ハリポタ世界に双子転生したった 作:島国の魔法使い
あと、スネイプ先生は完全な悪人でもないが、もの凄い善人でもない。
そこが人間らしくて好きだが、時折殴りたくなる事もある。(ハーマイオニーの前歯事件など)
賢者の石。そう聞いて頭に思い浮かぶのは、某国民的RPGの回復アイテムなわけだが。最近、ハリー達の隠す気あるのかってくらいザルい内緒話から漏れるこの単語に、俺は少年心をくすぐられていた。……何、大量殺戮して賢者の石を生み出して、魔法ブーストでもするつもり?……しませんよ?大量殺戮って何?賢者の石ってHP回復するような幸せ寄りのアイテムだろ?何でそんな殺伐とさせるんだよ。……何を言う、賢者の石にまつわる話はトラウマ必須ですよ。ってか、お兄は新旧どっちのアニメが好きなの?それによっては私戦うよ?……戦えないよ?何の話か分かってないけど恐らくどっちも観てないよ?……いや、漫画は読んでたの見たよ。
ともかく、賢者の石がこの学校にあるというのは間違いない。禁じられた廊下というヒント以外、正確にどこに隠されているかは覚えていないが、映画でハリーが赤い石を持っていたのを俺は覚えている。この分だと、世界樹の葉も案外どこかに落ちている気がしてきた。壁の間の秘密の隠し部屋、樽の中、引き出しやタンス。さすがに宝箱は置いてないよなぁ。……ってか、万能薬が欲しいならベゾアール石持ってりゃいいじゃない。……あんな茶色のしなしなのじゃテンション上がんないです。……全くお兄はワガママだなー。
イヴはそう言うが、せめて綺麗な丸い石ならともかく、見た目のグロい萎びた茶色の塊にロマンは感じない。しかし、魔法界にまだ隠されたお宝が眠っている可能性は十分にある。そう、このホグワーツにだって。
「よし、学校探検しようぜ、ネビル」
「探検?どうしたの、急に」
休日、朝食の席でネビルを誘うと、思いっきりキョトンとされた。
「そういうのって、入学してすぐの頃にするんじゃないの?」
「でも俺達、入学すぐの頃にやってないじゃん。それにそんな時期に探検したら、この学校じゃ遭難するぞ?」
「確かに……」
クスっとネビルが笑う。俺の口元も笑ってしまっている。お互い、あの夜を思い出したようだ。ちら、とネビルはハーマイオニーを見たが、ハリーとロンの三人で何かを話し込んでいるのを見て諦めた様だった。
「それで、いつするの?」
尋ねたネビルに俺はううんと唸った。今日は昼過ぎからクィディッチの試合がある。グリフィンドール対ハッフルパフ戦だ。どれだけ試合が長いか分からないし、それが終わった後は勝っても負けても探検なんていう気分じゃないだろう。
「次の週の休みは?」
「いいよ。じゃあ、色々と準備をしておくよ」
ウキウキとネビルが答えた。何を準備するのか分からないが、楽しみにしてもらえているらしい。やっぱ探検・冒険は男のロマンだよな。俺も恐らくは不要であろう、しかし探検には必須のアイテムを色々と持っていく事にした。今からワクワクが止まらない。……オラ、すっげーワクワクすっぞ!……うわ、全然似てないイヴさん。……くっそ、あの大御所を私がマネできるはずがなかった!
昼食後、昼寝には最適な時間となった。俺とネビルはクィディッチ競技場へ向かい、スタンドの席に着く。応援グッズとして用意した『スニッチ掴んで!』『グリフィンドール最強♪』『チェイサー三人娘愛してる!』『敵にブラッジャーぶつけてっ!』とデコったうちわをサッと掲げる。ふふふ、準備は万端だ。……っていうかそれ、私が教えてあげたやつじゃない。……おう、お前が前世、イベントやらに持って行ってたあれを再現させてもらった!
「アダム、これ本当に使うの?」
「当たり前だろネビル。せっかく用意したんだぞ」
「僕、時々君の事が分からない時があるよ」
呆れ顔になりながらも、ネビルはスニッチ掴んで!とグリフィンドール最強♪のうちわを持ってくれた。本当いい友達だよ。因みに今日はディーンとシェーマスは少し離れた席で観ている。別に無理やりうちわを押し付けたりしないのにな。まあ、確かに二人の分も作ろうかって聞いたけどさ。
「ん?……ちょっと待て、まさか、今日の審判はスネイプ先生なのか?」
グラウンドに目を向け、箒を持って佇む黒い人物を見て俺は驚いた。ネビルも首を振って呟く。
「大変だ……そんなのグリフィンドールが不利だよ」
大変申し訳ないが、普段の態度から公明正大に審判に徹するとは到底思えない。不安を感じる俺の隣に、ハーマイオニーとロンがやって来た。
「いい、ロン。ロコモーター・モルティスよ」
「同じ事何度も言うなよ!覚えてるったら!」
杖を持ち、呪文をおさらいする姿に俺とネビルは首を傾げる。クィディッチ観戦に来たとは思えない顔をしている二人は、真っ直ぐスネイプ先生を見つめていた。
「おい、まさかとは思うが、スネイプ先生を攻撃するつもりか?」
「アダム、止めないでね。これはハリーの命を守るためなの」
予想外にも、ハーマイオニーから返事が来た。ハリーの命?
「ちょっと待てよ。いくらなんでも命は取らないだろ。せいぜい嫌がらせのペナルティや、相手に有利な判断を下すくらいだと思うぞ」
「君はスネイプの正体を知らないからそんな事を言うんだ。いいか、スネイプは……」
「ストップストップ!ロン、ダメよ!……ともかく、私たちの事は気にしないで」
ネビルは眉を寄せた。そんな思わせぶりな事を言って、気にするなもあったもんじゃない。
「はあ……いいか、確かにスネイプ先生は酷い。グリフィンドールに対して逆贔屓が過ぎるし、正直いけ好かない。きっとこの試合も不公正な審判しかしないだろう。だけどあの人がハリーの命を奪う事だけはないと俺は確信してる」
これは正直『知っているから』以外の何物でもないが。それに、と俺は付け加えた。
「ほら見ろ、校長がいる。この状況でハリーに攻撃する馬鹿はさすがにいないだろうぜ」
「……本当、ダンブルドア校長だわ!」
「見ろよあのスネイプの顔!すっごい意地悪そうな顔してる」
スネイプ先生殺人鬼説は撤回できなかったようだが、とりあえずハリーの命の心配は止めた様だった。二人は杖を仕舞い、ホッとした表情で試合に集中した。
「よーし、試合開始だ!……っいて!」
誰かにぶつかられ、ロンが頭を抱える。
「おっと、悪いなウィーズリー、君の存在に気付かなかった」
ニヤニヤと笑いながら、ドラコがいつもの二人を連れて後ろに座っていた。
「この試合、ポッターはどれくらい箒にしがみついていられると思う?誰か僕と賭けをしないか?」
「はいはい、一ガリオン賭けてやるから黙っててくれドラコ」
ドラコが話しかけて来るが、試合はもう始まっている。それどころじゃない。適当に返事を返すと、気安く名前を呼ぶなと後ろで怒っていたが無視した。
試合はウィーズリーの双子がブラッジャーでスネイプ先生を攻撃した、という理由でペナルティーを早くも食らったところだ。とはいえ、今のは間違いなく審判めがけて打っていたのでペナルティーは仕方ない。あのまま当たってれば後頭部に直撃コースだったぞ。正直ハリーの命より、あの双子からスネイプ先生を守ってやるべきじゃないか?
「なあ、グリフィンドールの選手が選ばれる基準を知ってるか?不幸な人間かどうかだ」
静かになったと思ったら、再び口を開くドラコ。試合は再びハッフルパフのペナルティーシュート。これは間違いなくスネイプ先生の嫌がらせだ。何に対してのペナルティーかちょっと分からなかった。とはいえ、さっきの双子のプレーで大分心証は良くないからな。元から良くないのに。
「ポッターは親なしだし、ウィーズリーは貧乏だ。ああ、ロングボトム……君もチームに入るべきだな。脳みそがないから」
隣のネビルが反応した。ドラコはそれに目ざとく気付き、さらに言葉を続けようとする。それより早く、俺はため息を吐いて振り返った。
「ドラコ、静かにしろったら。これ以上騒いだら、今度スリザリン戦の時にお前の観戦を邪魔しに行くぞ」
「キャロル、気安く呼ぶなと言っただろう!」
「なんだよいいだろ、俺もアダムって呼んでいいぞ」
「誰が呼ぶか!」
「ネビル、気にするなよ。あいつ、この間の魔法薬学で自分より綺麗な薬を作ったネビルが妬ましいだけだ」
ネビルは俺とドラコを交互に見た。怒っていたところに水を差され、どうしていいか迷っている。ドラコは顔を真っ赤にして、インチキだと叫んだ。
「あれはお前とグレンジャーが作ったんだ!こいつ一人であんな薬が作れるものか!」
俺はネビルの背を軽く叩いた。言ってやれ、という意味だ。確かに俺とハーマイオニーはいつもネビルを手伝っている。だけど、この間のアレは以前に一度作った薬の復習だった。だから俺達は、とんでもない失敗をしない様見守りはしたが、一切手伝っていない。
ネビルはぐっと拳に力を入れ、ドラコを真正面から見た。
「僕……僕、一人で作れるよ。マルフォイ、僕、君より上手に作れる!」
「よく言ったネビル!もっと言ってやれ!」
試合から目を離さず、なぜかロンが煽る。だが煽られたのはネビルじゃなくドラコの方だった。
「黙れウィーズリー!貧乏人は喋るな!」
嫌味が尽きたのか、ただの頭の悪い悪口になっているドラコ。だがロンに効果はあったようだ。
「マルフォイ、次に何か言ってみろ、ただじゃ……」
「ロン!ハリーが!」
ハーマイオニーが立ち上がる。ロンも目を凝らした。俺とネビルもハリーを目で追う。他の選手の頭上を旋回していたハリーが、スネイプ先生めがけて一直線に急降下している。え、っていうか危なくないか、あれ。
「やったぞ、ウィーズリー!ポッターは地面にお金が落ちてるのを見つけたに違いない!大金持ちになれるぞっ!」
後ろからドラコが下手くそなヤジを飛ばす。この状況でそんなわけがないだろ。さすがにそれは無理があり過ぎる。ほとんどの観客が立ち上がっていた。あちこちでハリーの名前が叫ばれる。それに混じって、ぐえっと蛙の潰れた声が後ろで聞こえた。グラウンドでは、丁度スネイプ先生がほんの少し箒で飛ぶ位置をずらした瞬間、ハリーがその横を掠めたところだった。俺はネビルの肩に手を置こうとしてネビルがそこにいない事に気付く。俺はハリーから背後に視線を向けた。
頬が痛い。頭がズキズキする。俺は目を開けた。
ここはどこだと考えて、すぐに医務室だと気付いた。ああ、そうだ、あのゴリラ二人と取っ組み合いをしたんだった。
体を起こすと、体のあちこちが痛んだ。ぶつけたか、殴られたか、覚えていないが青痣になるのは避けられないだろう。あっ、ちょっと待て。頬が痛いって事は、まさかと思うが――。
「げっ……」
手鏡を取り出して見た自分の顔に、思わず声が漏れる。こんな腫れた頬じゃ外を歩けない。ちくしょう、あのゴリラめ!……最近、名前を考える事すら放置してるね。……ゴリッブとグロルだろ?覚えてるよ。……いや覚えてないよそれ!グラッブとゴイル!グラッブとゴイル!私がいつかつられて間違えそうだから!……つられるなよ。それに多分グラッブじゃなくてクラッブじゃなかったか?……覚えてるんじゃない!
あの時、振り向いた瞬間、ドラコとロンが取っ組み合い、ネビルがクラッブとゴイルにしがみつき殴られていた。俺はとっさにネビルを助けに行ったが、あのゴリラの様な二人を俺の力で引き剥がせるわけもなく、簡単にボコられてノックアウトされてしまった。……禁じられし左手の封印を解けばよかったのに。……俺の左手に何が封印されてるんだよ。はあ、体鍛えたほうがいいかな。……まあ、もりもりマッチョにならない程度になら鍛えた方がいいかもね。時代は細マッチョだよ!
「目が覚めましたか、アダム・キャロル」
シャッとカーテンを開け、体を起こしている俺をマダム・ポンフリーが見下ろした。
「全身の痛いところにこの薬を塗りなさい。全く、クィディッチが絡むとどうしてこう怪我人が増えるのでしょうね!」
俺の手に薬瓶を押し付け、マダムはプリプリと棚に向かった。それを目で追った俺は、隣のベッドで体を起こしているドラコの片目と目が合う。
「どうしたんだ、その目」
思わず尋ねた俺に、ドラコはそっぽを向いた。いや、聞くまでもなく状況からいってロンに殴られたのだろう。左目が酷く腫れ、目が開いていない。マダムは棚から薬とガーゼを持って来てドラコの側に座り、その腫れた目に薬を塗った。
「痛い!そうっとしてくれ!」
「お黙りなさい!こんな痛みがなんですか!全く、場合によっては失明していましたよ!」
「僕のせいじゃない、あのウィーズリーが……」
「あなたも同罪です!」
マダムはあくまで喧嘩両成敗の精神を貫くようだった。俺は念入りに頬に薬を塗り込みながら、そのやり取りを見守っていた。そしてハッと気づいて逆側のカーテンを開く。だが、ネビルが起きてこっちを見ているという事はなかった。カーテンは閉ざされている。
「ネビル・ロングボトムならまだ気を失っていますよ。可哀想に、頭に大きな瘤が出来て……」
マダムの言葉に「いい気味だ」と呟いたドラコは、次の瞬間痛みに悲鳴を上げた。マダムが強く薬を塗ったせいだ。
「頭を打ったって事ですよね、大丈夫なんでしょうか?」
俺の言葉に、マダムは微笑んで頷いた。
「ええ、杖で調べましたが、異常はありませんでした。もちろん、様子を見るために今日はここに泊まらせますが、恐らく何もないでしょう」
「なんだって?僕はロングボトムと一晩ここで泊まらなきゃいけないのか?!」
「安心なさい、キャロルも一緒です」
ドラコはとんでもないと言いたげに俺を指差した。
「僕はこいつらとは一緒に泊まらない。どうせ大したことないんだ、あいつらを寮に帰らせろよ!」
わがままなお坊ちゃんそのものな態度に、俺はため息を吐いた。対してマダムは冷静な顔でドラコに告げる。
「そこまで言うのなら仕方がありませんね。あなたが帰りなさい、ミスター・マルフォイ。寮に帰れば夜中に目がもげるほど痛くなるかもしれませんが……彼らと一緒にいたくないというのなら私は止めません」
ドラコはぐっと口を閉ざした。マダムは薬を塗り終わった目をガーゼで塞ぐと、どうしますかと再度尋ねた。
「くそっ、父上に言いつけてやるからな!」
言うなり、布団を頭まで被ってしまったドラコだったが、マダムはすぐにそれを引っぺがして顔を出させた。怪我をしている目を布団に入れない様にしなさいと注意する。
顔を真っ赤にして憤死しそうなドラコをほったらかし、マダムは今度は俺の治療を始める。
「あのぅ、この頬の腫れ、どれくらいでひきますか?」
ガーゼを貼るマダムに恐る恐る尋ねると、マダムは明日には綺麗になっていると保証してくれた。この腫れがたった一晩で!さすがマダム!
ホッとする俺の耳に、布の擦れる音が聞こえた。マダムも気付いたようで、ガーゼを貼り終えると、ネビルのベッドのカーテンを開けた。
「あ……アダム……っいたた」
頭を押さえて呻くネビルに、マダムが怒りながら手際よく治療を進める。髪にべっとりとした変な臭いの薬を塗られ、ネビルは情けない顔をしていた。
マダムは治療を終えると、それぞれの寮監に泊まりの事を伝えて来ると席を外した。ネビルはそれに首を傾げる。
「それぞれって?」
「マクゴナガル先生と、スネイプ先生にって事だろ」
答えた俺に、えっとネビルが声を上げる。それに、俺は気付いてなかったのかと体をずらして反対側のベッドを指す。
「ほら、こっちに寝てるドラコも、今日は泊まりなんだとさ」
「だから気安く呼ぶな!僕は聖二十八族のマルフォイなんだぞ!」
鼻のあたりまで布団を被ったまま、くぐもった声で不満を漏らすドラコ。言いつけ通り目は出しているのがちょっと可愛いな。ネビルは顔をしかめていたが、俺は飄々とドラコに返す。
「何言ってんだ、それならネビルも確か聖二十八族だろ?それにロンの家もだ」
「ウィーズリーは血の裏切り者だ!それにロングボトムは落ちこぼれだ!」
「はは、ネビルはきっとお前より薬草学得意だし、そもそもそうやって例外を作っていいなら、その聖二十八族って括りは意味ないじゃん。だってマルフォイは性格悪いからノーカン!って言えばいいんだろ?」
「ふざけるな!何がノーカンだ!僕の家は由緒正しきマルフォイ家の……」
ガバッとベッドから半身を起こし、こちらを睨みつけるドラコ。俺はあえて、それを煽る。
「でも性格悪いからノーカン!ノーカン!ノーカン!はい、そーれご一緒に!ノーカン!」
「通るかそんな理屈!」
「そうか?じゃあやっぱ、ロンもネビルもお前と同等の血筋って事だ」
俺の言葉に、ドラコは歯ぎしりした。……はい、QED!って、なんなの、この地下チンチロ的展開は?!……チンチロ?そもそもここ地下じゃないぞ。……分かってるよ!
「お前たち、兄妹揃って僕を馬鹿にするのか……!」
「妹の事は知らないけど、いつ俺がドラコの事馬鹿にしたんだよ」
「しただろ、今!それに列車で……っ!」
「列車で?」
俺は首を傾げた。ドラコはチラ、とネビルにも視線を走らせ、他に誰もいない事を確認した。
「僕の父を死喰い人だと」
「ああ、あれな……」
隣でネビルが息を飲むのが聞こえた。俺は頭を下げた。
「悪かった。別にお前の父親をそうだと指摘したかったわけじゃない。あの場であの言葉を言ったのは不適切だったよ」
ドラコは不機嫌に黙ったまま、俺を見ている。下げた頭を上げて、俺はその片方だけの目を真正面から見た。
「でも……俺の母は死喰い人に殺された。だから俺は死喰い人を許せない。それは確かだ」
「……そうか、でもお前の母親が死んだのと、僕の父は関係ない」
ドラコはフイと顔を逸らした。おかしいな、列車ではロンに名誉棄損で訴えるとまで言ったのに、どうして今回は真っ向から否定しないんだ?
じっと様子を窺っていると、ドアが開く音がした。そちらに目を向けると、マダム・ポンフリーとスネイプ先生が入って来るところだった。
「スネイプ先生!」
ドラコがホッとしたような顔をした。逆にネビルは顔を引きつらせる。スネイプ先生はドラコの目のガーゼを確認した。
「怪我の具合はどうかね、ドラコ」
「すごく痛みます。ロン・ウィーズリーが無抵抗の僕にいきなり殴りかかってきたんです。もしかすると失明していたかもしれない……」
「なんと、それは災難だったな。グリフィンドール寮の生徒の野蛮さは、見るに堪えない。お前が一生の傷を負わなかったのを奴は感謝すべきだ」
ドラコの大げさな甘えた訴えに、スネイプ先生の大げさな甘やかし。なんだこの茶番は。……気にしない方がいいよ、スリザリン寮ではよくある光景だから。……この気持ち悪い茶番を毎回見せられないってだけで、グリフィンドールで良かったって心底思ったわー。
半眼になっていると、スネイプ先生と目が合った。瞬間、しかめっ面をされる。
「……ところで、こいつらはどうしてここに?」
「貴方の寮の生徒が怪我を負わせたんです。彼なんて死ぬかもしれなかったんですよ」
スネイプ先生の疑問に、今度はマダムがしかめっ面で答える。死ぬかもしれなかったネビルは、頭に包帯を巻いて震えている。スネイプ先生はそれを一瞥した後、フンと鼻を鳴らした。
「大方、何か怒らせるような言動を取ったに違いない。その頭も、どうせ自分でぶつけるか何かしたのだろう」
その言葉に、俺とネビルはショックを受けた。まさか、今のが教師の言葉か?マダムも憤慨して、スネイプ先生に「なんてことを言うのですか!」と詰め寄るが、聞く耳持たずで医務室から出て行った。俺の中でスネイプ先生の株が大暴落中なんだけど。……むしろ今までの株価が高すぎたんだよ。元々あんな先生じゃない?……いや、お前んとこの寮監だからな。
「僕……自分でぶつけてなんかいない」
「分かってるよ、気にするなよネビル」
涙声になりかけたネビルを慰めると、マダムも「そうですよ」と頷いた。
「全く、セブルスは教師でありながら公平さに欠けます。特にグリフィンドールに対しては。過去にあんな事があったのは同情しますが……」
「あんな事?」
マダムはハッとして、首を傾げたネビルを見て口を押えた。
「いえ、今のは失言でした。さあ、夕食の準備をしますから、少し待っていなさい」
そそくさと部屋を出るマダム。ネビルはあんな事ってなんだろうと呟いた。
「どうせ、お前らグリフィンドールが何かしたんだろう」
ハッと小馬鹿にした様子でドラコが吐き捨てる。ネビルはムッとした様子で言い返した。
「どうして君たちはそうやって何でも決めつけるのさ!」
「決めつけてない。真実だ。お前らグリフィンドールは、粗暴で、デリカシーがなくて、何でも自分たちが正しいみたいな顔をしてくる!」
「そんなの、スリザリンだって!意地悪で、乱暴で、思いやりがないし、すぐに人を見下すじゃないか!」
「見下すのは仕方がないだろう、実際にクズばかりだからな!ロングボトム、お前みたいな!」
「僕はクズじゃない!」
「いいや、クズだよ、この出来損ないの馬鹿が!」
「馬鹿って言った方が馬鹿だ!」
「じゃあやっぱり馬鹿はお前だ、今口にした!」
「君だって言っただろ!」
俺を挟んで言い合いをする二人。珍しく強く言い返すネビルに驚きながら、俺は黙って様子を見ていた。その内「馬鹿」「間抜け」「傲慢」「いくじなし」と、単語で罵り合い始めた二人を見て、俺はこのケンカの落としどころを考える。さて、どうしたもんかな。
正直、親友をぼろくそ言ってくれるドラコにはむかっ腹が立っている。げんこつくらいお見舞いしてやっても罰は当たらないんじゃないだろうか。そもそも、言う事がいちいち気に障る嫌味ばかりだし、ゴリラ二匹を使って暴力に訴えてくるあたりなんかも禿げろ!としか思えない。……けどお兄は、心底憎む気にはまだなれない、と?……まだ無邪気な子供なんだ。周りがそうだから、そういう価値観の中で生きてきたから。その価値観を壊せたら、そこから一歩出るきっかけを与えられたら、何かがドラコの中で変わるかもしれない。……ほほう、なるほど。甘いね、お兄は。そしてそれが我が兄の長所で短所だ。
なぜか妹に褒められて貶される。俺はその声を聞きながら、声の大きい方が勝ちとでもいう様に顔を真っ赤にして怒鳴り合う二人にストップをかけた。
「よし、学生らしく期末テストで決着をつけよう」
「はあ?何だって?!」
肩で息をするドラコとネビル。俺の提案に、ネビルは首を振りかけてイタタと瘤を押さえた。
「テストって、アダムでも……」
途端に弱々しくなるネビルの声。俺はそれに気付きつつも話を進めた。
「聖二十八族だが落ちこぼれだと、ドラコはネビルを見下している。そしてキャロルなんて無名の家柄の俺も見下している。もちろん、優秀なマルフォイ一族のお坊ちゃんは、俺達よりも出来が良いと思っている。じゃあ、
俺の挑発に、ドラコはぐっと言葉に詰まった。ここで勝負を拒否するのはプライドが許さないだろう。やがて、渋々といった風に「分かった」と返事をした。
「その勝負受けてやってもいい。だが、もし僕が勝ったら、今度から僕の事はマルフォイ様と呼べ。そして僕に絶対逆らうな。この条件なら受けてやる」
「俺はそれでいい」
俺とドラコはネビルを見た。ネビルは迷っていた。瞳は揺れ、震えている。……いいの?なんだかんだ、ドラコはぼんぼん。当然いい家庭教師がついていたし、一年生の学力としては平均値以上だよ。正直な話、私はネビルが勝てるかどうかは怪しいと思う。……そうか。ドラコって頭いいのか。てっきりアホぼんかと思ったが、案外頑張り屋なんだな。……その言葉のチョイス、本人が聞いたら憤死しそう。
「やっぱり自信がないのか、腰抜けめ。それでよくグリフィンドールに入れたな」
尻込みするネビルを見てドラコが小馬鹿にする。ネビルはそれに、ぐっと顔を上げた。
「僕だって勇気あるグリフィンドール生だ!勝負してやる!」
「フン、言ったな?……後悔させてやる」
ニィッと笑うドラコ。震えながら、それでもネビルは怯まなかった。負けるわけにはいかない。そう、俺達の勝負はこれからだ!……打ち切りみたいになってるよ?アダム先生の次回作にどうぞご期待ください!
――次回、真夜中の医務室編。扉の向こうで何かが起こる……。(かもしれない)