『究極はあっても完全はない』。そんな言葉が口癖の刀鍛冶がいたそうな。そのものは、『完成』を経て『完了』を目指すものではあったが、決して『完全』を目指そうとはせなんだ。いわく、完全を目指すことそのものこそが闇に堕ちるに等しきものととらえ、最後まであるいは、完了を目にしたあともなお、その一刀を目指すことはなかったそう。
名を、四季崎記紀と申す。
その子々孫々に至るまで、あるいは、そんな彼らとともに時代を生きる世界の人間は、すべて彼らの手中に収めたる。さながら、未来を知るようだと。然らば、予見ではなく、予知……正しくは未来を既知とするもののことを言い表しめす。
然れども彼、ここにいる彼は少々話が違うようで。
これはこれは、あり得ることのない話。
それはそれは、ただの蛇足。
本来の歴史に汚泥を撒くような所業であれども、彼。終ぞ、光を見ることなく闇へと至らん。
さあさあ、これは切って張ったの愚か者。
語れども語れども、底の見えぬ闇の話。あるいは、『完全』なる刀の話。
彼の語る『完全』がなされてしまったゆえのただの後付け。
すべては愚かなこの身に、『容赦』を。
話は、完了形変体刀『虚刀・鑢』を銘に打つ傷在りの男が、金髪碧眼の女を隣に、茶屋で一息ついていたときから始まる。
――なんて。
まずはまあ、そんな出だしで、興味を引いといてから。
対戦格刀剣花絵巻。
剣劇活劇時代劇。
刀語の、その蛇足、二次創作の、はじまりはじまり~♪
第一幕 峠の茶屋にて。
「あー……、面倒だな」
編み笠を被り、どこか絢爛にも思える意匠の装いをしている。しかし、長身のその男が醸し出す雰囲気といったら、否応にもかかわる気が失せる気だるさが染みついていた。例えば、絵巻物の主役としては読んでいる側も読む気が失せるような――言ってしまえば、図体のデカイ置物の方が、喋らない分まだよい。この男、口癖のように「面倒だ」と口にするもので、正直傍にいると鬱陶しいものなのだ。
しかし、真に刮目すべきはその隣なのかもしれない。
異国の血が混じっているのか、金色の髪に碧い瞳の女がいた。変わらず『不忍』の面は被っているものの、旅に出たときよりも髪は伸び、頭の後ろで編みこんでいる。侍方のちょんまげの真似なのか、それとも馬の尻尾でも模しているのか……それでもその美貌にかかってしまえば、それも立派な御洒落に見えるのだから、美人とは得なものだろう。
そして、その長身の男と金髪碧眼の女は、ともに旅する仲――というのは正確には違う。男はただのもの知らず、いわゆる馬鹿とそれを護衛に使うお節介焼きの女と言い換えた方がいいのかもしれない。そして今日も、女は男の言葉を否定する。
「ねー、七花くん。否定するわぁ……だって、面倒なことはだいたい私が片付けているものぉ」
「そうか? おれは今日、山賊を追い払ったばかりなんだが」
「それは普段の私の労力に見合った対価よ。七花くん、船に乗る手続きさえ知らなかったんだもの。危うく、いらない追っ手と張り紙が増えるところだったんだから、少しは感謝してよね」
それに、と女は付け加えた。
「まさか、文無しのままだとは知らなかったわ。いや、そりゃ確かに島流しをされた身なんだから、野性味あふれる生活もいけるんだろうけど、寝泊まりするのだってお金は必要なのよ?」
「そこらへんは、とがめの管轄だったもんでな。第一、金勘定がおれにはわからん」
もともと、七花の役目は刀としてあることだ。銭だなんだは、石ころ程度の認識でしかなかったのだ。そういえば以前は、彼の元の持ち主であった彼女とともにあったせいで、金の意識などなかった。良くも悪くも、隣の女がいなければ七花は今頃、どこかで張り紙とともに国中に手配されていたのかもしれない。
とはいっても、道楽ついでにやっている女に対し、野生感だけでやりくりをする七花が特別感謝をするわけでもなく、これらはただの挨拶のようなものだ。
そう、ただの挨拶。本題はこれからである。
「それで? 今度は何があったんだ?」
「ふふっ、なんでも国のお抱えの軍隊さんが命からがら逃げかえったとか」
「ふぅん、物騒な世の中になったもんだ」
「でもって、私は否定するわぁ。物騒ではなく、異常よ。仮にも軍隊。個ではなく、群による制圧。それこそ、宇練銀閣のご先祖、宇練金閣でもあるまいし、一万人切りなんて今時、法螺吹きみたいな話よ」
「だけど、そいつは法螺話じゃないんだろう?
「まあ、その点、日陰者の私に目がいかないのは助かるのだけど……」
だけど、そういいつぐんだ女は、珍しく言葉に迷っていた。本人は当然のように否定するのだろうが、少なくとも七花からすれば、雪でも目にしたかのような物珍しさがあった。だが、それもわずかな間であり、女は結局言葉を口にした。
「似てるのよ」
「あん? 何がだ? その件の“鬼”でも心当たりあるってのかい、あんた」
「生きながらえた兵士もいることだし、特徴はとらえてるらしいわ。でもって、これがその似顔絵よ。今じゃ、結構な数が出回っているらしいわ」
そういった女は、七花に似顔絵を手渡した。確かに似ているという女の言葉には、心から同意見だ。というよりも、七花にとっては女の嫌がらせだといわれたほうが、まだ納得ができる。
なぜなら――。
「白い髪、短い童女のような髪の女……ねぇ。確かに、似てるな」
誰に、とは口にしない。なぜなら、七花にとってはそれはもう話のついたことだからだ。言ってしまえば、一年の旅路の終着点。読み返そうと思えばできるものだ。確かに哀愁はあっても、そこに悲観はない。大切ではあったし、大好きではあった。だからこそ汚さない。
それが刀としてできる唯一の持ち主への礼儀だった。
何より、
「とがめは死んだんだ。死人は生き返らない。そうだろ?」
それに対し、女は否定――しなかった。するはずもない。この世に絶対は憑き物だから。人間『は』、死人『は』生き返らない。それがこの世にありふれる絶対における絶対だ。だがしかし、女はどこかおかしなものを見ている気がした。
どこか、蛇足のようなものを。それこそ、終わったものを、飲み切った茶の底を覗いているような。あるいは、覗かれているような。
まるで、
「ねえ、七花くん。ちょっとこの鬼とやらを突っついてみない?」
まるで、現在の歴史が間違っているような、そんな違和感が胸中を占めていた。
もともと『完全系変体刀』というのは、考えたことがあったので、深夜テンションノリでそれを形にしてみただけ。まあ、刀に関してはおおよその予想はついていると思いますが、感想欄での推理ゲームはお控えください。
なお、続くかなんて未定。