ハリポタ世界に双子転生したった 作:島国の魔法使い
つまりポーカーフェイスが出来ないって事だよ。
そして告白してもないのにフラれるっていう黒歴史。
「――でさ、正直な話、うちの妹はスリザリン寮で上手くやれてるのか?」
夕食のスープをすすりながら、俺は左隣のドラコに尋ねた。
「僕が知るか!自分の妹に聞けばいいだろう!」
イライラしつつも完璧な所作でフォークを口に運ぶドラコ。俺はさすが坊ちゃんと感心しつつ、パンを口に運んで続ける。
「もちろん聞いたさ。イヴは上手くやってるっていうけど、正直兄としては心配なわけだよ。だから模範的スリザリンであるドラコから見てどうなのかなって」
「あと気安く名前を呼ぶなと何度言えば分かる!」
「あ、でも僕この間、彼女が数人のスリザリンの女子生徒と中庭で楽しそうに遊んでるの見たよ」
「え、いつだよ。ネビルが見たって、俺その時一緒にいなかったのか?」
「うーん、確か君がマクゴナガル先生と話し込んでる時じゃなかったかな。ほら、僕トイレに行きたくて先に教室を出た日だよ」
「やめろ、ロングボトム!食事中にトイレの話なんかするな!」
ネビルを怒鳴るドラコに、マダム・ポンフリーが眉を吊り上げた。
「喋るなとは言いませんが、ミスター・マルフォイ、もう少し静かにお食べなさい!」
「どうして僕が怒られるんだ!」
俺とネビルはそれに肩をすくめた。
マダム・ポンフリーの自室は医務室のすぐ隣にある。夕食の後「何かあったらすぐに呼ぶように」と言いつけて、マダムは自室へと帰って行った。今夜は他の患者はいないので、医務室には俺とネビル、そしてドラコの三人しかいない。
「よし、じゃあ好きな子の名前言い合いっこしようぜ!」
「誰がするか!」
マダムがいなくなったのを確認して俺がそう切り出すと、ドラコがすかさずそう突っ込んだ。
「アダム、好きな子がいるの?僕、まだそういうの良く分からなくて……」
「何をさらっと会話を進めているんだロングボトム、いい加減にしろよ」
ベッドに体を起こした状態で、ドラコがネビルを睨む。サイドテーブルには灯りがあり、ベッドのカーテンは全開なので、三人とも顔は良く見えた。睨まれたネビルは眉をしかめて首を傾げる。普段なら怖気づくところだが、さっき怒鳴り合ったのがきいているのか、普段と違うこの状況のせいか、はたまたドラコの片目が塞がっていて怖さ半減なのか、寝る前で髪がオールバックじゃないのが良かったのか、とにかく今日のネビルは普段通りだ。
「いいじゃない、どうせまだ寝るには少し早いし。嫌なら君、参加しなければいいだけだろ」
「僕は最初から参加なんかしていない」
「因みにここだけの話、俺の好きな子はスリザリンなんだ……」
「何?!」
「えっ?!」
いきなりの俺の告白に、二人は驚いて声を上げた。
「ほら、気になるだろ?続きが聞きたいならお前も言えよドラコ」
「お前、さては僕をからかったな?!」
「びっくりした、僕一瞬本気にしちゃったよ」
怒るドラコと胸を撫で下ろすネビル。本当なのにどうして信じないんだ。
「なんだよ、二人とも。年頃の男子がお泊り会で話す内容って言ったら恋バナは鉄板だろ?じゃあ、お前らはどんな話が良いんだよ」
「そもそもお前たちと話す必要がない」
ドラコは素っ気なくそう言った。でもじゃあ、なんで体起こしてんの?嫌なら寝ればいいのに。俺とネビルは顔を見合わせて呆れた。
「あ、じゃあ怪談にするか?怖い話って言うのもお約束だよな」
「えっ?!」
ネビルが動揺する。怖い話は苦手なのか?
「いいぞ、僕がとっておきを話してやろう。これは父上から聞いた話なんだが……」
ネビルの怯えを瞬時に悟り、急に生き生きと喋り出すドラコ。ネビルは「やめてよ」と言ったが、ドラコは構わず続けた。
「ホグワーツには誰も知らない秘密の部屋があるらしい。そこには恐ろしい化け物がいて、スリザリンの真の継承者だけがその化け物を従えられるんだ」
「まさか……」
ネビルが恐々と口を挟んだ。
「そんな化け物がいたら、先生たちが何とかしてるよ……そうでしょう?」
「全く、聞いていなかったのかロングボトム?だからお前は間抜けだって言うんだ。僕は『誰も知らない秘密の部屋』だと言ったんだ。当然先生も知らない。どこにいるかも分からない化け物をどうやって倒すんだ?」
「でも、入学してもうすぐ一年だけど……そんな噂聞いたことないぞ」
俺が言うと、ドラコは嬉しそうに口元を吊り上げた。
「だからとっておきと言ったのさ。これは代々の由緒正しきスリザリンにしか伝えられない話だからな。何せ、初代ホグワーツ創始者の一人、サラザール・スリザリンその人が造ったと言われている」
「一体、なんのためにそんな部屋を……?」
囁くように聞いたネビルに、ドラコは間を取って雰囲気たっぷりに答える。
「もちろん、穢れた血のやつらを――根絶やしにするためだ」
ひぃっと小さな悲鳴。思った通りの反応を得られたことに満足したらしいドラコは、さらに付け加えた。
「実際、五十年前に一度、部屋は開かれたと聞く。その時は一人の穢れた血が死んだらしいぞ。……次は、お前だロングボトム!」
「ひぃいいいいいいい!」
怯え切ったネビル。ドラコはその様子に嬉しそうな笑い声を響かせる。あんまり騒ぐとマダムが来るぞ、お前ら。いや、楽しそうで何よりだけどさ。
「本当にどうしようもないな、お前は。ロングボトム、お前は純血だろ?どれだけ出来が悪くっても、殺されるのはまずマグル生まれの奴らからさ」
「マグル生まれの奴……か」
「お前も純血なんだろう、キャロル?」
「ん?ああ、俺はな。でも……」
「ハーマイオニーは純血じゃない!」
ネビルが焦った様子で言った。
「それにディーンも!」
ドラコが眉をしかめてネビルを見る。俺は親友を誇らしい気持ちで見た。
「他にも、ホグワーツにはたくさんマグル生まれはいるだろうな。今日日、自分は絶対に純血だと胸を張れる方が少数だろ」
「そんな奴らの心配をして何になる?グレンジャー?あいつが死んだからって何だって言うんだ!」
「ハーマイオニーは僕の友達だ!」
「穢れた血と友達だって?お前も聖二十八族なら、そういうのとつるむのが良くない事だと分かるだろう?」
「良くないなんて決めつけるな!」
「決めつけてない、事実だ!」
ムキになる二人に、俺は落ち着けと唇に人差し指を当てる。
「あんまり大声出すなよ、マダム・ポンフリーが来るぞ。……因みにドラコ、何が良くないのか具体的な理由を教えてくれよ。何でマグル生まれの奴と純血は仲良くしちゃダメなんだ?マグル生まれとはいえ、ホグワーツに通って卒業すればそいつらは魔法使いだ。就職も魔法界でするのが大半だし、そうなればもう魔法界側の人間だろ?単に生まれが魔法界じゃなかったってだけで何でそう差別するんだ?」
これは純粋にずっと疑問だった。純血だのそうじゃないだの言っても、結局は魔法使いは魔法界で生きていく。マグルの家庭から生まれて魔法使いになった奴が、魔法界に定住して子供を産んで……そして百年がたてばそれはもう魔法使いの一族ではないのか。
ドラコはそんな俺をハッと嘲笑った。
「お前は何も分かっちゃいない、キャロル。穢れた血は何故、穢れているんだと思う?」
「え、お前らが差別的にそう呼んでるだけだろ?」
「違う、本当に穢れているんだ。魔法使いの血には、魔力がある。ごく稀に例外はあるが、基本的に魔法使いの夫婦には魔法使いの子供が生まれる。――それは、血に魔力が宿っているからだ」
真剣な顔でドラコ。俺はネビルをチラと見るが、黙ってドラコの言葉を聞いている。
「いいか、魔法界にマグル生まれの穢れた血が増えればどうなる?生まれた子供が魔法使いである確率は下がるだろう。スクイブが溢れる世の中になってみろ、僕たちの生活はどうなっていくと思う?」
魔法界で生きる夫婦の間に生まれた子供が、魔法力を持たないスクイブだったら。こっちで生きていくのは確かに大変だろうな。学校にも通えず、就職先も限られ、そしてなにより世間から差別される。マグル生まれを差別するのは純血主義の奴らだけだが、スクイブに対しては魔法界全体がその傾向にある。悲しい事だが事実としてそうだ。
なら諦めて、マグルの世界で生きる?それも無理だ。両親は魔法使いで、魔法界に就職している。子供だけをマグルの世界に行かせるわけにもいかない。そうなればやっぱり学校には通えず、一人立ちする頃には今さらマグルの世界にも馴染めない、かといって魔法界にも受け入れてもらえない、そんな辛い状況だけが生まれる訳だ。
そしてドラコの言葉を信じるなら、そんな状況に陥る人間が増えていく……。
「まあ、そうなれば破綻するな。魔法界自体が」
「そうだろう!」
分かってくれたか!と笑顔になるドラコ。
「……本当にそうなるのかな」
だけどネビルは、そんなドラコに首を傾げた。
「は?ロングボトム、ちゃんと聞いていたのか?」
「聞いてたよ!……けど、マグル出身は昔からいたじゃないか。だけど今現在、君の言う様な事にはなってないよ」
「だから、これ以上穢れた血の奴らを増やせばそうなるという話だろう」
「それは君の、……君たちの予想であって現実じゃない。それに僕たちの様な純血にだって魔法力がない子供が生まれる可能性はある。……僕はずっと、それを心配されてた。ばあちゃんは、純血の一族にもスクイブは生まれるって言ってた。それは昔からある事だって」
「一部の人間の話だ」
「マグル出身の両親からだって、ほとんどの場合は魔法使いの子供が生まれてる。つまり、スクイブになる子は一部だけだ」
「何が言いたいっ!」
「……つ、つまり、君の言ってることはおかしい!」
苛立ったドラコにネビルは一瞬怯むが、だがハッキリと言った。その目は真っ直ぐで、ドラコはそれに気圧されているように見えた。いや、これは実際に気圧されてんな。
「僕は間違ってないぞ!」
「でも、僕はそれを信じられない!」
「……っキャロル、お前はどうなんだ!お前も僕を間違ってるって言うのか?!」
ドラコが俺を見る。俺は頭を掻いてそれに答えた。
「分からん。正直、二人とも現時点では間違ってるって断言できない。今までの状況を見て、ネビルの言う事は事実だ。だけど、これからマグル出身がホグワーツの生徒の半数以上を占めるようなことになった場合、本当に大丈夫だと言い切れる根拠としてはちょっと薄い気がする」
考えながら答えつつ、俺はふと思いつく。
「……さっきネビルが昔からマグル生まれはいたって言ってたよな。昔に比べて、ホグワーツの中にマグル生まれの生徒は増えてるのか?」
「えっ、どう……かな……」
「……僕も知らない、が、父上の時代にも、それなりにマグル生まれの生徒はいたと聞く」
父上の時代か。それはそんなに昔って程じゃないな。歴史あるホグワーツだ、もっと百年、二百年、千年単位での生徒の割合を見てみたい。実際、純血主義の奴らが言ってる事が正しいのかどうか、俺は興味がある。正しかったからといって差別的な態度を肯定は出来ないが。
「なあ、ドラコ。一緒に調べてみないか?」
「は?」
「ネビルも、気にならないか?」
「僕は……」
「俺はすっごい気になる。本当にマグル生まれからはスクイブが生まれる確率が高いのかどうか。もし、ネビルの方が正しければ、純血主義の言う『穢れた血』ってのは根拠のないただの思い込みって事になる。逆に本当に、スクイブの生まれる確率が上がるっていうなら、純血主義の行動はただの思い込みじゃなく根拠に基づいた否定だって事になる。だからって、差別的な行動を全肯定する訳じゃないけどな」
二人は俺の言葉にしばし考え込んだ。先に口を開いたのは、ちょっと驚くことにドラコの方だった。
「……本当に調べられると思うか?」
「さあな。でも、資料か何か……探せばありそうだと思わないか?」
ドラコは頷いた。
「いいだろう、僕もはっきりさせたい。僕は……僕たちは、間違ってなんかいないと証明して見せる」
きっぱりとそう言って、ドラコはネビルを指差す。
「お前も来い。僕が正しい事をお前に証明してやる」
「僕は……」
ネビルは手元のシーツを握った。だけど目はドラコから逸らさない。俺は頷いた。何に頷いたのかは自分でも分からなかったが、ネビルが何かを言い淀むのを見て、大丈夫だと背中を押してやりたかった。
「マルフォイ、君のハーマイオニー達に対する態度を、僕は許せない。僕に対してもだ。どうしてそんな風に、酷い事を言ったりしたりできるのか理解もしたくない。でも、だからってここで目と耳を塞いで蹲っていたら、結局は何も変わらない気がするんだ」
だから、とネビルは言った。
「行くよ。君が正しいかどうかなんてどうでもいいけど、僕はどうして友達が差別されるのかを知りたい」
「フン、言ってろロングボトム」
「んじゃあ、決まりだな」
俺はそう言ってごろんとベッドに横になった。
「今度の休みは、三人で学校探検な!」
「探検してどうする、調査だ!」
突っ込みながら、ドラコも横になる。
「なんでこんな事になっちゃったんだろう?」
我に返ったのか、ため息を吐きながらベッドに潜り込むネビル。俺は痛む頬をさすりながら、夜になって一向に話しかけてこなくなった妹を想った。どうしたんだろう。呼び掛けてみたが返事はない。――まあ、いいか。早々と寝息が両側から聞こえてきて、俺も欠伸を一つ目を閉じた。
翌日、目を覚まして俺は体を起こした。左を向くと、隣のベッドですやすやと天使の寝顔を晒すドラコがいた。ちょっと考えて、俺は逆側を見る。体を丸めこちらもすやすやと眠るネビルの姿に、ようやく昨日のことを思い出す。
そういや、うちの妹はもう起きたんだろうか。呼びかけてみると、返事が聞こえた。一応起きてはいるらしい。昨日の夜に何かあったのか?……ん、まあちょっとね。それよか、お兄の方はなんかあったの?……まあな。今度の休みにドラコとネビルの三人で探検に行くことになった。……はぁ?
一段低い声で聞き返すイヴの声に、俺は昨日のことを説明した。イヴは聞き終えてため息を吐く。……何それ、なんでそんな事になってんだか。……成り行きってやつ?……成り行きでハリポタ人間関係を塗り替えないでよ。あーもー!もう知らん!お兄なんかドラアダでもアダドラでもネビル含めて三角関係でも好きに薄い本になってろばかああああああ!
イヴは不機嫌に唸り、言いたいだけ言って頭から去った。なんなんだあいつ。アレの日か?首を傾げていると、マダム・ポンフリーが入って来た。俺を見ると、おはようございますと挨拶をしてくれる。
「頬はまだ痛みますか?」
「いえ、全く」
首を振る俺に頷いて、マダムは頬に貼ったガーゼを優しく外す。軽く押されるが、痛みはなかった。マダムはにっこりと笑って、完全に治っていると請け負ってくれた。俺とマダムの声に、ネビルとドラコも目を覚ます。二人もそれぞれマダムに確認を受けて、全員が寮に帰る事を許された。
「僕、頭を洗いたい……」
ネビルが包帯が取れたべたべたの髪の毛を摘まんで言った。俺は拭き取ればいい場所だったが、気持ちは一緒だった。昨日入れなかった分、お風呂に入りたい。
「なら早く寮に帰ろうぜ。一時間目に遅刻する」
ベッドから下りて俺はドラコを見た。
「今度の休みまでに、待ち合わせの場所とか時間とか考えとくよ」
「ああ、分かった」
すっかり腫れの引いた綺麗な目で、ドラコは頷いた。
「じゃあ僕たちは先に寮に帰るよ、マルフォイ」
ネビルはそう言って手を振ってドアに向かった。俺はそれに微笑んで便乗して手を振る。部屋から出るその一瞬、ネビルが気付いたかどうかは分からないが、小さく手を振り返しているドラコが見えて、なんかすっごく嬉しい気持ちになった。