ハリポタ世界に双子転生したった 作:島国の魔法使い
あ、これ魔法学校の話だったっけ?
「一体、何が起こったの?」
ポカンとしたネビルの声。目の前には仲の良さそうなハーマイオニーとロン、そしてハリー。俺は何があったかを知っているので大丈夫だが、ネビルにしてみりゃ不可思議だよなぁ。あの状況が一晩でこれだからなぁ。……でもこれで原作通りに進んだわけでしょ。これで一安心って言うか、まあ、このケンカを乗り越えなきゃ未来はなかったって言うか。……ああ、そうだな。だから俺がかぼちゃに気を取られてハーマイオニーから離れるのを狙ってたって訳だ。……あー、うん。ほらだって、お兄が側にいたら、ハーマイオニーがトイレにこもらなさそうだったし。へたしたらロンがトロール騒ぎの前に謝りに行っちゃいそうだったし。……それはへたしたら、なのか?ああ、もういい。
妹との会話を遮って、俺はネビルと授業に向かう。あいつの原作への執着にはちょっとうんざりしていた。大体、もしも俺やイヴがいる事で物語の流れが変わったとして、それは自然な事じゃないのか?そもそも、俺達の存在がすでに原作をぶち壊しているんだ、もはやこれは俺やイヴが知っている『ハリー・ポッター』ではない。
とはいえ、だ。イヴの不安も分かる。もしも変えてしまった事で予期せぬ死者が出たら。例えば今年、ネビルが殺されるような事が起こってしまったら。――俺は原作の流れを変えてしまった事を悔やまないと言えるだろうか?
かぼちゃ祭りの後は、一気に冬がやって来た。真夏に野球やるのもどうかと思うが、この寒い中を高速で飛び回るクィディッチは頭がおかしい。シーズン到来と言う事で、ハリーは前にもまして練習に励み、寮内どころか学校中がそれについて盛り上がっていた。
「サッカーの方が面白いって」
「バカ言うなよ、それ、地面を走ってるだけじゃないか」
「何だよ、クィディッチなんか箒の性能の良し悪しじゃないか。こっちは選手の肉体だけの勝負だぞ!」
「クィディッチの事よく知らないくせに。箒の性能をどう選手がカバーするのかも見どころなんだよ」
ディーンとシェーマスが言い合うのも最近ではよくある光景だ。今日も、夕食後の談話室で仲良く争っている。マグル育ちのディーンは贔屓のサッカーチームがあるくらいにはサッカー好きらしい。俺は野球派だ。それも日本の。誰とも話が合わないどころか、言い出すのも難しい。さらに言えば、今この時代の野球がどうなってるかさえ知らない。……ホームランも打つけどヒットも打つよ!……誰がだよ。なにサラッと脳内に入って来てんだよ。怒ってるんだぞ、俺は。……怒らないでよお兄。これからは大人しくするから~。……どうだか。
サッカーとクィディッチの良さをお互い延々と語っている二人を眺めながら、俺とネビルは宿題を片付けている。ハーマイオニーは最近、ハリーとロンの二人と行動することが多く、前の様に一緒に勉強をすることは少なくなっていた。以前の様にツンツントゲトゲした態度は和らぎ、それは多分良い事なのだろうけどちょっと寂しい気分だ。
ネビルなんて経緯を一切知らない状態でこれだ。最近、ちょっとハーマイオニー達を避けている節もある。
「アダムとネビルはどうなんだ?」
「は、え?何が?」
急に話を振られて驚く俺に、シェーマスがひそひそ話で再度尋ねた。
「だから、あの三人の事だよ。あんなにハーマイオニーの事を邪険にしてたのにさ、何があったんだと思う?」
「さあ……」
俺は言葉を濁して肩をすくめた。ディーンはニヤニヤと笑みを浮かべながら三人を見る。
「ロンはハーマイオニーに気があったんじゃないかって思うんだ。だってそうだろ?あの態度は異常だったし、あれは好きの裏返しだったんだよ。それで、付き合う事にした、とか」
ディーンの推測は半分くらいは当たりなのだろう。多分、ロンはハーマイオニーを意識していた。知ったかぶりの嫌な奴だと思っていたのも本当だろうが。人の好き嫌いは複雑なものだ。……私としては、神兄さまプロデュースの攻略法説を推すね!嫌いで頭を埋め尽くして、一気に好きにひっくり返す!ってやつ。エンディングが見えた!!そして肉まんが食べたい!……相も変わらず訳が分からん妹は置いておいて。事実を知らなかったとしても、あの二人がくっついたというのは無理があるだろう。未来にどうなるかは知らんが、現在は仲のいい友達という域を出ていない。
「そんな事あるもんか!」
だからネビルが大声でそう叫んだ時、俺はびっくりしてその顔を見た。いつも大人しいネビルのその様子に驚いたのは俺だけじゃなかったようで、寮にいたみんながネビルを見ていた。当のロン達もだ。
「僕は、僕はっ……!」
「おおお落ち着けよネビル」
ディーンが動揺しながらそう言ってネビルの肩を押さえる。ネビルはそれを振り払って、走って行ってしまった。追いかけようか迷うディーンに、俺が行くと告げると寮を飛び出したネビルの後を追う。一体どうしたんだ、あいつ?……まさか、ハーマイオニーの事が好きだった、とか?ネビルにそんな設定なかったはずだけど。……また原作の話か!それはもう置いておけよ。現実に今、ネビルがどうなのかが問題だろ。……ううん。だとしても、多分色恋沙汰はまだ早い、と思うけど。こればっかりは本人じゃないとなんとも言えないんじゃないかな。……ああ、俺もそう思うよ。だから本人に聞く。
寮を出てしばらく走ると、いつか夜中に見たドアを見つけた。ハーマイオニーとネビルの三人で入ったあの魔法の扉だ。もし間違いならネビルを完全に見失う事になるが、俺は妙な確信をもってそのドアを通り抜けた。
「やっぱり」
廊下の端で膝を抱えるネビルの姿に、俺はホッとした。ネビルは顔を上げ、俺だとわかると目に浮かぶ涙を袖口でごしごしと拭った。
「アダム……僕……」
「ちょっと待て、ネビル。走って来て、今息が切れてるんだ」
実際そこまで息切れしている訳ではなかったが、ちょっと間が欲しかった俺はそう言ってネビルの隣に座った。しばらくすると俺の息は落ち着き、ネビルの瞳も乾いて来たようだ。以前来た時に留守だった廊下の絵画は、今日も無人だった。ただ鮮やかな緑の草原が、風に揺れて波打つのを繰り返している。
「あの葉っぱの形と花。生息してる場所からして、多分トウヤクリンドウじゃないかな。薬として使えるんだ」
「へえ……」
俺はじっと目を凝らすが、ただ草が揺れているようにしか見えない。白っぽい花が咲いてはいるが、あれが何かなんて分かるわけがない。
「アダムは分からないだろうけど、ハーマイオニーなら分かったと思うよ。彼女は物知りだし」
「ああ、そうだろうな」
ネビルは植物関連に強い。得意科目、という言葉で終わらせるのはもったいない才能だと俺は思っている。だが、ハーマイオニーのは得意科目とかいう次元じゃない。全科目多岐にわたって知識が豊富なのだ。勉強家というのももちろんだが、元々の記憶力もかなりいいのだろう。仮に俺が同じ量、同じ時間、同じ勉強をしてもハーマイオニーほど頭が良くなれる気が全くしない。
「こんな事言ったら迷惑かもしれないけど……僕、アダムとハーマイオニーの事、お兄ちゃんやお姉ちゃんが出来たみたいだと思ってたんだ」
おお、お兄ちゃんお姉ちゃんときたか。俺は返事の代わりに頷く。同い年だろ、と突っ込みを入れるのは無粋だと思うし。……ネビルは一人っ子で、両親も側にいなかったし、祖母は厳しい人のはずだから。お兄やハーマイオニーみたいに側にいて優しくしてくれる存在に飢えていたんじゃないかな?……でも、俺としてはネビルを弟みたいに扱った覚えはないぞ。薬草学では頼ってたくらいだ。……それだけでしょ。お兄、ずっとネビルをこっそり援護してたじゃない。ハーマイオニーも、ネビルを手伝ったり、フォローする場面が多かったはずだよ。
「僕は、二人が好きだった」
ネビルの目と声が、再び水気を増す。
「だから……ハーマイオニーの事を悪く言うロンやハリーが、許せなかったんだ」
言われて、俺は気付く。ネビルはハリー達とあまり喋らなかった。特に、ロンとは。
「どうしてこんな気持ちになるのか、自分でもよく分からないんだ。けど……僕、今、ロン以上に、ハーマイオニーを許せないと思ってる……。なんでか分からないんだけど……」
第三者だから分かる。ネビルはハーマイオニーの側にいて、守っているつもりだったんだ。……大好きなハーマイオニーを虐めるロンを、ネビルは嫌ってたんだね。なのに、ハーマイオニーは勝手にロンと仲良くなって、自分から離れて行ってしまった。ロンを嫌っていたのはハーマイオニーのためなのに。そのハーマイオニーは、あんなにも酷い事を言ったロンと楽しそうに一緒にいる。以前、自分と一緒にいた時よりも楽しそうに。許せない。絶許!ってところかな。……丁寧な解説どうも。
俺は繊細なネビルの心理を容赦なく解説する妹に半ば呆れつつ、多分それが正解だろうとも思っていた。ハーマイオニーのためとはいえ、全部ネビルが勝手に怒って勝手に傷ついて勝手に失望しているだけ。彼女にはなんの罪もない。それが分かっているからこそ、ネビルはこうして一人で泣きに来たのだ。
とはいえ、辛い。この気持ちはすごく分かる。いくら自分の勝手な親切だったとしても、それを踏みにじられた、台無しにされたといった感情は少なからず沸いてしまう。
昔、俺は保育所に大好きな先生がいて、その先生は一人の悪ガキにすっごい手を焼かされていた。俺は先生を困らせるそいつが嫌いだったし、そいつが先生を困らせているときは、率先して先生を助けに行った。……あー、吉永みどり先生ね。お兄の初恋の。……いや、確かにみどり先生だけど、吉永じゃなかったぞ。……職員室で「優等生のアダム君より、なんだかんだでああいう手のかかる子の方が、かわいくて好き」って言われてるの聞いてギャン泣きしちゃった初恋ブレイク事件だね。……あん時の俺はアダムじゃねぇえよぉお!
――っともかく!それは人として仕方のないことだと思うし、ましてネビルはまだ子供だ。
「でもさ。許せないって思っても……ハーマイオニーの事を嫌いにはなれないんだよな?」
無言で頷くネビルにホッとする。……場合によっては、そこから憎悪の対象に変わって、ストーカーやら犯罪者になるパターンもあるもんね。お兄みたいに。……してないよ?!っていうか
「付き合わせちゃってごめんね、アダム。僕もう寮に帰るよ。見つかったら大変だもんね」
ネビルの言う通り、時間はもう遅い。今見つかったら怒られるだろう。でも。
「もうちょっと時間潰してから行こうぜ。全員が寝ちゃうまでここでさ」
俺は引き留めた。今帰ってディーンたちに色々質問されるのは辛いだろう。それが例え、心配からくるものだったとしても。ネビルは視線をさまよわせて少し迷ったが、ううんと首を振った。
「帰るよ。ここにこれ以上座ってたら、お尻が凍り付いちゃうもの」
底から冷えるような廊下に防寒もせずに直に座っているため、確かにお尻は冷え冷えだった。俺は自分で言った冗談に少し笑って見せたネビルを見て、頷いて立ち上がる。
「ネビルは強いな」
顔色悪く、それでもしっかりと寮に向かって歩き出すネビルに、俺はそう小さく呟く。……お兄は初恋ブレイクの後、しばらくお家に引きこもって登園拒否したもんね!……ああ、そうだよ。あの時の俺は悪ガキも先生も、なんなら心配してくれる人間含めて世界中のみんなが嫌いでたまらなかったよ。
運よく誰にも見つからず寮に戻ると、シェーマスとディーンが心配そうに駆け寄って来た。ネビルは二人に謝り、具合が悪いから先に寝るよと部屋に帰って行く。
「アダム、えっと……」
「お前らが想像してるような事じゃない、とだけ言っとく。後はプライバシー保護のために俺は完全黙秘を貫くぞ」
ネビルの姿が見えなくなると同時に駆け寄って来た二人に、両手を上げて俺はそう伝えた。気になる様子ではあったが、あのネビルを見た後でそれをあれこれ詮索してからかう様な気にはならないようだ。良かった。二人が人の心を持った優しい友であることに俺は胸を撫で下ろす。
少し離れた場所からハーマイオニーがこちらを窺っているのが分かったが、俺はあえてスルーした。今、俺の口から伝える事じゃないだろう。
そして、クィディッチの試合がとうとう始まった。
今日はグリフィンドール対スリザリン。寮も学校もお祭り騒ぎの大賑わい。ロンとハーマイオニーは渦中のハリーにつきっきりで、例のネビルの事はすっかり忘れてしまったみたいだ。寮の皆もそれは同じで、良かったのか悪かったのか、ネビルは誰からも放っておかれた。……もちろん、お兄以外にね。……いや、俺も別に構ってはいないぞ。……嘘つけ過保護お兄め。
「ハリー、大丈夫かなぁ……」
朝食の後、ネビルが心配そうに呟く。いやいや。ネビルお前他人の心配してる場合じゃないだろ。とはいえ、数日経ってネビルは大分と気持ちが落ち着いたようだった。現に今も、初試合を控えて吐きそうな顔で朝食を終えて出て行ったハリーを心底心配している。
「なあ、お前らも応援行くだろ?一緒に行こうぜ!」
ディーンが俺の肩を叩いて誘う。少し離れた場所では、シェーマスとロンが大きな布を広げ、ハーマイオニーがそれに杖を振っていた。俺はチラッとネビルを窺う。
「うん、全力でハリーを応援しなくちゃね!」
屈託なく、少なくとも俺にはそう見える笑顔でネビルはディーンに二つ返事で頷いた。俺もそうだなと頷いて、久しぶりに寮のみんなとクィディッチ競技場へと移動する。
「うへぇ……さっむ……」
吹きっ曝しのグラウンドに木で組み上げられた高所の観覧席。そのさらにてっぺんに陣取り、俺達は大きな布を広げて座った。『ハリー・ポッターを大統領に!』って書かれているけど、なんで大統領なんだ??
しっかし、耳当てをしてきて正解だった。風が当たる頬が切れそうに痛い。
「マジでこんな中をハリーは箒で飛ぶのか?」
「当たり前だろ、クィディッチなんだから」
シェーマスが俺に何言ってんの?みたいな顔をする。グラウンドの端々にそれぞれの寮の観覧席があって、俺達がいるグリフィンドールの席は寮カラーの赤い色で染められていた。赤と金。暖かくて良い色だなぁ。
「あっ、ハリーよ!」
ハーマイオニーの声が途中でかき消される様に、ワッと歓声が上がった。選手が入場してグラウンドに整列する。真っ赤なグリフィンドールチームと緑のスリザリンチーム。箒に跨り空に浮き上がった選手たちが定位置に着くと、審判のフーチ先生が開始の合図に笛を鳴らした。
放り上げられたクアッフル(赤茶のボール)は瞬きする間もなく選手に奪われて、弾丸の様に突き進んで行く。赤のユニフォームがはためいているので自チームが取ったのだという事は分かるが、正直目まぐるしくて理解が追っつかない。目で追う間にも、クアッフルは別の選手にパスされてさらに突き進む。
うおー!いけー!やれー!と、前後左右から飛ぶ応援の声で聞き取り辛いが、競技場全体に響くジョーダン先輩の解説の声を拾うと、今のはアンジェリーナ先輩とアリシア先輩だったようだ。さすが、うちの寮は女性が活発でいらっしゃる。そのままゴール、という甘い展開を一瞬予想したが、残念ながらそうもいかない。前方から接触し、掠め取るようにスリザリンの緑のユニフォームがクアッフルを奪った。
すぐさま、ため息や怒鳴り声やドンマイ!の声が周りから上がる。俺も思わず「ああ~」という情けない声が出てしまった。そしてそのまま、クアッフルはグリフィンドールのゴールへ投げられる。「ああっ……うぉ、おおおお!」またもや思わず声が出る。キーパーのウッド先輩が見事にブロックし、こぼれたクアッフルはまたまたグリフィンドール側へ移った。
その後もクアッフルは行ったり来たりを繰り返し、そしてようやく、アンジェリーナ先輩がクアッフルをゴールに決めた。思わず立ち上がった俺だが、それは俺だけじゃなかった。みんなが空を飛ぶアンジェリーナ先輩に拳を突き上げて歓声を送った。
「すっげぇ!今の見たか?!あのシュート!」
ディーンが興奮気味に俺を揺さぶる。俺も興奮していたので大して気にならずにディーンに頷きながら、さらに隣のネビルを揺さぶった。
「めっちゃすげぇよな、うちの先輩!美人でカッコいいとか無敵かよ~!」
「そうだね!ほんとすごいや!」
鼻も頬も真っ赤にして俺達は大歓声を上げていた。たった一つのゴールで、と言われるかもしれないが、この状況で興奮しないわけがない。右に左にクアッフルが動くたびに俺達は声を張り上げた。そして――。
「うわあああ、行けハリー!」
金のスニッチ――クルミ大の羽の生えたボールが高速ですっ飛んでいくのを見つけ、両チームのシーカーがそれを追って箒を繰る。競り合いはハリーに分があった。スリザリンのシーカーとはじりじり差を広げ、逆にスニッチとの距離はゆっくりと縮まっていく。ハリーが箒からせり出す様に手を伸ばし、あと少し、というところで弾き飛んだ。スリザリンのシーカとは別の選手が、ハリーに横から体当たりをかましたからだ。
観客席全体から「反則だ!」「汚いぞ!」と怒声が上がる。高速で飛んでいたのだ、あの反則は一歩間違えれば大怪我に繋がっていたし、下手すりゃ死んでた。フーチ先生からは注意を受けていたが、それで済む問題ではない。
「退場だ!レッドカードだ!」
ディーンが叫ぶのに、ロンが「サッカーじゃないんだ!」と説明する。その間に、ハリー殺害未遂にしては軽すぎるペナルティーシュートをもらって、試合は再開した。昔から思っていたが、この競技はもうちょっとルールを改変すべきだと思う。
この件で調子が狂ったのか、ペナルティーシュートを決めた後、逆にスリザリンに得点を許してしまった。
「ねえ、あれ……ハリーがおかしいよ」
ネビルにつつかれ俺は上空を見上げた。定位置についたハリーは、本来ならそこからグラウンド全体を見渡してスニッチを探しているはずだ。だが動きがおかしい。ハリーが箒を動かしている、というよりは、動く箒にハリーがしがみついているように見える。
周りも徐々にこの事に気付き、今や全員がハリーを見ていた。箒はますます動きを激しくし、ハリーは振り落とされる寸前のようだ。
「さっきハリーがぶつかられたとき、スリザリンの奴が箒に何かしたのかも」
「そんなこたあ、ありえん」
シェーマスが呟くが、それはハグリッドが否定した。って、ハグリッド?あれ、いつ来たの?俺全然気づかなかった。
「強力な闇の魔術でもない限り、箒に悪さなんぞできん。ましてやハリーのは最新のニンバス2000だ」
双眼鏡でハリーを凝視しながらハグリッド。ハーマイオニーはその言葉にハッとして、ハグリッドの手から双眼鏡をひったくった。
「おい!」
「何してるんだよハーマイオニー!」
抗議の声を上げるハグリッドと、疑問の声を上げるロン。ハーマイオニーはどちらも無視をして双眼鏡を観客席に向けて何かを探していた。あ、なんだろうな。これはもしかすると……間違いなく原作絡みですよ。この後、ハーマイオニーのおかげでうちの寮監が酷い目に遭います。……ああ、そうかやっぱりか。やべえ、ここの展開覚えてない。っていうかハリー大丈夫なんだろうな。……大丈夫に決まってるでしょ。じゃなきゃハリポタが一巻で完結になるじゃない。
イヴの言葉が終わるや、ハーマイオニーが「思った通りだわ」と双眼鏡から顔を上げた。その後、ロンとこそこそ何かを話した後、素早くどこかへ走って行く。
「どうしたんだろう……ハリー、大丈夫なのかな……」
顔を真っ青にしたネビルが、慌ただしいその様子を見て心配そうに震える。俺はいつ落ちてもおかしくないハリーの様子にハラハラしながらも、恐らくは大丈夫だろうと自分を落ち着かせた。
やがて、ハリーは急に安定した箒によじ登って跨ると、そのままビュンと降下した。そのまま箒から転がるように降り、芝生に膝をついて四つん這いになる。
「本当だ、どうしたんだろう」
シェーマスが四つん這いのままのハリーを心配して立ち上がる。俺もネビルも、ディーン達も立ち上がった。ざわざわとする心配の声は、だが次の瞬間、爆発に変わる。
四つん這いだったハリーがゆっくりと立ち上がり、金色に光るものを掲げたせいだ。
「――っスニッチだ!ハリーだ!ハリーが取った!」
「グリフィンドールの勝ちだ!勝ったんだ!」
左からディーン、右からネビルに揺さぶられながら、俺は誇らしげにスニッチを掲げるハリーを見て歓声を上げる。勝ったんだ、という実感がじわじわと沸き上がり、年甲斐もなくはしゃいでしまう。
「今年はグリフィンドール優勝も夢じゃない!」
「やれる!今年こそ優勝杯を掴めるかも……!」
あちこちから聞こえる先輩たちの期待の声。俺はネビルとディーンにハイタッチして、その奥のシェーマスとも手を合わせる。そして。
「あれ、ロン達は?」
「そういえばいないな……」
さらに向こうにいるロンやハーマイオニーともハイタッチしようとして、その姿がない事に驚く。ハグリッドの姿もない。
「それより寮に戻ろうぜ!ハリーが帰ってきたら祝ってやらないと!」
シェーマスが特に気にした様子もなくそう言うと、ディーンとネビルも頷いた。
「僕、ベッドの下に隠してあった、とっておきのお菓子出すよ!」
「じゃあ、俺は飲み物でも探してくる!」
せっかくならレッツ・パーティーといきたい。俺はみんなに先に寮に帰っててくれと言い残して、先に観覧席を下りる。さて。どこに行けばジュースが手に入るだろう?……レッツ・パーリーピーポー!イェエエエアアアアアア!……うっるせ!何なのいきなり人の脳内で。どうしたのイヴさん。……何じゃないよ!今お兄は勝利に酔いしれてるかもしんないけど、こっちはお通夜ですよ!敗北者ですよ!何がパーリーピーポーですかバカですか?!……ええええ。
妹がなぜか怒っている。いや、そうか。今の試合、グリフィンドールが勝ったって事はイヴの寮、スリザリンは負けたって事だ。当たり前だけど。……そうだよ当たり前なんですよ。妹の気持ちも考えずにはしゃがないでよね!……無茶言うなよ。嫌ならこっちの頭覗かないでくれよ。……あーあーそういう事言いますぅうう?せっかくジュースの入手方法を教えてあげようと思ったのにぃ~!……えっ、分かんの?
俺は下からキョロキョロと上を探した。遠く、緑の観覧席に豆粒の妹の姿を見つける。遠すぎて顔は見えないが間違いなくこっちをジト目で見ているだろうイヴ。俺はピシリと背を正すと、頭を下げた。九十度に。たっぷり三秒以上かけて顔を上げた俺に、イヴはゆっくりと頷いた。よく見えないけど、多分。
そして妹が俺に告げたジュースの入手方法は。
『マクゴナガル先生にお願いすれば?きっと今ならグリフィンドールが勝って上機嫌だから大盤振る舞ってくれると思うよ?』
というとってもシンプルなものでした。何それ。もっと裏技的なの期待してたのに!