料理次元−キュイジーヌディメンション−   作:濡れせんべい

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メリケン01区−フライドポテト−

 昼食の準備をしていた自分の耳に、低く鈍い機械の駆動音が微かに響いた。

 

「郵便船か」

 

 自分は湯を沸かしていた鍋の火を止め、郵便船を出迎える準備をする。

 

 次元ハウスには倉庫や農園に大量の食材が蓄えられていて、外部から仕入れを行わなくとも料理の材料に困ることはなかった。

 

 とは言え、古今東西あらゆる食材が保管されているわけでもない。郵便船による仕入れは、次元ハウスにはなくてはならないものだった。

 

「こんにちは、シェフ」

 

 いつもの静かな声で、郵便船の配達人、ユウがこちらに挨拶する。

 

「こんにちは……そちらの方は?」

 

 ユウの隣に金髪で赤い服、黒いスカートの少女が立っている。その少女はこちらが視線を向けると、1歩前に出た。

 

「こんにちは〜。メリケン大陸から来たフライドポテトのキュイで〜す。よろしく〜」

 

 フライドポテトと名乗った少女はそう挨拶すると、手に持っていた巨大なきつね色の棒を軽く振った。

 

 その棒の先は赤い色で染められている。おそらくフライドポテトを模しているのだろう。

 

「あ、ああ。よろしく」

 

 とりあえず自分も挨拶を返す。

 

「彼女がシェフたちに話したいことがあるというから、郵便船に乗せてきた。言葉を話すダークキュイについての話」

 

「なんだって……!?」

 

 その話を聞いて、胸の鼓動が一気に強くなった。

 

「私たちのメリケン大陸が、ダーケスト……言葉を話すダークキュイに襲われているの! シェフたちの力を貸して!」

 

 フライドポテトはそう言うと、深々と頭を下げる。

 

 こうして平穏な日々は終わりを告げ、新たな戦いが始まった。

 

 

 

 自分はウィッチとキュイたちを食堂に集めた。

 

 フライドポテトの話はまだ詳しく聞いていないが、全員で聞くべき話だと考えたからだ。

 

「え〜、それでは……おほん。メリケン大陸の現状について説明します」

 

 キュイたち全員の視線を受け、フライドポテトは幾分緊張した面持ちになる。

 

「2か月くらい前に、メリケン大陸の小さな街がダークキュイに襲われたんだ。まあ、エウロパと比べるとメリケンはダークキュイの数が多いから、街への襲撃はそこまで珍しいことじゃない」

 

「メリケン大陸はダークキュイの数が多いのか?」

 

 自分はフライドポテトの緊張をほぐそうと、簡単な質問をする。

 

「うん。ダークキュイと戦えるキュイの数が少なくて、退治しきれていないんだ」

 

「メリケン大陸……人間界のアメリカは歴史の浅い国です。食文化が成熟していないからか、昔からメリケン大陸ではあまりキュイは生まれません」

 

 フライドポテトの言葉にカフェモカがそう付け加える。

 

「ダークキュイの襲撃は珍しくない。ただ……普通のキュイのような格好をしたダークキュイが、他のダークキュイに命令して街を襲わせていたって目撃情報があったんだ」

 

「……! それは……」

 

 カフェモカは目を見開く。その目撃情報が本当なら、その命令していたダークキュイも、スターゲイジーパイのような特殊なダークキュイである可能性が高い。

 

「それ以降も何回か街がダークキュイに襲われた。どの襲撃でも、言葉を話し、ダークキュイを操る特殊なダークキュイの姿が目撃された。私はそのダークキュイを『ダーケスト』と名付け、後を追うことにしたの」

 

「『ダーケスト』?」

 

「あ、いや……呼び名があった方が分かりやすいと思って、適当に付けてみたんだ」

 

「『ダーケスト』……悪の親玉っぽい感じでいいんじゃない〜?」

 

 ウィッチがその名称について肯定の声を上げる。

 

「ネーミングセンスはともかく……私たちがエウロパ大陸で戦ったダークキュイと似た性質を持ったダークキュイが新たに現れたのであれば、名前を付けた方が話しやすいでしょう」

 

 カフェモカがそう付け加えた。確かに、普通のダークキュイとは違う部分が多すぎるあのキュイのことは、別の名称で呼ぶ方が混乱はなさそうだ。

 

「私はメリケン大陸中を追いかけ回し、ついにそのダーケストを発見したの。でも……全く相手にならなかった」

 

 フライドポテトは肩を落とす。

 

「そのダーケストの特徴を詳しく教えてくれないか?」

 

「銀髪に黒い上着と黒いスカート。頭にハンバーガーのパンズみたいな、円形の金属の塊を付けているのが一番の特徴かな」

 

「銀髪に黒い服と言うのは、あのダークキュイと似ていますけど……」

 

 クレープは首を捻る。スターゲイジーパイと似た服装ではあるが、彼女は頭に金属の塊を付けてはいなかった。

 

「自分のようなダークキュイは他にもいるって言ってたから、シェフたちが倒したダーケストとは別個体だと思うよ」

 

「またさらりと、頭の痛くなる新情報が飛び出しましたね……」

 

 カフェモカは頭を抱える。他にもいる、と言う言葉は確かに重い。

 

 それはスターゲイジーパイとメリケンのダーケストだけではなく、他にもダーケストが存在している可能性を示しているからだ。

 

「ちなみに、そのダーケストはどんなこと話してたの〜?」

 

「むっか〜……」

 

 ウィッチの質問に、フライドポテトはなぜか顔をしかめる。

 

「フライドポテトのことを散々バカにして。今思い出してもイライラする〜!」

 

 フライドポテトは怒り心頭といった面持ちで、手に持ったフライドポテトをぶんぶんと振る。

 

「……ともかく。私たちが戦ったダーケストと、メリケンのダーケストは別個体の可能性が高い」

 

 パニーニがそう話をまとめた。

 

 スターゲイジーパイがフライドポテトのことをバカにしている光景も全く想像できない。パニーニの言うとおり、別の存在なのだろう。

 

 いずれにせよ、メリケン大陸がそのダーケストに襲われている以上、放っておくわけにはいかなかった。

 

 

 

 フライドポテトの話が終わり、続いてカフェモカが皆の前に立つ。

 

「それではメリケン大陸に現れた新しいダーケストについて、私たちはどう対応すべきかを考えましょう」

 

 カフェモカはそう言うと、軽く咳払いをした。

 

「まず最初に考えるべきことは、私たちはメリケン大陸に向かうべきか否かです」

 

「ええっ!?」

 

 フライドポテトが声を上げる。メリケン大陸のキュイであるフライドポテトにとっては聞き捨てならない問いであったろう。

 

 しかし、それは確かに検討しなければならない問題であった。

 

「スターゲイジーパイ……エウロパのダーケストが、また活動を再開する可能性も少なくはない」 

 

 自分がそう告げると、カフェモカは頷いた。

 

「スターゲイジーパイが再びエウロパ大陸に現れたら、シャンパンたちと共同して戦う約束だったはずです。私たちがメリケン大陸に向かってしまったら、その約束を果たせません」

 

「そんな……」

 

 フライドポテトの顔が曇る。

 

「愚問ね、カフェモカ。現れるか分からないダーケストの存在を気にして、現に今、街を襲っているダーケストを放置するですって? ……馬鹿馬鹿しい」

 

 カフェモカの言葉を受けて、真っ先にパニーニはそう言ってみせる。

 

 エウロパと、そしてシャンパンと誰よりも関わりが深いパニーニが、そう言ったのだ。

 

「あなたの胆力には感動すら覚えますよ、パニーニ」

 

 カフェモカは感嘆の声を上げる。

 

 パニーニが感情に囚われない正論を述べたことで、特に議論になることもなく全員の意見はあっさりまとまった。

 

「では私たちは、今後はメリケン大陸のダーケスト退治を最優先目標にして行動することとしましょう」

 

「あ……ありがとう」

 

 フライドポテトはその言葉を聞いて皆に頭を下げる。

 

「次の問題はメリケン大陸を襲っているダーケストを倒せるだけの戦力をどう用意するか、です」

 

「訓練で皆の力も伸び、サーロインステーキという新しい仲間も加わった。……それでも、まだ戦力は不足しているでしょう」

 

 カフェモカの言葉に、パニーニがそう付け加える。

 

 スターゲイジーパイと死闘を繰り広げた時と違って、今はシャンパンとパルマハムがいない。

 

 その代わりに白ご飯が戦線に復帰し、サーロインステーキが新たに加わったが、楽観的に見積もっても戦力が増えたとは言えなかった。

 

「あの〜。もちろんメリケン大陸のキュイも一緒に戦うよ」

 

 暗くなった空気を吹き飛ばすように、フライドポテトは声を上げた。

 

「カリフォルニアにファストフードの仲間が集まってる。少なくともそこのみんなは力を貸してくれるよ」

 

「ファストフードの仲間……何人くらいいるんだ?」

 

「複数のダークキュイを相手にできるくらい強いキュイは4人。主食が1人、デザートが2人、そして前菜、つまり私が1人」

 

 自分の質問にフライドポテトはそう答える。

 

「デザートが2人いるのはありがたいですね」

 

 カフェモカは喜びの声を上げた。

 

 ダーケストのような単体の相手にはデザートの攻撃が最も有効だ。そのデザートが2人も仲間に加わってくれると言うのであれば、実に心強い。

 

「それだけ仲間が増えれば……勝てるんじゃない?」

 

 クレープが少しだけ不安そうに、しかし強い声でそう言った。

 

「全くです。まずはそのファストフードの皆様と合流すべきでしょう。異論はありませんか?」

 

 カフェモカはそう尋ねると、周囲を一瞥する。もちろん、その言葉に反論する者はいなかった。

 

「それではフライドポテト、案内を頼めますか」

 

「うん!」

 

 フライドポテトは元気よく返事をする。

 

「ところで、ここらかメリケン大陸にはどうやって行くの? 私は郵便船で来たんだけど……」

 

 フライドポテトは会議の輪から外れた場所で1人コーヒーを飲んでいた、郵便線の持主であるユウに視線をやった。

 

「私が送り届けても構いませんが。おそらく、そこの魔女の転送の方が速いですよ」

 

 ユウは視線の意図を察してそう答える。

 

「カリフォルニアなら次元ハウスと転送陣を繋いであるから、今すぐにでも移動できるよ〜」

 

 ウィッチは普段通りの軽い口調でそう答えた。

 

「じゃあ、お昼を食べたら出発するか」

 

「はーい」

 

 玉子焼きが元気よく手を上げる。

 

 こうして、今度はメリケン大陸での冒険が始まることになった。

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