ハリポタ世界に双子転生したった   作:島国の魔法使い

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お久しぶりです遅くなりました。

実際のとこ実の妹が可愛くて可愛くて、彼氏が出来たら全力で別れさせたいしずっと俺の妹でいて欲しいしなんなら俺が妹と結婚したい、っていうリアルお兄ちゃんを見た事がない。
妹が可愛いし守ってあげたいと思っている、くらいの奴はいたが。




妹萌え属性は日本が世界に広げたものの一つだけれど、血の繋がった現実妹はそんなに萌えないというのは実際に妹がいるお兄ちゃんの一般的な意見だし、というかそうでないと事案だからね?

 

 

 一週間は長いようで短い。すぐに休日はやって来た。俺とネビルは用意したリュックを背負い、ドラコと待ち合わせの場所へ向かう。五分前に到着したにもかかわらず、城の玄関にはもう腕を組んだドラコが立っていた。

 

「遅いぞ!」

 

「まだ時間前だろ。お前、いつから来てたんだ?」

 

 怒るドラコにそう聞くと、カッと耳を赤くしてうるさいと怒鳴った。

 

「どうせロングボトムがノロノロしていたんだろう」

 

「勝手に僕のせいにしないでよ。それにどっちかって言えばアダムが身だしなみに時間をかけ過ぎたのが原因だよ」

 

 ネビルは眉を寄せてさり気なく俺の罪を暴露した。本当の事だから弁明のしようもないが、よく考えたらなんで遅刻もしてないのに怒られているのか。解せぬ。

 

「しょうがないだろ、今日は何でか髪が一房、はねてちゃんと纏まらなかったんだ」

 

 俺はいまだに変な方向を向いている髪を手で撫でた。ドラコは呆れたような顔をしたが、小さく舌打ちをしてポケットから楕円形の入れ物を取り出した。

 

「そんな事で僕の時間を無駄にするな!これを使ってすぐ直せ」

 

 いやいや、だから、そもそもまだ約束の時間前だろ。まるで俺達が盛大に遅刻してきたみたいな言い方だな。こいつ、いつからここで待ってたんだ?

 少し呆れながら受け取った綺麗なガラス細工の蓋を開けると、薄緑のジェルが入っていた。ふわりとグリーンシトラス系の爽やかな香りが立つ。この匂い、どこかで、と思ってドラコの髪を見た。そうだ、ドラコの側に行くとたまに香る匂いだ。ってことは、これはドラコが使ってるワックスかな?……それに思い当たった瞬間、胸がきゅっと締め付けられるような気がした。俺の胸はトゥインクルトゥインクル。……トゥインクルしないよ?イヴさん久々にやって来たと思ったら何を言い出したの?……うるさい、妹は怒ってるんです。お兄はこんなに可愛い妹がいながら、少年ばっか侍らして!絶対薄い本発行してやるから!……焼きもちの方向がおかしいし、そもそも何で焼きもちやかれにゃならんのだ。

 妹の精神状態を心配しつつ、せっかくなのでワックスを使わせてもらう。ネビルに手鏡を持ってもらってちょいちょいと使うと、びっくりするほど綺麗に纏まった。

 

「うわ、すっげ。ドラコこれどこのメーカーの?」

 

「聞いてどうする、お前の小遣い程度で買えるわけないだろ」

 

 悪態を吐きつつ答えたメーカーは確かに俺では手が出ない高級メーカーだった。さすが坊っちゃん、良いもん使ってら。

 

「ほら、ちゃんとしたならもう行こう?まずは図書館にでも行く?」

 

 手鏡を畳みながらネビルが尋ねる。俺はそれを受け取りながら首を振った。

 

「ハーマイオニーに聞いたけど、図書館にはそれらしいものはなかったらしい」

 

「グレンジャーが見落としただけじゃないか?図書館の本を全部把握してるわけじゃないだろう?」

 

「その可能性もあるだろうけど、多分本当にないと思う。ハーマイオニーは図書館の常連だし、俺がこの質問をした日、司書のマダム・ピンスに確認してくれたみたいだ」

 

 行動が早くて優しい、ハーマイオニーたんマジ天使である。

 

「じゃあ、どこを探すんだ」

 

 当てがないのかと眉をしかめてそう聞くドラコに、ネビルが眉をしかめ返す。

 

「君も一緒に考えなよ」

 

 一瞬ムッとしたドラコだが、言い返すことなく腕を組んで考え始めた。俺はフィルチさんのいる管理人室や、トロフィーの展示室、昔から城にいそうなハウスエルフたち、最悪ダンブルドア校長に聞くことを考えていたんだが。……ダンブルドアに聞くのはドラコがめっちゃ嫌がりそうだけどね。……なんで?……簡単に言えば、ダンブルドアがグリフィンドール出身の正義マンで、スリザリン出身の闇の陣営であるドラコの家とは仲が悪いからだよ。……へえ、そうなんだ。

 真剣に考えているドラコの姿に、俺も考えるふりをして口を閉ざす。俺の案を言うのは簡単だが、まずは二人の考えも聞いてみたい。

 

「先生に聞いてみるのはどうかな?」

 

 ネビルが先にそう口を開いた。だが、ドラコはそれを却下する。

 

「どの先生に聞く気だ?もしも本当にその案で行くなら、僕はスネイプ先生以外は認めないぞ。――なぜなら、先生は僕の味方だからだ」

 

 ネビルは露骨に嫌そうな顔をしたが、ドラコが言いたい事は伝わった。今欲しいのは主観の混ざった意見ではなく、動かしようのない証拠だ。マクゴナガル先生や、良識ある先生ならマグルが不利になる意見は隠す、もしくは違うという意識が働くだろうし、スネイプ先生ならその逆だろうという事だ。因みにスネイプ先生に良識がないと言ったわけじゃないぞ。あるとも言っていないが。――とはいえ。

 

「ネビルが言ったのは、資料のありかを先生に聞くって事だよ。心当たりがないかってさ。別に俺はスネイプ先生に尋ねてもいいが、むしろお前は困るんじゃないのか?」

 

 ドラコは少しバツの悪そうな顔をした。ネビルは首を傾げる。

 

「……確かに、スネイプ先生にはあまり知られたくない。その間抜け面をやめろ、ロングボトム。ちょっと考えれば分かるだろう?僕はマルフォイ家の長子だぞ。純血主義の主張が本当かどうか確かめる、なんて……父上や母上、他の者たちに知られたら困る事になる」

 

「だよなぁ」

 

 俺は頷いた。ネビルもようやくその事に気付いたらしい。

 ドラコの家は聖二十八族の中でも特に権力を持った純血主義の一族だ。その長男が、穢れた血が本当に穢れているかを確認するというのは、その主張を疑っていると言っているようなものだ。実際はより確固たる主張にすべく確認したいってのが発端なんだが。……まあ、誤解は招くよね。グリフィンドールと一緒に探してる時点で言い訳し辛いよね。私としてはスリザリンで噂になってハブられればいいのにって切に思うけど。……お前、ドラコと仲悪いの?嫌いなの?お兄ちゃんその意見にビックリだよ?

 

「じゃあ、君が決めなよ」

 

 ネビルに言われ、ドラコは唸った。

 

「肖像画はどうだ。あいつらなら、何かいい方法を知ってるかもしれない」

 

 ドラコ曰く、絵画は生きている人間よりも好奇心が強いらしい。額縁がそこかしこにあるホグワーツなら、城の中を自由に歩き回れる。色々と見聞きしている絵も多いだろうとの事だ。

 

「僕の家には、歴代のマルフォイ家当主の肖像画が飾られている。おじい様や、ひいおじい様辺りはまだ絵画としての日が浅いが、もっと前の代になると、それこそ百年は余裕で壁に飾られている。ようは、暇を持て余しているんだ」

 

 ずらりと並ぶ親族の、しかも会った事すらないじい様たちの絵か。俺ならそんな実家はごめんだ。……歴代おばあ様(美女だった頃の姿)の絵画なら?……もちろん喜んで!

 

「中には、屋敷に来る来客者を全て覚えている方もいる。僕が尋ねればいつでも教えてくれるんだ。例えばこの五年間の間で、ゴイル夫妻は何度うちを訪ねてきたか、とか」

 

「めっちゃ暇人じゃないか」

 

「だから、暇を持て余していると言ったろう」

 

 なるほど、肖像画ってのは大変だな。……もっとも、ホグワーツは城中に額縁があって、みんなそれぞれ好き勝手移動するから、もしかするとそこまで暇を持て余してないかもだけどね。よく他の絵の額縁に遊びに行って、パーティーとかお茶会とかしてるみたいだし。

 妹の呟きに、俺は城の中に人物のいない風景画が多い事に思い当たる。

 

「じゃあ、どこの絵に聞く?僕、グリフィンドールの入り口の、太った婦人が良いんじゃないかって思うんだけど」

 

 確かにあのご婦人なら、グリフィンドールの生徒に関してかなり詳しそうだ。いつ頃からあの扉にいるのかは知らないが、もしかすると引退した昔の肖像画の事も知っているかもしれない。俺はネビルの意見に賛成だったが、ドラコが待ったをかけた。

 

「他の寮の事は誰に聞く気だ?言っておくが、スリザリン寮の入り口には肖像画はいないぞ」

 

「えっ、そうなの?」

 

 ネビルが驚いて、ドラコが頷く。自寮がそうだからといって、他もそうとは限らないという事を忘れていた。てっきり、全部の寮の入り口に婦人の様な肖像画が飾られていて、合言葉を尋ねられるのだと思っていた。

 

「どの肖像画に聞くかという話だが、それも聞いてみたらどうだ?」

 

 俺とネビルが顔を合わせていると、ドラコがそう提案した。

 

「こういう事に詳しい絵か、人物の事を聞いてみるんだ」

 

「それ、良い案だね」

 

 ネビルが感心した様に頷き、ドラコが少し鼻を高くした。俺もそれに頷く。確かに、いいかもしれない。

 ドラコの案に乗っかって、俺達はまず手当たり次第に聞き込みをすることにした。ドラコは「グリフィンドールと一緒にいるところなんて見られたくないからな」と別行動をとると言い出し、だったらと全員で手分けする。ネビルは城の上から。ドラコは地下から。俺は中間あたりの階をうろつく事にする。べ、別に階段の上り下りが嫌だからさり気なく誘導とかしてないからな?本当だぞ?……誰に言い訳してるの、お兄?

 

 

 肖像画の皆さんは、今日が学校の休日なのもあってお茶会をしているところが多かった。ご婦人たち五人が大きなバラ園の額縁で華やかなドレスを揺らして笑う様は、穏やかな休日の午後そのものだ。俺がその談笑に声をかけ、質問を投げると、ご婦人たちはクスクス笑いながらいろいろな事を教えてくれた。

 

「そうねぇ、そんな事を逐一覚えている人は少ないと思うわ。私たち、確かに暇だけれど、退屈はしていないもの」

 

「毎年新しい子供がやってくるし」

 

「友人には恵まれているものねぇ?」

 

「なんなら恋だって……」

 

「やだぁ!内緒って言ったじゃないのもう!」

 

「ええ?どういう事?教えなさいよ~」

 

「そうよそうよ、秘密なんてダメよ?」

 

 キャッキャとはしゃぐご婦人たち。なるほど、親戚ばかり、しかも年配の先代達に見張られている貴族の屋敷と違って、ここは自由だ。しかも肖像画の人口も多く、交流も盛んときている。生徒がマグル生まれかどうかを監視する変人の暇人はいないか。……そう考えると、貴族の家に生まれて死後に肖像画になるのはとんだ拷問だよね。疑似人格だとしても、本人と変わりないなら尚更さぁ。……父上が、母上の肖像画を作らなかったのは、それが原因かもなぁ。……その代わり、漣ちゃんのバッドエンドさながらにパソコンに喋ってたけどね、一時期。……レンちゃん?パソコンに喋る?何の事?……お兄知らないの?じゃあ知らないままでいればいいよ?……何だろうこの疎外感。

 俺はご婦人たちに礼を言って、次の絵画へと向かう。まあ、予想通り変人の暇人は見つからなかった。他の心当たりも聞いてみたが、出るのは俺が考えたのとほぼ同じ。校長に聞く、図書館をあたる、とかまあそんな感じだ。結局特に収穫なく、約束の時間になって待ち合わせの場所に向かった。

 

 

 

「僕、見つけたかもしれない!」

 

「何をだ?」

 

 再会するなり興奮した様子のネビル。ドラコが聞き返すが、答えるのももどかしいと言わんばかりに服の裾を引く。

 

「おい、引っ張るなロングボトム」

 

「いいから二人とも来て!」

 

 俺とドラコは何事かと首を捻りながら、言われるまま階段を駆け上がる。すれ違った高学年の男子生徒が、俺達を見て首を傾げた。だが、俺もドラコも、ネビルが興奮してどんどん進んでいくのを追いかけるのに必死で、それどころじゃなかった。っていうかまさか、八階までダッシュさせられると思わなかった。

 

「ほら、ここ……あれ?」

 

 息を切らしながらネビルが指差すが、そこにあるのはただの石壁だった。俺とドラコはゼイゼイ言いながら、不思議そうにペタペタと壁の石を触るネビルを見る。

 

「お、おかしいな……ここに……扉があったんだけど……。中には、歴代のホグワーツの生徒の資料がたくさんあって……それで……」

 

「ロングボトム……」

 

 もう息が整ってきたのか、ドラコが怒ってネビルに詰め寄った。

 

「扉なんか見えないぞ!お前が寝ぼけるのは勝手だが、僕を巻き込むな!」

 

「寝ぼけてなんか……」

 

 ネビルは言い返そうとして、壁を見て口をつぐんだ。実際に扉がないので、言い訳できないのだろう。ネビルが扉を見たっていう場所はただの石壁だ。となると、他の場所と勘違いしてるっていう可能性も……いつからここに扉がないと錯覚していた?……いや、錯覚も何も、ないから実際。……ふぅー、やれやれだぜ。兄さま、ここはホグワーツ魔法魔術学校。そう、魔法学校なんだぜぃ?……あ、そうか。っていうかその喋り方やめろ。

 

「でも、見たんだ……僕……」

 

 責めるドラコに涙声になるネビル。俺はネビルの肩に手を置いた。

 

「ネビルが見たんなら、本当にあるんじゃないかな」

 

「アダム、いい加減な事を言うな。どこに扉があるって?」

 

「今はない、ってだけじゃないか?なんせ、ここは魔法の城だからな」

 

 俺の言葉にドラコは眉を寄せ、ネビルはあっと声を上げた。

 

「条件か何かあるんだよ、きっと。その扉が出て来る時間なり行動がさ」

 

「僕、この廊下の絵画を探すのに、ここを何度か往復したんだ。トロールに棍棒で殴られてるこの絵、記憶があるよ。最後に見た時、こんなところに扉なんかあったかなって不思議に思って……」

 

 ネビルが思い出したように語る。

 

「そう、それまでここに扉なんかなかった。急に現れたんだ!」

 

「急に?……条件が何か分からないんじゃ、どうやったら出て来るのか分からないじゃないか」

 

 ドラコの言葉に、俺は肩をすくめた。

 

「とりあえず再現してみればいいだろ。全く、ドラコはすーぐそうやって答えを欲しがる。本当、欲しがりさんだなぁ」

 

 茶化す様に言えば、ドラコはぐぐぐっと顔を歪めて俺を睨んだ。……そんな顔も可愛くて、お兄はその広いデコッパチにちゅーした。……しないよ?まだそれ続くの?やめようよ。新手の精神攻撃なの?

 妹の嫌がらせに耐えながら、ネビルの行動を聞いて試してみる。色々聞いてみた結果、ネビルはホグワーツ歴代生徒のマグル出身率の分かるものが欲しいと考えながら、この廊下の前を行ったり来たりしていたらしい。しかし、隠された扉か。ますますRPGの雰囲気が出てきたな。

 

「扉だ!」

 

 俺が試しにやってみると、本当に扉が現れた。ドラコが驚いて、俺の前に現れた扉に飛びつく。三人で駆け込むようにしてその部屋に入ると、そこは部屋と言うには広すぎる、大きな広間の様な場所だった。

 中はもの凄く散らかっていた。一本だけ足の折れたアンティークの椅子、飾りの美しい箱、ひび割れた皿、それらがあちこちに山のように積まれている。高い場所にある窓から、光が差し込む。その柔らかな光がぼんやりと浮かび上がらせるのは、壁に沿って積み上がった沢山のガラクタ。または、お宝の山だ。

 

「資料なんてどこにあるんだ?ゴミしかないじゃないか」

 

「おかしいな、僕が入った時はこんなじゃなかったのに……」

 

 ドラコの呟きに、ネビルが戸惑った声を上げる。見上げるように歩いていた俺は足元のカップにこけそうになった。とっさについた手がガラクタの山を揺らすと、そこからガラガラと色んなものが降って来て慌てて飛び退った。

 

「気を付けろよ!」

 

「ああ、悪い」

 

 ドラコの声に謝って、俺は落っこちてきたものを見た。木箱、ほつけたウィッグ、良く分からない胸像、髪飾り、元は何かだった割れたガラス片、金属の――って、おいおい。まさか、と思って俺はそこに落ちていたものを拾った。

 

「これ……まさかオリハルコンの剣か?!」

 

 赤い飾り石、紋章っぽい飾り、このなんか見たことある形状、間違いない!……ああ、売ってもたった1ゴールドの勇者の剣じゃないの。……値段の問題じゃないんだよ!たとえあんまり攻撃力とか有用性とかなかったとしても!っとととと?!

 

「う、わっ!」

 

 カッコつけて鞘から引き抜き掲げていた俺は、足場が悪かったせいもあるが、その重さにぐらついた。

 

「バカ、キャロルっ……!」

 

「わあ!」

 

 剣先が前を歩いていたネビルに向いて、俺は慌てて体を捻った。ドラコが怒鳴り、ネビルが目を覆う。ガツン!と剣を地面に叩きつけ、俺は冷や汗を拭った。心臓がバクバクいってる。……何やってんのお兄!……わざとじゃないって!でも、もう少しで友人を斬り殺すところだった。

 

「何やってるんだ、お前っ……ロングボトムを殺す気か?!」

 

「いや、その、ごめん……そんなつもりじゃ……」

 

「そんなつもりもなにも、実際死ぬところだったんだぞ!」

 

 ドラコが目を吊り上げるのに、ネビルがまあまあと間に割って入った。

 

「大丈夫だよ、ほら僕、怪我一つしてない」

 

「ごめん、本当。不注意が過ぎた」

 

「いいよ、アダム。それに……」

 

 項垂れる俺にそう言って、ネビルがクスクスと笑う。

 

「マルフォイが僕の身の安全についてアダムを怒るなんて、滅多に見られるものじゃないよ」

 

「なっ、べ、別に僕はお前を心配したわけじゃないぞ!調子に乗るなよロングボトム!」

 

 顔を真っ赤にして反論するドラコ。……見事なテンプレのツンデレかましやがったぞー。狙ってるのか、この坊ちゃん。本気で受けを極める気かな?かなかな?……とにかく、俺は安堵のため息を吐いた。ネビルに怪我がなくて本当に良かった。……あ、スルーされた。

 

「アダム、何か壊しちゃったみたいだよ」

 

 俺が剣を慎重に鞘に仕舞うのを見ていたネビルが、地面を指して言った。見れば、銀細工の破片が飛び散っている。俺が剣を床に叩きつけた時に壊してしまったらしい。

 

「放っておけ、どうせガラクタだろ」

 

 ドラコが軽く顎をしゃくる。確かに、ここにあるのは大多数がガラクタのようだ。でもこれ、さっき見た『ぎんのかみかざり』っぽいな。古そうだけど、鳥か何かの細工が付いていて、高価そうな感じだったのにな。確かにゲーム終盤使わない装備だけど、すごくもったいない事をした気分だ。……銀の髪飾り、ね。その剣、オリハルコンじゃなくてミスリル製の『ひかりのつるぎ』じゃないの?……いいや、これはきっとロトの剣だね。だって赤い石がついているからな!……まあ、どっちにしろいい加減ドラクエから頭切り替えなよお兄。……いや、ついテンションが上がって。ドラクエ楽しいじゃん?……ごめんね、私テイルズ派だから。……そこはFFじゃないのかよ?!

 

「それより、やっぱりこの部屋おかしいよ。僕が入った部屋じゃない」

 

 一通り部屋を見渡したネビルが首を振る。俺はそれにそろりと手を挙げた。

 

「その事なんだが……俺、さっき部屋の前を行き来した時、どうも雑念が混ざってたみたいだ」

 

「雑念?」

 

「ああ、もう一回部屋の前でやり直してもいいか?」

 

 

 

 と言う訳で、テイクツー。部屋から出ると扉は勝手に消えた。その後もう一度行ったり来たりして扉を出現させる。入った部屋は、さっきとは打って変わって書斎の様な造りだった。

 

「ここだよ!僕が見つけたのは!」

 

「……どういう事だ?」

 

 ネビルが叫び、ドラコが首をひねるのに、俺は謝った。

 

「さっきこの消えたり現れたりする扉があるって分かって、つい『伝説の勇者の剣』や『回復アイテム』とか、何か重要なアイテムが隠されてる部屋もあったりしないかなーって考えちゃってさ」

 

「…………」

 

 無言の二人の視線が痛い。

 

「すみませんでした」

 

 深々と頭を下げる俺に、ドラコはため息を、ネビルは小さな笑いを漏らす。

 

「そういやアダム、ホグワーツ探検がしたいって言ってたもんね」

 

「お前でも、子供みたいな事を考えるんだな」

 

 呆れたドラコ。面目ない。ああ、ハーマイオニーにアダムって大人っぽいのねって頬染めて褒められたのになんという失態。……と、いう夢を見たんだね。……夢落ちじゃないよ?現実だよ?……兄は現実が見えていないのです。

 ともかく三人で本棚の本をひっくり返す作業を始める。手始めに今年の生徒たちの情報から、と思ったのだが。

 

「十年前辺りから遡ろうぜ。さすがに今いる生徒の情報は、個人情報がてんこ盛り過ぎてその、色々ヤバイ」

 

「何がヤバイんだ?人に見られて困るような情報をしている奴が悪いんだろう」

 

「そういう問題じゃないよ」

 

 両親が離婚しているとか、兄弟が何人いるとか、その辺りの情報も書かれているので実際に関わり合いになる人たちの情報を見るのは気が引ける。俺とネビルは問題ないと言い切るドラコをジト目で見た。どんな神経してるんだ。

 その視線に気付いて、ドラコはちょっと考えるそぶりを見せた。そして、口を開く。

 

「僕たち貴族には、プライバシーはあってないようなものだ。家族構成は逐一情報として周囲に知らされる」

 

 だからといって他の一般人にもそうしろと言うのは酷いが、まあ、だから『何がヤバイのか』と聞くのだろう。要は文化の違いってやつだ。貴族の家に生まれなくてよかった。いや、母上が勘当されていて良かったというべきか。いやしかしそれは良かったのか?……パパがママの実家と上手くいくとは到底思えないし、良かったんじゃない?まあ、マーニーには不幸な事だったかもしれないけれど。

 

「でもまあ、お前たちが嫌なら、十年前からでもいいぞ。それでもデータは十分取れるからな」

 

 こうやって譲歩する辺り、ドラコもまだガッチガチの石頭って訳じゃないんだろう。多分。そう信じたい。……願望だね!

 

 十年前、五十年前、百年前、二百年前――。間隔をあけて表を作っていく作業。黙々と進める俺達だったが、三時間目に突入する辺りで俺は解散しようと声をかけた。

 

「疲れてきたし、今日はこのくらいにして続きは今度にしないか?」

 

「そうだね……僕ももう疲れたよ」

 

「ああ……そう、だな……」

 

 ドラコの返事は歯切れが悪かった。その理由は簡単だ、今のところドラコの言い分を裏付ける表にはなっていないからだ。少なくとも、百年前と十年前でマグル出身の生徒の数にそう違いは見られない。変化が緩やかであるならもっと遡ってみないと分からないので、まだどちらが間違いかはハッキリしないが。

 

「次はいつにする?今度来るときはお茶と甘い物も持って来ようぜ」

 

 手元の資料を閉じながら、俺はそう言ってうんと伸びをした。

 

「いいね、僕もう喉が渇いちゃって」

 

 ネビルがカラカラの喉を見せるように口を開けるのと同時に、ふわりと紅茶の香りが漂った。え、と思って振り返ると、側に会った小さなサイドテーブルにはいつの間にか湯気の立った紅茶とクッキーが置いてある。

 

「いつの間に……?」

 

 驚く俺に、ドラコがハウスエルフだろ、と言って遠慮なく紅茶をカップに注いだ。

 

「これはいい茶葉だ、香りが良い。丁度ダージリンが飲みたかったんだ。それにこのクッキー、杏ジャムを使っているな」

 

 手にしたクッキーに顔をほころばせるドラコ。ネビルもそれに続く。俺も丁度三つあったカップの一つを手に取って、お茶をすすった。

 

「美味しい!」

 

 ネビルが齧ったクッキーを見る。俺も食べてみたが、サクッとしてホロっと溶けて、そして上品な甘みでお茶の邪魔をしないそれに驚いた。必要以上に甘いお菓子が多いイギリスで、こんなに美味しいクッキーは久しぶりだ。二人には甘さが物足りないんじゃないかと思ったが、ジャムのお蔭でそういう事はないらしい。俺はジャムなしで丁度いいが。ハウスエルフ凄い。

 

「母上が以前買ってきてくださった、高級菓子店のものに似ているな。一日一個しか販売しない希少なお菓子だが、母上がパティシエに言って特別に作らせたんだ」

 

「はいはい」

 

 自慢げに語るドラコに適当に相槌を打って、俺とネビルは清潔なハンカチにクッキーを包む。それに気付いたドラコが眉をしかめた。

 

「……おい、何をやってるんだ」

 

「見て分かるだろ」

 

「ハーマイオニーにも分けてあげるんだよ」

 

「やめろ、貧乏くさい事をするな!」

 

「はっは、悪いな貧乏人で」

 

「皆が皆、君と同じだと思わない方がいいよ、マルフォイ」

 

「せっかくの優雅なお茶がお前らのせいで台無しだ!くそっ!」

 

 

 

 その後、ドラコと別れて寮に戻った俺達は、ハーマイオニーにクッキーを差し入れてとても喜ばれた。ロンには何故ハーマイオニーだけなのかと文句を言われたが、そんな事は知ったこっちゃない話である。……なんで妹にもないの?……し、知ったこっちゃない話である。……忘れてたんでしょお兄のバカ!

 

 

 

 

 ――そして一週間後の休日、例の不思議な部屋でホグワーツの生徒たちの出自を調べる作業、その第二回目は開催されなかった。なぜかドラコがいきなり「あんな作業に意味などない」と言い出したからだ。

 あの日は何も言わず三時間も調べたじゃないか、というかいきなりどうしたんだと混乱するこちらに対し、ドラコはその理由を述べた。曰く、あの部屋はネビルが見つけたものだから怪しい。そもそも資料が本物であるかが怪しい。それによく考えたら、なぜ自分がお前たちのために主張の正当性を証明しなければならないんだバカバカしい。学年末に、テストでお前らを負かせば僕の主張が正しいという証明になるだろうからこれ以上の時間の無駄はごめんだ。

 そして言うだけ言ってドラコは聞く耳持たずに去って行った。一体なんだっていうんだ。ネビルと俺はポカンとその後ろ姿を見送り、そんな気持ちであの膨大な資料を纏める気力は沸かなかった。

 それに、ドラコの最後の言葉に、ネビルと俺は勉強をしなければいけないという事実を思い出した。いや、忘れていたわけじゃないが、ドラコが作業せず勉強に打ち込むというなら、俺達も勉強をするしかない。例の資料の事はいつでも出来るが、テストは学年末と決まっている。釈然としない気持ではあったが、俺とネビルはテスト勉強に打ち込むことにした。

 

 しっかし、本当にドラコは一体全体どうしたんだ?仲良くなったとは言わないが、それなりに打ち解け始めたような気がしていたのに、あれは完全な錯覚だったのか?……ま、ツンデレ貴族ってのは貧乏人の一般人には理解しがたい生き物って事じゃないかな。

 イヴの言葉に、俺は返す言葉がない。確かに俺には貴族の価値観とか、そういうのは理解できない。でも、ああ、やっぱすっげぇもやもやする。……欲求不満なんじゃない?抜いてくれば?……だからお前はそういう事言うなよ!

 




こんなにドラコとキャッキャウフフする予定じゃなかったけど何故かこいつとの絡みに三話も使ってしまった。でも楽しかった。ツンデレ難しい。

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