「尋常ではない慌て方でしたが……実際何かあったのですか?」
「え? あー。いや、発目に電話してるのは事実だよ? まあ色気のある電話じゃねーだろうけど」
ポリポリと頬を掻いた心操は、「明はほっとくと何するか分かんねーから」と笑う。
「アイツは何やかんや十年以上明と一時たりとも離れずに暮らしてきたんだけどさ。その間に見てんだよな、あいつがどんだけ
「あぁ? あぁ」
特に突っ込む事もなかったからか、珍しく騒ぐ事も爆発する事もなく相槌を打った爆豪に肩を竦め、「つまり怖いんだよ、アイツ放っとくのが」と締めくくった。
「ふーん……つまりイチャイチャはしてへんの?」
「いやイチャイチャはするだろ」
「するんや……」
横で話を聞いていた麗日の言葉に即答する心操。
イチャイチャするのは確定である。
所変わって、階段踊り場。
「どう? もう朝ご飯食べた?」
『食べました!』
「何食べたの?」
『パンです!』
「そっかあ。ちゃんと食べられて偉いね」
『ええ! 出久さんとの約束ですから!』
「できたらもうちょっと食べて欲しいな。僕心配になっちゃうからさ」
『えー』
「ね、お願いだからさ」
『……もおー、出久さんの頼みならしょうがないですねえ。ウフフ』
「ありがと。明ちゃんは優しいね」
発目がパンと言った以上本当にパン一個とかだろうなとか朝ご飯とか言ってるけど食べたの午前二時とかだろうなとか内心ドンピシャで正解を察しながらも柔らかな声音で発目を褒める緑谷と、褒めて欲し気な声音を隠さない発目。
「コッチに戻ってきたらうんと褒めてあげなきゃいけないね」
『えー? 何してもらいましょうかねぇ』
「お手柔らかにね」
『うーん、大概のことは普段からしてもらえますからねえ。どうせなら普段は拒否されるような事を……』
「聞いてる?」
『普段は何やかんやお互いの事やってますし、偶には誰にも邪魔されずに二人っきりで一日中過ごすとか良いですねえ』
「あ、それ良い! というか僕もそれやりたいから他のにしなよ」
『ええー? 何やってもらいましょうかねえ』
「お手柔らかにね」
『甘々なお願いは幾らでも通りそうですからねぇ。こうなればとびきり危険度の高いやつを……』
「聞いてる?」
会えない時間が二人の仲を深めるとでも言うのか。普段よりも明らかに糖度が高いやりとりが二人の間で交わされる。
「僕も怪我は完治させてもらったし、母さんも明日にはそっちに帰るって言ってるからちゃんとご飯は食べてね」
『もう! 出久さんったら心配し過ぎですよう』
「あはは……ごめんごめん」
『あ、そろそろ休み時間終わりじゃないですか?』
「あ、本当だ」
『ふふ……出久さん、授業頑張ってくださいね』
「うん、明ちゃんも作業は身体に負担が掛からない程度にね」
じゃあね、気を付けてね。を何度か繰り返し、最後には『はいはい、はーい』とやりとりに飽きた発目が通話を切る。
発目の声が聞こえなくなった携帯の画面を暫くの間見つめていた緑谷は、キリリと痛む胃を押さえてメッセージアプリを開いた。
「声に全然元気が無かったな……ああ畜生、博士は明ちゃんと完全同族だから生活面では全く頼りになんないし、滅茶苦茶申し訳無いけどデステゴロにちょっとお願いしよう……」
発目明、信用ゼロである。
「どうせ放っといたら餌抜き不眠でテンション狂って変な自立稼働警備マシーンとか作って街に放流して大惨事引き起こすだろうし、そこから対処してもらうよりはマシだと思って貰って……あぁお腹痛い……」
廊下に予鈴が響く中、緑谷は携帯を操作しながら胃を押さえた。
「『どうせ放っといたら餌抜き不眠でテンション狂って変な自立稼働警備マシーンとか作って大惨事引き起こすだろうし……』とかどうせ思ってるんですよ出久さんは! 全く私の事なんだと思ってるのか! 失礼しちゃいますよ! ねえデステゴロもそう思いますよね!?」
「いや妥当な懸念過ぎるだろ」
緑谷からの個人通報の後。
急行したデステゴロにより研究所から引き摺り出されて連れて来られた折寺市内のコンビニの駐車場の隅っこで、アスファルトにドカッと座り込んでホットスナックのフランクフルトとチキン二つとカップラーメンと海苔弁当とたまごサンドとパックの緑茶(一リットル)とデザートのケーキとアイスクリームを貪る発目と、ウンコ座りでコーヒー片手に煙草を吸いながら怪訝な表情でそれを見守るデステゴロ。
なお食事は全て発目が何か言う前に押し付けられた彼の奢り(コーヒー含め税込二九四九円也)である。
因みに彼はヒーロー服で美人女子高生の家にお邪魔するマスメディア的危険性を鑑み、午前のパトロールが済んだ後事務所でわざわざ私服に着替えて発目に会いに行き、腹が減りすぎてまともに歩行が出来ていない様子を見て作業机にかじりつこうとする彼女を引っ剥がしここまで引き摺ってきたのだ。
いやはや、全くもってご苦労さんである。
「もう! デステゴロまでそんな事言う!」
「言うに決まってんだろアホか。つかなんで入学一週間経ってねえのに出戻ってんだよ。出久と喧嘩でもしたか? なんつってガハハ」
「あ、喧嘩はしましたよ殴り合いのやつ*1」
「ブッッッフォ!!!! はぁ!? なんで!!!!?」
あまりの驚愕に吸いかけの煙草を吹っ飛ばしてしまった彼は、イソイソと立ち上がってそれを回収するがその視線はチラチラと発目と落ちている煙草を往復しており、その内心の当惑ぶりをよく示していた。
「いやそれがですね〜?」
「おう」
ようやっと拾ったまだ長い煙草を惜しみながら携帯灰皿の蓋を開け、火を消そうとするデステゴロ。
「出久さんヴィランに殺されかけましてね〜」
「あっっっづぢぃっ!!!」
彼は自分の親指で煙草の火を消した。
店内の水道で火傷を冷やしてから、デステゴロはすっかりと大量の飯を片付けてしまった発目に小声で囁く。
「……それ、例のニュースになってるやつか」
「そですよー。なんかオールマイト級のトンデモヴィランが入ってきて、出久さんが自己犠牲精神全開で教師含めみんな守っちゃったんですよう」
「あ〜〜〜〜な〜〜〜〜?」
四月の陽気に大分柔らかくなってしまったチョコレートアイスクリームを容器のフチに唇を当てて掻き込むように飲んでいく少女に二本目の煙草を咥えながら何とも言えない相槌を打つデステゴロ。
「それで死にかけてんだから馬鹿ですよ本当に」
「ま〜〜〜〜な〜〜〜〜」
やりかねない。というかやる。たとえそれで自身が死んでも。
緑谷出久はそういう男だ。
ツィイー、とフィルターを煙が通る音を聞き、煙草を離して煙を吹き出す。
「まぁ、そりゃ怒るか」
「いやまあそれはもう済んだことなんで良いんですけど」
「良いんかいっ!! じゃあ何で帰ってきたんだよお前!?」
「え、出久さんが弱いから?」
「おっ……まっ……!?」
お前言い過ぎだぞ、或いはお前正直過ぎるぞ。
どちらも口から出てこなかったデステゴロに、すべてのゴミをレジ袋に纏めた発目はそれを弄びながら話を続ける。
「そりゃあ、相手がオールマイト倒すために用意したヴィランですから。相対した出久さんがぼろぼろになるのはそうでしょうし、あの決着も出久さんありきだとは思いますよ……けど、あの場に居たのが勝己さんなら……きっと死にかけてまでは無かったでしょうね」
「……個性、か」
「ええ。体術では出久さんは勝己さんよりも上です。そして戦闘センスは勝己さんが上。そして個性という点においては出久さんは勝己さんに決して負けてない。つまりトータルで出久さんは勝己さんと互角ないし若干程度レベル下……私はそう思ってましたよ。思い上がりでしたけどね」
「私は出久さんの個性です。
「……体育祭か」
「ええ。これからほんの一カ月で、私は出久さんの実力を跳ね上げる……その為なら、最悪私が出席日数不足で退学になったって構わないんです」
「明……お前……」
その静かな言葉の中にある強い覚悟に、デステゴロは感じるものがあったのか、ただ名前をつぶやいた。
「ってか別に私は中卒でも、将来縁故就職で会社継げるんで!」
「明……お前……!」
そして途端にぺろりと舌を出していつもの調子に戻った彼女に、デステゴロは勝ち組少女*2に対する若干の恨みの籠もった声で名前を呟いた。
勉強を頑張りいい大学を出て、上京して一流企業でバリバリ働いても、高卒で地元の親の会社継いだ同級生に年収で負ける。そんな悲しい社会の現実の一種がここにもあった。
尚、関係ない事であるが今この瞬間発目が学校を辞めてシュタインの会社に入社した場合、シュタイン自身大して金に頓着するタチでも無いし義娘には甘い男なので一介のしょっぱい中堅ヒーローでしか無いデステゴロよりも年収が上となる。マジで関係ない事ではあるが。
「…………じゃあ、ご飯ご馳走様でした。ではまた」
「あ、待て」
ゴミの入ったレジ袋を持って立ち上がった彼女の手を、デステゴロが咄嗟に抑える。
抑えられる意味が分からず、発目は軽く首を傾げた。
「……どうしました?」
「ゴミ袋は俺が捨てとく」
「え、いや店内に入って捨てるだけですよ?」
「いやだって……」
怪訝そうにする発目を見下ろして数瞬悩んだ後、若干目を逸らしながらも彼はありのままを伝えた。
「……だってお前、臭いもん」
その言葉を咀嚼しながら、自分の尻を手で払って付いていた砂を落とす発目。
彼女のクソ汚い作業ズボンからは、明らかに砂ではない黒い煙が舞い上がった。
「そんな事ないですよ?」
「お前、臭すぎ。店内、迷惑。オーケー?」
「ノットオーケー」
尻を払った腕をそのまま鼻に持っていってクンカクンカと匂いを嗅いだ発目は、首を傾げて眉を寄せた。
「……いや、別に普通でしょうこのくらい」
「いやアホか! 普通に臭いわ! あっまて手ェ近づけんな! あーほら臭! あっ臭ぁッ!」
これがデステゴロが彼女をレストランなどに連れて行かなかった理由。
今の発目は皮脂臭と汗臭と焼鉄臭とオイル臭と薬品臭が混ざった何ともまあ凄まじい匂いを発していた。
具体的に言うならば油性マジックの匂いと油粘土の匂いとスルメイカの匂いとちゃんと火がつく前の焚き火の匂いと汗かいた時の脇の臭いを全部足して割らなかったような匂いとなる。激臭である。
暫くの間押して引いてを繰り返す……事もなく、緑谷の居ない現在自身の体臭など全くもってどうでも良いし自分で出したゴミは自分で捨てるといった高尚な精神も無い彼女はアッサリとゴミ袋から手を離しコンビニを後にする。
「では、ご馳走様でした。出久さんにも後で連絡しておきます」
「おう! 風呂入れよ歯ァ磨けよ服着替えろよ!」
「体育祭楽しみにしといて下さいね〜!!!」
「おい!!」
衣服の至る所から正体不明な謎の黒い煙を撒き散らしながら栄養補給で元気溌剌になった発目が帰っていく。
そんな彼女を見送ってからゴミを捨てた彼は、ついでに一箱煙草を買ってもう一服した。
「……フゥ」
まだ少し肌寒い春空に、紫煙が立ち上る。
「……まさかあんだけの量全部食うとは……」
デステゴロは普通に目につくものを適当に買ってその中から発目が好きなものを食い、残りを自分の昼飯にしようと考えていたのだが、彼女はレジ袋いっぱいの食料を全て残さず平らげてしまっていた。
若えなぁ……とジジ臭い感想を心の中に留め、煙にして吐き出す作業を何度か。
そんな所に何やら上機嫌でルンルンパトロールをしている岳山が現れた。
「あれ、デステゴロ今日は非番ですか」
「お? おー岳山。パトロールか?」
「えーまあ。あ、そーだ! 私雄英高校の職場体験選ばれましたよ〜!」
「あーなー。まあ欲しい子選べるスカウトと違ってそっちを進んでやりたがる奴あんまいねーからなあ。現役とは実力的にも差があるし、やっぱり怪我とかさせると面倒だしよ」
「ええ!? 将来の平和の為に後進に道を伝える! これこそヒーロー活動の華ってもんでしょー!」
「お前それお前がウチに来た時俺が言ったことそんままだろ」
「んなことありませーんー。私のオリジナル名言ですうー!!」
「面の皮が厚いなチキショー」
キャラキャラと笑い声を響かせる後輩から顔を背けて煙を吐き、携帯灰皿に煙草を押し付ける。
「そう言えば私の後任雇わないんですか?」
「あー。アイツラが雄英いる間はどーせ今日みたいに何やかんや巻き込まれるだろうし、新しいサイドキックは三年後にまた雇うわ」
「へー、もしかして今日もなんかあったんです?」
「オォ聞いてけよマジで。さっき九時過ぎくらいに出久のやつから連絡来てなぁ」
うんざりした様子のデステゴロの語り口に、時折岳山の笑い声が交じる。
いつも通りの、折寺市街であった。
それから時は少々進み、昼時の雄英高校職員室。
胃腸の消化時間と己の消費カロリーを計算し時間を管理した上で適度にゼリーを吸引しサプリを摂取している相澤にとって昼飯という概念は存在しない。
そんな彼にとって昼食の時間は休息の時間であるのだが、現在は仮眠の時間を返上して眼の前に居る二人の学生に眼を向けていた。
「昼休みに来てもらって悪いな」
「いえ、大丈夫です」
「要件はァ」
緑谷出久と、爆豪勝己。
クラスの問題児トップツーの二人(緑谷が一位)に相澤は「分かってるだろうが」と前置きをして話す。
「勿論、体育祭関係だ」
「はい」
「……」
大人しく二人直立して話を聞く姿に、「いつもこうなら良いんだが」と内心愚痴りつつも話を進める。
「体育祭開催時の選手宣誓。アレは例年一般入試一位の奴にやってもらうんだが、今年の一位はお前ら二人だろう? 流石に二人が宣誓ってのも締まらんからな。どっちかが譲ってもらう形にはなるんだが……」
「俺に決まってんだろォが!!」
真面目に話を聞く時間は終わりだとばかりにブチ上がる爆豪に眉をしかめるが、話は終わりだと踵を返す彼に、ほんの少しの安堵の気分もある。話が三分で終われば、その分三分多く眠れるのだから。
(ま、そういう訳にもいかんがな)
心の中でため息を吐いた彼は、まだ目の前にいる緑谷の顔を見る。
その視線はほんの少し揺れていたが、一度ぎゅっと瞼を閉じて、次に開いたそこには硬い決意があった。
(意見を促してやる必要は、無さそうだな)
それを見た相澤は、表情には出さないが安心したように心の中で笑った。
「かっちゃん」
「アん?」
緑谷は自分の足元を見つめ、しかし毅然とした声で爆豪に伝える。
立ち止まった爆豪に背を向けながら、それでもはっきりとした口調で宣言する。
「……今回の選手宣誓、僕に譲ってくれないかな」
彼と宣誓の座を奪い合う宣言を。
「…………あ゛ぁ!? 譲るわけねえだろボケが!」
その宣言を聞いて一秒、瞬間的にブチ上がってガッ、と緑谷の肩を掴み、自分に向き直らせる爆豪。
緑谷の真っ直ぐな視線と、爆豪の苛立った視線が真正面からかち合う。
「…………分かってるよ。無個性の僕が入試一位として壇上に立てば、学年全体が侮られるかもしれないってことも、僕が中傷を受ける可能性だってあることも」
「誰がテメェの心配なんざするかボゲェ!」
「だけど」
「聞けやゴラ!」
更に詰めようとする爆豪の肩に手を置き、緑谷は覚悟を決めた瞳で相手を見つめる。
「かっちゃん……この件、僕は絶対に譲らない。だから……そっちが譲ってくれないかな」
冷静な、どこまでも冷静な緑谷の視線が爆豪のそれとぶつかり合う。
普段ならばここから殴り合いに発展するのだが、ここは職員室で、相澤が睨みを利かせている。
しかしそれ以上に、互いの間には理解があった。
これは。これは────拳の戦いではない。意思の戦いだ。それを二人の男は言葉すら交わさずに誰よりも理解していた。
互いに譲らず数十秒睨み合いが続き────最終的に折れたのは、爆豪だった。
「……適当な挨拶しやがったら俺が壇上登ってブッ殺すからな」
「うん、ありがとう」
そう言うと踵を返して職員室を出ていく爆豪を見送ってから緑谷は「そういうわけで」と相澤に向き直る。
「僕が挨拶をします」
「ん。大体一分以内を目安に簡潔にな。一応これが当日の進行表だから、何喋るか決めとけよ」
「はい」
「お、爆豪。何の話だったんだ?」
「知るかクソ髪」
「お? なんかヤケに機嫌良いな。何あったんだ?」
「うるせえ死ねボケクマ」
「え何々ばくごー本当に機嫌良さそうじゃん。どしたー?」
「次々寄ってくんじゃねえ気持ち悪い!!」
((((機嫌が良い……とは……???? *3))))
無免達もマイペースに、強かに準備を進めていく。
「……ところで朝から気になってたんだけどさ、上鳴アンタ何読んでんの?」
「あ、これ? 資格勉強」
「資格勉強!? アンタそんなキャラなの!?」
「いやな? こないだのUSJで思い知ったんだって! 電気系個性の俺にこそ電工免許は必要だって! だから昨日駅の本屋で買ったワケよ! 二千円!」
「上鳴さん……非常に言いにくいのですが、そういう資格系の教材は学校の図書館に行けば無料で貸し出してくれますわよ」
「…………
他の生徒達もまた、それぞれに力を蓄えている。
「ムッシュ、少し僕のサポートアイテムに意見が欲しいんだけど☆」
「お? オォ良いぞ。発目居なくて暇だから、幾らでも付き合っちゃうぜ……しかしまあ熱心だな青山も」
「体育祭まであと一月無いからね」
「ヒーロー科転入か?」
「ウィ☆」
「そかそか。気合入れてけよ。どの辺に詰まってんだ?」
様々な情熱が折り重なって、やがて一つの舞台に行き着く。
けどその前に日常回を一個か二個か挟みたい。今の予定としては
エンデヴァーが家にいる日は発目邸に泊まるようになった轟くん
昔余計な事言ったばっかりに流れでA組全員に奢る羽目になる通形先輩
安売りしてたキャベツめっちゃ買って一人暮らし勢の鍋かき集めてめっちゃロールキャベツ作るやつ
敵情視察しに来た普通科が無免ヒーローに会って得体のしれないものに対する純粋な恐怖に震えるやつ
とかを考えてます。どーしよかな……