それを見たら終わり   作:オールドファッション

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FGOのイベで二章まで駆け足してました!サーセン!!
それと色々資料(映画)を観てました!!おもろかった!!


ブギーマン【前編】

 皮付きのリンゴを見ると、私は罪悪感を覚える。

 

 ちざきは私の個性はこの世界の理を壊すものだと言っていた。

 

 それの本当の意味も、ちざきが何をしようとしているのかも私はわからない。でも、私の力が多くの人を傷つけることは知っていた。

 

 私の血と肉が巡り巡って誰かを傷つけ、さらに血を流すのだろうか。

 

 そんなことを考えながらリンゴに噛り付く。赤い皮は血と同じ色。少しだけ渋くて、そして苦い。でもその先にある身は白くてとても甘い。

 

 (犠牲)があるから、その甘みが引き立てられるんだ。

 

(何だろう、この感情は?)

 

 私の置かれている環境は決していいものではない。でも全てが悪いというわけではない。

 

 欲しいものはちざきの部下に言えば大体は手に入る。私はちざきの計画の要らしいから、彼らは私に取り入ろうと必死だ。

 

 拷問のような生活の中で、数少ない幸福と思えば安いものなんだろう。

 

 私のリンゴ(生活)は渋皮が9割と甘い身が1割。だからとても甘くて、美味しい。犠牲の上で味わう幸福がとても美味しい。

 

 ああ、これはいけない感情だ。

 

 分かっていた。分かってそれを味わってきたんだ。

 

 だからこれは、神様が私に与えた”罰”なんだろう。

 

 私は暗闇を走る。その罰から逃れるために。

 

 神様、私は謝ります。許してくれるまで何度でも謝ります。

 

 だからこの”悪魔”を消してください。

 

 

 

 

 

 

 

 休日、映は家に引きこもってビデオを観ることが多い。それ以外はキラーたちを街に放したり、自身で夜の街を散策したりもするが、他人と関わりたくないので基本的には自宅で過ごすのが日課だ。

 

 だが稀に、友人と外出することがある。彼女には友人が少ないから本当に稀なことだ。その中で最も付き合いが深いのが焦凍であり、映は外出を嫌うため自宅に彼を招いて一緒にビデオ鑑賞をすることが多いが、たまに二人で外出して映画鑑賞や外食もする。外食の際は二人の好みの問題で蕎麦屋に行かないのが暗黙の了解となっていた。

 

 しかし、今日は違う友人と外出していた。

 

 街外れの寂れたミニシアターがある。ポルノシアターと隣接しており、錆びて読みにくい看板と茶色のシミがあるポスターがノスタルジックな雰囲気を感じさせるいい映画館だ。この映画館を経営している老人が古い作品が好きなようで、特にホラー映画をよく上映してくれる。人気が少なく、うるさいカップルがいないのがもう最高だ。

 

 カラカラと映写機の回転音が聞こえる。その音をかき消すほどの悲鳴と体が潰れる心地よい音が、外出の際で負った心労を癒してくれる。画面は血しぶきで染まり、近年の日本では規制されるグロとゴアの表現を詰め込んだ映像は彼女の友人も大いに喜んでくれていた。

 

 エンドロールに入ると感動に震えた友人が映に抱きつく。

 

「良い!良いです!ピン様とフレ様が人を血まみれにするのかっこいいです!」

「でしょー!あー、私もピンヘッドに抱きついたり、フレディに引き裂かれたいなぁ」

 

 映の豊満なバストに顔を埋める少女はトガヒミコ。映と夜の日課で遭遇してから同類として友人関係になり、互いの趣味嗜好も相性も相まって、映はトガとスプラッター映画を観るほどの仲になっていた。しかし、自分の正体を全て伝えてはいないので、トガは自分と同じ変身能力の個性を持った殺人鬼だと思っている。

 

 ミニシアターから出ると日差しは陰っていた。夕方へ入り始める時刻。世界が闇へ向かう瞬間、気温が少しずつ下がっていく。殺しには良い日和だ。映はフードを深く被る。

 

『ーーーー♪』

「およ?」

 

 『着信アリ』の着信音が鳴り、映はスマホを確認する。画面には新着動画の通知が来ていた。

 

「おー、新着動画きた。しかも撮影場所ここら辺じゃん」

「何がですか?」

「これよ、これ」

 

 映のスマホを覗くと老齢の紳士が画面いっぱいに映っている。周りは縁日の屋台らしく、店主と思われる男性とヒーローが倒れていた。

 

『諸君、ご機嫌いかがかな。私は今日、この縁日で当たりくじを抜いたまま違法営業するくじ引き屋台に攻め入った。純朴な子供たちから金銭を巻き上げた罪に制裁を与えたのだ。さあ、子供達よ。このおもちゃは出演料の支払いとしてプレゼントしよう!』

『待ってジェントル!保護者の方たちが「見ちゃいけません!」的な感じで子供たちを連れて行ってしまったわ!』

『……よし、ここは編集(カット)で!!』

 

「……これ、あんまり面白くないです。評価もすごい低いし」

「そう?ご老体が体に鞭を打って頑張るなんて滑稽で笑えると思うけど」

 

 高評価を付けるとすぐにLOVE LABAというアカウントからコメントが大量に送信される。LOVE LABAのご老体を思う気持ちが長文となって延々と書かれていた。ご丁寧に個人情報まで書いてくれている。あとから冷静になって削除される前に記憶する。

 

「彼の始まりはヒーローへの憧れだった。ドロップアウトしてからも義賊じみた行動をするのは自身の中で曲げられない信念があったからでしょう。動画の主題となっているのは『歴史に名を残す』という、誰からも忘れ去れてしまう孤独感からの解放策。しかしもし、両方を天秤にかけた時に彼は迷わずに信念を選ぶ。それが世間には一切知られない善行だとしてもね」

 

「——そんな彼の気高き矜持を壊したらとても面白いだろう?」

 

 淡々と推論を述べていく映の姿を、トガはうっとりとした表情で眺めていた。トガは初めて会った瞬間から映が好きだった。この人になりたい、この人そのものになりたいと、そう思った。だが、映の血を吸おうとすれば自分は殺されてしまうだろう。だからトガは隙をみて映を殺そうと考えた。その考えを映も察したうえでトガを側に置いている。

 

 普段なら我慢できずに殺してしまうトガは映を観察することに徹した。

 見て、観て、診て、視て、看て、みて、ミテ、mite……それでようやくわかったのだ。どうしてこんな綺麗な人を好きになったのか。

 

 

 虐待の傷があったから?

 ——違う。

 

 その手が血にまみれているから?

 ——違う。

 

 自分と同類だから?

 ——違う。

 

 

 映は出会った時からぼろぼろだった。体ではなく精神の話である。まるでひび割れた器の中にたくさんのビー玉を無理やり詰め込んだような脆い心だった。ずっと観察してきたトガだから理解できた彼女の精神構造。きっと彼女は粉々に割れるまで進み続ける。

 

(見たいです。もっとぼろぼろになる映ちゃんを近くで見たいです)

 

 トガは両手で面貌を覆う。ぐちゃぐちゃに歪んだ口角、溢れ出る殺気を覆い隠すために。そして何より心の底から這い上がる恐怖の震えを抑えるために。

 自称『ただの狂気殺人者』と語る者の瞳に映る無数に蠢く存在がトガを見つめていた。

 

 トガは不意に死角から衝撃を受ける。

 

「ぐえっ」

「あっ…」

 

 前方から走ってきた少女との衝突による完全な不意打ちにトガはそのまま地面に倒れた。映は無関心にスマホをいじり続けている。

 

「おいおいトガちゃん。歩くときはちゃんと前を向いて歩かないと危ないぞぅ。まあ、歩きスマホ中の私が言うのもなんだかな」

「う〜〜、痛いです」

 

 映はスマホをダボダボのパーカーのポケットにしまい込み、尻餅をついている少女に手を差し伸べた。

 

「大丈夫かい、お嬢ちゃん」

「だ、だいじょうぶ」

 

 少女は一瞬、映の手を取るのを躊躇ったがすぐに手を握って立ち上がる。

 

(うーん、私の正体に勘付いた感じではないな。自己への恐怖……接触して発動するタイプの個性かな?それも制御できず暴走すると止まらない。ためらったのは個性による過去のトラウマか。それにしても”あの姪”によく似ているね)

 

 映は汚濁した瞳を覗き込まれないように少女に微笑む。

 

「お嬢ちゃん、お名前は?」

「え、壊理」

「エリ?もしかして 200歳の少女だったりする?」

「?」

「あー、うん……いいや、ごめんね。……ほら、トガちゃん行くよ」

「あ……まってっ…」

 

 倒れているトガを肩に担ぐと、映は足早にその場を去った。壊理の言葉は耳に届いていたが、聞こえない振りをする。壊理は映の後ろ姿を捨てられた犬のように見つめていた。

 

 トガは小さくなっていく少女の姿を眺めていた。物欲しそうな子供のように映の肩を叩く。

 

「……映ちゃん、あの子いいです。ボロボロで血だらけで可愛いです」

「トガちゃん、あの子はダメだよ」

「あの子欲しいです。もっと傷だらけにしたらとても良い感じになると思うんです」

「——トガ」

 

 びくりと体を震わせる。トガはフード越しから映の表情を凝視した。

 彼女が普段纏っている加虐的な道化師の雰囲気は消失し、ひどく閑やかな夜を幻想させる。しかし、その顔は見えなくても分かるほど、狂気に歪んでいただろう。

 

「君は想像できるだろうか?この世界に生まれ落ちた瞬間にそれは生きる意味を持って存在していた。しかしこの世界には彼が求める意味はなく、私が生み出したとき、それはまるで生きた屍だった。私がその意味を生み出しても良かったが、そんなことは出来なかっただろう。私は恐れていた。私の想像物を彼に否定されたら、私も屍になるからだ」

 

「ようやくだ。ようやく彼が獲物を見つけたんだ。たとえそれが他人の空似だとしても、自分の血縁でないとしても、それが彼の動機と足りえるなら子供の一人くらいはくれてやるさ。あの子にはかわいそうなことをするが、ホラー映画っていうのは残酷で理不尽なものだろう」

 

「——まあ、季節外れなのは許して欲しいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 路地裏を白い影が走り抜ける。素足が奏でるペタペタとした音が愛らしかった。道すがらすれ違った大人たちのほとんどは(ヴィラン)であり、ここは溜まり場として有名な通りだった。振り返ってくる顔のほとんどが値踏みするものと下卑た妄想を浮かべるもの。その顔たちの首筋を肉切り包丁が切り裂き、路地の外壁を赤色に色付けしていく。

 

 硬質化の個性を持つ数人が凶刃を恐れずに立ち向かうが、彼らは顔面を鷲掴みにされ粉々に握り潰された。彼女の走り抜けた後には死体の山が積み上げられていく。

 

 壊理は振り返って追跡者を見上げた。血に塗れたダークブルーの作業服を身に纏い、白塗りの不気味なマスクを頭に被っている。眼窩は黒くくぼんでいて瞳が見えない。怪しく光が反射する肉切り包丁を逆手に持ち、走りはしないが一定の速さで迫ってくる。殺人鬼の男は一切の呼吸の乱れもなく、淡々と殺しを流れ作業のように行っていく。それが彼の異様と相俟って、人であるはずなのに、まるで人ではないように思えた。

 

 きっかけは何だろうと、壊理は数分前の過去を思い返した。あの真っ暗な部屋から抜け出して、チザキのいない遠くへ逃げようと走ったはずだ。その途中で女の人とぶつかって、助けを乞おうとしたがすぐに去って、——その直後、背後の男が明らかな殺意を持って立っていた。

 

 常に誰かの目を窺って生きてきた壊理は、その男がチザキよりも異常な殺気を放っていたのことを理解した。走り出した直後、数秒前まで壊理の頭があった位置に肉切り包丁が振り下ろされる。街中で行われた凶行に悲鳴が上がり、ヒーローが何人かやってきた。

 捕縛系の個性を持ったヒーローが腕からロープを出して捕縛しようとする。意外なことに男は呆気なく捕まった。みんなが安堵し、住人たちはヒーローへ喝采を起こす。ヒーローはそれに気分を良くしたのか、縛られた男に対して『見掛け倒しの奴だ』と軽口を叩いた。そして彼らは疑問を抱いただろう。頭の片隅に消えたロープの存在が浮かび上がる前に、それは鮮血の返礼として首筋に突き立てられる。

 

 増強系のヒーローが男を抑えたが、男はその手を引き剥がした。簡単に引き剥がされた本人も驚愕する。ヒーロービルボードチャートJPにすら未だランクインしていない新米ヒーローではあるが、自分の怪力には自信を持っていた。その自信を、男は腕の骨まで粉々にへし折った。ヒーローは悲鳴を上げなかった。代わりに、彼の喉が潰れる嫌な音が響く。さっきまでの喝采は鳴り止み、あたりは静寂に包まれていた。ヒーローは数分のうちで全滅だった。

 

 壊理は振り返らずに走った。変わらずに、彼女の後ろでは喧騒の後に静寂が訪れる。さすがの壊理も標的が自分であることを理解してきた。自分のせいで無関係の人たちが傷ついていく。外へ出ても結局はあの場所と変わらない。

 

 行き止まりに差し掛かったとき、壊理が抱いたのは絶望ではなく、単純な諦めだった。

 

 十字架の落書きがされた外壁に、壊理は力なくもたれ掛かった。顔の側の外壁にはヘブライ語で『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』とある。その落書きがキリストが十字架から降ろされたあとのゴルゴダの丘だと、無学な壊理は知り得なかっただろう。

 

「なんで、ワタシなの?」

 

 男は立ち止まってゆっくりと首を傾げた。男は無言で壊理を見つめ返す。雲間から茜色の日光が差し込み、光が男の姿を照らした。窪んだ眼窩から覗く二つの眼に光が差す。ひどく虚ろな目だった。この世に存在する何かに憎悪し、それを残らず根絶しようとする強い意思を壊理は垣間見た気がした。

 

(ああ、そうか。出会ってしまった、知られてしまったから。そんな理不尽な理由だったんだ)

 

 男は包丁を構える。壊理はそれをぼうっと見つめていた。あと少しで自分は包丁で刺されて死ぬのだろう。でもそれは、これから他の人たちが死ぬよりもきっと良いことだと思う。少なくとも、殺される理由を知れただけでもマシな死に方だと思った。

 

 凶刃の一線。速く、それなのにとても遅く見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイーーーーーーーーンン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどの雰囲気から一転して、何とも間抜けな擬音が路地裏に響く。壊理は目の前に立つ初老の男性を見つめた。

 

諸君(リスナー)!予定にはなかったサプライズだが、これより本日2回目の動画投稿を始めよう!これより始まる怪傑浪漫、少女をブギーマンから救う王道活劇!!目眩からず見届けよ、私は救世たる義賊の紳士”ジェントル・クリミナル”!!」

 

 紳士は高所からの着地による腰のダメージを誤魔化しながらも華麗にお辞儀を決めた。




『マイケル・マイヤーズ』
『ハロウィン』の殺人鬼。性格は残忍を極め、精神鑑定を行ったルーミス医師は彼を「純粋な邪悪」と評している。その評価通り、彼は遭遇した人物、動物はほとんど無差別に殺害している。 そして理由は不明だが彼は自身と血の繋がった人間を執拗なまでに殺そうとする。特に妹であるローリーへの殺意は常軌を逸しており、作品によっては素性を変えて雲隠れした彼女を20年間も追い続けて殺そうとするほどである。 劇中で一切言葉を発しないが疾患などではなく「自発的にしゃべろうとしない」だけである。 異様に強靭な肉体を持ち、ガス爆発を至近距離で喰らって炎上したり、拳銃やショットガンや挙句の果てには迫撃砲を喰らってもなお生存している。 加えて人知を超えた怪力も持ち合わせ、大の大人を片手一本で軽々と持ち上げたり握力で頭蓋骨を砕いたりする。 大体の殺人は素手か包丁で行うが、2以降色々な武器を使っていたりする。

『ジェイミー・ロイド』
シリーズ4作目『ハロウィン4』で登場。1作目&2作目のヒロインであるローリーの娘ジェイミーであり、マイケルとは伯父姪の関係にあるため弱冠8歳にして命がけで逃げ回る羽目になる。 しかし二人の心の触れ合いと血縁による絆も作中それなりに意図されて描かれており、更に6作目冒頭で十五歳になったジェイミーが産んだ子の父親がマイケルと公式の設定があった。ちまたでは『マイジェミ』というカップリングが存在する。(尊い!)
今作では壊理がジェイミーのそっくりさんという運命(設定)を作者に背負わされている。

『ぼくのエリ 200歳の少女』
2008年のスウェーデン映画。小説『MORSE -モールス-』を原作者自らが脚色した映画である。 日本版の正式名称は『ぼくのエリ 200歳の少女』である。原題は「Låt den rätte komma in」(スウェーデン語)、「正しき者を招き入れよ」という意味。 いじめられっ子の少年が、ひょんなことから恋に落ちてしまった吸血鬼の少女と辿る哀しい運命の行方を、鮮烈な残酷描写を織り交ぜつつ静謐かつ詩的なタッチで綴ってゆく。

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