ハリポタ世界に双子転生したった   作:島国の魔法使い

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年末年始は人のパソコンを覗き込む輩がいるのでちっとも書けなかったぜ。

ラブライブ映画観てきました!面白かったよ!
ツッコミどころ満載で面白かったよ!

っていうかツッコミしかない。



思い込みは良くない。あらすじと絵柄で決めつけるのも良くない。たまたま流し観ていたアニメで、生涯の推しに会う事だって世の中にはあるのだから!

 何とも言えないクリスマスの二日後、シムから手紙が届いた。それを読んで、俺はさらに何とも言えない気持ちになってしまった。……私も。

 

 父上とセロン叔父さんの仲があまり良くないのは知っていた。だが、それがどういう理由かまでは知らない。父上はそういう事を俺達に話さないからだ。だが、叔父さんの方はそうじゃなかったみたいだ。シムは普段から父親のそういうところが嫌で、あまり顔を合わさないようにしているらしい。今回、クリスマスに一緒にうちに来たのは、この事態を心配しての事だった。……シムって何考えてるか分からないぬぼーっとした筋肉馬鹿かと思ったら、まさかのめっちゃ良い奴だったわ。……褒めてんの?けなしてんの?……え、褒めてるでしょ?

 手紙で父親の言動や態度を謝罪し、シムは嫌でなければ文通しないかと誘ってきた。もちろん、俺はオッケーした。……シムはダームストラングに通っている事を、私たち家族が誰も非難しなかった事が嬉しかったと書いてた。普段から叔父さんに散々コケにされてるみたいね。……ホグワーツに通わせたかったって言ってたしな。そういや、叔父さんがわざわざうちに来たのって、ハリー・ポッターの話が聞きたかっただけだって?……手紙にそう書いてたわね。……どうりでハリーの事すっごい聞いて来ると思ったよ。

 

 

 

 

 結局、家族だけの休暇をゆっくりと過ごし、俺達はホグワーツ特急で学校に戻った。途中、イヴはスリザリン生の集まるコンパートメントへ移り、俺は俺で何故か美女に囲まれていた。

 

「ふふっ、アダムってとっても可愛いのね」

 

 つん、と頬をつつかれ、俺はもじもじとしながら下を向く。いやいや、何コレ何が起きてんの?

 

「ね、年上は嫌い?」

 

「いえ、まさか」

 

「クッキー食べる?はい、あーん……」

 

「ありがとうございます……」

 

「あ、ちょっとズルい!アダムこっちも、ほらぁ、お口開けて?」

 

 えええ、何コレェ?!どういう状況なのぉ?!

 混乱する頭で俺は必死に差し出されるお菓子を口に含む。食べた食べたとキャッキャするのは、グリフィンドールのお姉様たちだ。

 茶の髪をポニーテールにしたアリシア先輩が、もう一つどうぞとクッキーを摘まんで差し出す。俺は先に食べたクッキーを急いで飲み下すと、その新しいクッキーを口に含んだ。それをアンジェリーナ先輩がドレッドヘアの黒髪を揺らして笑い、その隣では対抗意識を燃やしたケイティ先輩が私のも、と新しいクッキーを差し出す。それを笑いながら、じゃあ私もとリーアン先輩がくすんだ金の髪を耳にかけながら、反対の手でクッキーを摘まんでこっちに差し出した。そんなクッキーばっか食べられないよ?!……クラッカーよりは口の中パサつかなくていいじゃん。……急に喋りかけてきて気休めの慰めはいらないよ!口ん中パッサパサだよ!

 

 

 

「アダムはもうホグワーツには慣れた?」

 

 ケイティ先輩が尋ね、それをアンジェリーナ先輩とアリシア先輩がくすくすと笑う。俺は口に三つもクッキーが入っているため、頷く事で返事を返した。

 

「あなた、大広間に辿り着くのに精一杯だったものね」

 

「餓死していないところを見るに、順調に道順は覚えているみたいだけど」

 

 俺は初日の朝、彼女たちとした会話を思い出す。

 

「あの時はありがとうございました、先輩。おかげで道に迷ってもなんとか寮に辿り着けてます」

 

 なんとか口いっぱいのクッキーを飲み込み頭を下げた俺に、いいのよとアンジェリーナ先輩がウインクする。

 

「私も、絵に道を聞くといいっていうのは先輩から聞いたわ。きっと、代々こうやって受け継がれてきたホグワーツの伝統ってやつなのよ」

 

「そうそ、私もアンジェリーナから聞いたのよ。一年生の時はどうもお世話になりました、先輩?」

 

 ケイティ先輩が茶化すのに、リーアン先輩が思い出したように吹き出す。

 

「そういえばケイティったら、運悪く面倒な絵画に話しかけちゃって酷い目に遭ってたわよね」

 

「笑い事じゃないわ、リーアン!おかげですっかり遅刻して、スネイプに羊皮紙三巻き分も罰を食らったのよ?」

 

「運がなかったのね、ケイティ。ホグワーツの絵画にそうそう厄介な人はいないのに」

 

 笑いながらそう言ったアリシア先輩に、唇を尖らせるケイティ先輩。こういう女の子のワイワイは、心が癒されるな~。……運がない、ね。……ん?どうしたイヴ?……なんでもなーい。それより、その厄介な絵画ってもしかしたらカドガン卿かなぁ?……誰だそれ。……いずれ嫌って程会う事になると思うよ、お兄は。

 意味深な妹の言葉に首を傾げていると、先輩たちは俺そっちのけで新学期の話をし始めた。アリシア先輩とアンジェリーナ先輩は三年生、ケイティ先輩とリーアン先輩は二年生だ。寮の話は共通の話題だが、授業内容となれば個々に違ってくる。それぞれ話している内容を聞くともなしに聞きながら、俺はネビルとハーマイオニーの事を思い浮かべていた。

 本当はホグワーツに帰る列車の日時を合わせたかったのだが、ネビルはおばあちゃんの気分次第で予定は不明。ハーマイオニーは今日のはずだが、探しに来ないところを見ると、誰か他の人といるのだろうか。俺はぽつんと一人浮いた状態で、今度はクィディッチの話に変わった女子たちを眺める。本当、うちの寮は活発美人の多い事で何よりだ。

 

「アダムはクィディッチに興味ないの?」

 

 少し引いて話を眺めていた俺に、リーアン先輩が尋ねる。

 

「どうしてそう思うんですか?」

 

「目の前でクィディッチの作戦や練習の話が始まれば、皆キラキラ目を輝かせるものよ。特に、男の子はね」

 

「そうですね……」

 

 俺はクィディッチの試合の結果に一喜一憂している寮の様子を思い浮かべて苦笑した。

 

「興味ない訳じゃないんですけど、そこまで熱くはないかな。俺、箒は苦手だし」

 

「あら、そうなの?」

 

 リーアン先輩が意外そうな顔をして、あっという顔をした。

 

「そういえば聞いた気がするわ。今年の一年生に、変な箒の乗り方する子がいるって」

 

「それ、多分俺です。……昔っからなんでかああなっちゃって」

 

「ねえ、何の話?」

 

 いつの間にか俺とリーアン先輩の話に耳を傾けていたケイティ先輩たちが、そう言って割って入った。俺は恥ずかしさに頭を掻きながら説明する。

 

「変な乗り方ってどんな乗り方なの?」

 

「……逆さまになるんです」

 

「え?」

 

「だから、こう……ぐるんと回って逆さまになっちゃうんです」

 

 ――逆に聞きたい、皆はどうしてそうならないのか。イヴは太ももで挟めば回らないと言うが、ズボンと木の柄は良く滑る。どんなに挟んでいても、しばらくすればぐるりと回転して気付けば逆さに箒に乗っている。

 俺の言った事を理解した先輩たちは、大爆笑した。アンジェリーナ先輩はヒイヒイとお腹を抱えて座席をバンバンしている。埃舞っちゃうから止めて先輩。

 

「いいじゃない、後ろに女の子を乗せて飛ぶ時、上と下で見つめ合えるじゃない!ロマンティックね!」

 

 絶対思ってないと分かるアリシア先輩の慰め。想像したのか、アンジェリーナ先輩の笑いが更に加速して「お腹痛い!死んじゃう!」に変わっていた。ケイティ先輩も大爆笑中だが、リーアン先輩だけは笑ってはいるもののそこまで酷くなかった。

 

「まあ、得意不得意はあるものね。私はそんな風にはならないけど、後ろに人を乗せられるほど上手くはないから」

 

 選手に選ばれるケイティ先輩たちほど、箒に自信はないらしい。まあ、それでも俺に比べればまともに乗れるんだろうけどな。

 その後、箒に乗るコツやどうすれば回転しないか、もういっそ一回転してしまえばいいのではというのはアンジェリーナ先輩の案だが、ともかくそういう話で盛り上がった。というかほとんどからかって遊ばれていたわけだ。クィディッチの練習の前にでも一度飛行を見てあげると、にやにやと笑いながら言われたのは、多分実際に逆さまになって飛ぶのを見てみたいからなのだろう。あんまり気乗りはしなかったが、美女たちからのお誘いを断る事は俺には出来なかった。笑いものにされるにしても、美人にならまだご褒美の感覚でいられるはずだ。

 

 

 

 ともあれ。始終こんな感じで、俺はお姉様方にからかわれたり可愛がられたりしながらようやく目的地に着く。ホグワーツ特急を下りた後は、馬車で城に向かうようだ。一緒に馬車に乗り込んでも良かったのだが、俺は馬車を待っている時に信じられないものを見つけてしまったので先輩たちとはそこで別れることにする。

 

「ネビル!いるならなんで俺の事探してくれなかったんだよ!」

 

「あなたが年上の女性に囲まれて幸せそうだったから、遠慮しただけよ」

 

 馬車に乗り込み親友にそう言えば、答えたのは親友ではなくその隣の友人だった。眉をしかめているハーマイオニーを見て、俺は言わない方がいいと自覚しつつ、つい口が滑る。

 

「ハーマイオニー、まさか焼きもち……」

 

「違うわよ」

 

 照れもなにもない平坦なその言葉の、しかしなんという切れ味の良さよ。瀕死の重傷を負わされた俺を困ったような顔で見ていたネビルがごめんねと謝る。

 

「声かけようかとも思ったんだけど、僕、あの中に入る勇気なかったし……なによりアダム、好きなんだろう?女の人が……」

 

「ちょっとちょっと、誤解を生みそうだから言葉を選んでくれネビル。ほらみろ、ハーマイオニーがすごい顔してる……!」

 

 汚い物を見るような顔で、「本当に誤解なの?」と呟くハーマイオニー。俺は男性より女性が好きだが、それは男として普通の事で、特に害はなくごく正常な事だと伝える。ますます眉間にしわが増えた。何故だ。

 

「それはそうと、プレゼントありがとうアダム!」

 

 ネビルがわざと明るくそう言って、話題を変えた。俺は全力でそれに乗っかる。

 

「俺こそ、プレゼントありがとう。でも、まさか二人とも薬草学の本だとは思わなかったよ」

 

「あら、ネビルも本を送ったの?まあ、アダムはその辺の雑草と薬草の違いも分からないから、心配になるのは無理もないけど」

 

「それもあるけど、ただ単純に、興味を持ってもらえたら嬉しいなって思っただけだよ。あの図鑑、本当に面白いんだ」

 

「へえ、それはちょっと興味があるわね。アダム、見終わったら私にも読ませて」

 

「もちろん、貸してあげるよハーマイオニー。それで、二人は何を送り合ったんだ?」

 

 俺の質問に、ネビルは鞄から羽ペンを取り出した。どこにでもある普通の羽ペンに見えるが、柄の部分の飾り彫りは少しかっこいい。

 

「僕はこれ。単語のつづりを間違えたら、羽の色が変わって教えてくれるんだ」

 

「だってネビルってばしょっちゅう間違うんだもの。もっと落ち着いて書けばいいのに」

 

 ハーマイオニーが笑って、私はこれ、と取り出したのはハンカチだった。淡いピンクの花柄のものだ。デザインは少し子供っぽいが、俺達の年齢を考えれば妥当なところだろう。

 

「自動乾燥魔法がかかっているの。手を拭いても、ハンカチが自動で乾くのよ」

 

「へえ、ポケットが濡れなくていいな、それ。雑菌の繁殖も抑えられるし、俺も買おうかなぁ」

 

 思わずそう呟くと、アダムらしいと何故か二人に笑われる。

 

「それで、クリスマスはどうだった?親戚と久しぶりに会ったんでしょう?」

 

「ああ、そうだな……」

 

 尋ねたハーマイオニーに、俺は何と答えようか一瞬詰まる。その様子を見て、ネビルは首を傾げた。

 

「もしかして、あんまり楽しくなかった……?」

 

「んー。そうだな、正直に言えば、楽しい事にはならなかった。でも、今まで疎遠だった従兄弟とはペンフレンドになれたから、トントンかな?」

 

「従兄弟?」

 

「そ、従兄弟。同い年で、男なんだ。今年ダームストラングに入学した」

 

「ダームストラングですって?」

 

「それって、あの……?」

 

 ハーマイオニーとネビルが驚いた顔をした。俺はそれに何でもない事の様に笑う。

 

「多分、あの、ダームストラングだ。今まで何考えてるか分からん無口で愛想のない奴だと思ってたけど、すっごい常識ある良い奴だった。なんでも付き合ってみるもんだよな」

 

 俺の言葉に、二人は顔を見合わせた後、盛大に息を吐きだした。

 

 

 

 

 

 新学期が始まり、クィディッチの練習はますます激しいようだった。ハーマイオニーはハリーとロンの三人で行動することが多かったが、時折俺とネビルの勉強会にも参加してくれた。ロンとハリーも誘ったが、ハリーはクィディッチとの両立が難しく、ロンは端から参加する気はなさそうだった。

 お茶と、マシュマロなんかの軽めのお菓子。それを摘まみながら授業のおさらいや、まだ終わっていない宿題の相談をする。もちろん雑談だってする。たまにお菓子につられて他の女子がやってくることもあった。リラックスした状態で分からないところを説明してくれるハーマイオニーは鼻につく雰囲気が薄れ、今までハーマイオニーを遠巻きにしていた寮の皆の雰囲気も少し和らいだ気がする。

 

「アーダム!今晩辺り、どう?」

 

 朝食の時間、パンを口に運ぼうとした俺の肩を組み、アンジェリーナ先輩がそう言ってきた。断る選択肢は残念ながらない。

 

「ええ、構いません。……あんまり笑わないでくださいね」

 

「あはは!頑張ってみるわ。じゃあ夕食の後、準備して寮にいてね?」

 

 ひらひら、手を振って去って行くアンジェリーナ先輩の後ろで、楽しみにしてる、と口パクしながらアリシア先輩が笑う。俺は手を振り返しながらため息を吐いた。……なんの話?……列車で約束してたやつだよ。……約束?ああ、私、列車では貴族の豪華絢爛なクリスマス自慢に必死で相槌打ってたから、聞いてなかったんだよね。凄いですね、さすがですね、羨ましいですね!の三段活用。……接待かよ!スリザリンも大変だな。……まあ、前世でも上司や患者の相手で慣れてるけどね。

 現在は十一歳だというのに、仕事に疲れて飲み屋で愚痴る三十代独身会社員みたいな雰囲気でため息を吐くイヴ。同情するわ。……同情するなら金をくれ!……やらねぇよ。

 隣で何の話?と首を傾げているネビルにも説明をしながら、俺は今夜の事を少しばかり憂鬱に感じていた。

 

 

 

「じゃあ、まずは飛んでみてもらいましょうか」

 

 クィディッチ競技場から少し離れ、城の陰になった場所。なんとなく校舎裏を思い出させるな、ここ。

 この後練習があるため、ユニフォーム姿のアンジェリーナ先輩がウキウキと言った。俺は気乗りしないながらも箒に跨る。同学年のグリフィンドールとスリザリンにはすでに笑いものにされた後だ。笑われるのはともかく、これがモテポイント減点に繋がらないかという点は心配だ。……大丈夫。完璧イケメンのちょっとした欠点は、十分に萌えポイントになりうるよ!がんば!……イヴの慰めに、俺はそうだといいけど、と飛び上がる。

 ふわりと浮き上がる箒は安定している。そのままゆっくり上昇するが、ふらついたりする様子は一切なく、完全に俺のコントロール下にあった。ごつごつした柄をぎゅっと握り、足を畳んで太ももに力を入れる。学校の貸し出し用の箒は、自宅のそれより手入れが悪い。本来ならそうそう滑らないはずだが、そろそろ皆の身長より高くなるというあたりで体が傾いた。

 

「……っ!」

 

 手に力を入れて抵抗するが、気付けばぐるんと回転し、俺は上下逆さまの状態で皆を見下ろしていた。アンジェリーナ先輩は地面に這いつくばって爆笑し、ケイティ先輩は逆に頭を逸らす勢いで爆笑し、アリシア先輩は笑っちゃ可哀想よと言いながらアンジェリーナ先輩の肩に顔をうずめて笑っていた。唯一の良心、リーアン先輩も笑いをこらえきれず吹き出した。うん、泣いて良いかな?

 項垂れて――いや、今の状態だと天を仰いで?涙をこらえていると、何だ何だ、何あの箒の乗り方!という先輩たち以外のざわざわした声が聞こえ始めた。……ざわ…ざわ…。……あー、クィディッチの練習に来た他のメンバーか。俺の名前を呼ぶハリーの声がした。……無視しないでよ!……この状況でお前の相手が出来るか!

 逆さになったせいで視界を遮るローブを片手でかき分けながら、もう下りていいですかと聞こうとして、俺はその声に身をすくめた。

 

「なにをしているっ……!」

 

 一瞬にして笑い声が止む。びっくりして逆さまのまま空中停止していた俺は、急に何かに引っ張られて地面にやや強引に落とされた。痛い。

 何事かと自分のローブから這い出ると、そこには鬼の形相のスネイプ先生がいた。……スネイプ先生が?

 

「貴様ら、何をしていた」

 

 スネイプ先生がじろりとその場の全員を見渡した。俺はごくりと唾を飲み込み、掠れそうな声を叱咤して口を開く。

 

「俺の、飛行訓練の手伝いをしてもらっていました」

 

 ギッとスネイプ先生がこちらを睨む。縮み上がる思いで……どこが?……今下ネタはいらねぇよ!ともかく縮み上がる思いでその視線を真っ向から受け止めると、スネイプ先生は杖を懐にしまった。

 

「キャロルか。……良い同寮生を持ったものだな。噂には聞いている。世にも珍妙な飛び方をするとか……」

 

 小馬鹿にしたように鼻を鳴らし、しかし目をそらさないスネイプ先生。……あ、お兄の飛行はスリザリン寮で馬鹿にされて盛り上がってたよ。ネビルの手首の件やハリー死すべし!に隠れてあんま目立ってなかったけど。……ほんとスリザリン酷いな!

 

「それで……その誰にもマネのできない飛び方で、練習前の選手の緊張をほぐしてやっていたという事か?なるほど、ならば今度、試合の前の余興として全校生徒の前で披露してやるといい」

 

 意地の悪いその言葉に、グリフィンドールの面々が殺気立つ。ロンの双子の兄なんか、今にもとびかかりそうなくらいだ。いやいや、でもさっきお前らも笑ってたよね?スネイプ先生と同罪だよ?クソ爆弾投げつけようかなみたいな声、聞こえてたからな!

 

「勘弁してください、先生。俺、この飛び方がかっこ悪いのは知ってます。さすがに全校生徒の笑いものにされたら、翌日退学願いを出しそうですよ……」

 

 俺が両手で降参のポーズを取ってへら、と笑ってそう言うと、スネイプ先生は眉をしかめた。

 

「……ふん、そんな程度の精神力では、将来使える魔法の高も知れているな。……ついて来い、キャロル」

 

「スネイプ先生、あの……」

 

 それまで見守っていたアンジェリーナ先輩が、俺を連れて行こうとするスネイプ先生に抗議の声を上げかける。元々これを言い出した責任を感じたのかもしれない。俺はそんな先輩に大丈夫と言って肩を叩いた。あんな怖いスネイプ先生と女性と対立させるわけにはいかない。……これが男、例えば双子とかなら?……一緒に怒られてほしい。一人怖い。スネイプ先生の後を追って歩きながら、本当はとってもビビってる。だってどう考えてもこの後めちゃくちゃお説教されるやつじゃん。……お説教で良かったじゃないお兄!……全然良くない。

 平静を装ってはいるが内心ビクビクしていた俺は、城の玄関をくぐり、辿り着いた場所に軽く驚いた。医務室にノックして入ると、マダム・ポンフリーがすぐさま飛んで来た。

 

「スネイプ先生?どうかしましたか?」

 

 サッと俺を見た後、スネイプ先生に事情を尋ねるマダム。

 

「箒から落ちた。高さもなかったし、怪我はないようだが、一応診てもらった方が良いと思いまして。手も震えていたようですしな」

 

「手が?どこか筋でも違えたのかしら」

 

 マダムが俺の手を取って見るが、震えてはいない。俺はじっとスネイプ先生を見上げた。目が合ったが、それだけだった。

 

「では、私はこれで。後は頼みました」

 

 踵を返して立ち去るスネイプ先生。それを目で追う俺を、マダムは色々検査してみないと、とベッドへ誘導した。どこか痛いところはないかという質問に首を振りながら、あのどこにも好感を抱けない見るからに陰湿で負のオーラ全開の人物の事を考える。……酷い言われようである。……仕方がない事だ、自分から変わろうとしないあの人が悪い。

 ともかく一晩様子を見た方がいいでしょうと、俺は医務室お泊りが決定した。……お兄、手が震えてたの?……んー、まあ、ちょっとな。逆さ吊りになってる状態で大勢に笑われるのは、分かってたけど思ったより応えた。情けない事に、地面に降りてからしばらく手が震えてたよ。……そっか、頑張ったねぇ、お兄。泣かない泣かない。……泣かないし泣いてないよ?

 ただ、スネイプ先生がなぜここに連れてきたのか、俺は一つその理由を考えてみた。もの凄く、彼らしくないんだが。……お兄はどうしてだと思ったの?……俺の手が震えていたからかなって。あのまま、笑いものにする生徒たちの中に置いておくのを躊躇ったんだと思う。箒で浮かんでいたのを、乱暴だったけど地面に下ろしたのはスネイプ先生の魔法だろう。あの時、杖を持ってた。もしそれが当たりだったとして、急に尊敬に値する大好きな先生になるかと言われれば無理だが。……スネイプ先生、結構気分屋なところあるからなあ。今回の事も、多分、状況が違ってたらここまでお兄を気遣わなかっただろうね。なんせ憎いグリフィンドールのイケメン()だし。……今、イケメンの単語の後なんか間がなかった?何?何なのその含み。

 

「キャロル、これを飲んで今日はもう寝なさい」

 

 マダム・ポンフリーが差し出した、あまりいい匂いとは言えない睡眠導入剤らしき薬を飲み、俺は大人しくベッドに潜る。ネビル、心配するだろうな。俺は小さくため息を吐き、白い医務室の天井をしばらく眺めた後、静かに目を瞑った。

 

 

 


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