ハリポタ世界に双子転生したった 作:島国の魔法使い
まあ多分、そんな不確定な技はすぐリストラするけど。
夕食時、俺はハーマイオニーの隣にいた。今夜、俺とハーマイオニーはネビルと一緒に宿題をする予定だったが、今ここにネビルはいない。
「大丈夫かしら、ネビル……」
ハーマイオニーの呟きに、俺は「大丈夫だよ」と返す。実際、ネビルは医務室に行ったわけだし、校医のマダムは腕がいいと評判だ。ただ、俺の返事が弱かったせいか、ハーマイオニーを逆に不安にさせてしまったようだ。申し訳ない。
俺は目をスリザリンのテーブルに向けた。イヴが友人たちと喋っている。時折場がワッと沸く様子が見えた。ジェスチャーでそれが先程のネビルの事を笑っているのだと分かる。ドラコは手を叩いて嬉しそうに笑い、お供の二人はそれに追随する。パグ犬、もといパンジーはゲラゲラとお腹を抱え、名も知らないスリザリン生も嘲るように笑っていた。イヴは微笑んでいる。それが心からではないと分かっていても、やっぱりいい気分じゃない。……そう思うんだったらこっち見ないでよ。……見ちゃうんだよ。ため息を吐いた俺に、ハーマイオニーがそうだと声を上げる。
「この後、ネビルのお見舞いに行かない?」
「ああ、いいね。ネビルは晩飯食ったのかな?何か包んでやるか……」
その辺にあったナプキンを広げてパンにハムを挟んでいると、ハーマイオニーが俺の腕を肘でつんつんした。何だと顔を上げると、ハリーの後ろにドラコがニヤニヤ顔で立っている。そこそこ距離はあったが会話の内容は聞こえた。真夜中の決闘を申し込むドラコとそれを受けるハリー。というかむしろロン。ハーマイオニーは憤慨して意見しに行ったが、あえなく玉砕して帰って来た。
「規則を何だと思っているのかしら!」
「ま、男の子ってのは基本的にバカだからなー」
「そういうアダムも男の子でしょ?まさかあなたも彼らが正しいと言うつもり?」
眉を吊り上げる彼女に、俺は落ち着いてと手を挙げる。
「正しいとは思っちゃいないけど、気持ちは分かるって事。規則を破るとどうなるかっていう事を考える前に行動しちゃうんだよ、男の子は」
「一体何のために頭がついていると思ってるの?」
「手厳しいな、ハーマイオニー。でも、男の子もいつかは成長するさ。女の子を守る王子様にふさわしくね」
ネビルへの即席サンドイッチを包む俺に、ハーマイオニーは不思議そうな顔を向ける。じっと見つめられるとなんだか照れるな。
「私、時々アダムがうんと年上に見える時があるわ」
ぎっくんちょ!と内心でビビりつつも、俺はわざとふざけた様に顎の下で手をピストルの形にしてニヤリと歯を見せて笑った。効果音はキラリーン!だ。
「ふふふ、俺の大人の魅力に惚れちゃったかい?」
「いいえ」
ふざけたとはいえ容赦なくバッサリやられた。……頑張れお兄、傷は浅いぞ!……ああ、ありがとうよ。雑な妹の慰めに返事して俺は席を立った。ハーマイオニーとネビルのお見舞いに行くために。
医務室の主マダム・ポンフリーは年配の女性だ。短い髪をシスターの様な布で隠し、キビキビと患者を治療する。俺がハーマイオニーと見舞いに行くとマダムは少し眉を寄せたが、ネビルの手首を調べた後「帰っていい」と言ってくれた。
「本来ここは飲食する場所ではありませんが、今回は許可をします。ここで食べておしまいなさい」
俺がサンドイッチを持っている事に気付くと、そう許可も出してくれた。
「ごめんね。宿題する時間、なくなっちゃうね」
サンドイッチを齧りながら、ネビルが申し訳なさそうにそう謝る。俺は気にしていないよと言って、側の小さな丸机で薬草学とは別の宿題を進めているハーマイオニーを見て苦笑する。あまりにソワソワしているので、「何かあるなら俺たちの事は気にするな」と言ったらこうなった。ハーマイオニーは器用に狭いテーブルで羊皮紙に文字を書き込み、ネビルを見た。
「別にいいのよ。次の薬草学の授業まではまだ何日かあるもの」
ハーマイオニーはロンたちの言う通り、確かに頭がいいのを鼻にかけたところがあるし、なんだかんだ小うるさい。けれどやっぱり根は良い子だ。俺たちは明日改めて宿題をする約束をして、ハーマイオニーの宿題がひと段落するのを見計らってから医務室を出た。
「夜の学校って不気味だよな」
「やめてよ……」
俺の呟きに、ネビルがぶるっと震える。石造りの城は壁の色が暗い。そのせいで、廊下にぽつぽつと設置された明かりが届かない場所は、まるで闇が待ち構えているかのように真っ暗闇に見えた。……つついたら黒くて丸いススワタリがぶわわわわっと出て来るよ!さあ、やってみよう!……やらねぇよ。っていうかススワタリって何?……お兄、世界の駿を知らないの?……誰だよそれは。……伝説の引退するする詐欺の監督だよ!名作製造機だよ!……や、分かんないす。
暗い城内は昼間とはがらりと印象が変わる。ただでさえ分かり辛い道がさらに難易度を上げるのだ。さすがに通い慣れつつある自寮への道とはいえ、うっかり1つ曲がり角を間違えただけでとんでもない場所へ出る。おまけにご老人の絵画は早々に寝ているし、夜のお出かけをしているのか人物のいない空っぽの風景画がやたらと多い。そんな中をバカな妹の会話に気を取られたらどうなるか。ようは俺たちは迷った。
「信じられない。自信満々だから、てっきり分かってて進んでるんだと思ってたわ」
「面目ない」
ハーマイオニーになじられて、俺はハーマイオニーに先頭を譲って来た道を戻る。が、またもや知らない道。
「アダムがさっき間違えなければ、私も迷わなかったのよ?」
ツンと言い訳するハーマイオニー。ま、本当の話ではある。その時、ネビルがおずおずと手を挙げた。ちょっと前に見た事あるドアがあったというのだ。どうせ今いるのは突き当りの道だと、俺たちはそこまで戻ることにした。
「ご、ごめん……」
ネビルが言ったドアは全く知らない場所に繋がっていた。しかも振り向いた時にはもう見当たらないという魔法のドアだ。ますます迷子になって、俺たちは一度休憩することにした。廊下の端に座り込み、誰かこの廊下を通りかからないかと耳を澄ます。なんならこの目の前の額縁に誰かが通るのでもいい。
「はあ……」
「ほ、本当にごめんなさい」
深いハーマイオニーのため息に縮こまるネビル。それにハッとして、ハーマイオニーは違うのと首を振った。
「ネビルに腹を立ててるわけじゃないのよ」
「そうそう、そもそも最初に道を間違ったのは俺だしな」
「そう、全部アダムのせい……って、そうじゃなくって!」
ハーマイオニーは言い辛そうにした後、ごめんなさいと謝った。
「あそこで大人しく引き返していればよかったのに、私がさらに道を間違えちゃったせいだわ。近道だと思って……」
「それを言うなら僕なんか、僕が余計な事言わなきゃあのドアを通る事なんてなかった」
「ああ、だからつまり最初に道を間違えた俺が悪い」
三人で顔を見合わせる。そして、なんだか急におかしくなって笑いだした。ひとしきり皆で笑った後、俺たちは腰を上げた。
「さ、もう一回頑張ろう。ところで今って何時くらいだろうな?」
「分からないけど、医務室を出た時間を考えれば、そろそろ日付が変わるんじゃないかしら?」
「考えたんだけど……今見つかったら、僕たち怒られるのかな……」
その可能性は考えていなかった。ハーマイオニーも口を押え、急ぎましょうと表情を硬くする。その瞬間、静かだった廊下のどこかで驚くほど大きな物音がした。これはあれだ、昔夜中に妹が腹が空いたとこっそりラーメンを作ろうとして、流し台の上の棚から重ねた鍋を落っことした時の音に似てる。……大人しくどんぶりにポットのお湯を入れて作ればよかったよ。なぜあの時私は鍋で作ろうと思ったのか。何のための玉子ポケットなのかを考えさせられた夜だったな。……いやいや、そもそもなんでこっそり夜食を食べようとしたんだよ。しかも胃カメラ検査の前日に。……父さん激おこだったねぇ。……俺も激おこだったよ!
何の音だったんだろうと首を傾げながらも進むネビルとハーマイオニー。俺もイヴと会話しながらもついて行くが、何となく見慣れた場所に出て足を止める。
「ここって……」
「呪文学の教室の近くだわ。ここからなら帰れそう!」
緊張を緩めて笑顔を見せるハーマイオニー。俺とネビルもホッと胸をなでおろした、その瞬間。
『生徒がベッドを抜け出した!呪文学の教室の廊下にいるぞぉお!』
甲高く笑う声。まさか自分たちの事かと身を固くすると同時に、側の曲がり角から誰かがドンと俺にぶつかって来た。びっくりした俺は、それが誰かを見てさらに驚いた。
「ハリー?!」
俺に名前を呼ばれたハリーは、俺を見るなりこっちだ!と腕を引く。
「えええ、ちょちょちょ?!」
強引に誘われるのは女性にだけでいい。何だ何だと訳も分からないまま引っ張られるままに走る。見ればロンも一緒のようで、後ろをネビルとハーマイオニーと一緒に走っていた。
「フィルチだ!追って来てる!それに、ピーブズに、見つかった!」
「私たちを巻き込まないでよ!」
ロンとハーマイオニーの会話を聞いて、俺は夕食時に言っていた真夜中の決闘の話を思い出す。ハリー達はまんまとドラコの罠にはまったようだ。
「ダメだ!開かない!」
「もうお終いだ!」
走って来た先は行き止まり。ドアはあるが鍵がかかっている。ガチャガチャとドアノブを力任せに引っ張るハリーを「どいて」と押しのけ、ハーマイオニーは杖を取り出した。
「アロホモラ!」
カチャリと音がした。瞬間、なだれ込むようにドアの向こうへ入り鍵をかける。完全にハリー達に巻き込まれた形だが、この状況でフィルチに見つかればどんな言い訳も聞いてくれそうにないと俺の勘も言っている。全員が息をのんで外の気配を窺う。フィルチが来たようだが、悪戯ゴーストのピーブズにからかわれて激怒しながら去って行くようだった。ピーブズは教師の味方でもなければ生徒の味方でもない。どちらにとっても敵だ。
「……危なかった。でももう大丈夫だ」
ハリーが溜めていた息を吐く。俺はハリーの様に息を吐くことが出来なかった。ああ、知ってる。知ってるよこの展開!イヴの奴、また知ってて言わなかったな!……ごっめーん!てへぺろっ☆
やけに明るい謝罪の言葉。今度は誰も怪我人が出ないからか?だが、目の前でこれを見ている俺は、だーいじょーぶーい♪みたいな楽観主義にはなれなかった。ぐるるる、と不機嫌そうに威嚇の喉鳴りを聞かせ、大きな犬の顔が牙をむきだしてこちらを見ている。しかも三つも。……ヤマタノオロチとかも思うんだけどさ、頭同士がケンカしたら大変なことになるよねー。……ねーじゃねぇよ!
計った様に一斉に悲鳴を上げ、俺たちはドアの外へ転がり出た。そのまま一目散に寮に向かって走る。あれだけ迷いまくったのに、今度はあっさりとふくよかなレディが見張るグリフィンドールの寮の入り口に辿り着いた。帰巣本能ってやつか、ただハーマイオニーが先頭だったからかは分からない。いや、後者だな。
「一体どうしたの、あなた達」
驚くレディに、俺は何でもないですと誤魔化して合言葉を告げる。訝し気な顔をしつつも、レディはその扉を開けた。
「はあ……」
すぐにでも寝てしまいたいほど疲れたが、皆とにかく気分を落ち着けたかったようだ。誰が言ったわけでもないのに、全員談話室のソファに深く座る。暖炉も消え、窓からの月光だけが明るい、誰もいない薄暗い談話室。時計を見ればもうとっくの昔に日付は変わっていた。イヴの奴、いつもなら完全に寝てる時間じゃないか。絶対に分かってて起きて覗いていたな。……えへへ。……えへへで誤魔化されるか。大方俺に話しかけて道に迷わせたのも確信犯だったんだろ。……ご名答です、はい。いやでも、あんなに綺麗にハリー達と合流するとは思わなかったけど。……全然悪びれてない。飛行訓練でのあの落ち込みやシリアスな感じは一体何だったんだ。いや、確かに今回のは誰も傷つかなかったけど!
「見たか、あの化け物を。あんな怪獣を学校に置いておくなんて正気じゃないよ。世界で一番運動不足の犬を探せって言われたら、僕はあいつだって答えるよ」
ロンが震え声で首を振る。その割にはジョークを言う元気はあるようだ。ハーマイオニーは息を整え、そのロンを睨む。
「どこに目を付けてるの?あの犬の足の下に何があったかちゃんと見た?」
「頭を見るのに精一杯だよ!頭が三つもあったんだぞ?!」
言い返すロンにハーマイオニーがため息を吐く。ハリーが空気を和らげようと思ったのか、床の上じゃないの?と答えた。
「仕掛け扉の上、よ。つまりあの犬は、何かを守るためにいるのよ」
俺はハーマイオニーを尊敬の眼差しで見つめる。正直、何がどうなっているのか知っている俺でさえ、あの状況では犬の頭に目がいって足元なんて見もしなかった。
「ああ、もう!私、忠告したでしょう?ドラコ・マルフォイの誘いになんか乗るべきじゃないって。それをあなた達は無視して寮の減点になる行動をした挙句、無関係の私たちを巻き込んだのよ?!」
ハーマイオニーはじろりとハリーとロンを睨んだ。
「入学式の時、ダンブルドア校長が言っていたのを覚えている?四階の廊下に立ち入れば死ぬ!私たち、もしかしたら死んでいたかもしれないし、下手をしたら退学だったのよ?――全く、これ以上付き合っていられないわ」
足音荒く、いや絨毯があるので実際は何の音もしないが、とにかく怒っているとアピールして女子の部屋に去って行くハーマイオニー。ロンとハリーは顔を見合わせて好きで巻き込んだんじゃないという類の愚痴を言い合う。俺もネビルと顔を見合わせたが、それはもう寝ようぜ、という合図のためだった。
ハリー達は落ち着いて来たのか、今度はあの三頭犬が何を守っているかという事に気を取られているらしかった。ベッドに潜ったハリーがロンにそれを喋っているのが聞こえたが、疲れていた俺は最後まで聞くことなく眠りについた。