迷者不問   作:お米太郎

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オリ主(染井菊花)は公安総務課に所属する刑事である。意識がブラックアウトして、2018年の日本にやってきてしまった。
楠よしの :菊花の偽名の一つです。




公安刑事、出会う

頭が痛い。いや、精神的な方で。

 

痛みを主張する脳みそに気付かないふりをし、菊花は言った。

 

「今の日本の首相はどなたですか」

「芦川茂首相じゃ」

「この人よ」

 

灰原が手元にあったスマートフォンで首相のファイスブックのページを見せた。菊花の世界と相違ない。ようやく見知った者を見つけたと同時に灰原の見せたスマートフォンに驚いた。

 

「パソコン、随分と小さくなっているんですね」

「? ただのスマートフォンよ。それよりもそっちの方があんまり見ないわ」

 

灰原は菊花の持つ携帯電話を指差した。1年前に出た最新機種の一つである。だが、スマートフォンの発達したこちらでは、ほとんど使っている人が見られない。

 

それもそのはず、灰原のようにスマートフォンを使用する人々の割合が多いからだ。勿論、菊花の世界でもスマートフォンは発売されている。しかしながら、一般市民の認知度は約20パーセントであった。端末の値段も高く、まだ普及が進んでいなかったのだ。

 

菊花がスマートフォンを知らず、パソコンと表現したのはそのためである。

 

「スマートフォン…え!!それ携帯電話!?」

「スマホ知らないの?」

 

「私の周りにそんな携帯電話を使っている人いないんです」と菊花が言えば、灰原は面食らったような表情になった。

 

この時代の人間としては珍しいと物語っている。

 

菊花は自身の携帯電話を見た。携帯電話の液晶画面には【2018/5/20】という数字。

 

オカルトに抵抗がないと言えど、12年後の日本に自分がいるというのは信じられない気持ちでいっぱいであった。タイムマシンがあるはずないし、未来に行ったことがあるという人など絶対にいない。

 

『私、過去から来たんです』

 

そんなことを言い出す人がいたら精神状態を疑われるだろう。私ならそうする。と菊花は思った。

 

しかし、現実に起きてしまった。

この世界の自分が総務課に所属しているかも不明である。最悪殉職している可能性もありうる。その場合、上司に電話するのも望ましくない。死んだ人間が電話してきたら誰だって怖いはずだ。……親友は動じずに返事を返してくれそうだが。

 

菊花は阿笠と灰原を見つめた。

灰原は何を考えているのか読み取れないが、阿笠の方は眉を下げている。信じてもらえるかどうか分からないが、話すほか方法がない。菊花は「阿笠さん、灰原さん」と2人を呼んだ。

 

「何かしら」

「お二人に信じていただけるか自信がないんですけど……」

「どんな話かね?」

 

「あの……私、過去の日本から来たみたいなんです」

 

灰原と阿笠は目を一瞬白黒させた。が、すぐに灰原は眉の間を微かに曇らせて、

「貴方ね、私達を馬鹿にしているの?」

「そんなわけないですよ!!でも、スマートフォンなんて全く聞いたことがないし、東都タワーが私の世界にないのはおかしいはず」

 

菊花は2人の反応を元に、例を上げた。

これほどスマートフォンが有名な日本で全く知らないという成人女性はいないはず。これは説得力があるのではないかと思った。

 

菊花の予想通り、阿笠は「過去から来た人間なら納得するのぅ」とひとつ頷いた。

灰原が阿笠の反応に「博士!」と声を上げ、「楠さんの言葉を信じるの?」と言う。

 

本人を目の前にしてなかなか辛辣である。しかし、いきなり「過去から来た人間だ。信じろ」と言われて「はい、信じましょう」とはならない。小説ならば都合よくいくが、現実ならそう上手くいくまい。灰原が菊花を警戒するのも無理ない。

 

阿笠は続けて、

「哀君。ワシには楠さんが本当のことを言っているように見える」

「でも……」

 

真剣な声音の阿笠に、灰原は口ごもる。

 

「哀君。すぐに信じろと楠さんは言っておらんよ」

「ええ。こんな傷だらけの人間をすぐ信用しちゃうのは問題です」

 

堂々と言いのけた菊花に、灰原は少しして言った。

 

「……確かに博士のいうことも一理あるかも。悪い人だったらこんなに堂々としてないわね」

 

灰原の言葉に菊花は目を瞬かせた。

 

「ええ?そこで信じてくださるんですか」

「あら、全く信用して欲しくないっていう顔じゃない」

「いや、でもこんなに簡単に言われてしまうと…なんというか」

 

菊花は決まり悪そうに顔をかいた。まさかのあっさりとした答えである。

 

「少しでも信じてくださると聞いただけでも嬉しい限りです」

「ほんの少しだけだけどね。それより……」

 

灰原はそこで言葉を止めた。彼女の視線は菊花の腕に注がれている。

 

「その傷を治すことを第一に考えたほうがいいわ」

 

菊花は自分の腕を見た。見れば見るほどひどい。

 

「ええ。私と博士で応急手当を行ったけど素人目で見てもひどいわ。博士と一緒に病院に行くべきよ」

「い、いえ!!この通りぴんぴんしてますから、すぐに出ていきますよ!!」

 

菊花は慌てた。保険証があるので病院にかかるのは構わない。偽名の【楠よしの】と本名の【染井菊花】の2枚の保険証がバッグの隠しポケットに入っているのだ。阿笠に見られる可能性も高くなってしまう。

 

行かなくてもいい、むしろ大丈夫だと強がる彼女に、灰原は少し考える素振りをした。ややあって、菊花に近寄った。

 

「ちょっといいかしら」

「何を…いッ!!!」

「全然大丈夫と言えないわね」

 

灰原が軽く肩を触れる。先ほどの痛みが襲ってきた。全身を酷使した痛みは筋肉痛に近かったので腕を上げるのさえぎこちない。嘘を言うのはやめときなさいと、彼女の顔が語った。

 

「いいわね?」

「……はい」

「博士、お願いね」

 

「わしは構わんよ」

 

この場での菊花と灰原の立場は逆転していた。

 

 

 

 

 

 

日が昇り始め、灰原、阿笠は病院に行く準備をしていた。

 

本来ならば救急外来に行くべきだと灰原は思っていたが、菊花が「痛みはそこまでひどくないので大丈夫です」としきりに言うので、朝一番で向かうことにしたのだ。

 

「哀君、楠さんを起こしてくれんか?」

「分かったわ」

 

灰原が菊花の部屋に向かう。すでに、灰原は整っており、阿笠と菊花の支度が終われば、すぐに病院へ向かうことができる。

 

ノックをすると、中から返事が返ってきた。

 

「はーい」

「私よ。入っていいかしら」

「大丈夫ですよ」

 

部屋に入ると、菊花がテレビを見ていた。本日の天気についてだ。今日も夏日になる可能性があると、お天気キャスターがわかりやすく伝えている。菊花を手当をした時、阿笠のパジャマを着せたので、体にあっておらずブカブカの状態だ。このまま歩けばずり落ちる可能性が高いので、髪ゴムを手渡した。

 

あとで彼女のためのパジャマを購入しておいた方がいいわね。灰原は思った。そして、菊花に声をかけた。

 

「楠さん、もう少ししたら博士が車を出してくれるわ。なにか飲みたいものある?」

「ありがとうございます。お水をお願いしてもいいですか?」

「分かったわ。ちょっと待ってて」

 

灰原が部屋から出てゆき、菊花は引き続きテレビに視線を移した。元いた世界と比べて殺人事件が多い。昨日だけでも30件も起きたらしいく同じ日本にいるのかと思えなかった。また驚くことに、殺人事件が起きたら、探偵が犯人を当てて逮捕するらしい。

 

12年後の世界には探偵という職業がしっかりと社会的地位を築いているのか……。

 

他チャンネルを回していると、北海道物産展のニュースが耳に入ってきた。美味しそうな海鮮丼が映っている。菊花は、お腹をしきりにさすった。

 

「お腹減ったなぁ……ご飯食べたい……」

 

その言葉に呼応するように、お腹の虫が小さく鳴った。

 

 

灰原が台所に戻ると、阿笠が声をかけてきた。阿笠はいつもの白衣姿ではなく出かける時の格好に着替えてある。

 

「準備できたぞい」

「楠さんに水を渡すから待ってて」

「楠さんは起きてるかの?」

「ええ」

 

灰原は阿笠にビートルのエンジンを付けておくよう頼んだ。何回かに分けて、水を汲みに行くのは面倒なので、かなり大きいグラスに水を注ぐ。

 

「どうぞ」

 

部屋に戻ってきた灰原は菊花に水を渡した。水は、菊花の体の中に吸い込まれていく。半分ほど飲み干したところで、菊花は息を吐いた。

 

「ふう……ありがとうございます」

「博士の準備が出来たわ。立てる?」

 

「はい」

 

ゆっくりと灰原に支えてもらいながら身を起こし立つ。やはり、痛みは引いておらず火傷した箇所は熱を帯びている。筋肉痛も全身に起きており、まるで菊花の体はロボットのようだった。

 

「ゆっくりでいいから博士のところまで行きましょう」

「はい」

 

灰原に支えてもらい、ゆっくりとビートルのところまで向かった。阿笠が後部座席の扉を開けてくれたので、そのまま中に入る。

 

「楠さん、振動が辛かったら言っておくれ」

「わかりました」

「隣座るわね」

 

灰原が菊花の隣を座る。多分怪しい行動をするかもしれないという監視のためだろうと菊花は読み取った。ロボットのような体の菊花がどうこうする自信は全くないが好きなようにさせておく。

 

「それじゃ病院までフルスロットルじゃ!!」

「安全運転よ?博士」

「分かっとるぞ~」

 

排気音は軽やかに流れ、黄色いビートルは阿笠邸を出ていく。隣の工藤邸では、二階の窓から一人の男がそれを見つめていた。

 

「おや……? こんな早い時間からお出かけなんて珍しい……」

 

男は手にしていたコーヒーに口をつける。腕時計に反射した光が男の目に入り薄目になり、瞳が見えた。男は、鷹のような目つきでビートルを見つめた。

 

 

 

 

ビートルの目的地は杯戸中央病院である。米花町には色々な病院が多かったが、7時台から診察を開始している病院が少なかったのだ。周辺で営業している病院を探していたら、杯戸中央病院が当てはまった。

 

ここは朝の7時から診察を行っている。渋滞に少し巻き込まれ、到着したのは9時を少し過ぎた頃であった。

 

「受付はこっちよ」

 

怪我などを負った時は警察病院で診察を受けることが多かったので、一般人の多い病院に訪れるのは、菊花にとって久しぶりであった。受付に長蛇の列はなくスムーズだった。

 

「初診でしょうか?」

「はい」

「保険証をお見せください」

 

偽名の方の保険証を見せた。【楠よしの】という人間が、本当にいるように作られている。生年月日は本名と3か月ほど遅い。原からこれを渡された時、菊花は心臓が飛び出そうだった。違法じゃないかと尋ねれば、「公安だから」と素知らぬ顔で返された。公安。便利な言葉だと呆れて口をつぐんだ。

 

その、偽の保険証を使い続けて3年になるが全くバレたことはない。本名の載った保険証は警察病院で用いることが多く、一般病院では偽名の保険証の出番が多かった。

 

「ではこちらにご記入をお願いします」

「ありがとうございます」

 

受付の看護師に渡された用紙を持って、席に戻った。平日の時間帯は高齢者が多いため、やや暗めの雰囲気がある。息が詰まりそうだ。

 

菊花は灰原を見た。大人びているといっても子供である。病院なんかにいてもつまらないだろうと思い、菊花は「阿笠さんと一緒に車の中で待ってて大丈夫ですよ?」と言った。

 

しかし、灰原は「いいわよ」と一言返した。灰原の意見を無下にできず、菊花は「そうですか」と言うだけだった。診療用紙に必要事項を記入し、受付に戻して、近くにあった雑誌を読む。灰原はしばらく菊花の様子を観察していた。

 

「楠さーん、楠よしのさん。お入りくださーい」

 

10分ほど経ち、菊花の偽名が呼ばれた。

 

「多分長くなると思うので阿笠さんに伝えておいて下さい」

「ええ」

 

診察室に通してもらうと、女性医師が担当だった。仕事のできそうな見目の良い女性である。医師は榊と名乗った。

 

「今日は火傷をしたということだけど、見せてくれる?」

「はい」

 

菊花が腕や上半身を見せると、榊の顔が一気に険しくなった。

 

「楠さん。何であなた早く来なかったの」

「すみません……」

 

申し訳なさそうな顔をした菊花を見て、榊は言葉を止めた。

 

「この傷がついたのはいつですか?」

「多分1日前くらいです」

「この火傷だと……爆風に晒されたのかもしれないね。まったく、なんで東都周辺は事件や事故が多いのかなぁ」

 

榊が手を当てて診察画面を見やった。カチカチと記入事項を埋めていっている。

 

この町は事件がよく起きるのだと口ぶりから察した。テレビを見ていて気づいたが、米花町周辺では殺人事件が頻繁に起きている。

自分の守る日本がグレてしまったと菊花は思った。地震が多いのもそのせいだろうか?日本だってグレたくなることあるかもしれない。

 

榊からは、処方箋について、また薬の使い方についての説明があった。

 

「塗り薬と湿布、あと痛み止め用の飲み薬を出しておきますね。塗り薬は寝る前1回、飲み薬は朝と夜の食後2回。湿布も寝る前に貼ること。痛みがひどかったら湿布を貼っても構いません。今は3週間分を出しておきますから、薬が切れそうになったらまた来てください」

 

「はい」

「お大事に。次の方どうぞー」

 

診察室から出ていくと、阿笠と灰原が菊花に近寄った。

 

「全治何か月って?」

「2ヶ月だそうです」

「2ヶ月……傷が残ると心配じゃ」

 

菊花は苦笑した。こんな自分の心配をされるのは何だか照れくさい。火傷ではなく、骨折だとか腕の傷などは、潜入捜査以外で作っても、あまり心配されることが少ない。日常茶飯事だった。

 

「見た目ひどいですけど綺麗に治るって言われました」

「良かったのぅ」

「はは……。良かったです。お医者さんに怒られてしまいました」

 

阿笠の笑みにつられて、菊花も笑った。会計の列に並ぶと、受付の職員から「30分ほど待っていただきます」と伝えられた。

 

「飲み物買ってくるわ。博士、楠さんと待っていてくれる?」

「灰原さん、お一人で大丈夫ですか?」

「ここは来たことがあるから大丈夫。何がいいかしら」

 

「お茶をお願いします。あとこれで」

 

菊花が渡したのは500円玉であった。灰原はそれを握りしめて、自販機のあるフロアに向かった。2人の様子が確認できる。菊花と阿笠は何かの話題で盛り上がっているよう見えた。

 

灰原はそれを横目で一瞥し、飲み物を買いながら思案していた。

 

彼女の傷は尋常ではない。彼女の火傷を水で冷やす時、彼女の二の腕には銃創痕がついていた。あの傷はここ数日で付けられたものではないだろう。

 

東都では事件や事故がしょっちゅう起きているが、ここ数日爆発を伴う事故は起きていない。いいとこ港の方で起きた、ガス爆発事故くらい。

 

菊花が本当に12年前からやってきたなら、戸籍を調べてみれば分かるかもしれない。灰原は、阿笠邸に戻ってからやることを頭の隅に置いておいた。

 

両手に購入した3本のペットボトルを持ち直した途端、誰かとぶつかった。

 

「あっごめんなさーい!!」

「こっちこそごめんなさい、ぶつかっ……」

 

聞いたことのある声に、灰原の耳が反応した。

 

「ん?灰原じゃねーか」

「江戸川君」

 

灰原のクラスメイトである江戸川コナンであった。

 

「悪ぃ。ペットボトル落としちまった」

「別にいいわよ」

 

1本だけコナンに拾われる。

 

コナンは言った。

「そういや、なんで灰原が病院に……?もしかして博士の健康診断?」

「違うわよ。けが人を連れてきただけ」

 

「けが人ン?」

 

コナンは眉をひそめる。彼女の性格からして、親しい人以外を助けるなんて珍しいと思ったのだ。

 

「何?私が人助けだなんて珍しいって顔ね」

「いや、そういう訳じゃねぇけど…けが人って?どこにいるんだ?」

「博士と話してる。あの人」

 

灰原が指差した方向には菊花と阿笠の2人だ。コナンはそれを見て「あの女の人が?」と不思議そうに言った。

 

「家の前に倒れていたの。ひどい火傷を負ってたからそれで病院に来たの」

「! まさか…」

「それより、あなたこそ何でこの病院に?」

 

今度は灰原がコナンに尋ねた。彼の方こそ病院という一番似合わない場所にいる方が珍しい。

 

「蘭の母さんが入院してんだ。虫垂炎だったみたいでさ。今手術中」

「お大事にね」

「ああ。それより灰原、その人ってどんな人なんだ?」

「かなり変わってる人」

 

「変わってる人……ねぇ」

 

変わっている人といえば色々いるが、灰原にそう評されるなら少し気になる。探偵の血が騒いだ。

 

「話しかけてみっか」

「あら?気になったの?」

「バーロー。そんなんじゃねぇよ。ただ、博士と盛り上がれる内容が気になっただけだ」

 

阿笠の専門分野は工学系だが、多岐に渡る趣味があり、そんな彼と盛り上がれる人を見かけるのは珍しく、どんな女性なのか気になったのだ。決して組織の仲間かと思ったわけではない。

 

灰原はそんな探偵を見て、フッと笑った。

 

「来るなら1本持ってちょうだい。この体じゃ結構重いから」

「わーったよ」

 

残ったお金をポケットにしまい込み、菊花達の所に戻った。

 

 

 

 

菊花と阿笠が盛り上がっていたのは、今年度のレースについてだ。今年も鈴鹿でF1グランプリを行うらしく、阿笠イチオシの選手が出場するらしい。仕事の延長で、車について覚えている時にF1グランプリに足を運んだ菊花としては面白く、楽しかった。

 

今期注目の選手について教えて貰っているところに、灰原が戻ってきた。

 

「哀君遅かったんじゃの」

「江戸川君がついてきたから」

「江戸川……?」

 

はて、そんな人はいただろうか。と菊花は疑問を持った。江戸川という知り合いは全く知らない。

 

「はい、お茶」

「ありがとうございます。あの、後ろにいるのは……」

 

菊花は灰原の後ろにいたコナンに気づいた。コナンは、灰原の後ろから出て、小学生らしい笑みを浮かべた。

 

「ボク江戸川コナンって言うの!!哀ちゃんの友達なんだ」

 

「そうなんだね。灰原さん、江戸川君と仲良いんですか?」

「そうでもないわ」

 

灰原は言った。クラスメイトだというのに、この塩対応。

いや、いささかクールを通り越していた。

 

「阿笠さん、この子のことは?」

「哀君のクラスメイトじゃからよく知っとるよ」

 

灰原のクラスメイトという事だが、阿笠が知っているというのは、阿笠邸によく来る子なのだろうな。と、菊花は思った。

 

「お姉さん、名前なんて言うの?」

 

コナンが首をかしげて尋ねる。灰原は興味が無いのか、近くの雑誌を取りに行ってしまった。

 

菊花は少し身を屈めて言った。

 

「私は楠よしのです」

「よしのお姉さんって呼んでもいい?」

「うん」

 

菊花が頷くと、可愛らしい人懐こそうな笑顔になった。

 

「お姉さんの隣座ってもいい?」

「いいよ」

 

菊花が肯定すると隣に座ってきた。そして、菊花について質問をし始めた。

 

「よしのお姉さんはどこか具合悪いの?」

「んー。ちょっと怪我しちゃったんだ」

「そっかー。でも、お姉さん、パジャマのままなんだね」

 

菊花は少しだけ冷や汗をかいた。『ちょっと怪我した』というだけなのに、パジャマで着ている人は少ない。母数からは外れている。

 

「それに、お姉さん、ちょっと怪我したって言ってたけど、すごく動き方がぎこちないね。筋肉痛?」

 

「あ、うん…そうかもね」

「不思議ぃ〜」

 

ニコニコと笑うコナンに、菊花は少しだけ冷や汗をかいた。グイグイ来る子だが、何か知りたいのだろうか。

 

 

「コナン君、携帯が鳴っとるみたいじゃぞ」

「え……?あ、本当だー!!じゃあまたねー。よしのお姉さん」

「あ、じゃあね」

 

阿笠が指摘すると、コナンが震える携帯に気がついた。電話の主をを確認するとたちまち目を開き、慌てて小走りで上の階へと向かっていった。

 

阿笠が助け舟を出してくれた。

 

「あ、すいません。有難う御座いました」

「いや、いいんじゃ。コナン君は知りたがりじゃからな。楠さんの傷を見たら気になるからの」

「はは……」

 

「江戸川君、いつもあんな感じなの。気分を害したようならごめんなさいね」

 

「あ、灰原さん」

 

灰原が戻ってきた。

手に持っているのは糖尿病患者向けの料理本だ。

 

「いえ、そうでもないですよ。それ、糖尿病患者向けのレシピ本ですか?」

「参考になるかと思って」

 

「わしは味濃いの食べたい……」

「駄目よ。高血圧に入りそうなんだから。我慢なさい」

 

「とほほ…」

 

 

 

 

 

会計がやっと回ってきたので、手早く支払い、処方箋も貰っておいた。

これで、阿笠邸に戻れるが、先程から騒々しい。

 

「どうしたんですかね」

「……事件かしら」

 

江戸川くんがいるし。 ポツリと灰原が零した。

 

「阿笠さん確認してきてくれませんか」

「お安い御用じゃ」

 

胸騒ぎを覚えた。菊花は阿笠に騒々しさの原因を、阿笠にお願いした。

5分ほどして戻ってきたが、険しい顔つきだ。

 

「どうでした?」

「殺人事件が起きておったよ」

 

「それはまた……」

 

病院で殺人事件だなんて、不吉すぎる。菊花は両目を手で覆い隠した。

 

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