これを拾ったあなたへ


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宛名の無いラブレター

 

 初めまして、こんにちは。

 

 なんて、当たり障りの無い挨拶から始めてしまいましたけど、もしかしたらあなたは私の知人かも知れませんね。でしたら、お久しぶりです。

 

 あなたはこの手紙を開いて、きっと首を傾げているでしょう。宛名も無い手紙ですから、それも当然だと思います。

 

 実は、この手紙はラブレターなんです、と告白したら、あなたはきっと驚くでしょう。この手紙の差出人はラブレターがどういう物か知らないのでは、なんて思っているかもしれませんね。

 

 でも、安心してください。私はラブレターがどういう物か知っています。本来なら宛名を書くべきなのも、知っています。だって、そうしないと想いを伝えられませんから。

 

 それでも、私には無理でした。だって、恥ずかしすぎます。あなたが私の知人なら知っているでしょうが、私はとても小心者なのです。直接送るなんて、考えるだけでも頭が溶けてしまいそう!

 

 だから、この手紙を読んでいるあなたが私の想い人である僅かな可能性を信じて、この手紙を綴ります。違ったとしても、この手紙を世に放った私の勇気に免じて、最後まで読んでほしいです。そして、あなたの友人の誰かに渡してください。そうして巡って、あなたに届いて欲しいと思うことを、どうか許してください。

 

 ここからが、ラブレターです。恥ずかしいと遠回りをしてしまうのは、私の悪い癖です。

 

 

 私は、あなたが好きです。

 

 あなたは私の姿を知らないでしょうし、私だってあなたがどんな人なのか、そこまで知っている訳ではありません。実は、名前だって知らないんです。宛名を書かなかったのは、そういうこともあるんです。

 

 それでも、この気持ちは本物です。本当に、あなたが好きなんです。

 

 最初は、一目惚れでした。窓から眺めた場所に居るあなたに目を奪われて、惹かれて、目が離せなくなってしまっていました。私の人生に三つの奇跡があるとしたら、二つ目はあなたを見つけたことです。

 

 それから毎日、窓からあなたを探しました。見つからなかった日は寂しかったです。でも、見つけられた日はとても嬉しかったです。胸の高鳴りが収まらなくて、とても暖かくて。もし絵になっていたら、「幸せな人」というタイトルが付いていたでしょうね。

 

 きっと、あなたに会いに行けば良かったのでしょうけど、私には出来ませんでした。その勇気が無かったのもありますし、私には会えない理由があったからです。だから私は、遠くから届かない声を届けようとする事しか出来ませんでした。

 

 でも、それでも我慢できませんでした。どうしても、あなたに私の気持ちを知ってほしかった。私の想いを届けたかった。受け入れてもらえないでしょうけど、それでも。

 

 だから、私はこの手紙を書くことにしました。

 

 私の人生に三つの奇跡があるとしたら、一つ目は私が生まれたこと。二つ目は、あなたを見つけたこと。

 

 そして三つ目は、あなたにこの手紙が届くことです。三つ目の奇跡は起きましたか?

 

 返事は要りません。私はあなたに会えませんし、会えばあなたは私を受け入れてくれないでしょう。

 

 それでも、あなたを愛した女が一人居るのだと、覚えておいてください。それだけで、私は幸せなのです。

 

 そしてこれからも、窓からあなたを見続けることを、許してください。

 

 

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。あなたが幸せになることを祈ります。

 



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