ハリポタ世界に双子転生したった 作:島国の魔法使い
イギリスのクリスマスってどんな感じだ、と迷走してたら遅くなったうえに長くなった。
あと、プリンはプディングの一種ですので、プリンはプディングですが、プディングはプリンじゃありません(混乱)
うちの両親はお互いを深く深く愛していた。結婚して子供が出来てもバカップルのままだった。暇があればいちゃついていたし、四六時中「愛している」と言い合ってはちゅっちゅしていた。……赤ん坊には分からないだろうと思ってか、目の前で濃厚なラブシーンが繰り広げられることもしばしばあったね。……あったな、そんなことも。寝返りもできない赤ん坊の時に、音声だけお楽しみくださいを何度やられた事か。……ママってば案外激しくて、情事の最中にパパの上で……ストップ!止めろ!それ以上は止めるんだ!
思い出に浸っていたらうっかりR15を超えかけた。危ない危ない。
俺は姿現しで家の前に来てもなおくっついて離れない父上を引きずりながら、自宅の玄関から居間に移動する。すぐさまハウスエルフのマーニーがやって来て、俺を歓迎してくれた。ああ、帰って来たって実感するなぁ。
「アリスお嬢様!おかえりなさいませ!マーニーは信じておりました、きっとお嬢様がいつかお帰りになると……!」
「ああ、アリス……いやアダム。いやもうどちらでもいいよ僕の愛しい人!」
どっちでもよくないです目を覚まして二人とも。……なんせしばらく会ってなかったからなぁー。
「ただいま、マーニー。親切に教えてあげると、今貴女が抱きしめているのは私の兄、汚らわしきグリフィンドール寮の血が混ざったアダム・キャロルの足よ」
イヴが帽子を脱いで告げた言葉に、マーニーはハッと顔を上げた。俺と目が合うとみるみるうちにその顔は歪み、汚いものを触ってしまったと言いたげに離れて体を叩きはじめた。うん、いつもの事だから別にいいけどさ。そんなバイキン触っちゃったみたいにしなくてもさ。エンガチョして走り去らなくってもさぁ!
「そしてパパ、いい加減にしないとママに言いつけるよ?息子と妻を見間違うダメな父親だって」
「イヴ!それはダメだ!もしも天国で再開した時にアリスに嫌われたら生きていけない!」
「いやいや父上、天国にいる時点でもう死んでるから」
父上は渋々俺から離れ、名残惜しそうに俺の髪を梳いた。前にも説明したが、俺の髪と目は母上譲りだ。……そして私の髪と目はパパ譲り。良く焼けたローストビーフの様な瞳に芳醇な赤ワインの……うん、その例えはもういいから。っていうかお気に入りなの?
ともかく、愛してやまない妻を亡くした後、父上は悲しみで死にかけた。……育児放棄したまま泣き続けて衰弱していくパパ。危うく孤児になりかけたし、なんなら私たちも死にかけた。……正直、あの頃俺たちが生きていられたのはマーニーのおかげだ。……赤ん坊二人と嫌いな男の世話を嫌々ながらもしてくれたマーニー。でもずっとこのままじゃダメだってのは分かっていた。……そこで俺達は、父上が死なない様にどうすればいいか考えた。そして。
『フィル、悲しまないで……私の分まであの子たちを愛してあげて。大丈夫、私はずっとあなたの側にいる。アダムの髪と目は、どうして私と同じ色なのか分かる?』
ある晩、泣き疲れた父上のところへ行き、俺は半分眠りかけた父上の前に立った。……そして私が精一杯ママの声音をマネして、そう語りかけた。私、結構ママの声と似てるのよね!……そう、お前が一言余計だったんだよ。おかげで父上は過剰なほど俺に母上を重ねるようになった。……おかげですっかり立ち直ったじゃない?……いくら美男子とはいえ父上は男なんだぞ。ああも毎回頬ずりされるのがどんなに悲しいかお前に分かるか?!……しょうがないじゃん、私ってばパパに似ちゃったんだもーん。……もーんじゃねぇよ全く!
因みにマーニーは母上が実家から連れてきたハウスエルフだ。……ママは聖二十八族ではないものの、それに連なるいいとこの貴族のお嬢様だった。パパと結婚したせいで勘当されちゃったみたいだけど。貧乏グリフィンドールが深層の令嬢を誑かして孕ませたって、代々スリザリン出身者しかいないママの一族は激おこぷんぷんした。……なんとこんなところにもグリフィンドールとスリザリンの亀裂が。……できちゃった婚に寮は関係ないよね!って言いたいけど、できちゃった婚の夫婦のうち片方もしくは両方がグリフィンドール寮出身の確率はなんと八割近いというデータがこんなところに。……週刊魔女の記事なんて俺は信じないぞ!でもちょっと本当っぽいと思っている俺もいる!
とにかくそんなわけで、マーニーは父上及びグリフィンドールを嫌っている。そして母上の事はとても好きだ。……ママが亡くなった時、マーニーも酷く悲しんだ一人だった。そして今もその悲しみは続いている。時折お兄をママと見間違えて、さっきの様になることもよくあった。……なんとかしてやりたいんだけどな。俺嫌われてるからなぁ。……ふふふ、そこでこのイヴちゃんの出番ですよ。なんと今年から私には『スリザリン寮生』という肩書がついているからね!これで一気にマーニーとお友達になる!……でもお前、父上に色が似てるからなぁ。……それなんだよねぇ。人生ままならない。
「そういえばパパ、セロン叔父さんたちはいつ来るの?」
夕食の席でイヴが尋ねる。
「明日だよ。クリスマスディナーに合わせて来るはずだ」
父上は豆をフォークに乗せてそう答えた。俺は父上お手製のコテージパイを口に運びながら内心首を傾げる。
セロン叔父さんは父上の母の兄の息子。父上とは従兄弟になる。……ようは親戚って事ね。……大雑把に説明すればな。そのセロン叔父さんだが、母上が亡くなって以来家に来たのは数えるほどだ。……大体が玄関で要件をすませて帰るか、中に入ってもお茶を一杯飲むくらいの時間で帰っちゃうから、あんまり話をしたことないよね。……そのセロン叔父さんが、なんだって今年クリスマスを一緒に過ごすことになったんだ?……分かんないけど、セロン叔父さんの息子のシムも今年一年生でしょ?それが何か関係してるのかもね。
疑問はあったが、久々の家族の団らんだ。親戚とはいえ、明日はお客様が来るとなれば家族水入らずの会話は今日を逃すとしばらくない。夕食を進めながら、俺とイヴは順番にホグワーツであった出来事を父上に話していった。ハリーの話になると、父上はハリーの父であるジェームズ・ポッターの話を少しした。同じグリフィンドール寮の後輩でみんなの人気者だったという話だが、話しぶりから父上はそれほど好きではなかったようだ。逆にネビルの話になった時には、何を思い出したのか泣き笑いの様な顔をして目頭を押さえた。何かと尋ねてもはぐらかされるだけで、俺は何度も首を傾げた。
その後、今度はイヴが話した。組み分けの後、イヴがスリザリンでどんな生活をしているのか知らなかった俺は、初めて聞く話に相槌を打つ。
「ルシウス・マルフォイの息子と仲良くしているのかい?」
ずっと微笑みながら話を聞いていた父上が、寮の友人関係の話になった途端に片眉を上げる。イヴはそれに肩をすくめた。
「まあまあね。良くも悪くも、ただの同寮生よ」
「だが…………いや、そうだね。イヴの立場を考えれば、それも仕方がないか」
父上は反論しかけるが、すぐに考え直してそう言った。苦い表情ではあったが。
「僕は君たちを信頼しているよ。自分で正しい道を選ぶ事が出来る子たちだと。けれどまだ子供だ。だから親として忠告をさせて欲しい」
父上はそう前置きをした後、イヴを、そして俺を見つめる。
「僕もアリスも、君たち二人を愛している。何があっても、どこにいても。だから、間違いを恐れないで正しい道を進むんだよ。何が正しいのか迷った時は、僕を頼ってほしい。決して、何を聞いても、君たちを嫌いになったりすることはないから」
真面目な顔で、真っ直ぐにそう伝えられる。……イケメンに真摯に見つめられると死にそうになるね!……うん、本当にね、お前は残念な妹だな!……なんで?呼吸を止めて一秒真剣な目で見つめられたら死ぬってのは常識でしょ?……どこの国の常識?!
「さ、話の続きを聞こう。談話室での様子は聞いたから、今度は女子寮の話を聞こうか。言いたくない事は、言わなくていいからね」
眼差しを真剣なものから優しいものに変え、父上がイヴに促した。イヴはそれに微笑みを返して、そうね、と口を開ける。
「スリザリン寮は、優しい緑の光に包まれた場所だっていうのは言ったでしょ?寝室もそう。アンティークの大きくて立派なベッドには、緑の天蓋がついてるの。絹で出来てるのよ。ベッドのシーツも手触りが良くて、繊細な銀の刺繍が施されてとても綺麗よ。ママのハンカチに、銀の刺繍の入ったものがあるでしょ?あんな感じの」
ふーん、と俺はそれを聞いていた。陰気でじめじめと暗くて寒い場所かと思っていたが、案外そうでもないらしい。日の光が入らない湿気た場所なのは間違いなさそうだが、それを言えばグリフィンドール寮だって毎日毎日アホほど階段を上り下りさせられるし、城の天辺なので大雨の日なんて雨が屋根に叩きつける音がやかましくて仕方ない。家具も、グリフィンドール寮のものはアンティークっていうか、ただ古いだけだしな。味があって俺は好きだけど。
「寝る前には、部屋のみんなとお茶を飲みながらお話したりするの。日替わりで色々飲むんだけど、最近はローズヒップにハマってて……」
いいな。女の子の睡眠前のお茶会か。パジャマでリラックスしながらキャッキャしてるのかと思うと癒されるな。……パグ犬のパジャマ姿でも?……やめろ、俺は今ダフネちゃんのパジャマ姿を思い浮かべてんの!……大体、キャッキャウフフと話してる内容って「くたばれグリフィンドール」「ドラコ超かっこいい」「あいつは穢れた血」の三本です。来週もまた見てくださいね。じゃん、けん、ぽん!うふふふ!だけど。……なんでサザエさん?あと、そこに「アダム君超かっこいい」も入れて欲しい。……無茶言うなし。
その後も、ホグワーツでの色んなことを俺達は父上と話した。授業の話や、食事の話。……先生の話とかね。パパの学生時代から変わってない先生の事とか、とっても盛り上がったね。……まさかフリットウィック先生がそんなに強かったなんて。マスコットキャラ的存在だと思ってたのに。……私としては、あの優しいパパの口から「幽霊の喋る事に意味を見出すのは無駄だから教科書を読んだ方が早い」って言葉が出た事に驚いたけど。……父上も俺たちと同じ学生だったんだなって、なんかすごく実感したわ。……私も。
――夜。靴下をセットした後、自室のベッドに潜り込むと、寮とは違う天井に違和感を感じて笑ってしまった。……分かるー。私も天井が緑の布で仕切られていない事に違和感を感じてるよ。……正直、最初の頃はこれから寝るのに興奮色の赤色なのはいかがなものかと思っていたのにな。……その睡眠学習的刷り込みのせいで、グリフィンドールはやたら血の気が多い直情型お馬鹿さんが多いのかもね。今度グリフィンドールを貶める話のネタに困ったら使おう。……寝る前のお茶会の?もっとふわふわ可愛い事話してくれよ!夢くらい見させろ!……ダフネのパジャマはもこもこネコさんの可愛いやつです。……あ・り・が・と・う、ございぃまぁあす!
くだらない話をしているうちに、意識がどんどんまどろんでいく。こうして妹がくだらない事を喋りかけてくるのは家でも寮でも変わらないなと、俺は安心していいのか悲しんでいいのかと悩みつつ意識を途切れさせた。
翌朝、目が覚めると俺は上着を羽織って自分の部屋を出た。
「おはよう、アダム。イヴはもう起きてプレゼントを開けているよ」
父上の言葉に小さなビニール製のクリスマスツリーを見ると、その側に座り込んで丁寧に箱を開けているイヴがいた。
「おはよう、お兄。メリクリー」
「ああ、おはよ。メリークリスマス。……なんちゅう顔してプレゼント開けてるんだよ」
しかめっ面で一個一個を確認するイヴに、俺は呆れた顔をする。
例年、5つくらいが平均して送られてくるクリスマスプレゼントだが、今年はプレゼントが小さな山になって積まれていた。ざっと見て10個以上はありそうだ。ホグワーツの友人たちから送られたものがあるせいだろう。普通の子供なら喜色満面でプレゼントに突撃するものを、しかめっ面しているのはどういう事だ。
「別に、なんでもない」
なんでもないという顔じゃなかったけど、と思いながらイヴの持っているものを見る。白い小さな花だった。茎の先端がお辞儀をし、その先に白く小さな花のつぼみが下向きになっている。イヴが軽く揺らすとキラキラとつぼみが光り、粉の様なものが落ちる。しかしそれは途中で消えた。魔法で光が降る細工なのか。へえー、キザー。しかもよく見れば、手で持ったところにリボンが結ばれている。深い緑に銀の刺繍とレース。こっちが本当のプレゼントか。お高いリボンだな、あれは。
「人のプレゼントより、自分のプレゼントを開ければ?」
「そうだな」
言われて自分宛てのプレゼントを手に取る。昨日置いておいた靴下の側の箱は、ファザークリスマス、いわゆるサンタクロースからのものだ。中はお洒落なネクタイピン。赤い石のついた金のそれは、間違いなくグリフィンドールを意識したものだろう。ちらっと父上を見ると、バチっと目が合う。
「ファザークリスマスから何をもらったんだい?」
「えっと、お洒落なネクタイピン。学校でさっそくつけます」
「アダムの制服に、それはよく映えるだろうね」
俺は頷いた。カッコいい事間違いなしだ。俺は父上のセンスが良い事を感謝した。
「イヴは何をもらったんだ?」
「え?ああ、私はこれ。可愛いでしょ?」
イヴが胸元を指差す。銀細工のブローチ。薔薇と蝶がモチーフのそれは、緑のステンドグラスで色がついている。他の色は使わず緑の濃淡だけで表現されたそれは、落ち着いた雰囲気で品が良い。さすが父上、じゃなかった、ファザークリスマスさんだ。
父上は俺達がプレゼントを開けていくのを微笑みながら見守っている。嬉しい反面、なんというか恥ずかしい。プレゼントをもらうのはもちろん嬉しいのだが、嬉しそうにプレゼントを開けている自分の本当の年齢を考えるとなぁ。……中年のおじさんがプレゼントに囲まれてにこにこしてても、別になんら問題ないと思うけど。エロ本片手にうへうへしてるわけじゃないんだし。……いやまあ、そう言われるとそうなんだけどな?
友人たちからのプレゼントの大半はお菓子だった。ファッジやチョコ、飴やグミといったカラフルなお菓子が並ぶ中、ハーマイオニーは安定の本だった。植物の見分け方を写真入りで細かく解説してくれるやつだ。因みに、ネビルからも本をもらった。こっちはもっと子供向けの植物図鑑だ。どれだけ薬草学を心配されてるんだよ俺は。
それぞれ全てのプレゼントを開け終わった後、俺達はクリスマスパーティーの準備に取り掛かった。父上はやはり張り切っていて、セロン叔父さんが来ると分かった日からクリスマスプディングを用意していた。今年はショートケーキはお預けか。……お兄は昔思いっきりコインを噛んで歯が欠けてから、クリスマスプディングが苦手なんだっけ。乳歯だったんだし、そろそろ忘れちゃいなよそんな苦手意識。……ケーキ食べてて歯が欠けたんだぞ?しかも、口から欠けた歯と血とお金が出て来たんだぞ?めっちゃ怖かったんだからな!……もう誤飲する歳でもないしって仕込んだのは良いけど、「コイン入ってるよ」って言い忘れちゃうパパがすごくパパっぽい。……何言ってるか分かんないけど分かる。……どっちなの?
過去のクリスマスの思い出に浸りながら、飾り付けや料理の準備を進めていく。途中、お茶の休憩を入れつつ、俺達はクリスマスパーティーの準備を終えた。あとはセロン叔父さんを待つだけだと思った瞬間、まるで計った様にチャイムが鳴った。
「やあ、アダムとイヴ!大きくなったね」
セロン叔父さんは大きなお腹を揺らしながら、その柔らかな肉に俺達を抱きしめた。同じ柔らかいなら女性の胸にでも埋もれたいと内心で思いつつも、俺もハグを返す。父上と同じ赤い髪だが、セロン叔父さんは父上の髪より少し暗い。……乾いた血の色っぽいよね。……なんでそういう表現になるのかな?!
「シム、こっちに来てお前も挨拶なさい」
叔父さんが俺たちを解放して振り返る。静かに入って来たシムは、叔父さん譲りの赤い髪を短髪にした、ガタイの良い少年だ。……グラッブとゴイルに通ずるものがあると思わない?……あー、まあな。シムの場合は柔道とかやってそうだよな。
「っス」
素っ気ないシムの挨拶に、俺は笑顔で「久しぶり」と応えた。イヴも「いらっしゃい。元気だった?」と微笑みを向ける。シムはそれに「まあ」という返事を返す。もうちょっと会話を弾ませたいところだが、俺は彼と会話のラリーが続いたためしがない。
「いやいや、うちの息子は寡黙でね。気を悪くしないでくれよ?」
「大丈夫だよ、セロン。うちの子たちは気にしないさ。さあ、中に入って。……ビアンカの姿が見えないが、遅れて来るのかい?」
「ああ、その事なんだが……」
父上の疑問に、セロン叔父さんは頭を掻いた。
「ビアンカは体調が悪くてね。すごく来たがっていたんだが、残念だよ」
「ついていてあげなくて大丈夫なのか?」
「ああ、安静にしていれば問題ないさ」
「そうか……。会えないのは残念だが、そういう事なら今年は僕たちだけで楽しむとしよう。こっちだよ」
父上は手招きをして、二人を部屋に案内した。テーブルはすでにクリスマスをイメージしたテーブルクロスや飾りつけで覆われている。特別な時のための銀の食器と、クリスマスクラッカー。部屋中に漂う香辛料と美味しそうな料理の焼ける匂いに、セロン叔父さんは待ちきれないという顔で椅子に座った。シムもその隣に座り、不愛想ながらもソワソワした様子で台所を窺う。
俺がそっとビアンカ叔母さんの席を片付けると同時に、イヴが前菜を運んで来た。野菜スープとサーモンのマリネが、まずは並べられる。
「じゃあ、用意はいいかな?」
父上が尋ね、俺達は頷く。
「ハッピーメリークリスマス!」
父上が言うと同時に、全員が「ハッピーメリークリスマス」と声をそろえた。俺はクラッカーを二つ持ち上げ、父上とイヴにそれぞれ反対側を向けた。いまだにクラッカーって言うと円錐型の紐がついたものを想像するけど、ここじゃ円筒形で、キャンディみたいに両端を捻った形をしている。……で、この捩じった部分をお兄と私が両側から引っ張る、と。
大きな音と共に紙吹雪が舞う。と同時に、色んなものが飛び出した。ぴょんぴょんと四方八方に飛んでいく蛙チョコ。バチバチと音を立ててカラフルな火花が散るのはゾンコの悪戯グッズの一つかな。入学式で見たダンブルドアの魔法。それに似た金のリボンに紛れてひらひらと舞う紙きれをキャッチする。『妻に似たとても素敵な動物がいたので、名前を尋ねてみたんだ。そうしたらこう答えたよ。「あ、リスです」ってね!』と書かれていた。駄洒落だ。……パパ、張り切ってるねぇ。……張り切っちゃってるなぁ。
向かいの席では、シムとセロン叔父さんが紙を覗き込んで微妙な顔をしている。父上お手製のクリスマスクラッカーは、ジョークが微妙なのが難点だよな。……しかも身内ネタっていう。……すごく微妙な顔だけど、あれ、何が書かれてるんだろうな。……イヴがイヴニングドレスを着てるとか、アダムが逆立ちして「無駄ぁ!」って叫んでるとか。……あり得るな。
一瞬微妙な空気が漂ったが、父上はにこにことしてクラッカーの感想を待っている。俺とイヴは転がり出た王冠を頭にのっけ、急いで拍手をした。それにようやくハッと我に返り、セロン叔父さんとシムも王冠を被る。
「思い出したよ。フィルは昔っからこういうのを作るのが好きだったな」
スープとマリネに手を付けながら、セロン叔父さんが呆れた様子を見せる。
「うちのクリスマスクラッカーに、いつも自作のものを紛れ込ませてた。初めての年は、失敗作だったな。危うく家が燃えかけた」
「兄さん、覚えているかい?クラッカーに蛙チョコを入れるアイディアは君からもらったんだ」
「覚えていないよ。いつの事だ?ちょっとタイムターナーで戻って、自分の口を塞いでくる」
父上に肩をすくめ、服についた蛙チョコの魚拓ならぬ蛙拓を擦る叔父さん。火薬と一緒に飛び出したせいで、蛙チョコは少し溶けていたらしい。俺とイヴは服よりも、叔父さんの額についた小さな蛙の手形の方が面白くてつい笑ってしまう。
ジョークは寒かったが、なんだかんだで場は温まった。俺達は前菜を食べ終わると、大きな七面鳥のローストを切り分けた。イヴが作ったクランベリーのソースと、父上の作ったグレイビーソースの2種類を好きに選べる。添えてあるのはジャガイモと芽キャベツとにんじんのロースト。それにウインナーにベーコンを巻くという、日本人だった時には考えもつかなかった肉ウィズ肉料理。焼いたフルーツもある。
それらに舌鼓を打ちつつ……あー、お酒が飲みたぁい……言うな。俺だってビールが欲しいよ!ともかく食事は進んだ。父上とセロン叔父さんの昔話を中心に、俺とイヴのホグワーツでの話、そしてシムの学校の話もした。
「シムはダームストラングに通っているんだって?」
俺が話を向けると、シムは短く頷いた。ダームストラングはヨーロッパの北にあると噂される魔法学校だ。実際どこにあるのかは分からないようになっているとか。……なんでも、学校から出る際には忘却術にかけられるそうよ。……はえー、徹底してるんだな。
「ホグワーツからも入学許可証は届いたんだがね。ビアンカがダームストラングに入れると言って聞かんかった」
セロン叔父さんがグラスを片手にそう言った。口ぶりからして、叔父さんは自分の母校であるホグワーツに入れたかったのだろう。シムはどう思っているのだろうと見たが、表情から気持ちを窺う事は難しい。……むっつり系男子。……それだとシムがむっつりスケベみたいだから止めてやれ。
「ビアンカはダームストラング出身だったね。息子に入学を進めるんだ、きっと良いところなんだろう」
「だがなあ、フィル……今年はホグワーツにあのハリー・ポッターが入学する年だった。折角だし、やっぱりホグワーツに行かせてやりたかったんだよ」
「父さん、今さら言ってもしょうがない。それに俺はそのハリーって奴に興味はないよ」
シムが軽く管を巻くセロン叔父さんにきっぱりとそう言った。
「例のあの人に関して、俺は良く知らない。その良く知らない相手から生き残った赤ん坊って言われても興味持てないよ」
心底興味なさげに七面鳥をつつくシム。意外だな、シムはクランベリーソース派なのか。イヴはポテトを口に運ぶのを止めて、叔父さんの話を逸らした。
「叔父さんは、そのハリー・ポッターの両親とは交流があったの?」
「ああ、父親は生意気な悪ガキどもの一人だったな。母親は、魔法薬学の……そう、スラグホーンのお気に入りだった。マグル出身のくせに、どういう訳か腕が良かった」
イヴが逸らした話の方向はあまり良くなかったようだ。俺は父上をそっと見た。表面上笑っているように見えるが、その実目が笑っていない。
「セロン、マグル出身なのは関係がないよ。ホグワーツでは皆平等に学び、成長するものだ」
「いいや、どうかな?ハッフルパフの落ちこぼれがいくら勉強したところで、俺のようなレイブンクローには敵うまい。マグル生まれだってそうさ。俺達選ばれた魔法族とはスタートからして違うんだ」
セロン叔父さんは酔っている。だが、だとしてもあまり聞いていて楽しい話題じゃなかった。シムは小さなため息を一つ落とし、俺とイヴに目を向けた。
「そろそろデザートじゃないか?外も暗くなってきた」
「あ、そうね!私持ってくる」
イヴが立ち上がり台所へ向かう。シムも話題と空気を変えたかったらしい。俺はシムに感謝したが、しかし叔父さんは止まらなかった。
「しかしフィル、まさかお前の娘がスリザリンとはな。狡猾で残忍、高慢な寮だ。気を付けるんだな、今はまだまともみたいだが……その内悪い影響を受けるぞ」
セロン叔父さんとはあまり深く話したことはなかった。お酒の席で話をしたことがないというのもあるかもしれない。だが、俺は何故今までセロン叔父さんがうちに泊まる事がなかったのかを理解した。
「残念だよ、セロン。久しぶりに連絡をもらって、僕は嬉しかった。だけど君は相変わらずなんだね」
父上が立ち上がってそう言った。叔父さんはどうしたんだと言いたげに父上を見上げている。
「アリスはスリザリン出身だった。僕は今も彼女の事を誇りに思っているし、娘の事も立派な子だと思っている」
俺は座ったまま、状況が呑み込めていない叔父さんを見つめる。イヴはクリスマスプディングを抱えたまま、どうしたものかと成り行きを見守っている。シムは自分の父親を眉をしかめて見ながら、席を立った。
「帰ろうか、父さん」
「なんだシム、急にどうした?まだクリスマスプディングを食べていないぞ?」
不思議そうな顔をするセロン叔父さんの腕を引いて立たせるシム。イヴはそんな二人と父上を見た後、台所に引っ込んだ。
「シム、セロンは酔っている。万が一と言う事もあるし、私が送ろうか?」
父上の言葉にシムは首を振った。
「父さんは失敗しないよ。それに、うちに来ない方がいい。母さんは叔父さんに会いたくないそうだから」
「おい、シム!」
叔父さんが声を上げる。ビアンカ叔母さんが体調不良と言うのは嘘のようだ。セロン叔父さんはなにやらブツブツと言っていたが、帰るしかないようだとようやく察してコートを手に取った。
「全く、ちょっとした冗談じゃないか。お前の頭が固いのは治ってないようだ」
「セロン兄さんの頭が固いのも、相当だと思うよ」
父上が言った。お互いしばらく目を合わせた後、セロン叔父さんはシムに行くぞと声をかけて玄関へと向かう。
「あ、シム待って。これ持って行って」
イヴが走って来て、シムに包みを手渡す。シムは少しの間の後、口元を緩めて笑い、そして俺とイヴに近づいてそっと小声で言った。
「ありがとう。俺、シュートレンよりこっちの方が好きなんだ」
今度手紙を送ると言って、シムはセロン叔父さんの方へ駆けて行った。俺とイヴは手を振り、二人がバシッという音と一緒に消えるのを見送る。……意外。シムって笑うことあるんだ。……そりゃ笑うだろ、と言いたいが俺も同意見だ。
「悪かったね、二人とも。せっかくのクリスマスディナーなのに。……シムにも悪い事をした」
叔父さんが消えた空間をしばらく眺めた後、父上が嘆息してそう謝って来た。
「大丈夫です、俺もあまりいい気分じゃなかったし」
父上は俺の頭を無言で撫でる。そしてイヴを抱きしめた。
「悪かったね。クリスマスを一緒に過ごそうと言ってきたから、てっきりああいう偏見は改めたのかと思っていたよ」
「パパ、気にしないで。あんなのよくある事だし」
その言葉自体どうかと思うが、イヴはあっけらかんとそう答え、それよりもと父上に微笑んだ。
「クリスマスプディングを食べましょう?半分になっちゃったけど、フランベして、今年はお兄がカスタードクリームを作ってくれてるから、それを添えて……ね?」