ハリポタ世界に双子転生したった 作:島国の魔法使い
私と――
俺は――
産まれた時から魔法が使えた。
一卵性双生児の俺たちは……聞くたびに一卵性ソーセージって頭に浮かんで、目玉焼きとソーセージが皿に盛られた朝の朝食風景が目に浮かぶ……おい、話の最初から腰を折るなよ馬鹿!……ごめんごめん、つい……ついじゃない、黙ってろ、説明は俺の役目だろ?……分かってる分かってるよ、ちょっとしたお茶目じゃん。ほらはい、お口チャック!……よし、もう一回初めからな。
俺たちは一卵性双生児だ。先に母親の体内から出た方を兄、後から出てきた方を妹とすると、今説明しているのは兄である俺だ。もっとも「ほとんど時間の差もなくつるつるんと出てきた」と母親は笑って語ったので、特にどちらが上だ下だと揉めたりすることはないが、性格的にも俺が兄の役割を持っている。……え、何それ初耳だよ!っていうかどっちが上とか下とかなにそれエロい……お前口チャックどうしたんだよ?……あ、そっか、お口チャック!
全く。ええと、そういう訳で俺達は双子だ。双子というのはアニメや漫画じゃ割と不思議な力を持っていたりするもんだが、普通の双子はただ容姿が似てるってだけのただの兄弟だ。……私は妹だよ?弟じゃないよ?……お前いい加減にしろ、口縫い付けるぞ!
ったく、俺達は兄妹で、そんでもって双子で、さらに普通じゃなかった。そう、アニメや漫画みたいな双子だった。もっと言えば、魔法が使えた。とはいえ大げさなものでもなくて、テレパシーみたいなものだ。……ちょっと待って、あのね、テレパシーは超能力だよ。超能力の中でもPKの分類的に……黙れってば!
ああ、もう、お分かりいただけただろうか?っていうかもう分かってるよな。さっきから俺が真剣にモノローグ紡いでるのを邪魔するこの『妹』の声こそ、テレパシーみたいって言った俺たちの魔法だ。超能力とか今騒いでたが、もちろんこれだけじゃない。他にも、危険を察知した時に虫の知らせの様にお互いの状況が分かるとか、片方が怪我をしたらもう片方にも同じ傷が出来るとか……やっぱこれ魔法じゃなくて超能力の一種じゃないかな?シンクロって事でしょ。それに双子だとよくある事ばっかりじゃない。……お前の言うよくある事は二次元限定の事ばっかだろうが。現実には起こらないんだよこういうことは!……ええー?でも、よくあるから起こってるんでしょ?現にほら、今だってこれ転生したとか今時驚く事柄でもないよ?……お前の中ではな!ならないの、普通!生まれ変わったら読んだ事がある本の世界に生まれ変わるとかないから。しかも前世の記憶があるとかいう時点でアウトだから!……何がアウトなのかよく分からないけどさぁ、まあ、あれだよ。早くホグワーツ通いたいよね!……呑気過ぎだろ本当お前。
「あら、今イヴが笑ったわ」
「それに比べて、アダムはしかめっ面だな……ほら、よしよし」
父親が木の枝みたいな杖を取り出して振り、俺をひょいひょいと空中で揺すった。止めろ馬鹿!まだ首が座ってないんだぞ、そんな乱暴に揺らすやつがあるか!……いやぁ、魔法使いって乱暴だよね。ってか、イギリス人だからかもよ。ああ、単に両親が大雑把って線もあるか。……この間俺たちを見に来た親類も滅茶苦茶だったろうが。……んー、じゃ、あれかな、大雑把な血筋なのかもよ?だって私たちの名前、アダムとイヴだよ?適当過ぎるだろマジ笑えるぅー!……なんで今最後ギャルっぽく言った?……なんとなく?
「ふふふ、本当に可愛い、私の子供たち」
「僕たちの、だろう?」
「ええ、ごめんなさい。私たちの子供たち、ね?」
両親が頬を寄せ、ベビーベッドに寝ころぶ俺たちを覗き込む。父親は茶色の瞳に赤い髪をした……ちょっとちょっと、もうちょっと詩的にいこうよ。パパはローストビーフの外側の様なよく焼けた牛肉色の深い瞳と、熟成させた高級赤ワインの様な髪をしている。でもってママは、必殺仕事人のワイヤーのごとく美しい銀の髪を後ろで一つに束ね、真夏に喉を通るサイダーの様に爽やかな薄水色の瞳をしていた。ドヤッ!……その表現でドヤ顔するお前の気持ちがよく分からねぇよ俺には。詩的って意味を辞書で引いて来い。
ともかく両親は微笑んでいた。俺たちは愛されてる。夫婦仲も良い。幸せなイギリス魔法界の家族ってわけだ。……今のところはね。……そうだな、今のところは。
少し前、俺たちは日本で暮らしていた。ところがある日交通事故で死んだ。もうすぐ三十路の魔法使い一歩手前だったのにだ。……ねえねえ、なんで女は三十路になるまで純潔守り抜いても魔女にならないのかな?やっぱ股間に魔法のステッキを持ってないから?……お前の事を純潔って表現できるなら、きっと『名前を言ってはいけないあの人』は聖人君子だろうよ。……どういう意味よー、処女膜守り抜いて来た妹に向かってそれはないわー。……そのセリフが出るお前の方がねえよ。
ともかく、お互い1人暮らしをしていたので、久々に兄妹で飲みに行った帰りだった。美味しいローストビーフとワインを堪能してちょっと酔ってたが、ふわふわして気持ちいいくらいのかわいいもんだった。……なんで俺と付き合ってくれる美人や可愛い子がこの世にいないんだって管巻いてただけだよねー。……お前だってなんで三次元の人間は二次元の人間と結婚できないんだとか訳の分からない事を喚いてたろ!……とにかく二人でふわふわ帰ってたら、仕事帰りのお父さんを迎えに来たらしい親子がいたんだよね。美人の奥さんに、可愛らしい女の子。3歳くらいかな?……多分な。
道路挟んで「パパー」って女の子が手を振って、父親も手を振り返してた。嫌な予感はしたんだ。……予感なんてもんじゃないね。私は確信してたよ。あ、これ事故るやつだって。完全にフラグ立ってたもの。……現実にはそんなもんない、と言いたいところだけどあれは俺も嫌な予感がした。で、大型トラックが走って来るのが見えて本当に嫌な感じがした。……あとは皆さまご想像通り、女の子はお母さんの手を振りほどき道路に向かって走り出し、恐怖に固まったご両親に舌打ちして私はそこに突っ込んだ。予想外だったのはお兄も突っ込んで走ってたって事かな。私が女の子を守って死んだ暁には、私の代わりに甲子園を目指すか、もしくは私が生き返るために霊界の獣が孵る卵を温めてもらう予定だったのに。……三十路手前でどうやって甲子園に行くんだよ。いいとこグラサンかけて鬼コーチ役くらいしか出来ねぇよ。あと、俺は何があってもお前にキスはしない。絶対にだ。……えー、そんなに拒否しなくても。私だってしたいわけじゃないけど。……話を戻すぞ。
女の子を父親側に突き飛ばす事には成功した俺たちだったが、さすがに大型トラックに轢き殺された。そして次に目が覚めたら、動く事すらままならない赤ん坊だった。……あはは、お兄のあの慌てた声、大爆笑だったわ。……ちょっと狼狽えた俺は、まあ、驚きの声を上げて、すぐに妹の声に我に返った。……そして私がそっと教えてあげたわけですよ。周り見てみって。
首も動かない状況だったが、天井を浮遊するぬいぐるみは見えた。テグスか何かで天井に吊るすとかシュールだなって思った。でもって、次の瞬間、木の棒を持った女性に引き寄せられて宙を浮かんだ。正直泣いた。……ギャン泣きだったね。ちょっと引いたわ。でもそれでようやくお兄は自分が赤ん坊に生まれ変わった事に気付いたんだよね。……生まれ変わってもこいつと兄妹って事に絶望しかけたわ。なんでだよ、もっと可愛い妹か美人の姉が欲しいです神様。……ママは美人だからいいじゃん。パパもカッコいいし。あれ?って事は私も美少女に生まれ変わっちゃうんだからあいやいやーなんじゃない?私は今世に文句ないかな、いずれ魔法も使える訳だし。……そう、その魔法だ。
生まれ変わって、現在の両親が魔法使いだというところまでは納得したくはないが受け入れざるを得なかった。でも、この間親戚らしき連中が来て話していた内容に俺は耳を疑った。……え、なんで?私は「あっ、聞いた事ある!」って楽しかったけど。『名前を言ってはいけないあの人』だとか『死喰い人』だとか『ダンブルドア』とか!……極めつけが『ポッター家』に息子が生まれた、だった。混乱するだろ、普通。……だから、なんで?これもう原作知識有りの異世界転生もので決まりじゃん。ハリポタ転生で、お決まりのハリーと同級生ルート確定のやつじゃん。……それをしれっと受け入れるお前の方がどうかしてるんだよ。おかしいだろ、本だぞ?ここ、本の世界ってことなんだぞ?……やったぁ、ついに二次元の人間と結婚出来る!でも私、ハリポタに推しはいなかったんだよなあ。どうせなら違う世界が良かった。……ホントもう、お前おかしい。
深々とため息を吐く赤子の俺の横で、キャッキャッと赤子の妹の笑う声。死ぬ前の名前も覚えているが、今の俺はアダムで、こいつはイヴ。イヴってキャラじゃないと思うんだが。まあ、言っても仕方がない。俺たちはここに生まれた。じゃあ、ここで生きていくしかないよな?……他にやることある?まあ、人生楽しんだもん勝ちだよ、お兄。