料理次元−キュイジーヌディメンション−   作:濡れせんべい

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メリケン05区−イーター−

 D・バーガーカンが指定した日時は3日後の昼。とは言え、その言葉が守られる保証はどこにもない。

 

 奇襲に備えて昼夜問わず誰かは常に街中を見張っていたが、バーガーカンが現れたのは予定どおり、3日後の昼のことだった。

 

 3日前にバーガーカンが姿を消した時と同じ場所に、再び黒い楕円形の物体が浮かび上がる。

 

 おそらくはこれがバーガーカンの転送陣なのだろう。根拠があるわけではないが、カフェモカはそう考えていた。

 

「ハロー! お出迎えありがと〜」

 

 黒い転送陣からD・バーガーカンが姿を現す。

 

「って、随分と人が少なくなーい?」

 

 バーガーカンはこちらの様子を見て首を傾げた。無理もない、今この場所でバーガーカンと対面しているのはカフェモカと白ご飯、二人だけだ。

 

「あなたが指定した時間と場所に素直に現れるとは思いませんでしたからね。分散して街全体を見張っていました」

 

 カフェモカはそう嘘をついた。

 

 ウィッチいわく、転送をするには別の次元との間に門を開く必要がある。その門は気軽に開閉できるものではなく、開けるも閉めるも多大な労力を使うそうだ。

 

 そしてこの3日間で、ウィッチにはこの街にいくつ『門』があるか調べてもらっている。

 

 ウィッチの調査を信じれば、このカリフォルニアの街には門はふたつ。ウィッチの開いた転送陣と、おそらくはバーガーカンが開いたこの場所だけだそうだ。

 

 つまり、バーガーカンが現れるのは十中八九この場所である。

 

 それを知っているカフェモカは、今現在は仲間のキュイに街全体を見張らせてはいない。この場に姿こそ見せていないが、仲間のキュイの大半は近くの家に隠れていた。

 

「ふ〜ん。それで……私と一緒にデスバレーに来てくれる決心はついたかな?」

 

「今の状況が答えになっていると思いますが」

 

 カフェモカがそう伝えると、バーガーカンは笑みを浮かべる。

 

「あなたの言葉を信じることはできません。あなたがこの街を襲うと言うなら、その前にあなたを倒します」

 

「ワオ! 今から戦うつもりなの? あなたたち二人だけでどうやって?」

 

 バーガーカンはこちらが宣戦布告をしても全く動じる様子がない。

 

 確かにバーガーカンの言葉どおり、カフェモカと白ご飯の二人だけでバーガーカンに致命傷を与えることはできない。

 

「仲間を呼んだらどうなの〜?」

 

「……あなたこそ、一人では私たちを倒せないのでは? ダークキュイでも呼び出したらどうですか?」

 

 カフェモカは逆にバーガーカンを煽り返す。

 

 仲間を呼ぶのは簡単だ。しかし、まずはバーガーカンの出方を伺ってからだ。敵の動きによって、こちらの最善手も変わる。

 

「言われなくてもそうするわよ〜」

 

 バーガーカンの周囲に負の厨力が集まっていく。スターゲイジーパイがダークキュイを生み出した時と同じだ。

 

「白ご飯、注意してください」

 

「は、はい!」

 

 白ご飯は敵に向けて構えを取る。

 

 バーガーカンの周囲に集まった負の厨力は次々とダークキュイに姿を変えていった。

 

 十、二十。数え切れないほど多い。……しかし、見た目は小さく、一匹一匹の力はさほどでもないように見えた。

 

「ギュイイイイ!」

 

 生み出されたダークキュイの一匹が白ご飯に飛びかかる。

 

「こ、このっ!」

 

 白ご飯は一歩も引かず、小さな身体でダークキュイの突進を受け止める。そして、拳を正面に突き出した。

 

「……え?」

 

 ダークキュイは白ご飯の拳を受けて吹き飛び、そのまま霧散する。当の白ご飯が思わず目を丸くするくらい、脆かった。

 

「ギ……ギギッ」

 

 残りのダークキュイはその様子を見てかどうかは分からないが、白ご飯の方には向かわず、四方八方に散っていく。

 

 その動きに戦術があるようには見えない。言うなら、蜘蛛の子を散らすように逃げていったように見えた。

 

「あら〜。やっぱりこの街だと負の厨力が弱いから、弱いダークキュイしか生まれないわね〜ショック!」

 

 バーガーカンは両手を上げてみせる。その台詞はあまりにも嘘くさかった。

 

『ドーナツ。逃げていったダークキュイを始末してください。嫌な予感がします』

 

 カフェモカは通信石を握り締めて、仲間に指示を伝える。

 

『ドーナツりょーかい』

 

 ドーナツから返事が返ってくる。通信石でのやり取りは通信石を持ったキュイにしか伝わらない。

 

 バーガーカンに伝わらないのはいいが、白ご飯に指示を伝えられないのが玉に瑕だ。

 

「仕方ない。今度はもう少し強いダークキュイを召喚しましょう〜」

 

 バーガーカンの周りに再び負の厨力が集まる。それは先程とは比較にならないくらい大きな力だった。 

 

 黒い厨力の塊が渦を巻き、周囲の小屋の屋根付近まで舞い上がる。そして、こちらのニ、三倍は大きいであろう、巨体のダークキュイが姿を現した。

 

「カフェモカさん……!」

 

「ええ。二人では勝てそうにありません。一旦距離を取りましょう」

 

 幸い、巨体のダークキュイは動きは鈍いようだった。そのダークキュイが戦闘態勢に入る前に、白ご飯とカフェモカは相手の射程外に逃れる。

 

「あらあ? 逃げるの〜?」

 

 バーガーカンは背を向けたカフェモカを揶揄するも、追いかけようとはしない。

 

『サーロインステーキ。バーガーカンから目を離さないように。クレープ。巨体のダークキュイに隙があれば、攻撃を加えてください』

 

 カフェモカはバーガーカンから逃げつつ、そう指示をする。

 

『さっちゃん了解!』

 

『クレープ了解』

 

 二人から返答が帰ってきた。

 

「さて……」

 

 カフェモカは足を止める。バーガーカンとの距離はかなり離れた。視界が開けた場所なのでバーガーカンの姿は視認できるが、相手の細かな動きまで窺い知ることはできない。

 

「ああやってダークキュイを召喚させて、バーガーカンの厨力を削る作戦……なんですよね?」

 

 白ご飯は不安そうにカフェモカに尋ねた。

 

「はい。今の所はこちらの思いどおりの展開なのですが……」

 

 そう呟いてカフェモカは顔をしかめる。

 

 バーガーカンにとってもこの展開は思いどおりなのではないか。そんな不安が先程から頭をよぎっていた。

 

「……あ!」

 

 白ご飯が声を上げる。

 

 バーガーカンの隣で待機していた巨体のダークキュイが鮮やかな色の厨力に包まれた。クレープの攻撃だ。

 

 遠目ではあるが、致命的なダメージを与えたようだ。ダークキュイのその巨体が地面に崩れ落ちる。

 

『ダークキュイ撃破! バーガーカンにはまだこちらの居場所は気付かれてないみたい』

 

 クレープから連絡が入った。

 

 直接対決を避けつつ、こうしてバーガーカンの厨力を削っていく。戦況はカフェモカの想定どおりに進んでいた。

 

『モカせんせー! 緊急事態!』

 

 そんな時にドーナツから連絡が入った。

 

『逃げてるダークキュイが……段々と強くなってきてる!』

 

「強くなっている……?」

 

 カフェモカはそう呟いて、少し間を置いてからその状況の恐ろしさを理解した。

 

 

 

「ほいっと」

 

 ドーナツは前方のダークキュイに厨力の光線を撃つ。

 

 それはダークキュイの左足に当たり、その部分を吹き飛ばした。

 

「ギュイイ!」

 

 ダークキュイは足を失い動きを止める。

 

「ごめんね〜」

 

 ドーナツは再び厨力を撃った。それは次にダークキュイの頭部に当たり、同様にその場所を吹き飛ばす。

 

「ふう……」

 

 ドーナツはため息をついた。

 

 最初の数匹は一回の攻撃で全身が霧散するほど弱かった。

 

 その後は、正確に狙いをつけて身体の中心部に当てないと倒せなくなった。

 

 そして今では足を撃って動きを止めて、もう一撃を加えないと倒せなくなってきた。

 

 最初にバーガーカンが召喚して、街のあちこちを逃げ回っている大量のダークキュイ。

 

 そいつらはどうやら、時間が経つほど強くなる性質があるようだ。

 

 つまり、早く始末しないと時間が経つほど厄介な存在になっていく。強さに際限がないとすれば恐怖だ。

 

 あのダークキュイは一刻も早く倒さないとならない。

 

「ん〜……」

 

 しかし、ドーナツはその場で足を止めた。

 

 ドーナツは天の邪鬼な性格だった。急ぐべき時ほど、あえてゆっくりと次の行動を考える。

 

 キュイの強さとは即ち厨力の強さだ。つまりあのダークキュイは、逃げ回りつつ負の厨力を蓄えていることになる。

 

 キュイは厨力を生み出すことはできない。つまりあのダークキュイは、この街に漂う負の厨力を吸収して身体に取り込んでいることになる。

 

 そうであれば。あれだけ大勢のダークキュイが大量に負の厨力を吸収しているのであれば。この街の負の厨力など、既に枯渇していてもおかしくなかった。

 

 そこまで考えて、ドーナツの首筋に冷たいものが走った。

 

 この街に漂う負の厨力は、枯渇するどころか、一刻前より明らかに濃くなっていたからだ。

 

『この街の負の厨力が濃くなっている。バーガーカンが何かしているのかもしれない』

 

 ドーナツは自分の推察を、通信石で皆に伝えた。

 

 

 

「負の厨力が……濃くなっている?」

 

 カフェモカはドーナツからの通信を聞き、周囲を見渡す。

 

 この場所ではバーガーカンの負の厨力が強すぎて、些細な変化は感じ取れない。

 

『ブリトー。そちらの負の厨力はどんな様子ですか?』

 

 戦場から一番離れているブリトーに、カフェモカは負の厨力の状況を尋ねた。

 

『普段よりも負の厨力が強くなっていることは間違いないね。原因が何なのかは分からないけれど』

 

 ブリトーからそう返事が戻ってくる。

 

『原因はともかく、相手の作戦も長期戦であることは間違いない』

 

『はい。それは間違いないでしょう』

 

 パニーニの言葉にカフェモカも賛同した。

 

 バーガーカンが積極的に戦おうとしない。敵のダークキュイが段々と強くなる。街の負の厨力が濃くなっている。

 

 状況証拠だけでも、敵が長期戦を想定していることは疑いがなかった。

 

『持久戦にしようとしたこちらの作戦は、結果論だが誤りだった』

 

 パニーニの言葉に、カフェモカは少し間を置いて答える。

 

『……いえ。お互いに長期戦を狙っている状態は、戦術的には互角です。ここで慌てて短期決戦に作戦を切り替える方が、不利になりますよ』

 

 長期戦を想定する場合は、相手が短期決戦を挑んできた場合の対応策も考えておくのが基本だ。

 

 ここで無闇に短期決戦に作戦を切り替えることは、それこそバーガーカンの思いどおりの気がしてならなかった。

 

『バーガーカンの作戦は、何らかの方法によりこの街の負の厨力を増大させ、召喚したダークキュイを強化すること、またはさらに強いダークキュイを召喚することだと仮定します』

 

 カフェモカは敵の作戦をそう想定する。

 

『私カフェモカ隊、クレープ隊、ドーナツは召喚したダークキュイを倒しつつ、街の負の厨力が増大した理由を探しだし、それを除去します』

 

 そして新しい作戦を皆に伝えた。

 

『負の厨力を増やす方法……想像つかないけど、ま、それが分からなかったら勝ち目ないよね〜』

 

 ドーナツが気楽な口調でカフェモカに賛同する。

 

『……それはそうね。負の厨力が増える前でも勝てなかった相手なのだから』

 

 パニーニもカフェモカの作戦に賛同した。

 

『サーロイン隊は引き続きバーガーカンを見張ってください。ブリトー、ウィッチに負の厨力を増やす方法に心当たりはないか、聞いてみてください』

 

『さっちゃん了解!』

 

『わかった、聞いてみるよ』

 

 少しの間の後、ウィッチから通信が届いた。

 

『負の厨力を増やす方法に心当たりはないけど……段々と強くなるダークキュイは、たぶん『イーター』じゃないかなあ』

 

『イーター?』

 

 カフェモカにとってその名前は初耳だった。

 

『負の厨力を与えれば与えるほど強くなるダークキュイ。逆に負の厨力が少なくなると消滅しちゃう。正常な地域には生息できないから、知らない人が大半かも〜』

 

 ウィッチはそう説明する。

 

『それはありがたい情報です』

 

『そうね。バーガーカンが召喚したのがその『イーター』なら、負の厨力の増大さえ止めれば自然消滅することになる』

 

 ウィッチのその情報でカフェモカの仮説が補強される。

 

『それでは各々、先程の指示どおりに行動願います』

 

 カフェモカはそう伝えると、自らバーガーカンに背を向け、イーターと呼ばれるダークキュイを退治に向かった。

 

 

 

「あらあ?」

 

 バーガーカンは背を向けて去って行くカフェモカの姿を見て、声を上げた。

 

 カフェモカだけではない。姿こそ見せていないが、先程までバーガーカンを取り囲んでいたキュイの気配もなくなった。

 

「残ったのは……一人、いや二人かしら」

 

 厨力の動きから、バーガーカンはそう予想する。明らかにバーガーカンを倒せる人数ではない。

 

 それはつまり、バーガーカンを倒すことよりも重大な目的がキュイたちにできたことを示していた。

 

「なかなかやるじゃな〜い?」

 

 そのキュイの行動は、バーガーカンが想定していた中では最善の行動だった。

 

「まあ、どちらにしてもミーの想定の範疇だけど〜♪」

 

 バーガーカンはごきげんな調子でそう呟くと、離れたキュイたちは追わず、別方向に歩き出した。

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